XSR900はMT-09のちょっとクラシックスタイルなバリエーションモデル。
ちょっと古め、という流れは珍しくはないけれど
いまどきの「ちょっと古め」が新しい段階に踏み込んできた。
カワサキZ900RS、BMWのRnineTアーバンG/Sと同じ流れ
それがスポーツヘリテージだ。
■試乗&文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/
ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。 |
XSR900は、MT-09をベースとしたバリエーションモデルだ。ちょっとストリートファイター感を狙ったMT-09のスタイリングをオーソドックスなネイキッドスタイルとして、エンジンや足周りもリファイン。MT-09とはかなり違った方向性のロードスポーツに仕上がっている。
MT-09のバリエーションモデルには、トレーサーもある。ハーフカウルを装着したトレーサーも、MT-09とはまったく違うスポーツツーリングに仕上がっているから、このバリエーション展開、本当によくできている。ベースモデルとほとんど同じじゃん、ってツッコミの入る余地がない。こういうところヤマハは本当に上手いよね。
エンジン、フレーム、サスペンションは共通。パッと見、丸目ヘッドライトとプレーンな形状のフューエルタンク(実際はインナータンクとタンクカバー)を装備してネイキッドスタルとした「だけ」にも見えるが、エンジンのキャラクターもサスペンションの設定、さらに着座位置(=つまりライディング中の重心設定)まで変更している。大げさに言うと、こうなればもうMT-09をベースとした違うモデル、といってもいいかもしれない。
もともとMT-09は、ストリートバイクの中でも、ちょっとモタードというか、ストリートファイター的な味付けがされていた。素晴らしくレスポンスのいい新設計の水冷3気筒エンジンとよく動くサスペンションで、ライダーが思いっきり前乗りをして、フロントタイヤをメインに意識してアクションするような、そんなオートバイ。だから、いざのんびり走ろうと思ったら、俊敏に感じていたフットワークが過敏に感じられ、落ち着きがない、と思わせるシーンがあったのも事実だった。
XSR900はそこが大きく違う。まずはMT-09からシート高が上げられ、フロントフォークとリアサスは硬めのセッティングに専用設定。フォークは、オイル番手や減衰力を変更したというより、フォークスプリングレートが高くなって(つまり硬めになって)減衰も強め。軽快にストロークするMT-09と違って、しっとり腰が出たというか、動きに節度が出たかんじ。MT-09の軽いストローク感をひょいひょいと落ち着きなく感じていた人には、好印象に感じるだろう。
事実ぼくもMT-09の軽いフィーリングを落ち着きない、と感じることが多々あったので、XSRの前後サスは好印象。さらに伸側減衰を調整できたので、一度最強に振ってみて、街乗りで少し硬く感じたため、徐々に戻すとピタッときた。位置はノーマルから3ノッチ強め、クリックで変化がわかりやすいサスは、上質なサスだ。
さらに着座位置もやや後方になったことで、ごく普通のロードスポーツに感じられた。ハンドルとステップの位置関係は変更されていないから、シート高が上がって後ろに座るようになった効果なのだろう。
走り出してみると、相変わらずエンジンが強力だ。アップライトなポジションから、イージーなパワー特性を予想する人が多いだろうけれど、パワーモード「A」で走り始めると、きっとびっくりする。レスポンスがシャープで、低回転からトルクが出ているから、日常スピード域が特に強力なのだ。これで動きやすいサスペンションだったから、MT-09は実際以上にモタードっぽく感じていたのかもしれないね。
やっぱり低回転のトルクに慣れるまで、ちょっとぎくしゃくしたライディングになってしまう。その時には、パワーモードを「STD」にすればいい。このモードですらなかなかに強力なんだから、ベースエンジンの素性がいいのだろう。パワーモード「B」は、レスポンスもトルクの盛り上がりもやや物足りないから、路面温度の低い季節や雨の日には有効だろうな。
ちょっと試してみようと、Aモードでパッとアクセルを開けてみたら、フロントがフワッと軽くなって、すぐにTRC(=トラクションコントロール)ランプがピピッと点灯してしまう。出過ぎた力を、電子制御でうまく殺しているんだな。
