Kawasaki Ninja H2 SX SE 試乗

 
Ninja H2 SXは
スーパーチャージドモンスターNinja H2の
いわばツーリングバージョン。
Ninja H2がさらに進化して
もっとスーパーチャージャーが身近になった。
……とはいえ200psの野獣は健在!
まったくH2って、どうかしてる!
刺激度世界ナンバー1の地位、ゆるぎない!

■試乗&文:中村浩史 ■撮影:島村栄二
■協力:カワサキモータースジャパン http://www.kawasaki-motors.com/

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ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると片足時→両足時、両足時→片足時の足着き性が見られます。

 スーパーチャージャー搭載の200psエンジン搭載で世界のド肝を抜いたNinja H2/H2R登場から2年、カワサキがまたまた世界を驚かせた! それが、このNinja H2 SX。あのNinja H2のツーリングバイクバージョンである。とはいえ、スーパーチャージャー搭載の200psスポーツ、こ、これのどこがツーリングなんだ、と思ったけれど、その予想は正解半分、不正解半分。さすがカワサキ、軽々と僕の予想のナナメ上を行く。
 Ninja H2 SXに搭載されるスーパーチャージドエンジンは、Ninja H2のそれそのものではなく「バランス型」スーパーチャージャー。これは、パワーだけを追い求めるより、燃費性能や、より低回転域での扱いやすさを考えられた専用エンジン。圧縮比を高め、吸気量を減らし、インジェクションのスロットルバルブを小型化。バルブのオーバーラップを減らした専用カムや専用形状の吸排気ポートなど、総じて常用回転域のトルクアップ、扱いやすさの向上を目指している。すごく大雑把に言うと、キャブレター時代のキャブレターメインボア口径を小さくして、よりストリート向けに出力特性をリファインした――そんな印象。
 
 車体のパッケージはNinja H2のフルカウルバージョンで、Ninja H2よりもハンドルは高く、シートは低く、ステップは前方にセットされている。さらにホイールベースが伸ばされ、リアフレームの剛性を上げた新フレームを採用。リアフレームの剛性アップは、タンデムやオプションのパニアケース装着を考えてのことで、これもNinja H2のツーリングバイク適正を上げている、と見て取れる。ちなみに車両積載重量は、Ninja H2の105kgから195kgにアップ。タンデムしてパニアケースに荷物をたくさん積んでの旅までカバーする、という意味だ。
 ハンドル位置が高く、ハンドル切れ角も27度から30度に広げられているからか、またがった時、走り始めたときの緊張感がNinja H2ほどではなかった。もうこれだけで、少しだけスーパーチャージャーに近づける、といった感じかな。それにしても、試乗したNinja H2 SXの上級モデル「SE」は、フルカラーTFT液晶スクリーンのメーターパネルと、ひと目では何を調整するのか理解不能なハンドルスイッチが、いやおうなく緊張感を強いてくる。

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 走り始めは、ごく普通。やはり、スーパーチャージャー200psの初乗りということで、スロットル開度は抑え目のソロソロした発進。緊張の甲斐なく、Ninja H2 SXはあっけなくスタートする。ごく低回転域はエンジンノイズがあって「ジャーッ」という手応えとざらざらした振動が感じられるが、タコメーターの針が3000rpmに差し掛かるときれいに消える。
 この時点で、メーターパネルに示された「BST」のバーグラフが少しずつ上昇。そうか、これはブーストメーター! 4000rpmくらいから、ハッキリ体感できるほどのスーパーチャージ劇場が始まるのだ。
 少しずつ慣れてきて、4000rpmあたりにわざと踏み入れながら、スロットル開度やスピードを調整してみる。すると、まるで第2の動力が発動したように、ギュイィン、とトルクが乗ってくる。これ、Ninja H2よりも明らかに低回転からブーストがかかり始めているのがよくわかる。かかり始めの加速も、Ninja H2よりもやや控えめ。ただし、あくまでも「やや」だから、うっかりスロットル開度を大きくすると、まるで車体を前からグイン、と引っ張られたかのような加速を味わうことになる。しばらくは、身体が慣れない加速の仕方なのだ。
 
