2018年1月11日

XSR900 試乗 『これが時代の本流!? ネクラシックという走りと スタイリングの融合。』

■試乗&文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

 
XSR900はMT-09のちょっとクラシックスタイルなバリエーションモデル。
ちょっと古め、という流れは珍しくはないけれど
いまどきの「ちょっと古め」が新しい段階に踏み込んできた。
カワサキZ900RS、BMWのRnineTアーバンG/Sと同じ流れ
それがスポーツヘリテージだ。

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 XSR900は、MT-09をベースとしたバリエーションモデルだ。ちょっとストリートファイター感を狙ったMT-09のスタイリングをオーソドックスなネイキッドスタイルとして、エンジンや足周りもリファイン。MT-09とはかなり違った方向性のロードスポーツに仕上がっている。
 MT-09のバリエーションモデルには、トレーサーもある。ハーフカウルを装着したトレーサーも、MT-09とはまったく違うスポーツツーリングに仕上がっているから、このバリエーション展開、本当によくできている。ベースモデルとほとんど同じじゃん、ってツッコミの入る余地がない。こういうところヤマハは本当に上手いよね。
 
 エンジン、フレーム、サスペンションは共通。パッと見、丸目ヘッドライトとプレーンな形状のフューエルタンク(実際はインナータンクとタンクカバー)を装備してネイキッドスタルとした「だけ」にも見えるが、エンジンのキャラクターもサスペンションの設定、さらに着座位置(=つまりライディング中の重心設定)まで変更している。大げさに言うと、こうなればもうMT-09をベースとした違うモデル、といってもいいかもしれない。
 もともとMT-09は、ストリートバイクの中でも、ちょっとモタードというか、ストリートファイター的な味付けがされていた。素晴らしくレスポンスのいい新設計の水冷3気筒エンジンとよく動くサスペンションで、ライダーが思いっきり前乗りをして、フロントタイヤをメインに意識してアクションするような、そんなオートバイ。だから、いざのんびり走ろうと思ったら、俊敏に感じていたフットワークが過敏に感じられ、落ち着きがない、と思わせるシーンがあったのも事実だった。
 
 XSR900はそこが大きく違う。まずはMT-09からシート高が上げられ、フロントフォークとリアサスは硬めのセッティングに専用設定。フォークは、オイル番手や減衰力を変更したというより、フォークスプリングレートが高くなって(つまり硬めになって)減衰も強め。軽快にストロークするMT-09と違って、しっとり腰が出たというか、動きに節度が出たかんじ。MT-09の軽いストローク感をひょいひょいと落ち着きなく感じていた人には、好印象に感じるだろう。
 事実ぼくもMT-09の軽いフィーリングを落ち着きない、と感じることが多々あったので、XSRの前後サスは好印象。さらに伸側減衰を調整できたので、一度最強に振ってみて、街乗りで少し硬く感じたため、徐々に戻すとピタッときた。位置はノーマルから3ノッチ強め、クリックで変化がわかりやすいサスは、上質なサスだ。
 さらに着座位置もやや後方になったことで、ごく普通のロードスポーツに感じられた。ハンドルとステップの位置関係は変更されていないから、シート高が上がって後ろに座るようになった効果なのだろう。
 
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 走り出してみると、相変わらずエンジンが強力だ。アップライトなポジションから、イージーなパワー特性を予想する人が多いだろうけれど、パワーモード「A」で走り始めると、きっとびっくりする。レスポンスがシャープで、低回転からトルクが出ているから、日常スピード域が特に強力なのだ。これで動きやすいサスペンションだったから、MT-09は実際以上にモタードっぽく感じていたのかもしれないね。
 やっぱり低回転のトルクに慣れるまで、ちょっとぎくしゃくしたライディングになってしまう。その時には、パワーモードを「STD」にすればいい。このモードですらなかなかに強力なんだから、ベースエンジンの素性がいいのだろう。パワーモード「B」は、レスポンスもトルクの盛り上がりもやや物足りないから、路面温度の低い季節や雨の日には有効だろうな。
 ちょっと試してみようと、Aモードでパッとアクセルを開けてみたら、フロントがフワッと軽くなって、すぐにTRC(=トラクションコントロール)ランプがピピッと点灯してしまう。出過ぎた力を、電子制御でうまく殺しているんだな。
 
