TRIUMPH STREET TRIPLE 765

 
近年は排出ガスや騒音など様々な規制があると共に、ABSの義務化はもちろんのこと各種電子制御も搭載していなければライバルにおいていかれるなど、頭一つ飛び抜けたような新型車を作るのは大変なことだと思う。そんな中でこのストリートトリプル765は、完全に抜け出ている。Moto2にも使われているエンジン、最高の足周り。現代バイクの指標となるバイクだろう。

■文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:Triumph Motorcycles Japan https://www.triumphmotorcycles.jp/

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「パーフェクト」の他に言葉がない

 たとえ自分ではたいしたバイクを所有していなくても、常に最新モデルに乗る機会があり新車に対する感覚をアップデートしている我々二輪ジャーナリストたちは、やっぱりへんに舌が肥えているというか、凄く良いバイクでも「でもここはもうちょっと何とかなったんじゃないか」なんて重箱の隅を楊枝でほじくるようなことをついしてしまいがちだ。ところがこのストリートトリプル765については、ほじってもほじっても、もうそこにご飯粒はどうしても出てこない。なんて素晴らしいバイクなのだろう!
 確かに試乗コースも試乗時間も限られてはいるため、数日間乗ったらまた印象も変わってしまうかもしれない。しかしファーストコンタクトでこれだけ印象が良く、ジャーナリストの厳しい(というかイヤラシイとさえ言えるような)ツッコミが一つも出てこなかったバイクは本当に珍しい。全ての項目において満点をつけたいと思ったバイクはここ数年思い当たらず、本当に素直に「パーフェクトだな!」と思わせられた。

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先代を越えたという偉業

 ストリートトリプルは2007年に登場した675が初代で、登場と共に世界中で大ヒットとなったストリートネイキッド。ハイパワーでありながら実用領域でも使いやすく、かつ適度なエキサイティングさも併せ持ち、これまで5万台以上も売ってきたとされている。非常に評価の高いモデルで筆者も大好きなバイクである。その後600cc近辺の排気量をもつミドルクラス車種はたくさん登場したが、総合性能においてストリートトリプルを越えていくのはなかなか難しいという状況だった。
 ところがこの765(数字が変わらず配列だけ変わったためわかりにくいが、新型は排気量が増えており、ナナハンクラスと呼んでいいだろう。旧型はロクナナゴ、新型はナナロクゴである)は完全にあれだけの支持を集めた先代を乗り越えてきたと感じる。トルクフルでありながら高回転域も元気なエンジンはミッションタッチなども緻密な上、何よりアクセルのコントロールがしやすく扱いやすい。車体も荒れた路面をものともしない許容力を持っていて、本当にあらゆる場面で自由自在、うまくなった気にさせられる。それでいて急かされるようなこともなく、ポジションにも無理がない。
 先代の良いところをすべて引き継ぎ、それぞれの良いところを更に高めているという印象で、ストリートトリプルを凌駕するのはまたストリートトリプルだったか! という想いだ。

 
スムーズでシルキーなパワー

 何よりもエンジンこそがこのバイクの核だろう。765cc・123馬力という並列3気筒ユニットはパワフルでありながらとにかく扱いやすい。ライドバイワイヤー電子制御スロットルを採用するのだが、開け始めが非常にジェントルでいわゆる「ドン付き」的な症状は全く皆無。国産車でもこの開け始め領域の作り込みが上手にできているモデルは少ない上、「ライダーの意思以上に飛び出すぐらいのパワー特性の方がエキサイティングだ」などと(信じられないことに)公言するところもあるのだが、このストリートトリプルのウルトラスムーズなパワーデリバリーを知ってしまうと、そんな発言は言い訳にしか聞こえない。これだけハイスペックでありながら、乗り出した瞬間に一体感が得られるスロットルフィールは、各社の技術の頂点であるスーパースポーツモデルを含めても現在ナンバーワンではないかと思う。
 開けやすさに加えて、一度パワーをかけ始めると3気筒らしく直線的にパワフルに高回転域までフケていく。ツインのような実用性と、4気筒のような高回転域の中間、などと安易に表現されることもある3気筒だが、まさにそのような感じなのだからしょうがない。流すような速度では同排気量帯の4気筒よりも実用的なトルクを発生し、高回転域に繋がっていくところでは二次曲線的ではないのにトルクの粒が整い、調律され、気持ち良くパワーバンドへとつなげてくれるのだ。この時に、ものすごく速いのだが、恐ろしいパワーと戦うような感じはない。あくまでその高性能を楽しめる気持ちで付き合えるのは、どの領域でも予想外のことが起きず、素直な性格だからだろう。もちろんトライアンフも苦労して得たこのフィーリングなのだろうが、イメージとしてはとにかくどこまでも素直に作り込んだ結果、フィーリングも素直なものになったのじゃないかというイメージだ。逆にライバル車は意図的にキャラクター付けをしているような、作為的な味付けを感じてしまうほど、ストリートトリプルはまっすぐな性格に感じる。
 加えて、ミッションはとても正確でカチ・カチと確実なシフトが可能だし、クラッチもとても軽く操作がしやすい。エンジンから必要とする駆動力を適量取り出し、それを後輪に伝える過程に一切のストレスが無く自由自在なのだ。冒頭に戻ってしまうが、まさにパーフェクト。こんな気持ちの良い体験はなかなかない。

