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DUACTI JAPAN

え……?
ホントに……!

 ちょっとムルティストラーダの歴史を振り返りたい。空冷2バルブLツインをトレリスフレームに搭載した初代ムルティストラーダは、今の言葉で言えばクロスオーバーなツーリングバイクだった。アップライトなポジション、ハンドルと同位相で動くスクリーン、ハイマウントマフラーなど、時代の季語と斬新さを併せ持ちつつも、どこから見ても間違い無くドゥカティ、というスタイル、走り、音を持っていた。乗り味は今風アドベンチャーモデル、というよりロードスポーツ色が強い、という記憶が残る。
 
 そして、2010年。ドゥカティはムルティストラーダをこのセグメントでもトップレベルのアドベンチャーツアラーへと昇華させる。持ち前のデザインセンスと、Moto GPやWSBKで培った最新の電子制御技術を惜しみなく投入し、「4 Bikes in 1」というコンセプトをこの1台に封入した。街乗り(アーバン)、ツーリング、スポーツ、オフロード(エンデューロ)、という4つのシーンを1台のバイクで楽しむパッケージにしたのだ。
 スーパーバイクと共通ユニットでもある水冷、1200、テスタストレッタエンジンのバルブオーバーラップを11度と、ムルティストラーダ専用化して搭載。バイクに詳しい人、ドゥカティファンなら、この時期まで「水冷を載せたドゥカティはヤバイ……」と思っていたハズ。しかし、ゴリゴリのパワー指向ではなく、びっくりするくらい乗りやすいパワーデリバリーに驚いた。それでいてものすごく速い。
 また、ライディングモードの切り替えボタン一つで、サスペンション特性、エンジンパワー特性、トラクションコントロール特性、ABS特性を4つのシーンに合わせる機能を搭載し、実際に走らせると、なるほど4 Bikes in 1だと思わせる。言わば、今日に続くムルティストラーダの基礎はこの2代目で確立されたとしていい。http://www.m-bike.sakura.ne.jp/feature/multistrada/index.html
 
 この2代目、2013年には、セミアクティブサスの導入や、エンジン、ECUマネージメントの部分改良しアップデイト、LEDライトの採用など、3代目へと続く方向性を示したマイナーチェンジが行われている。 
 そして2015年、3月。スペイン、カナリア諸島、(http://www.m-bike.sakura.ne.jp/?p=86481)、北海道でテスト(http://www.m-bike.sakura.ne.jp/?p=102103)した現行ムルティストラーダは、先代が築いた「4 Bikes in 1」コンセプトの純度をさらに高めたものとして記憶に新しい。
 先代はバルブオーバーラップが11度固定だったが、それをより適宜適正なバルブタイミングを得るために可変バルブタイミング機構を搭載したエンジンを投入。エルゴノミックスなどもさらに煮つめ、足付き性や快適性の向上、走りも滑らかな回転フィールを持つパワフルなエンジンのキャラクターにより、まさしく市街地からスポーツまで楽しめ、ツーリングではさらに快適になり、ダートでも一体感が増していた。
 今、人気のアドベンチャーツアラーの多くが前輪19インチ、後輪17インチを採用する。その中でオフ指向の強さを打ち出すモデルが前21インチ、後輪17、もしくは18インチとなるが、ムルティストラーダは初代から連綿と前後17インチを採用してきた。しかもそのタイヤサイズは、初代でこそ後輪が180/55ZR17(620は160サイズでしたが)だったが、2代目以降、スーパーバイクと同じ190/55ZR17というタイヤを履くムルティストラーダ1200は、言わば希有な存在。それでいて、峠道からダート走行まで本気で楽しめる完成度がスゴイところだ。
 
 実は、2010年、僕はムルティストラーダの走りに驚き、BMWのように前輪19インチ、後輪17インチにして、あと少しサスペンションを伸ばせば、さらに刺激的なモデルができるのでは、と思い、造らないのか? と質したことがある。2010年モデルのイメージスケッチに、ネックブレイスを装着し、オフロードブーツを履いたライダーが跨がるスケッチがあるのを見たからだ。
「ドゥカティはエンデューロという世界観からは離れたブランドですから……」と、そっちの世界とは一線を画するという主旨の説明を受けた。
 
 なるほど、それでもこれだけ走れば文句ナシ「4 Bikes in 1」だし、と納得をしていたし、2014年秋に発表され、2015年春に登場した現行モデルも、なるほど、その路線を貫いている。他のだれもが易々と近づけない領域まで成長している、と実感していた。
 だからこそ、2015年秋のミラノショーで、ムルティストラーダ1200エンデューロ登場! という展開は寝耳に水、という印象だったのだ。

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差し込んできたな……。
これは本当の本気、大マジだ!

