(2011.10.5更新)
第15戦の日本GPは、今シーズン最大の山場のレースだった、ということに異論を唱える人はいないだろう。チャンピオン争いの鍵を握る天王山、という面での重要性はともかくとしても、開催の可否や選手たちの参戦諾否でここまで揺れたレースは、おそらく過去にも例がないのではないだろうか。レースが終わって数日経過した現在、ここに至るまでの経緯をあらためて思い返すと、なんともいいようのない徒労感を感じないでもない。
今さら細かい紆余曲折を説明する要もないとは思うけれども、選手は最終的に負傷者とひとりのボイコットを除く全員が参戦した一方、チーム関係者はガイガーカウンターを手に来日したり、前回当欄で報告したように特定の属性の一部取材陣が日本GP取材を忌避したり、という反応も、パドック内外で話題になった。現場取材を拒否する取材陣、というのもなんとも奇妙な形容矛盾ではあるけれども、その一方で今回のこの一連の事態に対する日本国内の反応を振り返ると、ジャーナリスティックな議論がほとんど見られなかった(伝達レベルの情報や推移の簡単な要約はともかく、メディアを舞台にした闊達な意見交換、あるいは各種論説や主張の展開等が行われたという話は、寡聞にして知らない)のはおそらく事実であろうし、もし本当にそうであるとするならば、ジャーナリズムとはいったい何なのかなあ、というふうにも思う。というよりも、スポーツの中でも日本ではごく片隅に位置する二輪ロードレースという限られた狭い世界とはいえど、今年は少なくとも自分自身にとって、報道というものの意義や価値、理非曲直等について考えることの続いたシーズンではあった。ではあった、っても、いや、チャンピオンシップはまだ終わっちゃいないんですけどね。
ともあれ、世界から注目を集めた日本GPはひとまず無事に終了したわけで、その節目としてレース終了後、優勝を飾ったダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ)、2位のホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー)、3位のケーシー・ストーナー(レプソル・ホンダ)という表彰台を獲得した3選手にちょっとした質問を投げかけてみた。偶然にも、このうちの2名は7月に「日本に行かない」と言明して話題を集めた本人でもある。
- 「日本に関する質問はこれで最後にしたいと思いますが、レースウィークをもてぎで過ごしてみて日本に対するリスク評価は変わりましたか?」という問いかけへの、彼らの回答はそれぞれ次のとおり。
- ダニ・ペドロサ:「とても変わりましたよ。ご存知のとおり、ここに来る前は皆が少し不安に思っていて、『これはどうだあれはどうだ、ここはあそこは? 食い物は大丈夫なのか??』と心配をしていたけれども、実際にやって来てこの目で見てみると、僕はとても驚きました。すべて何も問題なくて、日本に来たのは正解だったと思います」
- ホルヘ・ロレンソ:「現状は大丈夫ですよ。数年後にどうなってるのかは、まあ、ともかくとしても(笑)。でも今はOKだし、状況的にも放射線はないみたいで、すべて大丈夫。僕は日本がずっと好きで、和食も好物だし、ファンも選手に対して敬意をもって接してくれる素晴らしい人たちばかり。ファンとの間でいやなことは一度もなかったし、日本はいつも心地いい場所ですよ」
- ケーシー・ストーナー:「僕の意見としては……、何ヶ月も前に選手たちは圧力を感じていて、当時は状況がまだハッキリしていなかったので、それぞれ自分たちの周りの信用できる人たちからいろいろと情報を教えてもらい、話を聞いていました。時間の経過とともに状況も明らかになってきたので、(日本に来ようと)決断するのは特に大変なことではなかったんですが、だいぶ以前に皆が僕たちに圧力をかけてきた段階では、まだ状況が明快ではなかった、ということなんです。実際に来てみると、何も問題なくてすべて普通であることがわかりました。対象が目に見えないものとはいえ、以前と同じように普通にやってくることができたし、来年にはもっと状況が明確になっていると思います」
今回のような事態の場合、日本人からの質問には当たり障りのない社交辞令的態度でお茶を濁すことも充分に可能であったにもかかわらず、彼らはいつも、自分の思うところを真剣かつ正直に回答した。特にストーナーは、来日拒否を言明したことについて、「言ってることとやってることが矛盾してないですか?」と訊ねた際、その数日後に「あの質問はキツかったよ」と真情を吐露してもくれた。真摯かつ誠実な姿勢でこちらからの質問に回答し続けた彼らには、心からの敬意と感謝を表したいと思う。
さて、レースそのものはどうだったかというと、特にMotoGPクラスで序盤からバレンティーノ・ロッシ(ドゥカティ)が転倒を喫したり、トップ集団の選手たちがオーバーランやジャンプスタートによるライドスルーで予想外の脱落をしてゆき、そこから驚異的な追い上げを開始して上位に再び食い込む等々、波瀾万丈の連続で、観戦したファンの人々は“おなかいっぱい”になるレースだったのではないだろうか。そんな展開のなか、終始安定してハイレベルの走りで優勝を飾ったダニ・ペドロサは、昨年負傷をした因縁のサーキットで勝利を達成。HRCの悲願だったもてぎでのワークス初勝利という意味でも、二重に記念すべきレースになった。一方、ヤマハはホルヘ・ロレンソが2位に終わり、世界選手権参戦50周年の節目となるホームグランプリを勝利で飾れなかったのはやや残念。スズキも、今季最高のリザルトを目の前にしながらするりと手から抜け落ちてしまうような結果になってしまったのが、なんとも惜しまれる。それやこれやを含めて、今回はいろんな意味で記憶に残るレースになったのではないだろうか。
さて、次戦は豪州最南端フィリップアイランドの第16戦オーストラリアGP。例年どおりの天候ならきっとさっむいさっむいので、発熱反応用袋入酸化鉄(携帯カイロのことね)は必携である。というわけで、ではまた次回。