2018年12月21日

『ダカールラリー2019』直前インタビュー Monster Energy Honda TEAM 代表・本田太一氏、 その意気込みを語る。

■文:松井 勉 ■撮影:依田 麗/Honda
■協力:Honda http://www.honda.co.jp/motor/

12月13日。冬の陽が傾き始めた時間ながら、ホンダ青山本社の一室には熱い情熱がふつふつと湧き上がっていた。2013年、世界一過酷なモータースポーツ、ダカールラリーへの参戦を再開したMonster Energy Honda Teamのチーム代表、本田太一さんが、7度目の挑戦を目前に控えた年末の午後、勝利への思いを熱く語ったのである。

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勝負の年。体制をさらに充実させた
Monster Energy Honda Team。

 この日、プレス発表を行ったのは、Monster Energy Honda Teamのチーム代表、本田太一さんだ。本田さんは本田技術研究所2輪R&Dセンターのエンジニアで、オフロード系モデル、モトクロッサーCRFの開発責任者を務めた人だ。また、ご自身も本田技術研究所入社以前は全日本モトクロスに参戦するレーサーとして活躍した人でもある。
 2012年7月、ホンダがダカールへの復帰を発表し、そして2013年のダカール復帰からダカールプロジェクトに携わり、主にマシン開発を担ってきた。そして現在はチーム代表としてダカールの現場に出向き、世界最高峰の冒険ラリーで陣頭指揮も取る。ホンダ内で今のダカールをもっとも知る人の一人だ。

「次こそ必ず勝つ!」
 本田さんはこれまでの参戦経緯をかいつまんで紹介したあと、プレスを前にそう短く言った。これまで幾度も本田さんを取材した経験があるが、今までよりもリラックスした雰囲気で語るその口調に「強さ」を見た気がした。
 その方策を聞いた。

「まず、これまでを振り返ると、勝てそうで勝てなかった。ダカールラリーは細かい部分の漏れまで注意しないと勝利はない。2015年、2018年には総合2位という成績を収めることができましたが、2019年はステージ1から集中していきます」
 

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ホンダ入社以前は、全日本モトクロス選手権に参戦していたモトクロスライダー。入社後もその経験を活かし、CRやCRFシリーズの開発を担当した。モトクロスのファクトリーマシンの開発責任者を経て、ダカールラリーのマシン開発に携わる。2013年のダカールラリー参戦当初からテクニカルダイレクターとしてマシン開発を担当。2018年のダカールラリーからMonster Energy Honda Team代表として活動。


 
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1986年、パリ〜アルジェ〜ダカールラリーは大きな転機を迎えた年でもあった。それまでで最長の距離、モーリタニアでは未踏の砂丘地帯を走破するなど、厳しさも格別。ラリーの途上、砂嵐に遭難した参加者の救援に出たラリーの創始者、ティエリー・サビーヌ本人も命を落とすなど、波乱が絶えなかった。それすら「世界一過酷なモータースポーツ」という装飾の一つにして完遂し話題に。そんな年、HRCがパリ・ダカ制覇を狙って制作したワークスマシン、NXR750で参戦。フランス人ライダー、シリル・ヌブーが波乱のラリーを制し、1982年以来となるダカールウインをホンダにプレゼントする。ヌブー自身もダカール優勝記録を4に伸ばした。翌87年もヌブーとNXRがラリーを制したほか、1988年はエディー・オリオリ、1989年はジル・ラレイがNXRに乗り、HRCの4連覇の立役者となる。


 
 勝てそうで勝てなかった、とは2015年のことだ。トップを走るチームのエース、ジョアン・バレダがラリーの折り返しまで順調な速さを見せたが、レストデイ明けに行われたマラソンステージ(ライダーはビバークでアシスタンスチームからのサポートを受けず、連続する2ステージを自らの手でマシンを整備し、交換部品も自ら運ばなければならないステージ)で転倒、ハンドルを折りマージンを吐き出すケチが付き、翌日、降雨の影響で水のたまったウユニ塩湖をスタートしたバレダのマシンにはねた塩水が引き金になり電気系がトラブルを起こした。また、別年には、スペシャルステージ中にあるニュートラルゾーンでの給油を巡る解釈の違いでペナルティーを受け、優勝戦線から離脱する、ということもあった。
 また、2018年も終盤、トップに立ったホンダのケビン・ベナビデスを含む少数のトップライダーがスタート前にアナウンスされる予定だったコースの変更点の説明が徹底されず、ルートを見失い、逆転をされるということも起こった。Monster Energy Honda Teamのライダーだけではなかったが、優勝争いに変化があったことは確かだ。

