2019年9月20日

BMW R1250 GS試乗 速い速いと言われたニューGSが、優しくなっている 『歩み寄りを見せる高性能』

■文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:BMW Japan – Motorrad http://www.bmw-motorrad.jp/

 
2013年に縦方向の吸排気機構を採用し水冷エンジンになったGS。それからすでにかなりの時が経ったが、あのニューユニットが今回のモデルチェンジで完成した、と感じられる試乗だった。

 
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進化は必要なのか。進化は可能なのか。

 BMWのGSと言えばすでに長い歴史を持っており、着実に積み上げてきた実績と各年代のモデルがそれぞれ確かに備える実力によって押しも押されぬアドベンチャーカテゴリーのキングとして君臨するのは周知の事実。ライバルの台頭も確かにあるが、すでに完成の域にあるこのGSが大きな進化をする必要があるのか? という疑問をよそに、2013年には水冷化という大きな進化を果たした。
 加えてこれまで車体横に飛び出しているシリンダーの後方から吸気、前方から排気していたエンジンを、上方からの吸気、下方への排気へと改めただけでなく、これまで単板だったクラッチも多板に変更。フラットツインという伝統を守りつつも、まるで違う、最新の進化を確かに果たしたのだった。フラットツインという形式を突き詰めているのがBMWだけであるがゆえ、ライバルの動向を見て進化を探るといったこともできず、孤高の存在としてさらに突き詰めたのだから恐れ入る。先代モデルの時点で十分だったものに対して、新たな提案をしたわけだ。
 

 
変わったばかりは荒削り

 世界が驚いた次世代フラットツインエンジンだったが、一方で「先代の方がGSっぽかった」だとか「新型はまだ煮詰めが足りない」という言葉もなくはなかった。新型が出れば実情とは関係なく、ライダーの心理としてもそういった発言は出てくるのだろうが、試乗した際に筆者もそれは少し感じた部分だ。というのも先代のモデルとかなり違った味付けだったからだ。
 低回転域からどこまでもまろやかかつ確実にフラットなトルクを提供し続ける印象があったものが、途端に今のスーパースポーツのように軽やかにフケるようになってしまい、重厚さが失われているのではないか、と感じた部分があったのだった。
 発表当時のジャーナリストや業界関係者は口をそろえて「速い」と言っていた。確かに今までのGSがもっていなかった「速さ」があったのだが、それを歓迎しているグループと、GSというモデルの方向性の転換を疑問に思っているグループがいたように思う。
 後によりオフロード色の強いモデルにはより重いクランクが与えられ、それが評判だったようでスタンダードモデルにもそのクランクが採用された。そんな経緯を考えるとやはりあの初期型はちょっと極端なところもあったのだろう。
 
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長距離ランも不整地も含めたあらゆるシチュエーションをこなす万能ライディングポジションは非常にナチュラル。シートも意外と低く足つきは巨体から想像するほど厳しくはない(ライダー身長185cm)。


 

 
シフトカム採用で完成形に

 徐々に熟成が進んできていたこのエンジンだが、今回のシフトカムの採用でとうとう完成の域に達したと感じる。というのも、より質量のあるクランクを採用したと同時に様々なセッティングも変更してきたかとは思うが、やはりこのエンジンはヒュッとフケる、割とアグレッシブな特性であることには変わりはなかった。回転上昇にあまりにフリクション感がなく、それはフリクションがなくて「良い」ことばかりではなく、特に不整地を走るには手ごたえが欠如している感覚があったのだった。右手の開度に対して、エンジン側が過剰に反応してしまうというか、ちょっと先走り感があったというか……。
 ところが今回のシフトカム採用によって、かつての空冷時代のGSのような、ライダーの意図に忠実なトルクの出かたになったように思うのだ。それはアクセルがロースロ(ハイスロの逆)になったような、もしくはファイナルをロングにしたような、いずれもノンビリ方向への変更のような感覚。しかしこの変更がバイクとの一体感を高めてくれていると感じられる。特に極低速域においては明らかに扱いやすく、Uターンなどは今までより楽にできるしオフロードにおいてもより自信をもって扱えることだろう。右手と後輪への駆動力のリンクが増したのだ。
 かといって高回転域がダルになったかと言えばそうではない。回していくと包まれるようなトルクはそのままに、確実に車体を押し出しながらそのままパワーバンドへ突入、あっという間に超高速域へと連れて行ってくれてしまう。その速さは尋常ではないものの、その加速感も以前のモデルに比べるとライダーと一体となったものに感じる。全てにおいて先走り感のようなものがなくなり一体感が高まったのだ。ちなみに低速側カムと高速側カムの切り替えは5000RPMで行われるというが、少なくとも筆者にはその切り替えは感じ取ることができなかった。最新技術が確かに盛り込まれているが、それを感じさせずにライダーをサポートしてくれるパッケージに仕上げていると感じる。
 

 
キングはやっぱりキング

 平気で何万キロもの旅をこなすバイクを捕まえ、ちょっと乗ったぐらいで多くを語るのは失礼だろう。エンジンの進化は今書いた通り、よりライダーに歩み寄った高性能に感じたが、車体については語るほどの大きな変化は感じられなかった。巨体のわりには重心が低く自信をもって扱いやすいこと、ハンドル切れ角が大きく小回りも意外と得意なことなどが印象的だったがそれは先代も同様。エンジンの低回転域が扱いやすくなったため取り回しはさらに良くなった印象はある。またメーターパネルが、使用しているモードによって表示方法が変わるなど、そういったイメージ作りは国産車の先を行っていると思わされた部分。
 長らくアドベンチャーカテゴリーの頂点に位置したGSは、この新しい水冷エンジンも完成の域へと導き、またひとつの頂に立ったのではないかと思う。
 
(試乗・文:ノア セレン)
 

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巨体でも十分なハンドル切れ角と扱いやすいポジション、低重心設計に加え今回のエンジン特性の変更により、極低速域の扱いやすさは極上。Uターンも苦にしない。


 
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上方吸気下方排気の新水冷エンジンをベースにシフトカムを採用。吸気側カムシャフトのカムタイミング及びリフト量を変化させるこの機構は、同軸上に配置される二種類のカム山を左右にシフトさせて使うもの。低回転域・アクセル小開度域においてはリフト量の少ないカムを使い、高回転域・アクセル大開度域ではリフト量を増やすカムへとスライドするという仕組みだ。これにより燃焼効率も向上させているという。


 
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電子制御サスはもはやこのクラスでは当たり前だが、1250では最新世代のダイナミックESAを採用。路面状況やライダーの入力に対して、リアルタイムで瞬時にプリロードやダンピングを調整する。


 
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純正アクセサリーの豊富さもBMWの魅力。長距離走行をサポートしてくれる。写真は左右アルミウムケースセット(34万7371円)。他にもトップケースやブラックに塗装されたものなどを用意するほか、様々なメーカーオプション/ディーラーオプションパーツが用意される。


 
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19インチのホイールは不変。ブレーキにはDBC(ダイナミックブレーキコントロール)機構がついており、急ブレーキ時にはエンジン側にも制御が入って制動力、制動時の姿勢保持を高めてくれるそう。現車のタイヤはミシュランアナキー3。


 
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メーターというよりはもはやディスプレイだろう。各項目の表示方法が使っているモードなどによって変化し、ノンビリモードでは優しい表示に、スポーティなモードではアクティブな表示になって視覚的にも楽しませてくれる。ナビはオプションだ。


 
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