 羽田から3便を乗り継ぎ、地中海に浮かぶイタリアのサルディーニャへと飛んだ。ここでムルティストラーダ1200エンデューロのプレスローンチが行われるからである。道路から奥まった場所にあるホテルの敷地の先には地中海の澄んだ波が寄せては引く浜があり、彼方にはアフリカ大陸があるはずだ。
 そんなホテルの中にも多くのムルティストラーダ1200エンデューロが展示されている。しかも、世の冒険ライダーなら一度は訪ねたい地名と緯度経度、そして方角を示した標識がそこかしくに置かれている。最初はリゾートホテルにありがちなものかと思ったら、ドゥカティの粋な演出だった。「グローブトロッター」を自称するこのバイクの発信の場に相応しくスパイスを効かせている。海を眺めるプールには、地球儀を模したビーチボールが浮かべられている。世界をライダーのものへ、と旅情を掻き立てるつもりだろう。思わず遠い目になる。
 
 このプロダクトを紹介するPVをYouTubeで見ていたが、どれもガチでオフロードを走っている。それだけに夕方からはじまった新型モデルの技術説明は、個人的にも興味深かった。
 
 昨年デビューのムルティストラーダ1200Sの装備をベースに、エンデューロたる変更を受けているのだが、それが面白い。
 まず、サスペンション。2015年から採用されている新世代のセミアクティブサス、ドゥカティ・スカイフック・サスペンション(DSS)EVOは同じながら、1200Sの170mmだった前後ストロークからエンデューロでは前後とも200mmへと伸ばされている。前後のタイヤは1200Sの前120/70ZR17、後190/55ZR17から、エンデューロでは前120/70R19と2インチ大径化、後輪は170/60R17と2サイズ細身に。これはBMWのR1200GS(現行)などと同様のサイズで、アドベンチャーモデル向けのタイヤ開発でも力コブが入るサイズだ。
 
 また、前後ともY字スポークのキャストホイールから、チューブレスを採用するクロススポークホイールへと変更されている。サスペンション、ホイールサイズの変更で、グランドクリアランスは174mmから205mmへと上げられている。
 
 サスペンション、ホイールを替えただけではなく、車体のディメンションも変更された。フロントアクスルを前側に16mmオフセットしたほか、トリプルクランプなどで合計37mm前側ににオフセットしている。ドゥカティの定番、片持ちだったスイングアームは両持ちとなり、アーム長も565mmから600mmへと延長されている。これらにより、ホイールベースは1200Sの1529mmから1594mmへと65mm延長されている。キャスターアングルは24度から25度へ。トレールは109mmから110mmへとそれぞれ変更されている。
 
 タンク、シート、外観パーツなども専用のものとなり、燃料タンクは1200Sの20リットル入りから30リットル入りとなり航続距離を伸ばしている。エンジンは共通ながら、1速のギアレシオとファイナルレシオをショート化している。1200Sの1速が2.466に対し、エンデューロは2.714、2~6速に変更はない。ファイナルは1200Sの15T×40 Tの組み合わせで2.666から、エンデューロでは15T×43Tの組み合わせで2.866となっている。積載、オフロードランを考慮した加速重視なレシオと言えそうだ。
 
