2019年2月15日

EICMA ミラノショー2018をじっくり振り返ってみよう! Part2 『海外メーカーの熱気を感じた!』

■レポート&写真:河野正士

 

すっかり遅くなってしまいました。申し訳ありません。日本のバイクシーズン到来を前に、EICMAで発表されたニューモデルやニューアイテムをお復習いさせてください。2回目は海外メーカー編です。

 

■アプリリア

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Concept RS660。


 
 スーパーバイク世界選手権を戦うファクトリーマシンのベースとなる、V4エンジンを抱く「RSV4 Factory」よりも目立つ位置に置かれていたのは、この「Concept RS660」でした。詳細は発表されておらず、また会場のスタッフに聞いても何も答えてくれなかったのですが、車体脇にはコンパクトな並列2気筒エンジンが搭載された、これまたコンパクトなフレームも展示されていました。そしてその2気筒エンジン付きフレームの隣には、RSV4 FactoryのV型4気筒エンジンを搭載したフレームも、比較しろと言わんがばかりに展示されていました。この「Concept RS660」が抱く並列2気筒エンジンは、そのV型4気筒の後ろ側2気筒を取り払ったようなイメージなのです。
 
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事前情報も、事後の詳細発表もない状態ながら“Coming Soon”の文字のみ、ステージ上に表示されていました。2気筒のミドル排気量カテゴリーのスーパースポーツ、楽しみです。


 
 またフレームは両車ともにアルミのツインスパータイプなのですが、660用フレームはメイン部材がボックス化されておらず、表面はスムーズな面で仕上げられているものの裏面には格子状の構造体が見える、KTMのスイングアームに採用されているようなオープンラティス構造になっていました。これは強度こそボックス形状のアルミ部材に劣るものの、高い強度と軽量化を実現しています。しかも660はクランクケースエンドにスイングアームピボットを持ち、エンジンをフレームの一部として使用することで、フレームそのものの剛性をさほど高める必要がなく、それによって軽量かつコンパクトにフレームを仕上げているようなのです。
 
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車体脇に展示されていたエンジン&フレームのセットアップ。非常にコンパクトでした。


 
 それでいてボディデザインは、最高峰モデルであるRSV4 FactoryやアプリリアのMotoGPマシン「RS-GP」よりもさらにモダンに、そして積極的に先進的な空力テクノロジーが反映されているのです。
 
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注目度も高く、細部を見つめる人が絶えませんでした。


 
「Concept RS660」が展示されていたステージの床面には、モデル名とともに“Coming Soon”の文字もありました。コレ、出てくると思います。
 
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「R1250R」「R1250RS」「R1250GS Adventure」。


 
 秋から始まる欧州モーターサイクルショーシーズン開幕前に、新型水平対向エンジンを搭載するR1250GSとR1250RTを発表したBMW。そのエンジンは、吸気バルブの開閉タイミングを変化させることで力強い低中回転域と、伸びの良い高回転域という異なるエンジン特性を両立させる、BMW独自の可変カムシャフト制御システム“BMW Shiftcam(シフトカム)”を搭載していました。そしてEICMAでは、そのエンジンを既存“R”シリーズに搭載。「R1250R」「R1250RS」「R1250GS Adventure」を発表しました。
 
 そしてスーパースポーツモデルである「S1000RR」もフルモデルチェンジ。驚いたことに、BMW独自の可変カムシャフト制御システム“BMW Shiftcam(シフトカム)”を搭載していました。このShiftcamは吸気側の1本のカムシャフトに、高回転型用のハイカムと低中回転用のローカムの2つのカム山を持っていて、ライダーのアクセル操作も考慮しながら設定したエンジン回転数でカム山が切り替わるという仕組みです。2気筒のR系エンジンは5000回転で、4気筒のS系エンジンは9000回転で2つのカム山を切り替えると発表されました。
 
