熊本製作所というか二輪車を生産するにはどんなことが必要か分かるのは、工場のセクションがどう分けられ、それがひとつに繋がって1台の二輪車になるのかということだ。
そのセクションは、鋳造/機械加工/溶接/プレス/塗装/プラスチック成形/梱包、そしてエンジン/完成車組立ラインなどがある。
エンジン組立ラインには3本のラインがある。小型・中型/FUN(大型)/輸出用の3本だ。
完成車組立ラインも流動ラインとして小型・中型(コミューターなど含む)/FUN(大型)がある。この他フレキシブルなラインとしてFUNマルチ(大型/3輪4輪バギーなど)/マルチセルライン(後述)がある。
見学して驚かされたのは作業する方が、みんな外側(つまり見学通路側:見学者は挨拶を受けました)を向いて作業していること。
これは、各員の顔が常に見えること(様子がわかる)、左右のラインの中央(各作業員の背中側)に部品を搬入できるラインを設けることができて、左右の作業員両方に瞬時に部品を供給できるため時間短縮にも繋がるのだという。
さらにラインは一段高い位置に配されている。
これは工場敷地が高台にあったためで、廃土を少なくするため削らずにそのままの位置にラインを設けたためという。だから入口は地下一階にある。
もうひとつ驚いたのは、実に静かなことだ。
全体で騒音を出さない工夫がされているのだが、例をあげればチェーンやインパクトレンチをサイレント化していった結果だという。
なお、インパクトレンチはモニターがあって、規定のトルクと回数で締め付けないと次工程に行かないようになっているとのこと。
さらに完成車組立ラインで流れるフレームにはICチップが付けられていて、完成までの時間を逆算して欠品/遅れが出ないように一括管理をしている。
もちろん兵器といっても物騒なものではない。
ラインの写真の右下、レールのようなものに載っていて、また写真左で組立てられているCBR1000RRが載っているのがそれ。
「自走式搬送コンベア」と「自動昇降台車」だ。
作業員の方と共に、これがラインを形づくる“主役”のアイテム。ストックされた地下から組立ラインに上がってきたパーツ1台分が作業者の背後に流れている。そこから工程者がパーツを取って組立てていく。
パーツもでき得る限り下の段の入れ物は工程者に負担をかけないため空にするという。この搬送コンベアと自動昇降台車で作業スペースが驚くほど広くなったという。
見学しているだけで作業が楽だと思えたのが自動昇降台車。工程によって組立てる二輪車の高さが作業に合わせてコンピュータ制御で変わるのだ。しかもモーターと電池で自走するコンベアには1基1基に管理する担当の名札(「このパレットは○○」というように)が付けられている。
担当は固定されていて、その担当するコンベアの動きをラインスケジュールに合わせて常に見守っているのだという。
なお、熊本製作所のこの新工場では2008年の操業開始の時からこれらは導入されているのだが、今では海外拠点でも一部稼働されているという。
ここまで最先端だと作業する人も気が抜けない……のはプロとして当然だろうが、それでもホッとする話も聞けた。
それが、各作業員の前にある「アオラレ」と書かれた表示板。これを点灯させると「間に合わない、サポートをお願いします」サイン発動なのだ、「私、アオラレていますよ~」のヘルプ機能だ。
もうひとつ、トイレ。各作業員から70秒以内の位置に設置されているとのこと。事務所も分散されて置かれている。
組立ラインのところで出てきたマルチセルライン(ラインというよりスペースだ)は少量生産車を組立てる部門。
白バイ/大型車の一部/DN-01/CRF100などをここで組立てる。グループセルでは6人で1台、単独セルでは2人で1台を担当する。
特に単独セルでは10年以上のマイスター(ベテラン)が技術伝承のため若手と組んで組立てる。
なお、これら組立ラインで組みあがった二輪車はすべて検査ラインを経て梱包へ向かう。
余談だが検査ラインで試運転されるのだが、その時に大型車で入れられるガソリンは50ccだそうだ。
前述したとおり、屋根にある1008枚のソーラーパネルで照明をまかなっている第2食堂(1600席! この他1000席の第1食堂あり)で昼食を試食(写真)。
ちなみに見学した日のメニューは……定食:赤魚の煮付け/旬のコロッケ・舞茸クリーミー・肉じゃが/豚肉山椒焼き 小松菜のお浸しなど小鉢6種 五穀米 広東風中華丼/ぼっかけうどん・そば/担担麺/ビーフカレー サラダ 有料小鉢:おにぎり――でした。
ごちそうさまでした!
※見学後記! By 近藤健二
大量生産品でありながら、個にホンダ印スピリッツを込めていく二輪車への想いが熱く伝わってきた。
ただ、これだけすごい製作工程を創り上げちゃうと、逆にその製作所の施設に過大に合わせた、その“箱”に合わせた商品開発がメインになってしまうと本末転倒になりかねない、と無知無用の心配(?)もしてしまった。
これだけの先端技術が集約されているなら人材開拓含めて、かつての製作所にあった、研究所だけではなく生産現場:製作所でも新機種・新部品を開発する部門「製品技術部」復活もいかがでしょうか?
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