 車体重量は1200Sの235㎏から254㎏となり19㎏増加している。そのうち、10リッターの燃料分を除けば、延長されたサスペンション、それに合わせたサイド、センタースタンド、大型になったタンク単体重量、大型化されたスキッドプレート、スポークホイールなどによる細かな重量増の合算ということになる。シート高は本国仕様で870mmだが、日本仕様はローシートが標準となる模様で、850mm。1200Sのように差し替え機能はない。
 また、エンデューロにはABSを使ったブレーキ力保持機能が備わる。これは前後のブレーキを強く握る、踏むと、一定時間ブレーキ液圧を維持し、サイドブレーキ的に使える、というもの。ビークルホールドコントロールと名付けられたこの昨日、一部の2輪でも採用し始められたもので、4輪ではヒルホールドなどの名称で装備が進む坂道発進支援機能だ。足場の悪い悪路ではもちろん、一般道でも坂道発進のストレス低減に一役買ってくれるものだ。
 1200Sの赤とエンデューロの赤を比較すると価格は253万9000円対269万9000円と、エンデューロが+16万円となる。赤以外が4万円アップとなるのも同様だ。いずれにしても、その装備、変更点など、本気度がうかがえるものばかり。明日の試乗がますます楽しみになってきた。

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ライディングモードを使いこなせ、
そうエンデューロは語りかける。

 3月のサルディーニャは晴れれば20度、曇れば10度を気温は割りこみ、試乗コースの山側では時おり雨が降ることもある、との予報だ。ホテルを起点に一周70キロ×2周のロードコースと、おおむね70キロは続くダートルートを巡るテストルートが午前、午後に分けて行われた。
 ハンズフリーキーを受け取り、跨がってみる。サイドスタンドから起こす時、やはり30リットルに増量した燃料の重みをダイレクトに感じる。870mm(本国仕様)のシート高は思いのほか気にならない。シート先端が適度に細いこと、現行型ムルティストラーダ同様、ステップ周りがスリムなこと、それに加えて、ライザーと曲げ角で握り部分が50mm上がったせいだろうか。前傾が1200Sと比較して弱まったため、かもしれない。
 
 ロードコースに走り出す。ライディングモードはツーリングを選択。サスペンションを含め、設定はデフォルトの状態だ。1200Sもそうだったが、エンデューロはさらに快適な乗り心地だ。ザックス製のセミアクティブサス、DSS EVOはさらに動きの良さを増した印象だ。同時に200mmあるストロークのビギニング部分で明快なピッチングをライダーに感じさせてくる。加速時、減速時ともにだ。170mmというストロークを意識させなかった1200Sと比べると、燃料の重さも影響しているのかもしれないが、性格の違いを感じる。
 1200Sに採用されているφ330mmディスクプレートとパニガーレでも使われるキャリパーの組み合わせのものから、スタンダードのムルティストラーダ同様、φ320mm+4ピストンキャリパーとなったフロントブレーキは、19インチの前輪ともバランスが良く、過度なタッチを感じさせず、握力に応じた減速力を引き出しやすい仕上げになっている。リアブレーキも1200S同様、減速を引き出しやすく、扱いやすい。この手のモデルだと意外とリアブレーキの使い勝手がものを言う場面が多く、その点で2015年モデル同様の使い勝手が得られているのは嬉しい。
 
 エンジンのスムーズかつトルキーな印象は昨年来のムルティストラーダ同様。重量増を感じさせない軽やかな走りは嬉しい。低回転でもスムーズなこのエンジは「ドゥカティは扱いにくい」と旧世代の印象を引きずる人にも是非お試し頂きたい。もちろん、本国仕様で160psと13kgf-mを生むだけにどこからでもフラットな出力特性で即応、増速がはじまる印象は嬉しい。流れのよいサルディーニャの道でショート化された1速の出番はほぼ一瞬。リアスプロケを3T増やした分、全体にショート化されているわけだが、重量増分を相殺するのはもちろん、低すぎてもう一速欲しい、という場面はなかった。常に望むだけの加速が得られ、快適性も高い。絶妙な設定だ。
 
 ハンドリングキャラクターの違いを感じるのはパーシャルのまま左右に切り返すような場面だ。今までのムルティストラーダの感覚で入って行くと少し遅れて前輪に舵がはいるような気がする。一瞬なのだが。
 そこからさらに寝かせてゆくと、舵角の入った前輪に応じて後輪も旋回性をグンと増すこれまでの体験より、ひと味薄い旋回力だ。と、いうより、前後17インチのムルティストラーダよりロールはしているのに旋回力が上がってこない感触がある。海岸線のゆるいワインディングから山岳路に入り先導車のペースが次第に上がる。山岳路では左カーブにブラインドが多く、右ターンは比較的見通せる。が、ココは右側通行。それらがきっちり逆になる。軽い時差ぼけもあるだろう。さらにペースが上がる中、一体感を得るのに苦労する。
 