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鋭利な刃物のような、前モデルのシャープなスタイリングから一転、シャチの鼻先のような丸みを帯びたアッパーカウルのラインを採用。しかし複数のカウル表皮が重なり合うようなデザインで、しかもブラックアウトしたカウルを散りばめることで、塗装カウル面積を狭め、車体そのものを小さく見せるテクニックが使われています。


 
 このBMW Shiftcam、2020年から施行される排出ガス規制、ユーロ5に対するBMWの技術的な回答なのです。前回のEICMAで発表され国内でも導入がスタートした、並列2気筒エンジンを抱く新型Fシリーズのエンジンが、等間隔爆発の360度クランクから不等間隔爆発の270度クランクへと変更になりました。これも排出ガスを減らしながらも、エンジンのキャラクターを際立たせるためのひとつの決断であると考えていました。そのとき、RシリーズもSシリーズもフルモデルチェンジの噂が出ており、新型エンジンが出てくるならどのような方法でキャラクターを際立たせてくるのか、さまざまな噂が流れていました。それこそ、RもSも、不等間隔爆発エンジンを出すんじゃないか、と。しかし、その答えは可変カムシャフト制御でした。国産4気筒勢のスーパースポーツとガチンコ勝負するSシリーズは不等間隔爆発を採用すべきじゃなかったかとジャーナリスト仲間と議論にもなりましたが、他メーカーとの差別化とコストの面で、それを採用しなかったのではないかという結論というか、その意見に納得したのでした。
 
 いずれにしても、その乗り味や市場での評価、そしてSシリーズはスーパーバイク世界選手権でどういったパフォーマンスを見せるか、楽しみです。
 
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日本でも発売が開始されたC400Xのプラットフォームをベースに、よりプロテクション効果が高く、ラグジュアリーなディテールを持つ外装類を装備した「C400GT」。


 
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前回のEICMAで発表した新型Fシリーズ。今回は「F850GS アドベンチャー」を追加ラインナップしました。


 

■ドゥカティ

 
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 今年はミラノでの滞在を延ばし、来場者が多い土曜日も会場に行くことにしました。理由は簡単。会場の、というか欧州のバイクシーンの熱気を感じたかったから。で、土曜日の会場はとにかくスゴかったです。それを端的に表現していたのが、ドゥカティ・ブース。この写真は正午頃。2階にある打ち合わせ&来賓スペースに撮影のために入れて欲しいと事前にお願いをしていたのです。そこで撮影した写真は、もうバイクがどこにあるか分かりません。
 
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メインステージ、跨がり可能な平置きスペースに展示された「パニガーレV4R」は、近づくのも大変なほどの人だかり。MotoGPマシンやスーパーバイク世界選手権に参戦するレーシングマシン展示エリアには、テスト段階で使用した「パニガーレV4R」レーサーも展示。おそらく初期段階のテスト車両であったことは間違いないのですが、それを展示し“戦う姿”をあえて見せるアタリ、さすがといった感じ。もちろん何の苦労もなく勝てました的なクールな方法もあったと思いますが……個人的には“胸アツ”な方が好きです。


 
 一番人気は、やはり「パニガーレV4R」。ウイングも賛否両論あるようで、ウイングに触れたり覗き込んだりしながら、数人がいつまでも車両の前で議論→人だかりが途切れない、という流れのようです。次に人気だったのは、DVTエンジンを搭載した「ディアベル1260」と、Sシリーズにスカイフックサスペンションを採用するなど電子制御システムを充実させた新しい「ムルティストラーダ950」シリーズでしょうか。いずれも人気シリーズのバージョンアップという感じですが、沢山のファンが付いているモデルをしっかりケアしていこうというドゥカティの姿勢が反映されています。
 
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スポーツクルーザー的な立ち位置のディアベルは、DVT1260エンジンを搭載。デザインも一新して「ディアベル1260」となりました。写真はオーリンズサスペンションなど、豪華な足周りなどを装備した「ディアベル1260S」。


