2018年10月10日

第74回 第21章 I’m Loveley Guy

第74回 第21章 I’m Lovely Guy

 
サイドカークラスのレースが終わった。残すはメインイベントのシニアクラスのみ。シニアクラスのスタートまで1時間ほどのインターバルがある。その間、観客はトイレに行ったり昼食をとったりする。駐車場に停められている車やバイクを見て回る者も多い。

インターバル城

 
その中でひときわ目を引く車があった。ジャービーの博物館でも見かけた4輪のトライアンフだ。

4輪のトライアンフ

 
確かこの車は生産されてから半世紀以上経っているはずである。にもかかわらずその車両はオレが博物館で見たものと同レベルの良好な状態だった。つまりピカピカ。しかも現役。
車の傍らでギャラリー相手に話している老人がオーナーのようだ。ドアやボンネットを開けたりしながらまわりの人たちに自慢の愛機を見てもらっている。その一挙一動が実にシブイ!! オレもエンジンルームの中まで見せてもらった。

トライアンフ

トライアンフ

 
素人目にも細部まで手入れが行き届いているのがわかる。これまでの長い年月の間、大切にされてきたのだろう。見ているだけで気持ちが良くなる。
この島へ来て感じた事だがここで見かける車両はどれもキレイだ。車もバイクも大切なものとして扱われているのが見て取れる。だが本来はこうあるべきなのだろう。

時計を見ると時刻は正午をまわったところだった。
とりあえず腹も減った。何か食べようと思い売店に入った。すでに多くが売れてしまって置いてあるものは限られる。サンドイッチかハンバーガー。あとはスナック菓子が数種類。
ほぼほぼ選択の余地はない。
オレは朝食とかぶってないという理由だけでサンドイッチを手に取った。ついでにコーンスナックとコーラも。
それだけ持ってレジへ行くとレジのオバちゃんが
「Oh, Lovely. Are you a Japanese?」と話しかけてきた。
オレは「Yes. I Came from japan.」と答えたのだが・・・ちょっと待てよ。
頭にラブリーとか言ってなかったか。どういうことだ?
いや、意味がわからないわけではない。何に対して言ってるのかがわからないのだ。
オレが身に着けているものの何かを指して言ってるだろうか。
オバちゃんはまるで遊んでいる子供を見つめるような表情でさらにもう一回「Lovely.」とつぶやいた。
まさかとは思うが・・・Me? と聞くと「Yes, You are Lovely.」との返事が。
クールでもない。ナイスガイでもない。
この島ではオレはラブリーなのだ。
受け入れがたい評価ではあるがこれは喜んでおいた方がいいのか。それともこれって笑うとこ?
できれば異議を唱えたいところではあるが・・・英語で抗議なんてできねぇし。

それにオバちゃんに逆らってもロクなことにはならない。なぜならオバちゃんとは最強の生き物なのだから。そんな彼女らからして見ればオレなど赤子も同然なのだろう。
少々、納得はいかない。だが好かれてはいるようだ。ならそれでいいではないか。
オレは社交辞令的に「Thank you. I’m glad.」と心にもない返事を返して売店を出た。

昼食を食べ終え、一服しているとラジオから聞こえてきていた音声が急に慌ただしくなった。シニアクラスが始まった。マン島TT最後のレース。
改造無制限のリッターバイクに乗ったブチキレライダー本気の暴走劇の始まりだ。
スタートから10分もしないうちにヘリの音とともに最初のマシンが見えてきた。
その姿は凄まじい排気音と共に見る見るうちに迫ってくる。

シニアクラス

 
速さは先のゼロクラスやサイドカーに比べあからさまに違う。そして耳をつんざくような音と衝撃波を残して目の前を走り去っていく。次から次へと。
待ち受けるコーナー手前でギリギリまでブレーキを堪える。というかブレーキなんてかけているのかいないのかわかったもんじゃない。
ガチにフルラインを使ってコースアウト寸前のところでコーナーを立ちあがっていく。

シニアクラス

 
見ていて息が詰まりそうになる。まるで真剣同士の立ち合いを見ているような気分である。シニアの決勝はコースを6周する。つまり彼らは2時間近くあんなヒリついた感じで走り続けるって事だ。もはやオレには理解不能な領域である。
レースは2周目に突入した。目の前を10台ほどが通り過ぎた時、レッドフラッグが振られた。どこかで事故があったようだ。少しして優勝候補のイアン・ハッチンソン選手がマウンテンコースでクラッシュしたという情報が入ってきた。安否のほどはわからない。
ハッチンソン選手はマン島TTではトップクラスのベテランライダーだ。初日に行われたスーパーバイククラスでは優勝している。そんな熟練のライダーであってもこういう事が起きる。トップクラスゆえにクラッシュした時のダメージは深刻である。
マン島TTの映画のエンディングを思い出す。
主役クラスのライダーは最後は病院で寝ているか松葉づえをついていた。そしてそんな状態でほんの少しの反省と次回の抱負を語る懲りないやつら。
ハッチンソン選手も大事に至っていなければいいのだが。レースは30分ほど中断されていた。その後、周回を4周(つまりあと2周)に短縮され再開された。
再びマシンがやって来て目の前を次々に走り過ぎていく。どの選手もその走りは相変わらず凄まじく今回のアクシデントに臆している様子は微塵もない。
それどころか優勝候補の脱落で膨れ上がったチャンスに皆、色めきだっている。観客の盛り上がりも最高潮に達していた。
残りの周回を終えレースは本命のマイケル・ダンロップ選手優勝で幕を閉じた。お祭り騒ぎなメイン会場の様子がラジオの歓声から伝わってくる。これからメイン会場へ行きそれに加わる人たちも多いのだろう。オレ達もその事で選択肢が二つに分かれていた。このあとダグラスのメイン会場へ行くかそれともマウンテンコースを走るか。
その希望はうまい具合に人数的に半々に割れた。オレは迷うことなくマウンテンコースだ。
全コースの中でもっともコーナーの数が集中しているテクニカルなこの区間をぜひ見ておきたい。先にダグラス組をメイン会場へ送ったのちにオレは残りのメンバーと車に乗り込みマウンテンコースへ向かった。


HERO‘S 大神 龍
年齢不詳・職業フリーライター

見た目と異なり性格は温厚で性質はその名の通りオオカミ気質。群れるのは嫌いだが集うのが大好きなバイク乗り。時折、かかってこい!と人を挑発するも本当にかかってこられたら非常に困るといった矛盾した一面を持つ。おまけに自分の評価は自分がするものではないなどとえらそうな事を言いながら他人からの評価にまったく興味を示さないひねくれ者。愛車はエイプ100、エイプ250、エイプ750?。


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