BMWの魅力・探訪。『独走する巨体。GSの本質を知る』

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都市間耐久レースと
6DAYS TRAIALの時代。

 1916年、ラップ自動車とグスタフ・オットー航空機の2社により設立されたBFW社。翌1917年にはバイエリッシュ・モトーレン・ヴェルケと改名、CIのBMWがそれらの頭文字であることはお馴染みだ。そもそもこの企業は、航空機を機体、エンジンともに作ることを目的に造られたという。あれから100年。
 第一世界大戦の戦火が収まると、連合国との平和条約によりドイツ工業界は生産活動に規制を受け、BMWの主戦場、航空機開発や生産も含まれていた。
 そんな中、航空機技術者がモーターサイクル用エンジンの開発と生産を手がけ、自社エンジンをOEMとして納めるなどをしながら、BMWは2輪との接点を持つ。そして1923年にR32というオリジナルの一台を発売する。搭載されたのは空冷水平対向2気筒エンジン、シャフトドライブというドライブトレーン形式は今なお伝統的な水平対向エンジン搭載モデルに受け継がれている。
 
 BMWは自社製品の性能と耐久性をアピールするために多くのレースに参加した。1926年にはISDT(インターナショナル・シックス・デイズ・トライアル)でゴールドメダルを獲得。6日間、荒れ地を走り続ける伝統の競技で、性能と耐久性を証明した。
 
 その後も、ISDTが現代と同様、ISDE(インターナショナル・シックス・デイズ・エンデューロ)となってもオフロードレースへの活動は連綿と続く。そう、ロードレースが未舗装路で行われていた時代からBMWは土の上で性能を実証していたのだ。
 
 時は流れ’60年代に入り、世にスクランブラー旋風が吹き荒れる。その時代もISDEにはオフロード向けのレーサーを送り込み、大排気量クラスの栄冠を得続けた。GS750、GS800等、エンデューロのスペシャルマシンでそのカテゴリーで強みを見せた。GSとはゲレンデ/シュポルトのことで、GT等と同様、オフロードスポーツを意味する普遍的な言葉だ。
 そんな’70年代後半までそうした活動を続け、いよいよ市販モデル、R80G/Sを発売したのである。

 
世界一過酷なラリーを制した
BMWとGSの歴史。

 BMWが積極的にオフロードイベントに参戦した歴史の中で、PARIS~DAKARでの成功は大きいものだった。
 真冬のパリを1月1日にスタートし、地中海を船で渡り、アフリカ大陸北部に広がるサハラ砂漠を越え、大西洋岸の国、セネガル、その首都ダカールへ。3週間と1万3000キロにもおよぶ距離。モータースポーツと冒険を配合したこのイベントで、1981年、1983年、1984年、1985年と水平対向エンジンを積んだラリーマシンで4度の勝利を収めた。これもGSモデルの大きなプロモーションとなる。その後もこのラリーの系譜で2度の優勝を重ね、BMWは世界一過酷なラリーで6度の勝利を収めている。
 
 ラリーの成果は、スピード、耐久性、ロングツーリングでの優位性をユーザーに植え付けた。同時に、このラリーがその行程で多くの舗装路も移動することから、正にゲレンデ・シュトラッセのコンセプトを体現していたと言える。

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1980年に登場したR80G/S。50馬力を生み出す空冷OHV2バルブ水平対向2気筒を搭載。伝統に習ってエンジン、乾式単板クラッチ、ミッションと配置し、モノアームタイプのスイングアームを採用。オン・オフモデルとしては革新的だったディスクブレーキをフロントに採用。細身に見えるタンクは20リットルを飲み込んだ。世界最大排気量の量販デュアルパーパスと呼ばれた。
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ライバルが120km/hであえぎながら巡航する砂漠を150km/hで巡航したと言われるBMWのパリダカマシン。GSをベースにドイツのコンストラクター、HPNが手がけたもの。おそらく博物館に展示されるモデルを撮ったものと思われる写真だが、ラリープレートは1985年のもの、タンクは87年仕様、ゼッケンはガストン・ライエ、シートはサポートライダーのエディー・ハウ級に長身のライダーが使った物を模したハイブリッドのようだ。
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1988年にケルンショーで紹介されたR100GS PARIS-DAKAR。小物入れを持つ35リットル入りタンク、フレームマウントのフェアリング、エンジン前にはスプラッシュガードも備わる。パリ~ダカールラリーが持つ長距離冒険ラリーを想起させる長距離ツアラー。今のGS人気へと繋がるR100GSシリーズのフラッグシップモデル。前後チューブレスタイヤの装備や、他のR100系モデルより大径インテークポートを持ち、60馬力ながらトルク特性に優れたエンジンには、φ8mm大きなφ40mmボアのビング製キャブレターを装備。パンチのある加速が魅力だった。’94年、R100GS P-Dクラシックまで生産が続く。