 その答えは簡単に見つかった。一番効果的だったのは、ライディングモードをツーリングからスポーツへと切り替えるコトだった。これまでのムルティストラーダでは殆どの場面でライディングモードは、ツーリングのままで過不足なく走れた。サスペンションのマップが急激なストロークをよくチェックしてくれたから、エンデューロほどピッチングを感じなかった、というのもある。エンデューロではそれよりもオフロードでの所作も考慮したマップとなった様子で、逆にしっかりと動くのだ。それが減速、加速時の姿勢変化で接地荷重が変化し、先述のような乗り味に繋がったのでは、と見ている。
 スポーツにすると、ツーリングよりピッチングの速さが穏やかになり、同時にアクセルレスポンスもそれに呼応した速さとなったことで、思ったとおりのラインをトレースしてくれる。
 その頃には右側通行に慣れた、とも思うが、ツーリングモードに戻すとやっぱりタイヤ1~2本分外を行くから、ライディングモード選択が効果絶大なのだ。
 ライディングモードはパーソナライズできるが、ツーリングモードのまま、前後サスのダンピングをノーマルから一段締めたハーダーへとしただけでも乗り易さは引き出せた。プラス30mmのサス、地上高も30mm上がっている。タイヤサイズも変わった。だからこそ自分なりのセットアップを見つけて走るコトがこのバイクとの距離感を縮める近道のようだ。
 同じルートをもう一周走ったのだが、その時は自在感があり「ムルティストラーダのロードは楽しい」と思えたから、ポテンシャルは高いのはいうまでもない。
 
 タイヤは1200S同様ピレリ製スコーピオントレール2だ。サイズ的にはリアが2サイズダウンしたが、グリップ感、旋回性にも余裕があった。さすがにタイヤサイドまで使い切ることになるのだが……。
 先行3台の飛ばし屋達が残すタイヤの焦げた匂い。視界の中にはあるので、同等のペースで走っていたのだが、切り返し時にタンクと燃料の重さを感じなくもないが、この点だけを切り出して論じるなら、ムルティストラーダには1200Sがある、というのが正論だろう。ツーリング、スポーツ、「4 Bikes in 1」のうち、2つは見事に合格なのである。

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ドゥカティのどこに
こんなエンデューロ魂があったのか!!

 今回、アーバンシチュエーションはなかったので、またいずれかのテストに譲りたいが、ピレリが大型アドベンチャーモデル向けに出したスコーピオンラリーを履いたモデルで出かけたオフロードではムルティストラーダ1200エンデューロは本領を発揮した。
 エンデューロモードに入れると従来モデルはリアサスのスプリングイニシャルプリロードが2人乗りと同等にかかり、姿勢が前下がりになった。フロントサスはダンパーをソフトなセットとしてダート路でもそう簡単にはスリップしないセットとなっていた。エンデューロではダンパーセットはミディアム、リアサスにもイニシャルがかかるのは同じだが、200mmのストロークを持つだけにそれほど掛かった感はなかった。
 テストコースは日本の林道に似た道だった。岩盤質の場所、赤土の場所、片側が崖、片側が壁、というのも慣れたものだし、時折、水通しの溝が道を斜めに横切るのも同じだった。
 
 モードを切り替え、先導役のライダーに続きテストライダー達が走り出す。僕もそれに続いた。タイヤの空気圧は冷間で前後1.6、おそらく温間で1.8から2.0程度ではないだろうか。ステップを覆っていたラバーを外すと、エンデューロバイクそのもののワイドステップが顔を出す。厚手なそのラバーを外すと、ステップの上にスタンディングで立った時の操作性がグッとよくなる。
 そして、座っていると高めに感じたハンドルも、スタンディングではびっくりするぐらい決まる。まるでエンデューロバイクだ。
 
 そして、乗り心地が良い、と感じたサスペンションの本領がここでも発揮される。スタンディングで適度な位置に乗っている限り、前後サスを通じて前後タイヤの接地点に絶妙な荷重がかけられ、グリップ感を掴みやすく、加速も減速も自信をもってできる。そして旋回へと入る場面でもスタンディングで乗る限り、特上の前後左右へのバランスを引き出すのは難しく無い。なんだこれ!
 
