ジャパン・マスターズ・オブ・モトクロス「走り続けよう語り伝えよう」

 かつて宿命のライバルも、今は笑顔の再会、まるで懐かしい同窓会。
 「あれから30年、いやいや、あれから40年!?」 
 時を経ても、年を重ねても、今なおモトクロスを愛し、颯爽と駆け抜ける姿。歴史と伝説を語り継ぐ姿。
 日本モトクロスレジェンドの祭典『ジャパン・マスターズ・オブ・モトクロス』が、今年もウィークエンドレーサーズ最終戦に併催された。


 ●文・写真:高橋絵里

 ■イベント名:2015 第14回 ジャパン・マスターズ・オブ・モトクロス
 ■開催日:2015年12月13日 ■会場:埼玉県 ウェストポイント オフロードヴィレッジ
 ■主催:ビッグクルー (ウィークエンドレーサーズ(WER)シリーズ最終戦に併催)
 ■運営:ジャパンマスターズofMX実行委員会 ■協力:ビッグクルー
 ■協賛:スージー・ディジッツ

 40歳以上の元チャンピオン、元セニアとIA、元エキスパートジュニアとIB、そして現役IAおよびIB。さらには日本モトクロス界に多大な功績を記すライダー。これがジャパン・マスターズ・オブ・モトクロスの顔ぶれだ。
 最大30台によるショータイム、2ヒートレース形式。昼休みには全員がステージに上がり『マスターズみんなでトーク』、モトクロスの今昔話を披露する。「たまにみんなで集まり、走ったり語り合って楽しもう」といった“レジェンド同窓忘年会“ともいえる。
 何より、若い頃のように激しく全開していては危ないので、ジャパンマスターズでは「安全第一、健康第一!」がスローガンだ。しかしながら、それなのに、レースとなれば特に同年代同士のタタカイが熱い。心の中で密かに「アイツには負けたくないのだ!」などと未だライバル心を燃やしているライダーが、どうしてもいる。やはりちょっと危ない、でも譲れない、アブナイ! アツイ! といった見せ場も作ってくれて、観戦も思わずコーフン。ことさら70~90年代ファンには堪えられない懐かしい顔ぶれだし、現役当時はピットで怖い顔でピリピリしていたライダーたちも、50歳、60歳を越えた今は皆とてもフレンドリーなおじさんになって笑顔のファン交流だ。


中尾てっぺー省吾氏

伊田カミカゼ井佐夫
「たまにはレジェンドで集まって一緒に走ろう、楽しもう」 ジャパンマスターズの発案は86年全日本チャンピオンの伊田カミカゼ井佐夫氏59歳。毎年5月の参加型イベント『ジャパンVET』の発案もこの人。中高年モトクロスの活性化を牽引する。  第1回からのMCは中尾てっぺー省吾氏。70年代からモトクロスを見てきたてっぺーさんならではの、当時の実話および今だから言える暴露話いっぱいの進行が好評。MCを終え夜はワイルドワンズ50周年コンサート撮影に飛んでいった売れっ子57歳。

 ジャパンマスターズofMXが誕生したのは、2000年のことだ。企画発案は伊田井佐夫氏。レジェンドライダー増田耕二氏を代表とする実行委員会は当時、往年のライダー達がモトクロスを長く楽しみ、同時にファン交流の場としてのエキシビションレースを企画、スポーツランドSUGOの協力を得て、MFJ全日本モトクロス選手権 SUGO大会で初併催された。
 2007年の第8回開催までは全日本SUGOに併催され、ファンからの支持も大きく観客動員にも一役買ったが、諸事情により全日本での併催が終了、その後の2年間は、併催可能なイベントに巡り合わないままに過ぎた。
 そして2010年の春、復活を誘致してくれたのが、モトロマンの佐藤健二氏だった。「ウチ(イベント部門ビッグクルー)のWERに、ぜひマスターズを併催してください。マスターズがこのままなくなっちゃうのは寂しいよ。」 実行委員長を伊田井佐夫氏が引き継ぎ、以来、毎年12月のWER最終戦に恒例の併催イベントとなっている。



