Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n

Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n試乗

おいしいヌーベルカワサキ、
風味も味もそのまま。

ヨーロッパの量販グレードの激戦区に向けたこの一台は、価格は抑えたい、でも魅力は上げたい、という板挟みの中、たぐいまれなるパッケージで登場した。芸術点の高いパイプフレーム、普段はシートの下で寡黙なまでに仕事をするモノショックを見事に外観意匠部品に仕立てたレイダウンショック、新品クレヨンのようなエンドキャップから並列180度ツインのグルグル音をはき出すマフラー。具材を機能に徹することを許さず、デザイン部品としてちゃんと役割を与えるパッケージにこそ、魅力の源泉が詰まっていた。

そして昨年の東京モーターショーで展示された新型ER-6nもその魅力をさらに磨き、走っても、研ぎたての包丁のような切れ味で心に飛び込んできたのである。

KAWASAKI ER-6n
KAWASAKI ER-6n
※スタートボタン通すと、KAWASAKI ER-6nの動画を見ることが出来ます。見られない場合はYouTubeのサイトで直接ご覧ください。http://youtu.be/DrW3CvXAzQQ

ハンドリングはシャープさをプラス。
乗り心地は丁寧な面取りで滑らかに。

2006年、初めてER-6nを見てそして乗った印象は、実によく走るバイク、というものだった。特に印象的なのはトルクフルな並列2気筒エンジン。グルルルルル、という排気音とともに盛り上がるトルクは最高。それでもデザイン58点、走り42点。まとまりの良い走りには文句の付け所が無かったが、エモーショナルなルックスには一歩及ばずというのが正直なところ。

今回、フレーム意匠が変更されても、ER-6nのデザインのツボをそのままにしているため、らしさは健在。乗れば走りの部分がより伸長しているのが手に取るように解るため、新型としての商品性もしっかり心にお届けしてくれる。先代が100点のパイの中で競い合っていたとすれば、新型はデザイン100点、走り100点と部門ごとに満点評価しないと点が足りない、という感じなのだ。

エンジンは先代から引き継がれた650㏄パラレルツイン。低速からのトルクもたっぷりしていて、神経を使うことなく2000rpmも回せば楽々発進をしてくれる。このエンジンの魅力は、こうした低回転からでもVツインのようにむずがることがないところだ。

テストコースになった伊豆の西海岸沿いに入るアップダウンの多いワインディングを走っても、3000rpmも回せば事実上充分なトルクを供給し、5速、2000rpmなんて領域からも楽々と急な登りで加速を見せてくれたりする。ビッグネイキッドの半分ほどの排気量でこの太さ。これは見逃せない。

Ninja ZX-14R/Ninja 650/ER-6n

そしてエンジンの素性の良さ以上に印象的なのがハンドリングだ。前夜に降ったみぞれが路面を濡らし、空を覆った雲が乾かす理由を与えない。しかも気温は5度未満。タイトターンや荒れたアスファルトが多い場所では思わず肩に力が入るところだが、そんな嫌なシチュエーションすらこのER-6nは持ち前のスムーズな走りで乗り手をリラックスさせてくれる。前後に履いたロードスマート2の恩恵も大きいのだろうが、カワサキが狙った、走る楽しさは、厳しい条件でも発揮された。

接地感と前輪が向きを変えて行く移り変わりが手に取るように解り、またそこにつなげるブレーキングでもレバー入力から減速が掛かりフロントフォークに荷重が移っていく、という一連の動きが見事にバランスしていて恐くない。攻めの走りだけならもっと立ち上がり重視もありだろうが、様々な場面を想定すると、ER-6nのブレーキの味付けは高く評価できる。

それに乗り心地もスムーズ。ちょっと靴底が硬い印象だった先代より、だいぶ角が取れ滑らかになった。荒れた路面でもフラットに乗り越えたのには感心。街中での快適さ、ツーリングでの疲労低減にも期待ができる。

スポーティーかつリラックスできるライディングポジションもこのモデルの乗り味にドンぴしゃ。低速のUターンや左折などの低速域からワインディングを気持ち良く流すような場面まで、バイクとの一体感を充分に楽しめる。特にワインディングでの楽しさは、ハンドリングのほどよいシャープさに乗せられ、知らぬ間にペースアップしている自分に嬉しくなる。アナログ大径のタコメーターもこんな時にはしっかりしたスパイスとして作用し、2、3、4、5速あたりを往復させながら、風景の良いツーリングルートを行く楽しみを味合わせてくれた。

