Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n

Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n試乗

髪型とメイクで大変身!?

昼前に回復した空模様。西伊豆を照らす太陽が新しいニンジャ650にあたると、キャンディーライムグリーンのペイントがカウルやフェンダー、タンクやシートカウルに着けられた彫りの深さを浮き立たせる。そしてカウルを強調するつり目デュアルライトがニンジャとしての個性もしっかり主張している。

昨年の東京モーターショーでも注目を集めたカワサキのミドルクラス、ニンジャ650。マフラーやテール周りの造形が同じなのでER-6nと兄弟車と解るが、カウルの有り無しだけの違いには見えないしっかりとしたキャラクター作りがニンジャ650の特徴でもある。このバイクに跨がってメーターパネルに目をやっても、ER-6nと同じ意匠のタコメーター、LCDモニターの組み合わせなのに、ファンクションスイッチ周りのデザインや、ハンドルに対しての配置が違うことで、インストルメントパネルが全く別の風景に見えるから不思議だ。

それはエンジン音の微妙な違いでも感じられた。始動したエンジンを軽くブリッピングすると、カウルを透過してくるメカ音が低く、吸気音と排気音の純度が上がっているような印象があった。こうして聞くと650㏄、180 度クランクのパラツインの音は新鮮。それに希少だな、と思う。

KAWASAKI Ninja 650
KAWASAKI Ninja 650
※スタートボタン通すと、KAWASAKI Ninja 650の動画を見ることが出来ます。見られない場合はYouTubeのサイトで直接ご覧ください。http://youtu.be/nAOUuIiG-x4

ローにシフトし走り出す。この排気量のおかげで1000㏄バイク並に気軽に発進できる。パッと走り出した瞬間、低速でのハンドリングがER-6nよりも粘る印象があった。その日、少し前に走らせたER-6nとフレーム、エンジン、タイヤ(ダンロップのロードスマート2を履いている)も同じだから、フルカウルを搭載したことによる前後輪荷重の違いと、フロントフォークのセッティングの違いだと思われる。ER-6nがネイキッドらしい軽快さだとすると、ツアラー的な落ち着いた印象が強い。しかし、それも10分もすれば意識の中に埋没する程度のもの。

クルマの流れに合わせて西伊豆の風光明媚な道を行く。低速トルクがたっぷりあり、3000rpmあたりまでですでに動力性能は高い満足度を与えてくれる。180度クランクのエンジンは2000rpmを多少割り込んでも不平を言わず仕事をする躾けになっている。

前が開いたところで少しアクセルを捻ると、3000rpm以上ならどこでも美味しいと表現出来る加速を手に入れられる。さらに1速高いギアを選択しても、回転上昇に時間を要するが、粒のそろったトルク感で、加速感そのものが減衰された印象は少ない。その時に発する180度パラツインのグルルル、という音はニンジャ650の魅力の一つだ。

荒れたアスファルト路面を走ると、ER-6nよりも少しだけフロントからのキックバックを感じるところもあるが、充分に許容範囲。それ以外に乗り心地でER-6nとの違いを探すのは難しかった。

ハンドリングを試そうとワインディングを駆けてみる。シフトアップ、ダウンを好む自分としてはあまり回転を上げず、ショートシフトでつなぐのが楽しい。3000、4000、5000rpmそれぞれでシフトをして、エンジンの感触の違いと旋回する感触を確かめてみた。結論から言えば、ツーリングペースを少し速めた走りなら3000rpmシフトでも充分に一体感がある旋回性を楽しめた。逆に左右への切り返しが続くセクションを走るには、この回転域のほうが軽快だった。低い回転のトルクを活かしてスイスイ走る感じは、あくせく感がなくて得した気分だ。それでいてスポーティーだからたまらない。

回り込んだワイドなカーブで脱出加速を楽しみたい、となると4500rpmあたりからアクセルを開けていくのが楽しい。あとはギアセレクト次第でトルクの波をどのぐらいの時間楽しむかを組み立てるだけで自由自在に自己流を引き出せたのが嬉しい。

なにより充分にしてほどよいパワーだ。開ける歓びがある。そして開ければ充分な加速を見せてくれるし、登りであっても息切れ感など皆無。このニンジャ650なら右手をひるがえして走る歓びを味わえる。リッターバイクには出来ない芸当だ。

前後のサスペンションも、しっかりと調教されていた。例えば下りのアプローチにブレーキを残しながら入る場面でもフロントフォークはしっかり受け止めてくれるし、そこから旋回に移りアクセルを開けていっても、前輪の接地感をしっかりと伝えて思い通りのラインを描いてくれた。手応えと旋回性がほどよいバランスを持っている。前後のブレーキは制動力もコントロール性もバイクのキャラクターにぴったり合っていて、鋭すぎず柔らかすぎず、というどんな場面でも安心してコントロール出来るタイプ。夏場の印象は未知数だが、路面温度の低いこの時期ではとてもリラックスして扱うことができた。これは、試乗している間中感じたところで、ツーリングやタンデムをしても制御しやすく、減速することがストレスにならなかった。

