西村 章

Vol.146 第14戦アラゴンGP The Things You See

 マルク・マルケス(Repsol Honda Team)がシーズン6勝目。サマーブレイク明けはドゥカティ勢のみが優勝していたので、マルケスはこれが後半戦初めての優勝である。今回の舞台、モーターランド・アラゴンはマルケスの得意コースで、ここ数戦は勝利を逃しているとはいえ、当然ながら優勝候補の一角を占めてはいた。ただ、どちらかというと週末を優勢に進めてきたのは、むしろドゥカティファクトリーのアンドレア・ドヴィツィオーゾとホルヘ・ロレンソだった感もある。

 決勝のレースペースを確認する土曜午後のFP4では、ロレンソが1分48秒台前半から中盤、ドヴィツィオーゾも1分48秒台中盤から後半で安定して周回できていたのに対し、マルケスも48秒台こそ入れたものの、どちらかというと一発気味のタイムで、ペースはむしろ、この段階では49秒台前半が精一杯、というようにも見えた。

 その後に行われた予選では案の定というか、ロレンソがポールポジションを獲得。ドヴィツィオーゾが2番手、マルケスは3番手タイムだった。

 このようなドゥカティ勢優勢という背景もあって、決勝レースでマルケスはリアにソフトコンパウンドのタイヤを入れるというバクチに出たのだろう。ホンダ勢はおしなべて硬めのコンパウンドを採用する傾向があり、今回もマルケス以外の全員がフロント・リアともにハードコンパウンドでレースに臨んでいる。

 マルケスも、温度条件の高い状況でのレースペース確認はハード側で行っており、ソフトで走っているのは一発タイムを狙いにいったときのみである。日曜のウォームアップ後に、チーフメカニックやミシュランのテクニシャン、HRCなどと入念に相談してソフトでレースに臨むと決めたようだが、この選手はこういうときの状況判断というか動物的な嗅覚のようなものに、じつに鋭敏な感覚を備えている。

 その結果、ドヴィツィオーゾや3位に入ったアンドレア・イアンノーネ(Team SUZUKI ECSTAR)との激闘を制して優勝を手中に収めるのだから、さすが世界チャンピオンは何かが違う、としかいいようがない。

 ちなみに今回のレースでイアンノーネが3位に入ったことにより、スズキは無事にコンセッションポイント6点に到達。来季は開発面での制約が緩いコンセッション勢(要するに、下駄を履かせてもらった状態で強い陣営と戦うルール)を離脱し、通常レギュレーションに戻ってライバル陣営と戦うことになる。


#99

#93

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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

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 ところで、今回の優勝候補最右翼にも挙げられていたポールポジションスタートのホルヘ・ロレンソは、スタート直後の1コーナーでハイサイドクラッシュ。しかも右足第一指を脱臼するという〈泣きっ面に蜂〉状態。素人目にはムリ目の旋回からハイサイドに至るある種の典型例のようにも見えたのだが、ロレンソ自身の主張では、マルケスの無謀な突っ込みと他車のラインへの配慮の無さで転倒に至ったのだとか。

「外から見ると、僕が速く突っ込み過ぎて、深く曲げすぎて、開けすぎた、というようにみえるかもしれないけど。でも、自分の経験からあれはごく普通のラインで、過去7年のアラゴンと同じように(1コーナーへ)入っていった。そこにマルクがイン側へ無理矢理入ってきた。その場所に僕がいるのをわかっていながら、パスさせないようにしたんだ」

 と、じつに憤懣やるかたない様子。ちなみに、このときのロレンソは、右足を脹ら脛上部まで固定し、補助杖をついて、スタッフの操縦するスクーターの後部に乗って質疑応答の場所までやってきた。


#46

#25

「ミザノの転倒は完璧に僕自身のミスだけど、今回はマルクが僕のレースを台無しにした。足をケガさせられて、レースに勝つ大きなチャンスをつぶされて、たぶんタイのレースも台無しにされた」