 
そして、誰でも買える
旅のワークスマシンへ。

 ラリーでの強烈な印象は旅での快適性、オフロードも駆け抜ける信頼性と軽快性、大陸横断もいとわない舗装路でのアジリティー。これらをバランス良く一台にまとめ上げることがGSの真骨頂だ。多くのユーザーや自ら世界に飛び出すことをいとわない開発陣。彼らによる緻密かつ濃厚に積み上げられた旅力はプロダクトに反映され、GSの細部にまで宿っている。
 
 一言でいえば、道を選ばないツーリングバイク。まず舗装路では長時間の高速移動に求められる安定性と乗り心地、そして退屈しないハンドリング。
 峠道ではロードバイクを追いかけ回す満足度の高い旋回性能を持ち、しっかりとした足回り、ブレーキ性能を持つ。このアジリティーの良さは市街地でも遺憾なく発揮され、平日出動率が高いこともその証左だ。大柄ながら扱い易い作り込みにより乗り手に馴染む走りは想像以上のもの。
 
 オフロードでの走破性、乗る楽しみを存分に味わえる車体の造りだ。電子制御セミアクティブサスペンションの装備はどの場面でもこのバイクを良質なパートナーとして価値を高めているのはいうまでもない。
 
 これらに寒さ、暑さ、雨など天候を物ともせず旅をつづけるための快適性が加わる。望めばオプションで高機能なウエア、パニアケースなどツーリングに必要な物が揃う。正直国内では値段は張る。が、社外品でこれを上回る物を探すのは骨が折れるだろう。これはGSに限ったことではないが、BMWは乗る人のライフスタイルをじっくり考え、その人達が何をほしがっているのかを理解してプロダクトもアクセサリーも造っている。
 
 現在、BMWが展開するGSファミリーは、並列2気筒800㏄エンジンを搭載するFシリーズ、そして水平対向2気筒を搭載するRシリーズがある。大きく分けてFに3機種、Rが2機種、という展開だ。装備や仕様によって細分化されるが、メーカーのサイト( http://www.bmw-motorrad.jp/jp/ja/index.html?content=http://www.bmw-motorrad.jp/jp/ja/bike/model_overview_2016.html&notrack=1 )で確認をして欲しい。ここではF、R両シリーズの中でもっとも長距離ツーリングを意識したBMWらしい2台を紹介する。

 
R 1200 GS ADVENTURE

BMWのワークス・エクスペディションマシン。

 いわばGSモデルのフラッグシップと言えるのがこのR1200GS アドベンチャーだ。30リットル入りの燃料タンク、ガードを固めた外観、オフロード用にストロークを伸ばした前後電子制御セミアクティブサスペンション。リアにはイニシャルプリロードを荷重に合わせて選択出来る電動プリロード調整も装備。

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 オフロード走行での機能を高めるためオフロードで滑りにくいワイドステップや高さを二段階に調整可能なブレーキペダルを装備するなど、オンもオフロードをガンガン走るための装備を持っている。

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 ライダー、パッセンジャーシートが2分割構造なのはR1200GSと同じながら、パッセンジャー用シートの座面をよりフラットなデザインとして、オフロード走行時にライダーが体重移動したとき、尻をスムーズに動かせるようしているのも実際にそんな場面を走って見ると実感する「良く出来ている」部分だ。

