かつてミスター・バイクの誌上を彩った数々のグラビアたち。
あるときは驚きを、またあるときは笑いを、そしてまたあるときは怒りさえも呼び込んだ、それらの舞台裏ではなにがあったのか?
1980年代中盤から1990年代に、メインカメラとして奮闘した謎の写真技師こと、エトさんこと、衛藤達也氏が明かす、撮影にまつわる、今だから話せる(んじゃないかと思うけど、ホントはまずいのかも)あんな話、こんな話。聞きたくないですか。
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まだまだエピソードは尽きませんが(第22回の注4参照)、前置きが長くなりすぎました。これからが本題です。
「エトー、今月のお仕事なんだけどさー」いつものようにI井さんからお電話がありました。
「バイクと自動車の事故写真撮りたいわけ。いいアイデアない?」
「どういうことですか?」
「事故になるまでの連続分解写真【※注1】をな、撮りたいわけ」
「実際にぶつけるんですか?」
「んなわけねえだろ。そんなことしたらバイクと車何台あっても足りないわけ。だから、コマごとに止めて撮影するしかないわけ」(これは「やらせ」とは異なります。もっとも当時第25話で書いたように、やらせって何? のおおらかな時代でしたが)
「ぶつかった時に人がどうなるかも再現するんですか?」
「そーゆーわけ。誰かスタントマン知らない?」
「ひかるでいいんじゃないんですか。確か、バイトでスタントマンしてるって言ってましたよ」
「あ〜そう。じゃ車とバイク手配しとくわけ」
※注1)この1年後にHONDAからダートトラッカーFTR250が発表されました。I井さんは後輪を滑らしながらコーナーを駆け抜けていくパラパラ漫画的な写真が欲しいと言い出しました。そこでCanonさんを泣き落としてお借りしたNewF-1ハイスピードモータードライブカメラ (1984年130万円で限定発売された超高級機。Canonカメラミュージアムで探してみてください。なんじゃこりゃ! と驚くはずです)を持って 浦安のデ○ズニーランド裏の空き地で行われた試乗会で撮影しました。最速秒間14コマ撮影出来るので、36枚撮りフィルムが3秒弱で終わってしまうほど超高速機でした(M10と比べるとどっちが速いんだろう? 現在の1DXと同じ性能が当時の技術であったことがすばらしいと思いませんか)。デモンストレーションは数周しかしないので撮ったらすぐフィルム交換をして次に備えるという慌てまくって口から泡を吹きそうな状態(Oさんみたいに)でしたが、おかげで要求どおりの写真が撮れました。が、手持ち撮影だったし(あのバケモノみたいなカメラをですよ)、走行ラインが毎回異なったので、後でコマを合わせるのが大変だったとI井さんにぼやかれた記憶があります。
とんトン屯豚と話が決まり撮影当日。朝から少し曇り空。午後から雨が降りそうでした。
「おはようございま〜〜〜す。いや〜〜〜困ったなぁ〜〜まいったな〜ぁ。雨降りそうですね。今日は、何するんですか〜?」スタントマンもどきをやる(やらされる)というのに、聞いてないしニコニコ顔で登場です。かくかくしかじかなわけ、とI井さんがおおざっぱに説明した後も「いや〜〜〜楽しそうだな〜〜」と、前にも増してニコニコです。
さすがにみなさんも感じたのではないかと思います。ひょっとして伊勢ひかるくんは、バカではないのか? と。
そうかもしれません。そうだとしても並のバカではないことは確かです(並のバカでもケタはずれのバカでもない、優秀な人間だと後日証明されてしまいました。話としては全く面白くないので書きませんけど)。
どんな段取りで撮影したのかはっきり覚えていないのですが、「2 タクシーのいきなりの幅寄せでシュワッチ!」あたりから始めたと思います。一発目なので加減がわからず、バイクをちょこっと植え込みに倒すくらいでした。でも、これでは当時の流行言葉で言えば「絵にならない」(ケンオウの嫌いな言葉です)のです。
「伊勢ーっ! もっと派手にやってくれないと困るわけ。これじゃ読者になーんも伝わらないわけ」I井さんが怒鳴りました。
「ほんとに走って飛び込んじゃってもいいんですか〜〜〜? やりますよ〜〜」と、ニコニコで飛びまくった結果がこれです。
「1 出会いがしらでボヨン」
見事に飛んでいます。もちろん実際にぶつけている訳ではなく、車とバイクをセッティングした後、ひかるが5メーターほど後ろから走ってきてジャンプします。反対側にマットなんて置いていませんが、うまく着地しています。気合いはいりまくりです。ちなみにこの初期型CITYは借り物です【※2】。
※注2)習志野ナンバーのCITYは、まさかこんなことに使われているとは知らない近藤編集長の愛車。屋根、フロントガラス、ドア、ボンネットなど至るところに結構擦り傷が出来たはずです。校正紙(印刷前の最後のチェックをする)を見たとたん愛車CITYよりも真っ赤な顔をして「頼むよIしいー! 大事な愛車なんだからさー。やるんなら最初に言ってくれよ……美千代(愛妻・第23回の注4参照)が見たら怒るだろうなぁ、参ったな……」とひかるの「まいった」とは真逆の顔で言ったとか言わなかったとか。ちなみにもう一台の品川ナンバーのCITYは社用車で、タクシーに化けたルーチェかコスモはちえこさん(第13話写真のキャプション参照)の愛車だったかな?