 タイトターン、直線、タイトターンを繰り返す登りでも、アウトいっぱいから寝かし、ラインに載せた前輪をクルリとトレースさせ、曲がりながら後輪に駆動をのせてゆく、こんな走りで一体感がスゴイ。なるほど、こんな速度域でもバイクをイキイキと動かすためのローギア化なのか! ショートになった1速と低められたファイナルの意味を実感する。
 1台、1台と前走車をパスし、短い直線でアクセルを開けてみる。1速で立ち上がり、2速にシフト。可能な限り直立状態を保ち、ブレーキング……、どんどん気分がのってくる。これはいい。
 しかし、次第に一つ気になる点が膨らみ始める。後輪をもう少し回したい、と逸る気持ちでアクセルを開けても、1速と2速のギアレシオのギャップのようなものを感じはじめたのだ。エンデューロモードでは後輪のABSがカットされるが、このタイヤのグリップと前後への荷重移動のスムーズなサスの恩恵で、ここでも自信をもって操作ができる。

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ライディングモードは走るためのアプリ。
エンデューロならもっと使いこなしたい。

 一旦止まって、デフォルトのトラクションコントロールの効き具合を全8段階中、2段目から最弱へ。そしてエンジンレスポンスをソフトからノーマルへとしてみた。トラコン設定はこれまでも最弱を何度も試していたが、エンジンパワーデリバリーはいじったことが無かった。ロードでの体験から、エンデューロではパーソナライズできる部分を、アプリよろしく使えば、もっと身近になるはず、と考えたのだ。
 
 答えはドンズバだった。さっきまで1速と2速の間で感じたギア比の違いのようなものは、アクセルレスポンスが早まり、トラクションの掛かりがダイレクトになったことで霧消。さらに横方向に後輪が逃げながらも前進方向に絶妙についてくれるようになった後輪の恩恵で旋回性と加速感が自分の感性に合ったものとなった。こうなると悪いクセでもっともっと走りたくなる。
 減速時、コーナーへのアプローチをする時、軽めのフェイントと、ロックアップスレスレにリアブレーキを保ち、ノーズをインに向け、最初はじんわり、バイクを起こして多めにアクセルを当てると、狭いダート路をムルティストラーダ1200エンデューロは見事な所作で駆け抜けてくれる。道が広くなり、バイクがどんどんコンパクトに感じてくる。良いじゃないか!!!
 
 その後、開発時にテストを担当したライダーから「エンジンレスポンスをハードにするともっと楽しめるぞ」との情報を得て、試したのはいうまでもない。
 
 これまでのムルティストラーダにもまして、エンデューロではライディングモードを活かすことが好ましいようだ。同時に、自分を俯瞰できるライダーならより楽しめるはずだ。そんな意味ではデフォルト設定をもう少し攻められるのでは、とも思う。ただ、デフォルトが甘い、というのではない。それはそれで相当な走りを楽しめた。やはりシオ、コショーの領域だろうか。BBQの串に刺した肉をあとは好みの火加減で口に運ぶだけ。そんなバイクに感じた。
 