特に3000rpmぐらいから高めのギアでアクセルを開けた時の排気音、吸気音、エンジンの鼓動、そして増速感はたまらない魅力だった。全体にスムーズさが増した印象で、5000rpm以下の実用域の魅力をさらに磨いた感が強い。飛ばしても飛ばさなくても楽しい日本車。実はありそうでなかなかない。このER-6nは間違いなくそんな一台だ。新型の走りの質感にボクは☆3つを献上したい。

それにしても180度クランク、並列2気筒って、こんなに小悪魔だったっけ? 蛇足になりますが、LCDモニターのモード切替で出てくる、瞬間燃費、そしてエコ運転をすると点灯する“ECOマーク”は、新しいバイクライディングの楽しさも教えてくれますよ。目指せ、燃費王!

(試乗・文:松井 勉)

Block01 Midashi
 ネイキッドバージョンのER-6nも、フルカウルバージョンのNinja 650とともに2012年モデルでフルモデルチェンジとなった。
 基本的にはキープコンセプトのデザインが採用されたこともあり、フレームから新型となっていることに気づきにくいかもしれないが、Ninja650同様、実はこれまでのトレリスフレームから片側2本のパイプによるスパータイプへと変身している。カワサキが“ダブルパイプペリメターフレーム”と呼ぶそのフレームは、2本の高張力鋼管を上下に並べて、メインパイプ部を構成。同様に2本のパイプによって構成されたリアのスイングアームへかけて直線的なラインを形作っている。特に右サイドではオフセットマウントされたレイダウンサスと相まって強烈な個性を打ち出していると言えるだろう。
 ちなみに上下2本のメインパイプの間は樹脂製のダクトがはめ込まれており、吸気通路として利用されている。ヘッドパイプ直後の位置にはフレッシュエアの取り入れがあり、エキサイティングな吸気音も演出しているという。
 水冷4ストローク2気筒、DOHC4バルブ、649ccのエンジンは基本的に2011年までのモデルと同一だ。ただし2012年モデルでは、スムーズでありながら鋭く吹け上がる2011年モデルのエンジン特性を活かしながら、更なる楽しさと日常での扱いやすさを求めて低中速域のトルクが強化されている。セクシーなカーブを描くヘッダーパイプにはコレクター部が設置され、トルクの山と谷を打ち消し、スムーズなパワー特性の実現に貢献している。エンジン下からスイングアームピボット部下へと配置されたマフラーは容量をアップし、内部構造も見直すことで常用域の7,000回転以下でのトルクを強化、低回転域での優れたコントロール特性を発揮する。触媒のレイアウトも変更することでユーロ3に対応。
 兄弟車のNinja650との相違点は、フルカウル仕様からヘッドライト、ラジエターサイド、メーター周りを囲むカウルと、最小限のフェアリングパーツが採用された点と、メーター周り、ハンドル周りが独自のものとなっている。また、ヘッドライトカウル下から伸びるフォークガードは、インナーチューブを泥や汚れから保護するだけでなく、前傾姿勢のスタイリングを強調することにも貢献している。
Block01 Midashi
■ER-6n主要諸元■
全長×全幅×全高:2,110×770×1,110mm、ホイールベース1,410mm、最低地上高:130mm、シート高:805mm、車両重量:204kg、燃料タンク容量:16L●水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ、排気量:649cc、ボア×ストローク:83.0×60.0mm、圧縮比:10.8:1、燃料供給装置:F.I.+KEIHINφ38mm×2、点火方式:デジタル、始動方式:セル、潤滑方式:セミ・ドライサンプ、最高出力:53kW(72.1PS)/8,500rpm(東南アジア仕様は52kW)、最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/7,000rpm●常時噛合式6段リターン、1速:2.438、2速:1,714、3速:1.333、4速:1.111、5速:0.966、6速0.852、一次減速比:2.095、二次減速比:3.067●フレーム形式:ダイヤモンドタイプ(高張力鋼管)、サスペンション前:φ41mmテレスコピック、ホイールトラベル125mm、後:スイングアーム、オフセットレイダウンシングルショック、ホイールトラベル130mm、キャスター/トレール:25°/110mm、ブレーキ:前φ300mmデュアルディスク、後φ220mmシングルディスク、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後160/60ZR17M/C 69W●価格:798,000円
(※出力、トルク値以外はブライト調べ:http://www.bright.ne.jp/

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