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 リアキャリアやパニアケースステーをパイプ製として、荷物の積載性やタフネスを上げている。また、アドベンチャー用の純正パニアはアルミ製となる。スクエアな荷室や、大荷物をパニアケースの蓋の上に載せられるような発展性があり、辺境の地で転倒、ダメージを受けても、いざとなればひっぱたいて直せる。樹脂ケースのようなスマートさは無いが、トラブった時、解決策があり、ライダーのメンタルをサポートするための選択だろう。それに、そんな思い出は後で旅の物語として長く語り継ぐこともできる。

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 そのほか、可変式スクリーンの幅、高さとも大型に。LEDフォグランプ、大型のマッドガードの装備などもアドベンチャーの特徴。

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 クルーズコントロール、ロー/ハイビームとも高輝度なLEDとなるヘッドライト、LEDウインカー、グリップヒーター、オンボードコンピューター、純正ナビ用取りつけマウント、その画面を操作するジョグダイアルが左グリップに備わり、画面切り替えや目的地設定なども朝飯前。

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 また、現行モデルはハンズフリーキー(BMWではキーレスライドと呼ぶ)式で、ライダーはキーをポケットにいれ、起動スイッチを押すだけ。タンクキャップももちろんキーレスで開閉可能だ。
 
 BMWのバイクは安くない。しかし、走りの良さに加え、こうした装備の充実を考えると決して高く無いことが解る。
 
 ABS、ASC(オートマティック・スタビリティー・コントロール)、ダイナミックESA(エレクトロリック・サスペンション・アジャストメント)を装備。荷物量、パッセンジャーの有無などで足回りの設定を簡単に変更できる。
 
 また、モード変更で、ロード、レイン、エンデューロ、エンデューロプロと環境変化にボタン一つで即応可能なのも特徴だ。走行中でも変更が可能なのは言うまでもない。
 
 重量、シート高、車体サイズなど、乗り手にもスキルと体格を求めるのは事実。それでもこのバイクは、日本の林道なら相当に楽しめる運動性を持ち、チャレンジングな荒れ地でもその走破性は高い。重さを敵に回さず味方に付ける事を知るライダーならば、驚く程のダート性能に嬉しくなるはずだ。
 ABS、トラクションコントロールも司るASCもモード変更で設定が変わり、武器となるライダーアシストとして機能している。1日よりも2日、そして3日と長い時間このバイクと共にすると、他のバイクでは無い魅力に引き込まれるのだ。
 
 一つだけR1200GSアドベンチャーでのエピソードを。取材でのこと。林道を走り回り、イベントの会場に戻ったのが午後3時近く。その楽しい記憶を一緒に走り回ったライダー達と分かち合い、ひとしきり盛り上がり、そろそろ帰宅を、と腰を上げたのが午後4時過ぎ。場所は岩手県北部。八幡平エリアだ。東北道に乗る前にガソリンを満たし、走り出す。夕方の東北道を南下すると程なく予報通り酷い雨になった。それでも、大型のスクリーン、左右に張り出したタンク、水平対向シリンダーのおかげで、カッパを着るまでズブ濡れにならずに走れた。グローブもさして濡れていない。6月だったが、日暮れ後の気温は低く、濡れた手は冷たい。2段階調整のグリップヒーターが薄手のグローブながらかじかんだ手を温めてくれた。そう、この装備は夏でも使うのだ。
 高速を走行中、ナビ画面をオンボードコンピューター表示として、速度、トリップなどをアップライトして表示することができる。その表示項目画面をパーソナライズして欲しい情報を大写しもできるから使い勝手がよい。また、日本ではその機能を使う場面は無いが、この純正ナビ、国境やタイムゾーンを越えた場合、ナビのGPSがそれを受信し、バイクの時計を自動補正する機能も持つ。
 海外で時計の時間を合わせる煩わしさ。「面倒だからやらない。スマホあるし」の一歩先を行く旅力。これなのだ。スイッチ類を含め、後付けナビにはマネできない機能を持つのも特徴だ。
 
