MOTOGZZI V7 RUN

 
モト・グッツィと聞いて思い出すのは
その独特なエンジンレイアウトだ。
バイクが、工業製品がどんどん高性能化していって
ひとつの地点に集約。向かっているのに
モト・グッツィだけは違っているのだ。
それが「クセ」。モト・グッツィはクセがスゴい!

■試乗・文:中村浩史 ■撮影:松川 忍
■協力:Piaggio Groupe Japan http://motoguzzi-japan.com/

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ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。

 空冷Vツインエンジンというエンジン形式自体は、そう珍しいものじゃない。この数年の排出ガス規制、騒音規制によって「空冷」方式自体がずいぶんと減ってしまったけれど、ハーレー・ダビッドソンの主要モデルは空冷Vツインだし、ドゥカティ・スクランブラーシリーズも空冷Vツイン。BMWのR-nineTシリーズも、Vではないけれど、空冷ツインだ。
 けれど、ハーレーはSTREETシリーズを、ドゥカティはスーパーバイクやスーパースポーツシリーズ、つまり水冷エンジンモデルをラインアップしているのに対し、モト・グッツィは空冷Vツイン一辺倒なのだ。今のところ、モト・グッツィの歴史上、水冷エンジンにチャレンジした記録はなかったような気がするしね。
 
 モト・グッツィの空冷Vツインは、1967年にその歴史がスタートした。初代Vツインは700ccのV7。驚くべきことに、エンジンの基本設計やベースとなっている構造は、この初期モデルからほとんど変わっていない。もちろん、材質や細かいディテール、加工や設計の技術がアップデートされている分、そのままのエンジンなわけではないが、エンジンの基本とされる軸寸法や配置構造などはほぼ同一。初期モデルのパーツがそのまま使用できるものもあれば、逆に現在のパーツが初期モデルに使用できることもある。これって、ものすごい奇跡だ。
 さらに、縦置きクランク+シャフトドライブの駆動系も初期モデルから不変。縦置きクランクというのは、バイクの進行方向に沿ってクランクシャフトが走っている構造で、通常(世の中の98%くらいのエンジン)は横置き、つまり車体進行方向に直交している。
 これが、ブンとアクセルをあおった時に、車体が右方向にぐらっと傾く要因になっている。これがトルクリアクション。さらに、この縦置きクランクは、モト・グッツィのハンドリングの特徴を作る大きな要素になっていて、それがジャイロアクションだ。
 ジャイロとは、ちょうどコマを回した時に垂直方向に安定する力のことで、回転する軸と直交する方向に安定する力のこと。つまりモト・グッツィは、クランクシャフトのジャイロで、直進方向に安定する特徴を持っているのだ。ラグビーボールをまっすぐ遠くまで飛ばすとき、プレイヤーはボールをきりもみ状に回転させながら投げるし、ライフル銃の弾丸は、銃身に線条痕を切ってある。それと同じことだ。
 だからモト・グッツィは、停車時にアクセルをあおると車体がぐらっと右方向に傾くし、ハンドリングも直進安定性が強い。それがモト・グッツィのクセなのだ。

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 モト・グッツィV7は、初期モデルと同じネーミング。もちろん、現行のV7は2010年にブランニューモデルとして誕生したものがルーツで、V7クラシック、V7Ⅱ、そして2017年にV7Ⅲに進化したというわけだ。
 それでも、やはりモト・グッツィはモト・グッツィだ。クセの強さは弱められてはいるものの、相変わらず車体はグラッと傾くし、クルージングではモト・グッツィらしい直進安定性が心地いい。このクセが、現代のバイクの中で際立っているのだ。
 