 
無理のない車体設計

 これだけ使いやすく、かつ速いエンジンを搭載するフレームは初代から踏襲するアルミのツインスパー形状。エンジンの横ではなく上を通るおかげでスリムな乗車感を実現している。これに高すぎないシート、そしてリラックスしたポジションで握れるハンドルバーを設定しムリなく乗り出せるポジションとしている。
 かつてはデイトナ675というスーパースポーツモデルも展開していたトライアンフだが、そちらはラインナップから外れこちらのネイキッドスタイルが生き残ったのだから、このエンジンの特性を公道でより楽しめるのはこのスタイルという結論だったのだろう。
 スーパースポーツモデルをアップハンに改造すると前輪の接地感が希薄になってしまうこともあるが、そこはさすがメーカーチューンである。当初からアップハン版を作ってきたからノウハウもあるのだろう、ヘッドライトがフレームマウントということも手伝ってかフロント荷重が足りないと感じることもなく、とてもスポーティな走りが可能だ。
 特に今回の試乗コースは広大な駐車場がメインで、場所によっては路面がうねっていたり砂が浮いていたりもしたのだが、ストリートトリプルはそんなシチュエーションをものともせず、上質なサスペンションと常に冷静でいられるライディングポジションのおかげでいかなる場面でもハイペースを維持することができた。

 
買ってしまえ!

 カラーTFT液晶のメーターや各種のライディングモードも備え、完全に最新のバイクにアップグレードされているストリートトリプル。しかし本質はあの魅力的だった初代からあまり変わっておらず、ただ全てが「より良く」なっているだけだ。たった一つだけ疑問を呈するならば、バーエンドミラーだろう。日本国内の、特にストリートでは邪魔になること間違いないため、それだけは普通のミラー位置に改めたいが、それを除けば本当に誰にでも、どんなシチュエーションにでも自信をもってお薦めできるモデルと言える。これはもう、買ってしまった方が良い!!
 
(試乗・文:ノア セレン)
 

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とてもナチュラルなライディングポジションで、これならば日常使いも細かなワインディングも幅広くこなすだろう。フレームマウントのライトには小さなカウルもついており、高速道路ではいくらか風を切ってくれそうだ。ライダー身長は185cmと大柄だが、それを差し引いてもコンパクトなバイクで、スリムな車体のおかげもあって足着きは良いイメージだ。 RSグレードにはオーリンズのリアサスが標準装備される。新型では強化された新作スイングアームを採用すると共に、ピボット位置も見直されている。試乗できた現車にはARROWのマフラーが装着され、独特の3気筒サウンドがさらに強調されていた。
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排気量とパワーが増大したものの、675の扱いやすさや懐の深さはしっかりと継承したエンジン。スリッパ―クラッチの採用でクラッチ操作がとても軽くなっており、日常ユースでもストレスは少ない。 最近の外国車のメーターはカラー液晶を存分に活用していて国産車よりも楽しいものが多い。ストリートトリプルも然りで、例えばライディングモードの表示がSやTやRではなく、イラスト表示であったりする。なお暗くなると自動的に液晶が反転し、常に見やすくなるよう配慮もされている。
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ショーワ製BPFを採用。ブレーキはブレンボのモノブロック、タイヤは純正でピレリのディアブロスーパーコルサSPといずれも最高級品を奢る。クイックでいて神経質ではないそのハンドリングは絶妙だ。 初期型では大きな丸ライトが2連装されていたが、その後異形2眼になり、この型ではさらに特徴的な形へと進化。軽く自由自在のハンドリングはこのライトがフレームマウントされているおかげもあるだろう。


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