 と、来年のチームメイトに対し、怒り心頭状態である。

「ブレーキ序盤では、僕の方が前にいた。向こうが抜いてきて、僕は彼に接触せずに旋回しようとした。でも、彼は僕を行かせようとしなかった。〈ブロックパス〉で、僕を旋回させたくなかったんだ。こちらのことを気にかけず、僕のラインのことなんて何も考えていない。自分自身がブレーキで深く入ることしか頭にないから、立ち上がりのことは配慮せず、進入しか考えていなかったんだ」

 と、このようにロレンソは主張している。映像で転倒の瞬間を再確認する限り、1コーナー立ち上がりでマルケスはコーナー外側(グリーンのペイント部分)まではらんでいるので、何らかのミスをしたふうではある(ちなみに、1周目は混乱状況下であるためにトラックリミットオーバーの罰則は適用されない)。では、そのマルケスがロレンソの指弾するように周囲をまるで見ていなくていつも危険をそこらじゅうにまき散らしているのか、というと……これもまた、どうなんだろうか。そのような声はマルケスに対する批判のある種定番ではあるが、こういう事象で転倒した側はたいていカッカするもの、というのもまた、相場は決まっている。 特にロレンソはクリーンな走りが身上で接触を嫌うライダーだから、このような主張に至るのも、まあ、うなずけなくはないのだが。ひょっとしたら、次戦のレースウィーク前半はこの話題がある程度の注目を集めることになるのかもしれないが、では今回の出来事が来年のチームメイトに軋轢を生む事態に発展してしまうのかというと、そのうちやがてなんとなく収束していくのではないか、という気もしないではない。

 参考までに、今回の決勝レースでロレンソは全24選手中唯一、フロントにソフトコンパウンドを装着している。リアはハード。この組み合わせはもちろん、彼ひとりである。

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 さらに、今回のレースでは、今年限りで現役を引退するダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)が、シーズンベストタイの5位でフィニッシュしている。


#46

#25

「ここ数戦よりもいい結果だし、トップグループにも近かった。ラップタイム面でも、上位陣に近かった」

 と、厳しい結果が続いてきた今季の過去数戦と比較すると、良好な手応えでレースを終えることができた、とレース後に話した。そして、リザルトの明暗を分けたのはタイヤ選択だった、とも話した。

「自分自身はライディングもペースも良かったけれども、Moto2の後では(ダンロップタイヤのラバーの影響で)グリップが良くない。旋回に入るときに滑るし、立ち上がりでも滑ってしまう。今回は、ソフトのほうが少し路面コンディションに合っていたと思う。ソフトの場合は終盤に(タイヤの摩耗を)マネージしなければならないけど、今回はソフト勢の選手たちは進入と旋回で稼いでいた。(それと比較すると、)自分は1周あたり0.3秒ほど損していた。特に、最終の立ち上がりがきびしかった。今日は表彰台争いや、優勝も狙えそうなレースだっただけに残念」

 とはいえ、今後に向けて以下のような展望を述べて締めくくった。

「前回のレース(ミザノ)はいつもより少し良くて、今回は前回よりも少し良かった。ステップバイステップで、残りの5戦をがんばっていく」

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 次回からはいよいよ〈フライアウェイ〉ことアジアラウンド。第15戦タイGPの舞台は、ブリラムのチャーン・インターナショナルサーキットである。それではプラッチャヤー・ピンゲーオ監督によろしく。


オーストリアGP
次戦、タイGP(チャーン・インターナショナルサーキット)は10月7日決勝です。

 



■2018年9月23日 
第14戦 アラゴンGP
モーターランド・アラゴン


順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA


2 #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI


3 #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


4 #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


5 #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA


6 #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


7 #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI


8 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


9 #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI


10 #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


11 #21 Franco Morbidelli EG 0,0 Marc VDS HONDA


12 #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA


13 #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM


14 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


15 #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI


16 #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


17 #12 Thomas LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA


18 #55 Hafizh Syahrin Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


19 #10 Xavier SIMEON Reale Avintia Racing DUCATI


20 #81 Jordi TORRES Reale Avintia Racing DUCATI


RT #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda CASTROL HONDA


RT #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI


RT #99 Jorge LORENZO Ducati Team DUCATI



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