 2010年に発売されてから、V7シリーズはモト・グッツィの屋台骨を支えるほどのヒットモデルになった。初期モデルV7クラシックに乗ったことは忘れられないな――。あぁ、こんなにベーシックで本物のクラシックバイクがあるんだ、とちょっと感動したりもしたからね。
 V7Ⅲは、その最新バージョン。エンジンは、新規モデルとしてすでに発売されているV9(=850ccの空冷Vツイン)シリーズをベースに750cc化したもので、パワーアップし、好燃費化、そして最新の排出ガス規制「EURO4」をパスしている。
 エンジンは新しく、力強くなったというものの、そのパワーフィーリングはモト・グッツィらしさにあふれている。旧V7クラシックや、その後継モデルであるV7Ⅱよりも、いくらかフリクションロスが減り、回転が軽やかになっている感じ。さらに、レスポンスもよくなっているが、決してシャープすぎないし、パワフルすぎることもない。けれど、このトルクの出方や、重いクランクシャフトがごろんごろん回るようなネバり感が、変わらないモト・グッツィのフィーリングを持ち続けている。
 ハンドリングは、上にあるように直進安定性が強いタイプ。しかし、ガンとして曲がらない、なんてタイプではなくて、モト・グッツィらしく乗れば、スッと軽くレーンチェンジやコーナーにエントリーできる。モト・グッツィらしい乗り方、っていうのは、直進状態を崩す、つまりスッとアクセルを緩めてやればいい。すると、安定が崩れて、次の安定状態へ移ろうとする――それがモト・グッツィなのだ。
 それでも、モト・グッツィらしさを一番感じることができるのは、やはりクルージング。高速道路を走っていると、トップギア6速で100km/hは3500rpm、120km/hは4250rpm。この辺の回転域で、ぶるぶると車体を震わせていた振動、いやそんなに高周波じゃないから鼓動というべきか、それがスーッと消えて気持ちのいいゾーンに入るのだ。
 そこからアクセルを開けると、また加速してくれるんだけれど、モト・グッツィは6速4000rpmくらいが一番キモチがいい。それは断言する。

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 今回は、V7Ⅲシリーズの3台、スタンダードのSTONEと、V7誕生50周年記念アニヴェルサリオ、そしてカフェレーサーバージョンのRACERに乗ったけれど、走行フィーリングはほぼ同じだ。
 V7Ⅲレーサーが、セパレートハンドルでバックステップ、さらにリアサスもオーリンズが標準装備されているから、車体姿勢も少し前がかりになって、リアの動きがいい。ワインディングを走るならばRACERが一番フィットするけれど、そこは少しペースを上げた時に感じる違いであって、気持ちよく流したいスピード域では、STONEもアニヴェルサリオも変わらない。もっと飛ばしたいなら、モト・グッツィは選ばないことだ。他に気持ちのいいバイクはたくさんある。
 僕はSTONEがいちばん気に入ったなぁ。タコメーターもない、マットなカラーリングのボディはすごく落ち着くし、これでのんびり走る、少しアクセルを開け気味に走るのが、本当に気持ちがいい。初めてビッグバイクに乗ったときのような、新鮮な気持ちが味わえる。こういう気持ちにさせてくれるバイク、本当に貴重だと思う。
 
 たとえば同じ水冷4気筒のスーパースポーツを乗り比べて、エンブレムやスタイリングを見ずしてそれがナニカを判別するのは難しい。目隠しして走れたとして、CBR1000RRとGSX-R1000Rを判別するのは難しい。けれど、モト・グッツィならばそれがわかるのだ。比較的似ているのはボクサーツインのBMW。けれど、モト・グッツィは明らかに違う。
 
 これが個性だ。モト・グッツィはきっとこの先50年も、急に方向転換をして高性能を追い求めることはない。つまり、この個性を失うことはないのだろう。
 
(試乗・文:中村浩史)
 

