Kawasaki Ninja1000試乗

■試乗&文:河野正士 ■撮影:ハーレーダビッドソンジャパン/河野正士 ■協力:ハーレーダビッドソンジャパン http://www.harley-davidson.com/

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『4月下旬、ハーレーダビッドソンの新型車「ストリートロッド」の国際試乗会に参加することが出来ました。僕を含めた日本人ジャーナリストが参加したのは、アジアパシフィック地域を対象としたシンガポールでの試乗会でしたが、同タイミングで欧州地域を対象とした試乗会がスペインで行われていたようで、まさに世界同時タイミングでの「ストリートロッド」発表会だったわけです。その乗り味は次世代のハーレーダビッドソンに相応しいモノであり、「ストリートロッド」の登場で今後のハーレーダビッドソンのモデル構成も大きく変わり、また各メーカーがニューモデルを投入しライフスタイル系とも呼ばれ活況を呈している”ネオ・スタンダード”カテゴリーがさらに面白くなるのでは、と妄想が膨らむ出来映えでした』。

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「ストリートロッド」は3カラーをラインナップ。右からチャコールデニム、オリーブゴールド、ビビッドブラック。

 
「ストリートロッド」は、そのモデル名からも分かるとおり、「ストリート750」のプラットフォームを使ったニューモデル。2013年のEICMA/ミラノショーで発表され、2014年に市場投入、2015年に日本デビューを果たした「ストリート750」は、”レボリューションX”エンジンと呼ばれる、新開発された排気量750cc水冷SOHC4バルブで、挟角60度のV型2気筒エンジンとともに、新開発の専用フレームを採用しています。そのプラットフォームを採用した「ストリートロッド」が登場したことで、ハーレーダビッドソン(以下ハーレー)のモデルラインナップの中に”ストリート・ファミリー”が形成されたわけです。これについては、あとで僕の妄想を書きますね。

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エンジンは「ストリート750」にも採用された”レボリューションX”をベースに改良を加えた”ハイアウトプット・レボリューションX”エンジンを採用。

 
 ストリート・ファミリーの共通プラットフォームを採用するとは言え、「ストリートロッド」は各部に、大幅に手が加えられています。エンジンはボア×ストロークやバルブ周りに変更はありませんが、バルブのリフト量とオーバーラップを増やした新型カムを採用。またポート形状を変更するほか、フューエルインジェクションシステムはφ38mmのシングルスロットルからφ42mmのデュアルスロットルボディを新たに採用しています。それに合わせエアクリーナーボックス形状も大幅に手が加えられ、そのカバーはアメリカンマッスルカーが採用するスーパーチャージャーのインテークをモチーフとし、新しくなった吸気系に合わせ排気系も一新されています。
 
「ハイアウトプット・レボリューションXエンジン」と名付けられたこのエンジンは、圧縮比を11:1から12:1へと引き上げ、またエンジンをより高回転型とすることで最高出力を約18%、最大トルクを約8%向上させています。

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軽量&軽快な車体は、各部を変更しスポーツバイクとしてのポテンシャルが高められている。

 

 この変更点やスペックを見ると、ビッグツインと聞いて誰もがイメージする”ドカドカッ!”という爆発感と尻を蹴飛ばされたような加速感を想像するかもしれませんが、「ストリートロッド」のパワー感はそれとは少し違っていました。そもそもストリート750は爆発感の粒が小さく、またハーレーのビッグツイン系やスポーツスター系のエンジンと比べ歩幅の狭い爆発間隔で、高回転域までフラットに、そして伸びやかに加速していく感じ。「ストリートロッド」はそのエンジンフィーリングを維持したまま、車体を前に押し出すトルク感が全域にわたって一回り、中低速域では二回り近く太くなっている感じなのです。この太くなったトルク感を活かして、通勤や通学といった街中での走りを楽しくしたい、というのがエンジン開発のコンセプトだったようです。
 

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右側37.3度、左側40.2度のバンク角を持つ。現在ラインナップされているハーレーモデルの中でもっとも深いリーンアングルを持つことになる。

 

