試乗者の身長は170cm。いわゆる“外人サイズ”の幅広シートでシート高自体よりも足つき性に影響している感じがある。

 4代目(車体も含めた変遷で数えると3代目)となる新型のエッジの効いたデザインは、それまでより精悍さを増して、特に小顔に見えるフロントマスクから、全体的にキュっと塊感が強まった。

 身長170cmが跨って、シート前方のいちばん細いところに座っても両足のつま先が着くのがやっと。一般的なスクーターだったら「足つきをもう少し良くして欲しい」と書くところだけど、TMAXだとそれが許せてしまう。これまでと同じトランクスペースを確保しつつ、運動性にこだわった15インチホイール、サスペンションストローク、2気筒エンジンが股下にあるのだから、と考えると気にならなくなる。

 人間とはそういうものだ。「足つき性」と「楽しい走り」のどちらかを取るとなると後者だ。

 事実として、今回から国内モデルではなく、プレストコーポレーションによる輸入車の扱いだから、メイン市場である欧州ライダーの平均身長ならまったく問題ないのだろう。

 DOHC4バルブ2気筒エンジンは、ボアを大きくして499cc→530ccになっている。試乗前に新作CVTベルト、クラッチサイズUP、ポンピングロスの低減など説明を受けたが、何よりもこの排気量増大が目玉である。それは発進してすぐに分かった。前モデルより確実に力強くなっている。コース上の川や池を避けながら、加減速を意図的に頻繁に繰り返してみても全体でパワフル。どの回転数からでも開ければ車体を前に押し出す。フィーリンはよどみがなく、スロットル開閉に対しダイレクト。いわゆるどこからでも力がついてくる感じ。ワインディングのみならず、使う速度域が広い街乗りで間違いなくゆとりが生まれる。加速に対してのまどろっこしさが小さくなった。

 軽量ホイールの採用。特に後輪はスイングアームやなんやかんやでバネ下を3.5㎏もの軽量化。全体でみても排気量を増やしながら5kg軽くなっている。何度も悪態をつくようで申し訳ないが、ヘビーウェットだからして、低μ路面で思い切って攻めてみるなんてことは出来ない。性能を体感できることは限られていたが、150km/h以上の速度から、試乗車はABSモデルではなかったので気をつけながらのハードブレーキングで、ハンドルを含め車体にヤワなとことはなく、終始カチっとした剛性感が印象に残った。見た時に感じたキュッと締まった塊感を走っても感じられた。スラロームやレーンチェンジのような動きをしてみても、その印象は変わらず。

 横断する川に向かってスロットルを開けながら突っ込んだところでハンドルが大きく振られたりするような不安定さを見せず。小心であまり速度を乗せられないコーナーリング中も旋回は安定していて、ヒヤっとする場面に遭遇しなかった。前後タイヤのグリップ状態を伝える能力は他スクーターより一枚も二枚も上。

 せっかくだから、もう一度晴れた温かい日に思いっきり走りたい、と思わせるスクーターはそうはない。

 こぼれ話として、乗り始めは小ぶりだったのでカッパを着ずに乗った。ところが走りだしてすぐに雨がやや多めに落ちてきた。試乗時間を終えてピットに戻ると、ジーンズにはポツ、ポツと斑点が付いているだけですんでいる。そんなところで「スクーターなんだなぁ」と感じた。

(試乗・文:濱矢文夫)

■TMAX530〈ABS〉主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,200×775×1,420(Low)~1,475(High)mm、ホイールベース:1,580mm、最低地上高:125mm、シート高:800mm、最小回転半径:-m、車両重量:217kg〈ABSは221kg〉、燃料タンク容量:15L●水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ、排気量:530cc、ボア×ストローク:68.0×73.0mm、圧縮比:10.9:1、燃料供給装置:F.I.、点火方式:T.C.I.(デジタル)式、始動方式:セル式、潤滑方式:ドライサンプ、最高出力:34.2kW(46.5PS)/6,750rpm、最大トルク:52.3N・m(5.3kgf・m)/5,250rpm●変速機構:Vベルト無段階自動変速、変速比:2.041(Low)~0.758(Top)、一次減速比:1.000、二次減速比:6.034●フレーム形式:ダイヤモンド、サスペンション前:テレスコピック、ホイールトラベル120mm、後:スイングアーム、ホイールトラベル116mm、キャスター/トレール:-°/-mm、ブレーキ:前・油圧式デュアルディスク、後・油圧式シングルディスク、タイヤ:前・120/70R-15M/C、後・160/60R-15M/C
●価格:997,500円〈ABSは1,050,000円〉※南アフリカ仕様