 たとえばNinja ZX-14Rといった大排気量の大パワーエンジンならば、このあたりの回転域から、こんなかんじでパワーが盛り上がってきて……っていう手応えを体が覚えてるんだけれど、Ninja H2とSXは、その心の準備を吹き飛ばしちゃう。おっとっとっと、そうかそうか、ってアクションを繰り返すことになる。
 パワー特性は、ひとことでいえば柔軟そのもの。ゼロ発進からの3000rpmあたりまでは、上に書いたジャーッというノイズが目立つんだけれど、その上はいたって従順。回転を上げてひとつずつシフトアップしていくと、4000rpmあたりからスーパーチャージャーが効いてきて、知らない間にとんでもないスピード域になってるんだけれど、早め早めにトントンとシフトアップしていくと、すごくジェントルなパワーフィーリングを味わえる。
 ちなみに6速1500rpmといった、アイドリングすれすれの回転域だって、Ninja H2 SXはノッキングひとつなく、スーッと加速態勢に入る。この時のスピードは40km/hといったあたりで、事実Ninja H2 SXは、6速でのゼロ発進こそ不可能だけれど、ある程度のスピードが出ている状態からならば、40km/hから300km/hまで(ってこれは試してはいないけれどw)6速ひとつでカバーできるってことになる。これは、スーパーチャージャー装着以前に、元エンジンの「素」が良くできていることに他ならない。
 クルージングでは、80km/hが6速3100rpm、100km/hが4000rpmあたり。この時、スーパーチャージャーの過給をし始めているエンジンは、どんどん、もっともっとスピードを出したくてウズウズしている状態。一定スピードをキープする、それも100km/hといったスピード域では、それが難しい。アクセルほんの数mmの開け閉めで、すぐにスピードが増減してしまうからだ。
 しかし、そこは最新ツーリングバイク。Ninja H2 SXにはクルーズコントロールが標準装備されていて、巡航スピードを設定すれば、スロットル開度を一定に保つという大仕事をする必要がなく、一定スピードをキープすることができる。クルーズコントロール自体、もはや珍しい装備ではないが、国産モデル(それも国内市販モデル)ではまだまだ数少ない。今回の試乗では、このクルーズコントロールを駆使して、すごく楽にクルージングすることができた。
 Ninja H2 SXのような最高速度250km/hオーバーのハイスピードモデルとなると、スピードを一定に保つのはかなりキツい。スロットルのリターンスプリングの力に抗って、スロットル開度を一定にするのは、案外に力がいるものだから、自然と右手に力が入って、手首は痛くなるしシビれるし……。クルーズコントロール自体、設定した速度は、ブレーキレバーやブレーキペダル入力、クラッチやシフトペダル操作、さらにスロットルを閉じ方向に力を入れるだけで設定解除されるので、危険さよりも、すぐに慣れる。クルーズコントロール、もっともっと普及してもいいと思います。

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 ハンドリングは、どっしりとした安定感に裏打ちされたしっとりしたツーリングバイク風味。これはNinja ZX-14Rのような低重心のドッシリさとは違って、サスペンションがしっとりと動いて路面に吸い付いているような動き。ホイールベースはNinja ZX-14Rと同じ数値だが、重心が高い分、動きはクイックで、運動性はより高い。切り返しも軽く、倒しこみもNinja ZX-14Rより軽い。このあたりはスポーツバイク的動きに感じられた。少しワインディングも走ってみたけれど、この時の動きはNinja ZX-14RでもNinja H2でもNinja ZX-10Rでもない、Ninja1000に似ているかな。
 この時、少し気をつけたいのは、やはりスーパーチャージャーの存在。ワインディングで加速→減速→バンク→スロットルオン→立ち上がり、という流れの中、スロットルオンの段階でスーパーチャージャー過給が立ち上がり始めると、いわゆるドンツキが現われて、ドンとライン一本分持っていかれるような、そんなコーナリング中加速が現れてしまうのだ。
 スーパースポーツだってラフなスロットル操作は厳禁だけれど、Ninja H2 SXではもっと慎重にスロットルを開けなくちゃならない。もちろん、このコーナリングドカン(笑)を食らって車体がグンと前に進もうとしても、タイヤのグリップを越えるようなレベルになると、きちんとトラクションコントロールが介入してくれるので、危険なレベルには達しない。
 このダッシュ力をきちんと手なづけられたら、これはスーパースポーツにも劣らない立ち上がりを見せられる。もちろん、Ninja H2 SXはそんなバイクじゃないよ、って言われたらそれまでなんだけどね。
 ツーリングバイクの平和なクルージングが味わえて、お化けのような加速感。Ninja H2 SXはただのツーリングバイクじゃない、スーパーチャージド・スーパーツーリングバイクなのだ。Ninja H2 SXにはパワーモードがF/M/L(=フル/ミドル/ロー)と3段階に用意されているから、Mにして走っていると、まったく普通の「よくできた1000ccマルチシリンダー」なパワー特性で走ることができる。でも、やっぱFで走りたいしねw。

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 それにしても、やはりNinja H2 SXの真骨頂は、ハイスピードクルージング。今回の試乗では、少しでもクルージングスピードを上げようと、新東名高速道路の110km/h制限区間を走ってみたけれど、6速110km/hは4400rpmくらいで、その時の車体はビタッと安定していた。少し路面のキックバックがある感じがしたから、フロントフォークとリアサスを調整してみたけれど、こういう重量車は、サスペンションの調整機構を上手く使うと、より快適に走ることができる。手首や頭の高さはそのまま、タイヤは路面をきちんと追従して、サスペンションが絶え間なく上下運動を繰り返しているような、そんな印象。
 クルージングしていて、前車の追い越しや混雑を避ける意味で瞬間的にスロットルを開けることはあるけれど、Ninja H2 SXは、その時がホントにスゴい! 速度が低くて、エンジン音が耳に入るような局面では、ヒョウゥゥ、とかキョパパパッ、ドヒョオォォォ、っていう摩訶不思議なサウンドを発生しながら、Ninja H2 SXはグングンと加速してくれる。
 ハッキリ言って、この加速、どうかしてるね(笑)。いちどテストコースも走ったんだけれど、6速100km/h=4000rpmくらいからスロットルひと開けで、アッという間に200km/hの世界! 実際に数える余裕はなかったんだけれど、いーち、にーい、さーん、で100km/hが200km/h突入じゃないかなぁ……。本来なら、ここから加速したいとなると、コンコンとひとつふたつシフトダウンしてからスロットルをカパ開けするんだけれど、Ninja H2 SXにはそれ不要。このままストレートが続いたら、本当にアッという間にサンビャッキロなんだろうなぁ……。
 しかも、200km/hで走っている時だって、車体はピタッと安定していて、スピード感がないくらい。感覚的にはNinja H2 SX での200km/hは、GPZ900R Ninjaの130km/hくらいの感じなのだ。やや大げさかな、いや、それほど圧倒的に平和な超高速域だ。これは、ハヤブサやZX-14Rの存在意義が危うくなっちゃうかも……。
 