 街中での走りを楽しむ上で重要だったもうひとつの要素が新しいシャシー周りにありました。フレームの基本骨格はストリート・シリーズと共通ながらステアリングヘッドアングルを5度立て、新デザインの前後17インチホイールを採用。またフロントには、スポーツスター・ファミリーの「ロードスター」とは異なる倒立フォークを、リアにはリザーバータンク付きの新型サスペンションを装着し、やや前下がり&尻上がりのスポーティなスタイルが採用されています。ミッドコントロールのステップ&ペダル類に低めのドラッグスタイルのバーハンドルが装着されたことでやや前傾のライディングポジションとなり、そのままシンガポールの街中に出て渋滞する車をかわし、交差点を抜け、ちょっと気持ちのいいワインディングを走ると、なんだか”カフェレーサー”スタイルのバイクに乗っているような気分になります。
 

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通勤や通学を含めた日常生活での扱いやすさを含め、街中で求められるパフォーマンスを求めたストリート・ファミリーのプラットフォーム。それをベースに、「ストリートロッド」はよりスポーティなスタイルとパフォーマンスが追求されている。

 

 兄弟モデルである「ストリート750」は、低いシートに手前に引かれたハンドルによってアップライトなポジションが採用され、ピックアップのいいエンジンに合わせ、やや多めのサスペンションピッチングと細いフロントタイヤが生み出す軽快な乗り味が特徴的でした。対して「ストリートロッド」はライディングポジションに加え、前後サスペンションの反応がスポーティで筋肉質な感じ。フロント周りの安定感が増し、よりスポーティなライディングが可能になりました。今回の試乗ではワインディングセクションがごく僅かだったので、今度はじっくりとスポーツライディングを楽しんでみたいものです。
 

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我々が参加したのはアジアパシフィックエリアを対象とした試乗会。都会でのパフォーマンスを味わうため、その試乗の舞台はシンガポールの中心街となった。

 「ストリートロッド」の開発は、「ストリート750」と並行して行われていた、と言っても過言ではありません。その始まりはじつにユニークで、もしもハーレー自身が「ストリート750」をカスタムしたら、と言うモノでした。そこから生まれたのが3台のカスタムマシン。一台はハーレーダビッドソン・デザインスタジオが造り上げた「G46 RDX800」、もう一台はストリート750のデザイナーとしても知られるダイス・ナガオ氏がデザインした「GARAGE(ガレージ)」、そしてストリートロッドをデザインしたチェタン・シェジャル氏がデザインした「URBAN CUSTOM(アーバン・カスタム)」でした。この3台のカスタムマシンは、「ストリート750」がワールドローンチされた2013年のEICMA/ミラノショーにも展示されていました。「ストリートロッド」は、その「G46 RDX800」のコンセプトをそのまま具現化したようなモデルなのです。ストリート750用の純正オプションパーツ開発も合わせ、「ストリートロッド」はまさに、ストリート・プラットフォームのバリエーションと可能性を広げて行った結果、生まれたモデルなのです。
 

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「ストリートロッド」の発想の原点ともなった、ハーレーダビッドソン・デザインスタジオが造り上げた「ストリート750」ベースのカスタムコンセプトマシン「G46 RDX800」

 そこで冒頭に述べた、ストリート・ファミリーの可能性について想像を膨らませてみようと思います。今回の「ストリートロッド」の試乗前に行われたプレスカンファレンスの冒頭で、「ストリート750」の2014年の市場投入後の販売台数が発表されました。その世界累計販売台数は3万5000台以上。アメリカでは2015年および2016年のスモール・クルーザー市場(601~1200cc)においてナンバー1の販売台数を記録。これはスポーツスター・ファミリーのあらゆるモデルを抑えての数字となります。またオーストラリアとインドではマーケットシェア1位となりました。要するにハーレー的には大成功のニューモデルと言うわけです。
 
 さらにハーレーは4月中旬、2017年の第1四半期の決算とともに、2027年に向け以下の5つの成長戦略を発表しました。①アメリカで200万人の新しいハーレーユーザーを生み出す②国際ビジネスを全体の50%に成長させる③100の新型モデルを発表する④ハーレー社の投資収益率を高める⑤環境に影響を与えずビジネスを成長させる、です。これらは、主に投資家に向けた発表ではあるものの非常に興味深い。なかでも注目は①~③です。
■情報ソース: http://www.harley-davidson.com/content/h-d/en_US/home/events/press-release/general/2017/harley-davidson-reports-first-quarter-2017-earnings.html?year=recent&source=company
 