午後のヒート2
雨のつるつるマディとなった午後のヒート2、しかし「出遅れると不利」などと現役時代と変わらないセリフとともに、第1コーナーへ向けて激しいダッシュの45歳から78歳。
全員揃いのゼッケンはスージー・ディジッツ製、ライダーの名前が入ったオリジナル。

 その佐藤健二氏が今月4日、不慮の事故で亡くなった。あまりに突然の訃報に誰もが言葉を失ったが、この日は昼休みの『マスターズ みんなでステージトーク』の場を借りて、全員が一人ずつ『サトケンさんとの思い出』を発表した。現役時代は最大のライバル同士だったこと、衝撃的だったダブルプロリンクの2気筒マシン開発のこと、さらに近年の三宅島エンデューロで関わりがあったことなど、皆それぞれ明確な追憶があり、ステージ上はしんみりとした雰囲気になったが、最後は「サトケンさんのぶんも我々が元気に走ることで追悼しよう」「心を込めて走ろう」「サトケンさんは今日もきっと見ていてくれる」と、張り切って第2ヒートへ臨んだ。天国のサトケンさんにもレジェンド仲間たちの全開のサウンドがきっと聞こえたはずだ。
 現役ライダーを退いたあと、仕事の多忙に追われて一度は降りてしまったモトクロスを、子育てが終わってから、仕事が一段落してから、再び今度は趣味のモトクロスとして走り始める。ジャパンマスターズofMXは、そのきっかけのひとつにもなっている。年齢相応の走りを楽しみながら、何歳になっても続けることができるモトクロスの魅力を伝え、広めようとしている。安全第一、健康第一。結果や順位はいちおう二の次。中高年のモトクロスはこういう感じが楽しいんだよと、レジェンドたちが走りながら教えてくれる。


岡安孝雄さん

岡安孝雄さん
+60クラス優勝の岡安孝雄さんは、川島雄一郎選手を育てた師匠。今はウィークエンドレーサーズでサンデーレースを楽しんでいる。「今日は孫の誕生日、ジイは昨日プレゼントを買いに行きました♪」

新津栄一さん

新津栄一さん
最高齢78歳、MCFAJ会長の新津栄一さんは2ヒート元気に完走を果たしクラス優勝。「今の目標としては、85歳までは走りたいですね。バイク以外の趣味? のどじまん荒らしです」 得意の民謡を絶唱するのだそうだ 。

古川正昭さん原口衛さん

川島雄一郎さん
佐賀県でモトクロスやFMXイベントなどに力を入れる古川正昭さん(左)62歳、このところ大怪我が続いたが堂々の完全復活。元IAの原口衛さん(右)60歳と昔話全開。 元チャンピオン川島雄一郎さん(中央)45歳がジャパン・マスターズではなんと若く見えること! そしてご覧のとおり応援団もみんな若くて可愛いファミリーでした。

加藤木桂さん

宮本英治さん
加藤木桂さん61歳は現役のIBライダー。「今年は全日本に5戦出場しました」という、子供や孫に近いくらいのライダー達と競うのだからスゴイ。 還暦を迎え「MXライフも一味違うような気が。あまり無理をしなくなったかな?体調も良く、このままだと乗れなくなるまで乗るでしょう!」と愛妻家チャンピオン宮本英治さん。

工藤厚さん

門井文夫さん
SPLマフラーのプレシャスファクトリー代表、工藤厚さん52歳は奥様と。「今年はMCFAJに2戦出ただけ、久しぶりのレースなので、斬られ役になるつもりで走ります」。  門井文夫さん67歳も奥様とぴったり密着。全日本モトクロスやアマチュアチャンピオンシップスのビッグスポンサー『ウォースペイント』を経営する実業家。

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