 ホテルに戻り、これはいつから造っていたのか、と開発者に聞いてみた。始まったのは2012年だ、と彼はいう。想定通り。それは2015年に現行ムルティストラーダの開発が始まったのと同期であり、同軸で開発がすすめられたのだ。それは符合した。
 しかし、今日、これほどのダートパフォーマンスを知ってしまうと、カタチにするのに必要だったのが3年間で、コンセプトワークはそれ以前から続いていたのでは、と質すと、開発者の1人はちょっと嬉しそうに、具体的な時期を限定はしなかったが、聞いた印象では10年ぐらい前、2010年に「4 Bikes in 1」コンセプトのムルティストラーダを開発する段階から、限られたスタッフで実証実験的なものと、コンセプトワークは続いていたようだ。
「エンデューロツアラーは売れていたからね」と。
 ドゥカティは、実際にプロのエンデューロライダーを擁して悪路テストを重ねたという。ライディングポジションを知ればそれは透けて見える。ダートタイヤでもハンドリングテストをした。モトクロスコースだけで1万キロ以上を走った、と説明していたコトに偽りなし、と思えた。
 個人的には、あとはシッティングポジションでの乗り易さをさらに追求してもらえたら言うこと無し、だ。ハンドルの高さとシートポジションのバランスなのだろうか……。
 いずれにしてもこれでドゥカティ版グローブトロッターは完成したわけだが、ここからの進化と深化も期待したい。エンデューロには無関心、を装っていても、その走りから匂い立つものは持っていた、ということだ。僕としては何となく答え合わせができたような気持ちでサルディーニャを後にした。
 
(試乗・文:松井 勉)
 