 街中を走るときには、低いギアでギュルギュルと走るより、ポンポンとシフトアップして低回転で走る方がずっと快適だ。もともとのトルクがあるから、加速したいときには、シフトダウンなしでパッとアクセルを開けてあげればいい。空いた街中を流すときには5速2500rpmで50km/hかそこらでスーッと流すことができる。アクセル開度や開けるスピードで取り出すトルクをコントロールできる、本当によくできたエンジンだなぁ、と感心してしまう。
 高速道路では、同じようにポンポンとシフトアップしていって、トップギア3200rpmが80km/hあたり。4000 rpmが100km/hくらいで、このクルージング状態からパッと加速するのが気持ちいい。一定速ではスーッと無振動領域が楽しめて、XSR側は追い越しやレーンチェンジで加速する準備がいつでもできている、という感じ。硬軟自在、ゆっくり走るのもパッと加速するのも楽しい。この強力なエンジンで、クルージングが快適なのもすごいね。もちろん、クルージングの快適さならばトレーサーが一歩上だけれど、日本の法定速度ならば走行風だってほとんと気にならないからね。
 
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 けれど、いざワインディングに踏み入れると、XSRは今まで感じていたイージーさやフレンドリーさを裏切り始める。いいペースでワインディングを流していると、ちょっとフロントの落ち着きが足りなくて、ラインがぴたっと決まらないのだ。あれれ、あれれ、上手く走れない?――この状態は、スーパースポーツにうまく乗れない時に似ているかな。
 解決法は、メリハリを利かせること。しっかり加速して、進入でしっかりブレーキをかけて、フロントを沈めてあげること。少しめんどくさい言い方をすれば、フロントフォークのストローク位置の深いところを使ってあげればいい。コーナリングでも少しブレーキを残すよう走ってみれば、XSRはフロントからぐいぐい曲がっていくコーナリングマシンになる! バンク角も深いし、切り返しもクイックだから、これはひょっとして、ワインディングではYZF-R1をカモれちゃうかも、と思ってしまう。少なくとも、XSRに乗るぼくの前に、YZF-R1に乗るぼくがいたら、さんざんつっついて遊んであげられるな(笑)。
 街中がラクで、クルージングが快適、さらにワインディングに入るとコーナリングマシンに変身する――それがXSR900の正体にかなり近い。街中と高速道路のツーリングだけならば、のんびりもキビキビも走れるいいストリートバイクなのに、山道のこのパフォーマンスは、ある意味意外だったなぁ。
 
 つまり、最初にあげたZ900RSやRnineTシリーズも含めて、新しい世代の「ちょっと古め」なバイクたちは、走りを最新のパフォーマンスのまま、スタイリングだけを古っぽく見せるところがイマ風なのだ。XSRのモノサスとか極太スイングアームとか、デジタル一眼メーターなんかがいい例で、これをただクラシックに見せたいなら、2本サスにしてパイプでスイングアームを組んで、アナログ2眼メーターなんかに仕立て上げているだろうからね。
 かつての初期ネイキッドブームの頃は、空冷エンジン/2本サスの良さを再認識しよう、って意味合いもあったんだけれど、それが変わってきているんだな、と実感しました。たとえばXJR1300なんか、空冷/2本サスのパフォーマンスを突き詰めている作品だけれど、それとはそもそもの次元が違う。もちろん、楽しい楽しくないは個人の尺度だけれど、XSR的世界は、これからどんどん広がっていくと思うのだ。
 