街中を走るときには、低いギアでギュルギュルと走るより、ポンポンとシフトアップして低回転で走る方がずっと快適だ。もともとのトルクがあるから、加速したいときには、シフトダウンなしでパッとアクセルを開けてあげればいい。空いた街中を流すときには5速2500rpmで50km/hかそこらでスーッと流すことができる。アクセル開度や開けるスピードで取り出すトルクをコントロールできる、本当によくできたエンジンだなぁ、と感心してしまう。
高速道路では、同じようにポンポンとシフトアップしていって、トップギア3200rpmが80km/hあたり。4000 rpmが100km/hくらいで、このクルージング状態からパッと加速するのが気持ちいい。一定速ではスーッと無振動領域が楽しめて、XSR側は追い越しやレーンチェンジで加速する準備がいつでもできている、という感じ。硬軟自在、ゆっくり走るのもパッと加速するのも楽しい。この強力なエンジンで、クルージングが快適なのもすごいね。もちろん、クルージングの快適さならばトレーサーが一歩上だけれど、日本の法定速度ならば走行風だってほとんと気にならないからね。
けれど、いざワインディングに踏み入れると、XSRは今まで感じていたイージーさやフレンドリーさを裏切り始める。いいペースでワインディングを流していると、ちょっとフロントの落ち着きが足りなくて、ラインがぴたっと決まらないのだ。あれれ、あれれ、上手く走れない?――この状態は、スーパースポーツにうまく乗れない時に似ているかな。
解決法は、メリハリを利かせること。しっかり加速して、進入でしっかりブレーキをかけて、フロントを沈めてあげること。少しめんどくさい言い方をすれば、フロントフォークのストローク位置の深いところを使ってあげればいい。コーナリングでも少しブレーキを残すよう走ってみれば、XSRはフロントからぐいぐい曲がっていくコーナリングマシンになる! バンク角も深いし、切り返しもクイックだから、これはひょっとして、ワインディングではYZF-R1をカモれちゃうかも、と思ってしまう。少なくとも、XSRに乗るぼくの前に、YZF-R1に乗るぼくがいたら、さんざんつっついて遊んであげられるな(笑)。
街中がラクで、クルージングが快適、さらにワインディングに入るとコーナリングマシンに変身する――それがXSR900の正体にかなり近い。街中と高速道路のツーリングだけならば、のんびりもキビキビも走れるいいストリートバイクなのに、山道のこのパフォーマンスは、ある意味意外だったなぁ。
つまり、最初にあげたZ900RSやRnineTシリーズも含めて、新しい世代の「ちょっと古め」なバイクたちは、走りを最新のパフォーマンスのまま、スタイリングだけを古っぽく見せるところがイマ風なのだ。XSRのモノサスとか極太スイングアームとか、デジタル一眼メーターなんかがいい例で、これをただクラシックに見せたいなら、2本サスにしてパイプでスイングアームを組んで、アナログ2眼メーターなんかに仕立て上げているだろうからね。
かつての初期ネイキッドブームの頃は、空冷エンジン/2本サスの良さを再認識しよう、って意味合いもあったんだけれど、それが変わってきているんだな、と実感しました。たとえばXJR1300なんか、空冷/2本サスのパフォーマンスを突き詰めている作品だけれど、それとはそもそもの次元が違う。もちろん、楽しい楽しくないは個人の尺度だけれど、XSR的世界は、これからどんどん広がっていくと思うのだ。
(試乗・文:中村浩史)
エンジンはMT-09用に開発された名機・水冷3気筒DOHC4バルブ。4気筒の力強さと2気筒のパルス感が同居したようなパワー特性が大好評のユニットだ。トラクションコントロールはOFF/1/2と3段階切り替えができ、パワーモードはA/STD/Bで、Aがハイレスポンスのフルパワー、Bが穏やかな特性だ。シフトアップ側はクラッチ操作が不要。 |
パワーモード/トラクションコントロール状態も表示するデジタルメーター。ギアポジションのほか、オド&ツイントリップ、瞬間&平均燃費、水温&気温、時計なども表示する。 | パワーモードは右、トラクションコントロールは左ハンドルスイッチで調整する。小振りなハンドルスイッチ、特にウィンカーは、冬用の厚手なグローブでちょっと操作しづらかった。 |
メインフレームはアルミダイキャスト製。前方に取り付けられている箱状のパーツはヒューズボックスで、ボルトのデザインまで工夫し、特に隠さずにあえて露出させている。 | 座面とサイド部の素材を使い分けた、前後の段差の少ないステッチ入りシート。シートを取り外すと、シート下に小物入れスペースが現れる。 |
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