 ここまでの経験から本田さんは言う。
「ダカールに復帰した当初、プライオリティはマシン、ライダー、そしてチーム運営という順番で考えていました。しかし、ここ数年はチーム運営、ライダー、そしてマシンという順番で考えています。2019年のラリーに向け、運営面での強化をするために、前回のダカール終了後に適任のスタッフを探しました。そして二人の適任者をチームに迎えることができたのです」

 2018年シーズン、ダカールラリー終了後、2019年に向けたマシン開発とチーム運営強化を同軸で進める中、南米で行われたアタカマラリー、ディサフィオ・ルータ40、ディサフィオ・インカ、そして北アフリカでのモロッコラリーに参戦したMonster Energy Honda Team。その他、テストセッションや9月、10月のインカ、モロッコから合流した新スタッフはライダーのケアから運営面でのライダー視点まで細かく指南してくれて、早速チーム全体の底上げを実感したと本田さん。
 
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二人のポルトガル人。

 新たにチームに加入したのは、ルベン・ファリア、そしてエルダー・ロドリゲスの2名だ。ともにポルトガル人。そしてともにファクトリーチームでダカールラリーの優勝戦線に絡む活躍をしたライダーでもある。

 エルダー・ロドリゲスは2013年から2015年までCRF450 RALLYを走らせた元チームメイト。ライダーのケアを中心としたアドバイザーが彼の新しい仕事だ。また、ルベン・ファリアは、ダカールラリーで2輪総合優勝を5回果たし、引退後はダカールラリーの主催者ASOでスポーティングディレクターを務めるマルク・コマの元チームメイトで、KTMファクトリーチームではコマの勝利に貢献した立役者とも言える存在だった。

 ルベンはチームのロジスティック、ビバークなどのデザインをはじめ運営全体を見渡す役割を負うという。この二人の経験が優勝を目指すMonster Energy Honda Teamに注がれることで本田さんも変わった、と話す。

「具体的には言えないのですが、二人の加入でライダー達も今までこうだ、と思っていたことをもう一度見直すチャンスになり、運営を含め全体的に進化しています。細かいことでは、ライダーがスタートを待つ間の心理もフィードバックしてくれる。それこそ、この場面ではヘルメットは被っているが、ゴーグルは外しておきたい、というようなことまで共有できる。もちろん、トップライダーとして走ってきた彼らが持っているナビゲーションスキルも、ライダー達に経験からくるアドバイスが効果的に作用していると思います。テスト参戦したラリーでもさらに精度が高まっている印象です」
 
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 そして、2019年のペルーラウンドをどう戦うかもチーム全体で戦略が構築されていると言う。

「ここ数回、主催者ASOのスポーティングディレクター、マルク・コマが一人でルート制作をしていました。次回のダカールは、ルート制作を3~4名の異なる人が行ったそうです。全体が短い、砂が多いなど当然簡単ではないと想像できます。ナビゲーションのポイントも変わる可能性もあります。チームでは誰が誰のサポートで、ということではなく、どのステージを重視するのか、というような部分です。たとえば、イグナシオ・ホセ・コルネホはまだ若いライダーです。彼は母国チリ、地元がイキケです。砂を走り回ってきた経験があります。砂漠セクションが多い今回のラリーでどういう走りを見せてくれるのか。だから、数ステージの状況を見て、リザルト的に上位のライダーをその他のチームメンバーが支える、ということになると思います」

 また、アメリカ人ライダー、リッキー・ブラベックは、2年連続でモロッコラリーを総合3位で終えるなど、成長を続けている。特に固い岩の多い路面をハイペースで走るのを得意とするリッキーがこのペルーでどんな走りを見せるのかも注目だ。
「現在、Monster Energy Honda Teamでは、ジョアン・バレダ、パウロ・ゴンサルベス、そしてケビン・ベナビデスの3名は間違いなく優勝戦線に絡める技量を持っているライダーです。ライダーを含め30名のスタッフがいるMonster Energy Honda Teamです。しっかり、勝利に向かっていきます。チーム、ライダーへの応援をよろしくお願いします」
 本田さんは、そう締めくくった。
 