 
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世界でもっとも売れているムルティストラーダである「950」は、スポークホイールも選択可能に。またスカイフックサスペンションなど電子制技術を装備した「950S」もラインナップ。


 
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ハイパーモタード950もモデルチェンジ。新しいピストンやカム、スロットルボディを採用し、パフォーマンスを向上。ボディデザインも一新し、2本出しセンターアップマフラーも復活しています。


 
 電動アシスト自転車メーカーとコラボして発表した「MIG−RR」。今回のEICMAは、欧州ではe-Bikeと呼ばれることが多い電動アシスト自転車を積極的に誘致していたのですが、ドゥカティからもe-Bikeが発表されたのは意外でした。イタリアだけでも年間15万台ほどのe-Bike市場があるとのこと。それが理由なのか、今回のEICMAではドゥカティのほかにもe-Bikeを展示、発表した二輪メーカーも複数ありました。さらに1月にアメリカ・ラスベガスで開催された電子機器の見本市、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)においてハーレーダビッドソンが、コンセプトながらe-Bikeを発表。バイク業界で急激にe-Bikeの注目度が高まっているようです。
 
 欧米のメディア関係者と話したとき、e-Bikeの話になりました。そこでの話題はじつに面白かったです。欧米ではセグウェイや電動スケートボードなど、新タイプのEVコミューターが普及しているとのこと。e-Bikeは、その新しいコミューター・カテゴリーにあり、その操作方法からEVモーターサイクルさらにはエンジン付きモーターサイクルへの新規需要さらには新規ユーザーを発掘するツールになる、というのです。なるほどぉー。
 
 こういった話を聞けるのも、EICMAの楽しさでもあるのです。
 
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MTBを中心としたイタリアのe-Bikeメーカー「Theoks Ebikes」との共同開発。SHIMANO製電動アシストユニットを装備。フレーム、ダウンチューブが脱着式のバッテリーになっています。


 

■モトグッツィ

 
 想像以上に「MotoGuzzi V85TT」の人気が高かったことが印象的でした。今回のEICMAでは、各メーカーからアンダー1000ccの、アドベンチャーモデルの新規車両が多数発表されました。ヤマハ・テネレ700やKTM790アドベンチャー、BMW F850GSアドベンチャー、ドゥカティ・ムルティストラーダ950Sなどです。これくらい出揃うと、ダカールが1000cc以下のツインエンジン車両で開催されるなんて言う噂も実現しちゃうんじゃないの、ってくらいです。
 
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モトグッツィはこれまでも、V65TT、NTX750/650/350、クオータ1000、ステルビオ1200など縦置きVツインエンジンを抱くオフロードモデルを発表してきました。でも「MotoGuzzi V85TT」は、それとは違う印象でした。


 
「MotoGuzzi V85TT」は、どちらかというと「トライアンフ・スクランブラー1200」とともに新しいカテゴリーを造り上げた感じ。これまで“ネオクラシック”などと呼ばれて来た、伝統的なエンジン形式とオーセンティックなボディデザインを持った車両は、徐々に電子制御技術を採用し“テクノロジー”推しの価値観を強めてきた印象でした。そのテクノロジーと親和性が高いアドベンチャーモデルが、あらたにネオクラシックに加わった、という印象です。こうなることで、ビッグアドベンチャーからのダウンサイジング組、中型排気量または“ネオクラシック”によって獲得した新規顧客からのステップアップ組、スーパースポーツやネイキッドからの卒業組など、幅広いユーザーを取り込むことができると感じました。
 