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オフロードライディングで前輪からのスプラッシュがライダーに掛かるのを低減するためのノーズセクションが延長されているエンデューロ。ノーズから続くタンクサイドにはアルミ製のパネルが取りつけられている。転倒などでできた傷をこの部分で受け止め、部分交換で済ませる配慮だ。 エンデューロに採用されたステップは本気のオフロード仕様。標準装備される厚手のラバーはブーツに伝わる振動を見事にキャンセル。そのラバーを取り外すと(簡単に取り外せる)、鋳造されたワイドステップが現れる。チェンジペダル、ブレーキペダルとの相関も、スタンディングポジションで操作しやすいように変化。ブレーキペダルの踏面を回転させることでその高さが変わる仕掛け付き。従来のムルティストラーダにはアルミ鍛造のペダルが装備されるが、エンデューロでは転倒時の破損を考慮、鉄製が採用される。ドゥカティらしいエレガントさ、メカニカルさには正直欠けるが、試乗中転倒したライダーのペダルを見ると、曲げても戻せる鉄製の選択は、正にサバイバルチョイスだ。 ムルティストラーダ1200/1200Sと比較すると、前後ともに170mmだったホイールストロークがエンデューロでは200mmへ。また、前輪はアクスルホルダーなどで、37mmオフセットされている。タイヤは、ムルティストラーダ1200/1200Sのそれが120/70ZR17と190/55ZR17というスーパースポーツと同じサイズだったのに対し、エンデューロでは120/70R19と170/60R17となる。前輪は2インチ大きく、後輪は細身となる。BMW R1200GS系やKTM1190 ADVENTURE、1290 SUPER ADVENTURE、今年アップデイトされたトライアンフタイガーエクスプローラーなどと同サイズのもの。ロード向け、オンオフ向けとも開発が熱いサイズのタイヤである。
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エンデューロのブレーキは、前φ320mmのディスクプレートと4ピストンキャリパー、後はφ265mmと対向ピストンキャリパーを採用する。また、このエンデューロにはABSユニットを使ったヒルホールド機能が追加されている。ムルティストラーダ1200のそれをほぼ踏襲するもの。スイングアームは片持ちから両持ちとなる。その長さは565mmから600mmへと35mm伸ばされている。 ハードなオフロード走行も想定して大型化されたスキッドプレートを装備。グランドヒット時の衝撃をしっかりかわすように、アルミ鍛造ステーでフレームにマウントされる。ロングストロークのサスペンション、前輪の大径化もあって、グランドクリアランスは、ムルティストラーダ1200/1200Sの174mmから205mmへとアップ。ランプオーバーアングルを稼いでいる。 2015年にモデルチェンジを受けた3世代目のムルティストラーダが採用する吸排気バルブタイミングを可変させるテスタストレッタDVTエンジンを搭載。そのスペックはエンデューロも同様。国内仕様の最高出力は112kW(150hp)と128Nm(13.1kgf-m)を発生させる。テスタストレッタエンジンは、ドゥカティのスーパーバイクが採用するものと同様。ビッグボア×ショートストロークによりシリンダー全高を抑え、ドゥカティが連綿と採用するデスモドローミックにより、吸排気バルブはメカニカルに開閉される。これもフリクションロス低減とシリンダーヘッド周りの高さを抑えるのに貢献。DVTを得て、低回転から驚きの滑らかさを手に入れている。ノックセンサーも採用する。
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エンドが2本出しだった1200/1200Sに対し、薄型縦型、排出口の高さを上げたマフラーエンドへ。渡河性能を上げるなど相当な拘りをもって各部のレイアウトを行っている。 左右のハンドルスイッチは1200/1200Sと同様。左にはモード切り替え+決定キー、クルーズコントロールスイッチを装備。夜間にも使いやすいようにバックライト付きだ。右のスイッチはハンズフリーキーに呼応するメインスイッチ、スタータースイッチ、グリップヒータースイッチ、等を装備する。
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装備はおおよそムルティストラーダ1200Sに準じているエンデューロ。ヘッドライトはロー、ハイともLED。DCLことドゥカティコーナリングランプも装備する。ナイトランにも心強い装備だ。 スクリーンはピンチ&スライド方式を踏襲。片手でつまみを握り、ロックを解除して上下にスライドさせる方法だ。走行中の操作も難しく無いのが嬉しい。 ハンドルバーはオフロードでのスタンディングポジションに合わせた高さに「かさ上げ」されている。ハンドルバーのベンドとライザーにスペーサーを入れることでグリップ位置は1200Sと比較して50mmアップ。これはスタンディングでピタリと嵌るオフロードチューンになっている。シッティングで操作するには、もう少しシートを厚手にしたい、と思うほど。それほどオフロードライディングを追求している。
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エルゴノミクスを最適化したシートを採用。表皮デザインを含め、1200Sとは異なるキャラクターをシートからも感じられる。ロングツアラーとしての性格をより強めたモデル、グランツーリズモが先代には用意されていたが、そのモデルが持つ上質な満たし感をこのエンデューロは持っているようだ。 写真のメーターはツーリングモードでの表示。カラーLCDモニターはタコメーターとスピードを中心に表示される。回転計のグラフはエンジンの現在回転数の数値が大きくアップライトされるもの。左下に6分割されたエリアに様々な情報を表示。左列上はBluetoothを使ったスマートフォン、バイク、ヘルメットのヘッドセットを繋ぎ、オーディオ、電話、メール着信時など相手の名前などを表示し、応答も可能。左ハンドルスイッチのモードキーから選択し、機能を呼び出す。
 モード選択時の画面はこのように4分割のモードを選択し、長押しで決定。走行時のモード切り替えは、選択後、アクセルオフで切り替わる。(写真の上でクリックして下さい。表示画面が変わります)
ピレリが2016年シーズンに向けて発売したスコーピオンラリー・ムルティストラーダエンデューロ該当サイズに履き替えれば、ダートライディングを深く楽しむ事ができる。OEMはピレリ・スコーピオントレール2。このタイヤもオン、オフともに評価が高く、乗り心地、低温時のグリップ感と安心感、ハンドリング性能ともに高性能なタイヤを装着する。
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●Multistrada1200 ENDURO 主要諸元

■ホイールベース:1,594mm、シート高:850mm、乾燥重量:225kg、燃料タンク容量:30L■エンジン種類:水冷4ストロークL型2気筒デスモドロミック可変バルブ、総排気量:1,198.4cm3、ボア×ストローク:106.0×67.9mm、圧縮比:12.5、始動方式:セルフ式、最高出力:112kW(150hp)/9,500rpm [日本仕様]、最大トルク:128Nm(13.1kgm)/7,500 rpm [日本仕様]、クラッチ形式:湿式多版、変速機形式:常時噛合式6速リターン、ブレーキ(前×後):φ320㎜油圧式ダブルディスク × φ265㎜油圧式シングルディスク■タイヤ(前×後):120/70ZR19 × 170/60ZR17、懸架方式(前×後):φ48㎜ザックス製倒立フォーク × ザックス製フルアジャスタブル・モノショック、キャスター角:25°、トレール:110㎜、フレーム:スチールパイプトレリスフレーム
■価格:Starting from 2,699,000円

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