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●ジョアン・バレダ

スペイン国内のモトクロス、エンデューロで活躍した後、2011年に初めてダカールラリーへ。爆発的な速さを持ち、ライバル達を動揺させるほどタイム差を築くこともある。しかし、ここまで優勝に近づいては不運に阻まれる。悲願のダカール優勝を自身も切望するライダー。2018年はレースで痛めた腕の養生とトレーニングに努めた。


 
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●パウロ・ゴンサルベス

ポルトガルでエンデューロ、モトクロスのチャンピオンを続け、ISDEでもゴールドメダルを獲得する腕前。2006年、まだアフリカ時代のダカールに参戦し、そのスピードをラリーでも生かす。総合2位にCRF450RALLYを運んだ実力者だ。40歳目前のダカールをどう戦うか楽しみ。マッシブな体格でパワフルなライディングが身上。


 
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●ケビン・ベナビデス

アルゼンチン出身のライダー。エンデューロでは数多くの成功を収め、ISDEでは4度のゴールドメダルを獲得するクレバーかつスピードを持つライダー。ブエノスアイレスに本拠を置き、ホンダワークスチームのサテライト的存在でもあるMECチームに見いだされラリーでも抜群のスピードを持つ。2018年、ルート変更の情報がしっかり伝達されていればおそらく優勝をしていただろう。


 
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●リッキー・ブラベック

Monster Energy Honda Teamのなかではもっとも大柄なライダー。アメリカでヘア&ハウンドやデザートレースで活躍するライダー。ナビゲーションが決まるとステージウインを獲るなどスピードは十分。2015年、アブダビデザートチャレンジで初めて海外レースを体験後、昨年には国際格式のモロッコラリーで初表彰台を獲得。今年もモロッコで3位となり、Monster Energy Honda Teamでは最上位となる。


 
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●ホセ・イグナシオ・コルネホ

昨年、ダカール直前のトレーニングセッションで負傷したゴンサルベスに代わり、急遽Monster Energy Honda Teamに迎えられたゴールデンルーキー。ケビン同様、MECに発掘された一人。太平洋沿いの町、チリのイキケが地元。一時、南米ダカールでは標高1000メートルほどの砂丘から海岸線に向け、長いダウンヒルをする場所として知られるようになったのがイキケだ。チリでサンドライディングを習得した彼はFIMクロスカントリーラリー世界選手権のジュニアカップでシリーズ3位にランクインするほか、地元のラリーで2位入賞を果たすなど、砂地のスペシャルリストでもある。


 

 
異例ずくめとなるDAKAR 2019。
ペルーの砂を制するのは誰か。

 かつてパリ、トロカデロ広場をスタートし、フランス国内を南下。バイク、クルマ、トラックと、路上を走る乗り物なら何でもあり、そんなユニークな冒険ラリー一行は地中海を渡るフェリーで対岸のアフリカへ。そして大陸に横たわるサハラ砂漠を越え、セネガルの首都ダカールへ。

 いくつもの国境を越え進むことから、後にこの手のラリーをクロスカントリーラリーと呼ぶようになる。1万数千キロを3週間で走りきることから、世界一過酷なモータースポーツという称号を欲しいままにしたパリ~ダカールラリー。モータースポーツが休眠する季節に連日メディアを賑わせるこの冒険ラリーは、地元フランスをはじめ、世界のファンを引きつけた。

 2008年、スタート直前のラリーに届いたテロの予告と政府からの中止要請。それを期に2009年からアフリカ大陸から南米大陸へと開催の地を移し、次回が11度目の南米ラウンドとなる。真冬のサハラから真夏の南米へ。これまで、アルゼンチン、チリ、ボリビア、ペルー、パラグアイなど、通過国を変えながらダカールは連綿と続いてきた。南米大陸ではアンデス山脈の高地、ペルーやアタカマ砂漠、そしてボリビアの高地に広がるウユニ塩湖などがドラマの舞台となってきた。例年、2週間、12の競技区間、総移動距離はおよそ9000キロとなっている。