「ストリート750」「ストリートロッド」は、街中での”あらゆる”パフォーマンスを求め、それをもって新しいユーザーにアプローチするために開発されたモデルです。そしていままでハーレーがアプローチできていなかった新しい市場を開拓するモデルでもあります。約3年で3.5万台という販売台数が、今後もそれを後押しするでしょう。しかし③をクリアしようと思うと、ビッグツイン系を昨年発表した新型エンジン「ミルウォーキー・エイト」に総取っ替えしても、大幅に目標数に足りません。全くの新規モデルの登場も予想できますが、好調なセールスを記録しているストリート・ファミリーを大幅に拡充することは目に見えています。

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「ストリートロッド」に跨がるのがデザインを担当したチェタン・シェジャル氏。その後ろに立つのはモーターサイクル・プロダクトプラニング・ディレクターのピーター・ケプラー氏。車両とともに純正アパレルコレクションも展示された。
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新型ハイアウトプット『レボリューションX』エンジンは、吸気ポートの形状を変更するとともにφ42mmのデュアルスロットルボディを新たに採用。またリフト量とオーバーラップを増やした新型カムシャフトも採用する。

 そうなるとストリート・プラットフォームを使ったカフェやスクランブラー、トラッカーやツーリングモデルなどのバリエーションも十分に考えられます。とくに今年から、アメリカン・フラットトラック選手権に参戦するハーレーのファクトリーチームは、「ストリート750」をベースにしたファクトリーマシンを投入しています。それをイメージリーダーに、トラッカースタイルを中心としたスポーティなバリエーションモデルが投入されれば、ハーレーはより幅広いユーザーを獲得できるのではないかと想像します。
 
 ストリート・プラットフォームを使いながら、エンジンもシャシーもハイパフォーマンス化された「ストリートロッド」に乗ると、そんな妄想も実現できるのではないかと、その期待を大きく膨らませることができたのでした。
 

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フロントにはφ300mmのディスクローターをダブルで装着。ブレーキシステムはBYBRE製でABSも装備。キャリパーにはハーレーのトレードマークである”バー&シールド”が刻印される。 倒立型フロントフォークは専用開発されたφ43mmのインナーチューブを持つ。フロントホイールは17インチ化され、専用デザインの軽量ホイールを装着している。 リザーバータンク付きのリアサスペンションも「ストリートロッド」用に専用開発されたもの。ストリート750に比べ自由長が伸び、イニシャル調整機構のみを装備する。
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細かくキャラクターラインがデザインされたビキニカウル。「ストリートロッド」のスポーティなキャラクターを象徴するアイテムだ。 ガソリンタンクは「ストリート750」と共通。しかし搭載位置を変更。より高く、そして前方に移動することでアグレッシブなボディラインを造り上げている。 丸型の一眼メーターを装着。針式の速度計に加え、デジタルパネルには走行距離やエンジン回転計などを、ボタン操作で切り替え表示することができる。
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グッと短くデザインされたシートカウル。このコンパクトさもデザイナー陣がこだわったディテールのひとつ。テールライトもシートカウルに押し込むようにデザインされている。 シート高は「ストリート750」からは45mmほど高くなっているが、それでも国産400ccネイキッドモデルと変わらない765mmとなっている。 バーエンドの両サイドにセットされたミラー。視界は悪くないが、混雑する街中での使用や後方確認には慣れが必要だろう
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吸気系の変更にともない排気系もアップデートされている。大幅に短くなり、よりスポーティになった車体をデザイン的にアピールする。 タイヤはミシュラン製スコーチャー21を装着。ミシュランとともに専用開発した新型ラジアルタイヤだ。
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ライダーは身長170cm。両足をしっかり地面につけることができる。
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●ハーレーダビッドソン ストリートロッド 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,130×870×1,145mm、ホイールベース:1,510mm、最低地上高:205mm、シート高(無負荷状態):765mm■車両重量:238kg■レーク/トレール:27°/99mm■エンジン種類:水冷SOHC8バルブ60度V型2気筒ハイアウトプット「レボリューションX」エンジン、ボア×ストローク:85×66mm、排気量:749cc、圧縮比:12.0:1、燃料供給方式:ミクニ製42mmボア・デュアルスロットルバルブ/サイドドラフトインダクションシステム、最大トルク:65Nm/4,000rpm■フューエルタンク容量:13.2リットル■フロントタイヤ:120/70R17V、リアタイヤ:160/60R17V■車両重量:238kg
■車両本体価格(消費税込):「ビビッドブラック」1,070,000円、「チャコールデニム」、「オリーブゴールド」1,098,000円

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