ライディングポジションは、ER-6nと同じ。上体はアップ目のハンドルバーとバイクを掴みやすい適正な位置にあるステップでコントロールしやすいものだ。攻めるとちょっと前輪を遠く感じるのかな、と思っていたが、全くの杞憂だった。上体に自由度が大きいから体を巧く使って一体感たっぷりの走りを楽しめる。

カウル付きでネイキッドのER-6nよりは少ないけど、風を感じる適度なバイク感を演出されたニンジャ650は、攻めるも良し、流すも良し、スローペースも楽しめる。ER-6n同様、パラツインの650というスペックだけで判断するのは早計。カワサキのバイクによくある「人には黙っていたいほど乗りやすい」がしっかり受け継がれている。この魅力が400クラスのネイキッドと同等の価格で手に入る、というのはちょっとしたニュースだ、として締めくくりたい。

(試乗・文:松井 勉)

Block01 Midashi
 ネイキッドバージョンのER-6n、フルカウルバージョンのNinja 650、ともに2012年モデルでフルモデルチェンジとなった。
 キープコンセプトのデザインが採用されたこともあり、フレームから新型となっていることに気づきにくいかもしれないが、実はこれまでのトレリスフレームから片側2本のパイプによるスパータイプへと変身している。カワサキが“ダブルパイプペリメターフレーム”と呼ぶそのフレームは、2本の高張力鋼管を上下に並べて、メインパイプ部を構成。同様に2本のパイプによって構成されたリアのスイングアームへかけて直線的なラインを形作っている。特に右サイドではオフセットマウント+レイダウンされたリアショックユニットと相まって強烈な個性を打ち出していると言えるだろう。
 ちなみに上下2本のメインパイプの間は樹脂製のダクトがはめ込まれており、吸気通路として利用されている。ヘッドパイプ直後の位置にはフレッシュエアの取り入れ口があり、エキサイティングな吸気音も演出しているという。
 水冷4ストローク2気筒、DOHC4バルブ、649ccのエンジンは基本的に2011年までのモデルと同一だ。ただし2012年モデルでは、スムーズでありながら鋭く吹け上がる2011年モデルのエンジン特性を活かしながら、更なる楽しさと日常での扱いやすさを求めて低中速域のトルクが強化されている。セクシーなカーブを描くヘッダーパイプにはコレクター部が設置され、トルクの山と谷を打ち消し、スムーズなパワー特性の実現に貢献している。エンジン下からスイングアームピボット部下へと配置されたマフラーは容量をアップし、内部構造も見直すことで常用域の7,000回転以下でのトルクを強化、低回転域での優れたコントロール特性を発揮する。触媒のレイアウトも変更することでユーロ3に対応。
 足回りでは、前後のサス・ストロークも延長している。フロントでは全長で15mm、ストローク長を5mm延長、リアは全長とストローク長ともに2mm延長。ストロークが伸びたことに合わせてスプリングレート、ダンパーも変更されている。ブレーキはフロントφ300mmペタルのデュアル、リアはφ220mmペタルのシングルと構成は変わらないが、よりクリティカルなコントロールを可能にする先進のプロセッサを搭載したコンパクトな新型ABSユニットを採用したモデルをラインナップ。さらにABS非装着モデルでは制動力を向上させたブレーキパッドを採用している。
Block01 Midashi
■Ninja 650主要諸元■
全長×全幅×全高:2,110×770×1,180mm、ホイールベース1,410mm、最低地上高:130mm、シート高:805mm、最小回転半径:2.7m、車両重量:209kg、燃料タンク容量:16L●水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ、排気量:649cc、ボア×ストローク:83.0×60.0mm、圧縮比:10.8:1、燃料供給装置:F.I.+KEIHINφ38mm×2、点火方式:デジタル、始動方式:セル、潤滑方式:セミ・ドライサンプ、最高出力:53kW(72.1PS)/8,500rpm(東南アジア仕様は52kW)、最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/7,000rpm●常時噛合式6段リターン、1速:2.438、2速:1,714、3速:1.333、4速:1.111、5速:0.966、6速0.852、一次減速比:2.095、二次減速比:3.067●フレーム形式:ダイヤモンドタイプ(高張力鋼管)、サスペンション前:φ41mmテレスコピック、ホイールトラベル125mm、後:スイングアーム、オフセットレイダウンシングルショック、ホイールトラベル130mm、キャスター/トレール:25°/110mm、ブレーキ:前φ300mmデュアルディスク、後φ220mmシングルディスク、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後160/60ZR17M/C 69W●価格:819,000円
(※出力、トルク値以外はブライト調べ:http://www.bright.ne.jp/

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