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V7Ⅲベースのこのレーシングマシンを製作したのは、元ドゥカティのテストライダーで、元ドゥカティMotoGPチームのマネージャーを務め、バレンティーノ・ロッシのレーシングチーム“VR46チーム”の初代チームマネージャーを務めた、ヴィットリアーノ・グアレスキーのMotoGuzziスペシャルショップ「Gareschi Moto」が製作したもの。車両が展示している台に“2019年春から始まる!”との文字があったので、何が始まるのと聞くと「詳しくは言えないけど、何かが始まるから楽しみにしてて。あ、でも遅れちゃうかも」とスタッフが教えてくれました。


 

■KTM

 
 前回のEICMAで、ティザー的にコンセプトモデルを発表した「790アドベンチャー」。そのときの予告通り、今回はその市販バージョンを発表しました。これでKTMは、欧州で大きな市場となっているアンダー1000ccのミドルカテゴリーに、新開発の並列2気筒エンジンを搭載したロードスター、790デュークと、アドベンチャーモデル、790アドベンチャーを揃えました。
 このアンダー1000ccのミドルカテゴリーは各メーカーがニューモデルを投入したり、既存モデルをアップデートしたりと、なにかと話題が絶えません。もちろんその理由は、販売台数が見込める、商売的に重要なカテゴリーだからです。しかし圧倒的な存在感とテクノロジーを持つスーパースポーツやハイエンド・アドベンチャーモデルと違い、お手頃なサイズ感とお求めやすい価格も重要なポイント。フレーム型式やエンジン形式など、各メーカーのアイコンとなるディテールを変更してでも、価格とパフォーマンスの新しいバランスを追求している非常に面白いカテゴリーなのです。
 
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790アドベンチャーR。フロント21インチ、リア18インチホイールを装備。フロントフェンダーもアップタイプになっています。φ48mmの倒立フォークを装備し、前後のサスペンショントラベルは240mm。


 
 そこにKTMは、BMWのFシリーズと同じ手法で、オンロードとオフロードの両方に均等に重心を掛けた“アドベンチャー”と、がっつりオフロードに重心を掛けた“アドベンチャーR”をラインナップしてきました。各メーカーとのアンダー1000アドベンチャー対決も、大いに気になります。
 
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こちらは790アドベンチャー。前後ホイールサイズはRと変わらず、フロント21インチ、リア18インチ。フロントフェンダーがダウンタイプとなり、φ43mmの倒立フォークを装備し、前後のサスペンショントラベルは200mm。


 

■MV アグスタ

 
 MVアグスタは、いつもEICMAで特別な存在です。ブースデザインは毎年代わり映えしないのに、だからこそ展示される車両が際立っているのです。そして過剰な演出をしないのに、ピンと張った緊張感というか独特の雰囲気に吸い込まれていくように、ブース内はいつも人で溢れているのです。
 
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 また今年は、毎年モトチクリスモ誌が開催している“もっとも美しいバイクコンテスト(Most beautiful motorcycle of the show)”を「ブルターレ1000セリエ・オロ」が獲得。すべてが新しくなったセリエ・オロは、スーパーバイク世界選手権を戦うMVアグスタのファクトリーマシン“F4 RC Superbike”の開発で得た最新のテクノロジーを搭載していながら、スタイルはエレガント。ピンピンにエッジが効いているのに、それがアニメのキャラクターのようになることなく、エレガントでスタイリッシュに仕上げられているのです。
 
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圧倒的な存在感の「スーパーベローチェ800」。個人的には、この車両が“もっとも美しいバイクコンテスト”を受賞しても良いのでは、と思いました。


 
「スーパーベローチェ800」については、もう何も言うことはありません。抜群の格好良さ。クラシックなのにモダン。でもネオクラシックというトレンドには収まりきっていません。ベースマシンはF3 800なのですが、見事なまでにトランスフォームしています。個人的にはF3 675が良かったです。コンパクトでスポーティ。ポップなのにシックなボディカラーも最高でした。
 
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ドラッグスター800RR AMERICAは、1970年代に発売された750S AMERICAがモチーフ。ライトブルーの爽やかな車体がF3 675。


 



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