 途中1度の給油とトイレ休憩程度で自宅までの600キロを走破できた。結局、レインウエアもアッパーだけしか着用しなかったが、雨の上がった埼玉まで下半身は浸水することなく走破している。暗い高速道路。悪条件の中、LEDライトやフォグの威力は相当なものだった。もちろん、LEDという理由ではなく、その配光や輝度を含めた完成度の高さ故、である。
 
 水冷エンジンになって車体レイアウトをより理想に近づけたことにより、目方、サイズは変わらないが、従来型のボクサーツイン搭載のGSから大きく進化した走りもそうだが、この日だけで800キロ近くを楽しんで翌日にはケロッとしていられる旅力。凄いのだ。

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F 800 GS ADVENTURE

コンベンショナルな出で立ち。
ミドルクラスアドベンチャーの実力。

 BMWが並列2気筒のF・GSを世に出したのは2008年のこと。ロータックスと共同開発した800㏄360度クランクのパラレルツインをトラスフレームに搭載。サブフレームを兼ねる樹脂製タンクをシート下に設え、低重心化を実現するレイアウトも単気筒時代のF650GS から引き継いだ特徴的なものだ。

 エンジン特性やサスペンションストローク、ホイールサイズ等でオフロードを意識したF800GS、取り回しの良さや市街地での親和性をも意識したF650GSの二機種をリリースした。エンジンは同じ800㏄ながら、650はより低中速回転域での使い勝手を意識した特性を与えていた。その扱いやすさで、通には最後のバイクはこれがいい、と言わしめた。が、実は林道レベルのダートなら650はセローのように扱いやすく速いバイクだった。
 
 その後、F650GSは名をF700GSへと変更。外観意匠やローダウンサスモデルの追加などアップデイトを重ね、現在にいたる。このF・GSファミリーに2013年に加わったのがF800GSアドベンチャーだ。R1200GSアドベンチャー同様、より冒険ツーリングへの親和性を高めた装備は、GSの世界観をFシリーズの守備範囲を広げたモデルとして歓迎された。
 
 装備面でF800GSとF800GSアドベンチャーを比較してみよう。まず外観。ラジエターシュラウド回りに幅を持たせ、ビッグタンクを思わせるスタイルに。リアサブフレームを兼ねる燃料タンクは、GSの16リットルから24リットルと大型化された。また、大型ウインドスクリーンの採用、エンジンガード、タンクガードの採用、オフロード走行に向いたワイドステップ、アジャスタブルブレーキペダル、厚手の専用シート、オーバーフェンダー等、冒険ツアラーという芳香を放つ装備とスタイルが特徴だ。

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 サスペンションもESAという電動でダンピングを変更できるシステムをリアショックに搭載。イニシャルプリロードは手動ながら、走行状況に応じてライダーはスイッチ一つでアジャストが可能だ。
 
 また、R1200GS シリーズ同様、ASC(オートマティック・スタビリティー・コントロール)を装備。ESA、ASCはF800GSでもオプション選択できるが、メインスタンドなどを含めアドベンチャーでは標準化されたことを考えると、その他の装備を含め、F800GSより19万円高い161万円という価格も説得力を持っている。
 
 装備面の違いからF800GSよりも8キロの重量増となるが、アイドリングの上から扱いやすいエンジン特性と、85馬力を生み出す2気筒エンジンは街中では必要にして充分、開ければパンチのある加速を楽しませてくれるキャラクターだ。

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 高速道路でもパワフルさに陰りはない。逆にちょっと元気過ぎると思うほどだ。
 フロントが230mm、リア215mmというサスペンションストロークは、オンロードで攻め立てすぎるとブレーキング時のピッチングが大きめに出るが、乗り心地はマイルド、厚手のシートや大柄がスクリーンもあって、ロングディスタンスには強みを出す。

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 ダートランでは長いサスペンショントラベルが活き、安定した走破性を持つ。その分、前後荷重移動を意識したコントロールをすれば、重量を活かしたトラクションを掴むことができ、満タンで232キロという車体を感じさせない運動性を持つ。
 
 このバイクにもBMWが培ってきたGSらしさがふんだんに入っているのだ。

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