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右が1967年発表の、モト・グッツィ初のVツインモデル、700ccのV7。そして左が2017年発表の最新V7Ⅲ50thアニヴェルサリオ。材質や製法、細かい仕様は異なるものの、なんと基本設計は同一。初期モデルのエンジンに使える最新の純正エンジンパーツもある。 世界限定1000台、うち日本入荷は50台が予定されているアニヴェルサリオ。ストーンをベースに、クロームメッキタンク、専用レザーシート、アルミ削り出しのタンクキャップなどを採用し、シリアルナンバー入りのハンドルクランプホルダーが装着される。
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セパレートハンドル、シングル(風)シート、バックステップを採用するのがV7Ⅲレーサー。エンジン、車体に変更はないが、フルアジャスタブルのオーリンズ製リアサス、ライディングポジションの専用設定で、走りのテイストはかなり異なっている。 V7Ⅲのスタンダード仕様といえるのが、ストーン。マット系のボディカラーを採用するシブ目系で、先代のV7Ⅱからのマイナーチェンジではなく、エンジン、フレームを一新。新しい排出ガス規制「EURO4」に対応しながら、約10%のパワーアップを果たしている。
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なんと、生誕50周年を迎えたモト・グッツィ製縦置きVツイン。1967年デビューの初代Vツインと基本設計は大きくかわらずも、50年もの間に熟成されつくし、現代の排出ガス規制「EURO4」をパス。新生V7は3世代目となって、正式名称はV7Ⅲ。V7Ⅱから約10%パワーアップし、しかもグッツィ特有の「味のあるエンジン」は健在。
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通常の多くのエンジンは横置き、つまりクランクシャフトが進行方向と直角だが、グッツィの縦置きVツインや、BMWのフラットツインは進行方向に沿ってクランクシャフトが伸び、そのままドライブシャフトにつながっている。これが俗称「縦置き」エンジンだ。国産モデルでは、ゴールドウイングやCTX1300が縦置きクランクシャフトを採用している。 V7Ⅲシリーズの3モデル中、唯一のキャストホイールが、このSTONE。ホイールサイズはフロント18/リア17で、フロントタイヤ幅は100という、今どきのビッグバイクらしからぬサイズ。ブレーキはφ320mmローターにブレンボ製4ピストンキャリパー。
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グッツィといえばファイナルドライブはシャフト駆動。加減速のクセもゼロではないが、気にならないレベル。リアタイヤは130サイズという、これまた今どき珍しいナローサイズ。けれど、このサイズがいいのは本文をご覧ください。マフラーは2本出し。

リアサスは、先代V7Ⅱのメッキカバーを取り外してスタイリッシュに。このV7Ⅲから日本のKYB製ショックユニットを採用し、プリロード調整機構つき。サイドカバーは横長の新型サイドカバーとなり、ライダー側/パセンジャー側ともステップに防振ラバーがつく。
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国産モデルとは逆サイドにあるリアブレーキはφ260mmローター+2ピストンキャリパー。逆側にはシャフトドライブがレイアウトされる。純正タイヤはピレリ製スポーツデーモンで、すごく乗り心地が良い。露出しているコードはABS/トラクションコントロール用。 STONEはシングルメーターでタコメーターなし。液晶表示部にはオド&ツイントリップ、時計、燃費や気温を表示。同系エンジンのV7Ⅲレーサーでは、トップギア100km/hは3500rpmほどだった。取材時の燃費は約285km走って約23.5km/Lだった。
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マットフィニッシュとしたボディカラー。このブルーのほかにブラック、カモフラグリーン、イエローの4色がある。容量は21Lでフューエルキャップは取り外し式、フルタンク400km走行も可能。タンクエンブレムはモトグッツィのネームはなく、グッツィイーグルのみ。 シートはクッション薄めだが、乗り心地は上々。前後にわずかに段差はあるが、全体のシート傾斜はなく、車体全体のプロポーションもヒップアップではないところがクラシックっぽい。キーロック式で、シート下の車載工具入れにはリアサス調整フックレンチがあった。
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ハンドルは弱アップタイプの、昔でいうコンチネンタルハンドル。ずっと乗っていると、とにかくこのハンドルの形状がイイ! ハンドルスイッチは右側にMODEボタンがあり、トラクションコントロールを2段階に切り替えられる。セルボタンはさらに下段。
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ステップはSTONEとアニヴェルサリオが同一で、レーサーがバックステップを装着。縦置きクランク+シャフトドライブ車は、ニュートラルからローへのシフトワークが本当にスムーズ! V7Ⅲは3バリエーションモデルともセンタースタンドつき。 リアフェンダーに装着されただ円テールランプもクラシックな装い。ウィンカーは視認性向上のため左右スパンが40mm広げられた。リアフェンダーもSTONEとRACERが共通で、アニヴェルサリオがショートタイプ+タンデムバーを装着している。 新生V7は“V7III”。
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●MOTOGUZZI V7 III Stone 主要諸元
■エンジン種別:空冷V型2気筒OHV2バルブ 排気量:744cc 燃料タンク容量:21リットル 最高出力:38kw(52ps)/6,200rpm 最大トルク:60Nm/4,900rpm クラッチ:乾式単板 変速機:6速リターン ■シート高:770mm 装備重量:209kg フレーム:高張力鋼管モジュラーダブルクレードル 全長×全幅×全高:2,185×800×1,110mm 軸距:1,463mm タイヤサイズ:F120/90-18/R130/80-17 ■希望小売車両本体価格:1,098,000円(消費税8%込み)

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