(試乗・文:中村浩史)
 
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φ41mmの倒立フロントフォークを採用。ベースとなったMT-09よりも落ち着きのある、動きすぎないセッティングになっていて、伸側減衰量を右側フロントフォークのトップキャップで、マイナスドライバーで12段に調整可能。試乗の時には3ノッチ強めにしてみたら、明らかにフロントの落ち着きが出た。2~4ノッチの調整で違いが分かりやすかった。


 
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ホイール、ブレーキまわりはMT-09と同じ、φ298mmディスクローター+対向4ピストンキャリパーの組み合わせ。タイヤはブリヂストン・バトラックスS21を純正で採用する。


 
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エンジンはMT-09用に開発された名機・水冷3気筒DOHC4バルブ。4気筒の力強さと2気筒のパルス感が同居したようなパワー特性が大好評のユニットだ。トラクションコントロールはOFF/1/2と3段階切り替えができ、パワーモードはA/STD/Bで、Aがハイレスポンスのフルパワー、Bが穏やかな特性だ。シフトアップ側はクラッチ操作が不要。


 
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マフラーはステップ下にレイアウトされるショートカット。排気音は静かめだが、18年モデルとして発売されるEURO4対応車は、従来モデルよりほんの少し音が大きめ。


 
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クラシックな外観に極太のスイングアームがミスマッチで新鮮。走りまでクラシックにしないという狙いの仕様で、リアサスはリンク式モノショックを採用。ここがXSR的!


 
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リアサスはプリロード調整が可能。写真はプリロード調整の模様で、車載のフックレンチを使用する。ノーマルではフロント柔らか目、リア硬めの印象を調整してみるのも面白い。


 
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テールランプはホッと和ませる丸型一灯デザインのLED式。ランプ点灯は六角形に光るデザインとされている。真後ろから見ると、メーター、マフラー、テールランプが真ん丸。


 
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MT-09の異形角ヘッドライトから一転、丸目スタイルとしているXSR。ヘッドライトはLEDではなくH4ハロゲンで、小型ヘッドライトとデザインされすぎていない構成が新鮮。


 
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フューエルタンクはインナータンク+アルミタンクカバー方式。アルミ地肌を生かしたカラーリングで、写真のビビッドレッドカクテルは17年11月に追加発売されたニューカラー。


 
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パワーモード/トラクションコントロール状態も表示するデジタルメーター。ギアポジションのほか、オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費、水温&気温、時計なども表示する。


 
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パワーモードは右、トラクションコントロールは左ハンドルスイッチで調整する。小振りなハンドルスイッチ、特にウィンカーは、冬用の厚手なグローブでちょっと操作しづらかった。


 
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メインフレームはアルミダイキャスト製。前方に取り付けられている箱状のパーツはヒューズボックスで、ボルトのデザインまで工夫し、特に隠さずにあえて露出させている。


 
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座面とサイド部の素材を使い分けた、前後の段差の少ないステッチ入りシート。シートを取り外すと、シート下に小物入れスペースが現れる。


 
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●XSR900 ABS 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,075×815×1,140mm、ホイールベース:1,440mm、シート高:830mm、車両重量:195kg■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ、総排気量:845cm3、ボア×ストローク:78.0×59.0mm、圧縮比:11.5、最高出力:85kw(116PS)/10,000rpm、最大トルク:87N・m/8,500rpm、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:14L、変速機形式:常時嚙合式6段リターン、燃料消費率:低地燃費値 29.4km/L(60㎞/h、2名乗車)、WMTCモード値 19.7km/L(クラス3、1名乗車時)■フレーム形式:ダイヤモンド、キャスター:25°00′、トレール:103mm、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク、タイヤ(前×後):112/70ZR17M/C 58W × 180/55ZR17M/C 73W。
■メーカー希望小売価格:1,042,200円(消費税8%込み)。


 


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