 41回目の開催となるダカールラリー2019は異例ずくめの開催となる。まず、スタートはペルーの首都、リマ。1月6日、スタートセレモニーをし、翌1月7日ラリーは本格的に始動する。17日まで10ステージの競技区間を行うが、ルートはすべてペルー国内。越境しない史上初のダカールとなる。
 ダカールラリーを主催するASOでラリーの総責任者でもあるエチエンヌ・ラビニュも2019年ダカールを「An unusual edition」と表した。

 計画されている総走行距離は5541キロと例年になく短く、競技区間となるスペシャルステージの合計距離は2889キロ。その最短はステージ1の84キロ、最長でもステージ8の361キロ。最終となるステージ10が112キロであることを除けば、他の競技区間の多くは313キロから361キロの間に収まる。スペシャルステージと移動区間であるリエゾンを合わせた距離も、最長で839キロ。ほかにも799キロ、776キロの日があるが、その3日間だけ。あとは概ね331キロから576キロの間に収まっている。短いが、これまでのように、激しい雨で競技区間の安全が確保できずキャンセルとなることが多かった。しかし、世界でも有数の乾燥地帯のペルーの砂漠では豪雨キャンセルはなさそうだ。そうすれば、例年、数ステージがキャンセルになるので、10ステージは決して少なくない。
 つまり、世界一過酷なラリーが、それほど簡単にゴールへと参加者を誘うはずもない。ステージ5、ステージ9ではいわゆる一斉スタートが切られるという。序盤の順位確定、そして最終ステージ前日、最後のロングステージでもあるこの2日に参加者が一斉スタートで熱くなり、ナビゲーショントラップでも仕掛けるつもりなのだろうか。また、ステージ8を「スーパー・イカ」と位置づけ、最後の山場とするつもりらしい。
 競技ステージ全体の70パーセントは柔らかく、気温が高いことで知られる砂漠地帯を相手にする。また、リマをスタートしたあと、ピスコ、サン・ファン・デ・マルコナ、アレキパなどを舞台にしたループコースも設定される点もユニークだ。不気味なのは、ステージを走破できず、エスケープしたとしても、エントラントにその意思があれば、翌日からもステージを継続できる、という救済策がとられることだ。もちろん、ペナルテイーが加算されるので、勝負権はなくなるとしても、それほど短い距離の中に濃厚な厳しさがある、とも深読みできる。

 さあ。1月17日、リマのフィニッシュラインにトップで戻るのは誰か。念願の優勝をMonster Energy Honda Teamは勝ち取るのか。
 ダカールラリーのスタートは1月6日。毎日がアドベンチャー、戦況が楽しみである。
 

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ショーワのサスペンションも開発が進む。一部のライダーは電子制御セミアクティブサスペンションも使っているという。ラジエターガードや空力的に洗練されたデザインのアンダーカウル兼スキッドプレートの形状など450㏄に限定された現在のラリーマシンでトップの性能を誇るCRF450 RALLYの機能美が見える。


 
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プロリンクのリンク部分をカバーするように樹脂製のスキッドプレートが見える。こうしたディテールにダカールで体験した不測の事態が積み重なっている。


 
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カーボンを使った外装。サブフレームは燃料タンク(リアシート下両サイド)と一体。タンク本体はカーボンフレームの中に樹脂製タンクを装備する。テールランプは面で光るタイプを引き続き採用する。


 
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フロントのメインタンクも本体は半透明の樹脂製。残量を目視できるよう、残量に合わせラインが引かれている。


 
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大きかった透明なライトカウルはスクリーンだけのシンプルなものに。ナビゲーションアイテムを搭載するタワーは、ステアリングヘッドマウントになる。カーボン製を採用する。ロードブックホルダーとトリップメーター、そして方角を示すデジタルコンパスの表示などが主なナビゲーションアイテム。ハンドル周りにあるスイッチはそうした機器の操作と、本番時に搭載するサンチネルと呼ばれるGPSを搭載したときにつかうもの。このスイッチ類の配置に関しても、アドバイザーであるエルダーやルベンからアドバイスがあったという。


 
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7年目のチャレンジ。異例ずくめのペルー一国開催のダカール。CRF450RALLYはリマのゴールにトップで戻る!のか? ダカールはまもなくスタートする。


 



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