2016年6月7日 

■戸井十月からのメッセージが届いた──「越境せよ!」

 バイクを愛し、バイクを旅の手段とした作家・戸井十月さんが亡くなったのは2013年7月。64年の生涯を網羅した著作集が発刊された。

『戸井十月・全仕事 「シャコタン・ブギ」から「五大陸走破」まで世界を駆け抜けた作家の軌跡』(小学館刊・3000円+税)

『戸井十月・全仕事 「シャコタン・ブギ」から「五大陸走破」まで世界を駆け抜けた作家の軌跡』(小学館刊・3000円+税)だ。総ページ880頁の中に、戸井十月という男の生き様が詰まっている。

 北南米大陸縦断、シルクロード1万キロ走破、メキシコのデザートレース「バハ1000」への挑戦、チェ・ゲバラの足跡を辿る中南米取材──そして、1997年に始まり12年をかけた五大陸走破の旅。
 
 戸井十月さんはこう言った。
「地を這うように旅する。バイクだから見える風景がある、バイクだから出会える人達がいる」

 もちろん戸井十月という男の仕事の場は多岐に渡る。

 「シャコタン・ブギ」で暴走族女性リーダーの生き様を描き、それ以降小説・ルポ・紀行などを多数刊行。数々の映画やテレビ・ドキュメンタリーの製作にも携わった。映画「爆裂都市」では重要な役を演じた。「風の国」では映画監督も務めた。さらに革命家チェ・ゲバラの足跡を辿り詳細なルポにまとめたほか、インタビュアーとして、小野田寛郎、植木等、水木しげる、堀文子といった偉大な先人たちの話に真摯に耳を傾け、出色の評伝を残している。

 月刊誌時代のミスター・バイクやゴーグルにも多くの紀行文や小説を書いてくれた。64年の生涯で、63か国・地域に80回の渡航歴。バイクを主な移動手段としていて、総走行距離は30万キロに及ぶという。

 戸井十月さんの最後の愛車である97年型のAfrica Twinだった。そのオドメーターは20万キロを超えていた。

 表紙にはこんな惹句が書かれている。
「かつて新宿に、“生きるように旅し、旅するように生きた”男がいた。」
「越境せよ──。」