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「4 急ブレーキでチョンワー」
着地点にある植え込みをクッションがわりにして派手に飛んでいます。各撮影とも一発勝負ではなく、何度も飛ばしたはずです。ものすごくがんばってくれました。ここまでくると立派なスタントマンです。素晴らしい。
「5 クルマのかげからクルマがガッツ〜ン」
「6 いきなりドア開けでパッタンチョ」
「7 右折車コワイ〜ッ!」
この3つ、不思議な点が多いと思いませんか。
5は道路の真ん中に堂々と止めて撮影してます。6も広い道路で堂々と転んでいます。後続車が来たら本当の事故になるかもしれないのに、まったく慌てている様子が感じられません。カメラも道路の真ん中近くまで出ているし。7の右直のシーンに至っては交差点のど真ん中に堂々と止めて撮影しています。
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実はここ環状8号線です。カンパチ? そりゃ無謀でしょ! と思われるでしょう。警察に道路封鎖してもらった? 西部警察じゃないんですから絶対に無理です。それにこの頃ミスター・バイクは警察から絶大に嫌われていましたし。
もう時効でしょうからネタをばらします。当時、環八の羽田側はまだ全通しておらず、この先はお寺だかお墓だかが立ち退いておらず行き止まりでした。タクシーかトラックがたまに休憩しに来るくらいの撮影天国無法地帯【※注3】だったのです。右直事故は行き止まりのUターン場所を交差点に見立てたのですが、ここで無謀にもコーナーリング撮影をしてMVX250Fでド派手に転けてスピンした人もいます。その人は知らん顔をして今でもWEBミスター・バイクの編集をやっています。
本当に好き勝手できました(してました)。この11年後の1996年、編集部が6のCITYが止まっている真横に出来たうすっぺらいビル(「ビルは薄いが本の内容は濃い」とその時社長に就任した近藤元編集長がよく言っていました)に引っ越してくるとは、なんの因果でしょう(今はカンパチを突き抜けもっと海側に引っ越しました)。
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※注3)秘密の撮影場所は他にもいくつもあり、代表格が埋め立て地。『お台場でいいんじゃない!』が口癖でした。工事さえしていなかった荒野のような13号地(現在のお台場近辺)。ダイバーシティーなんて影も形もなく、ゴミの埋め立て地として有名だった夢の島のゴミ処理場に渡る陸橋下コーナーは近場のテストコースでしたが、引きがなくて撮影には苦労しました。多摩川の土手も常連で、毎月置き撮りをしていました。
最後にタイトルについて。普通、タイトルを考えるのは編集者の重要な仕事なのですが、撮影が終わって上がりをチェックしに行くとI井さんが言いました。
「エトーさぁ、タイトルなんだけどさ。考えて欲しいわけ」と。突然だったので「ガ○ダムかなんかで、『なんとか行きます!』って台詞あったじゃないですか。『一番、ひかる飛びます』はどうですか」と適当なことを言ったら、ひかるが伊勢に変わっただけで採用されてしまいましたとさ。
ではまた。
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なんとこの号では名物コラム「男のジャーナル」まで書いていました。基本は2スト賛歌なのですが、これじゃ伊勢のことを笑えないよという、エトさん大丈夫?! 的エピソードも……エトタツマニアには見逃せない一冊です。
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衛藤達也
1959年大分県生まれ。大分県立上野ヶ丘高校卒業後、上京し日本大学芸術学部写真学科卒業。編集プロダクションの石井事務所に就職し、かけだしカメラマン生活がスタート。主に平凡パンチの2輪記事を撮影。写真修行のため株式会社フォトマスで (コマーシャル専門スタジオ)アシスタントに転職。フリーになり東京エディターズの撮影をメインとしながらコマーシャル撮影を少しずつはじめる(読者の方が知っているコマーシャルはKADOYAさんで佐藤信哉氏が制作されたバトルスーツカタログやゴッドスピードジャケットの雑誌広告です)。16年前に大分県に戻り地味にコマーシャル撮影をメインに活動中。小学校の放送部1年先輩は宮崎美子さんです。全く関係ないですが。
- ●衛藤写真事務所
- 「ぐるフォト」のサイトを立ち上げました。グーグルマップのストリートヴューをもっと美しく撮影したものがぐるフォトです。これは見た目、普通のパノラマですが前後左右上下をまるでその場に立って いる様に周りをぐるっと見れるバーチャルリアリティ写真です。ぜひ一度ご覧下さい!
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- ●メール tatsuyaetoh@gmail.com
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