 ヤバい――。これって最近は「スゴい」とか「カッコいい」、「魅力的」って意味に使われるけれど、もともとは「危ない」とか「とんでもない」、「ワケわかんない」って意味だった。
 いま、あらためてNinja H2、そしてNinja H2 SXを評すると、ホントにヤバい、チョーヤバい! いや、新旧両方の意味でねw。
 
(試乗・文:中村浩史)
 

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Ninja H2ゆずりのφ320mmローター+対向4ピストンラジアルマウントキャリパーを装備。マスターシリンダーもラジアルポンプ、ブレーキレバーは6段階に握りしろを調整可能。ホイールはH2同様のデザインだが、H2 SX専用品。SEはスポーク部に切削加工済み。 Ninja H2はハーフカウル、H2 SXはサイドカウルにZX-14R的なルーバーデザインをあしらったフルカウルを標準装備。SEバージョンはLEDコーナリングランプ付きで、夜間にウィンカーを出して車体がバンクすると、3段階に照射角を広げて点灯する。 フルカウルとはいえ、熱効率を高めた非密閉型デザインのため、スーパーチャージャー部分やエキパイが露出し、ド迫力を見せつける。フレームはNinja H2同様のトレリス構造で、フレーム剛性を上げ、スイングアームを延長。ハンドル切れ角も27→30度に広がった。
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メインフレーム剛性を上げ、シートレールも強化したことで、ひとり乗り専用だったNinja H2に対して、タンデムを可能としてパニアケース装着時の強度もアップ。車載可能重量はNinja 1000と同様の195kg(Ninja H2は105kg)。タンデム+荷物満載もOKだ。 星形スポークアルミホイールはNinja H2同様デザインだが、Ninja H2 SX専用に開発された鋳造アルミホイール。SEモデルはスポークエッジに切削加工が施され、ホイールリムテープも装備。リアタイヤはNinja H2より1サイズ細めの190/55サイズ。 Ninja H2の巨大な2連サイレンサーから一気にコンパクトになった4-2-1マフラー。エキパイ径もNinja H2から小径化され、サイレンサー容量もH2の10Lから7Lになったことで小型軽量化を果たしている。逆テーパーデザインのサイレンサーが個性的だ。
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NinjaH2と同じく、リアは片持ちスイングアームを採用。スイングアーム長もH2より15mmロング化され、ツーリングバイクらしい直進安定性を確保している。タイヤのエアバルブが横出しのアルミバルブで、大径ローターでもタイヤのエア圧チェックが簡単。 前後サスペンションはフルアジャスタブル(=プリロード、伸&圧側減衰力調整可能、の意味)。フォークは圧側19段階/伸側13段階。
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リアサスは圧側21段階/伸側無段階に調整可能で、タンデムや重量積載で調整したいリアサスプリロード調整は工具無しで行なえる。
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シートはタンデム部がキーオープンで、タンデム部を外すと、ライダー側も固定なしで取り外せる。タンデムシート下に、標準装備の専用ケース入りのETC車載器(ETC2.0)が搭載されている。
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タンク容量は19Lで、今回の試乗での実測燃費は19~22km/L。 ナンバー灯からテールランプまで、灯火類はすべてLED。カウルデザインはNinja H2イメージだが、Ninja H2 SX専用デザイン。SEモデルの方がスクリーンが高く、高速巡航でのウィンドプロテクションがやや高い。H2と同じ、アッパーカウルノーズに川重マーク入り。 ポジションランプ点灯時には、LEDテールランプがふたつの「H」を表示する。あれ、これってH2って意味かな。テール回りは新作されたため、これもNinja H2 SXオリジナルデザイン。ウィンカーはH2と同じく面発光のLEDランプで、視認性が良くカッコいい。
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ガチガチの高剛性ではなく、複雑な形状で肉抜きされ剛性を落とされたトップブリッジ。ハンドルはトップブリッジ上にマウントされ、NinjaH2よりも、ZX-14Rよりもわずかに高く、上半身の前傾度が緩い。フロントフォークトップに伸び側減衰力調整機構がある。 左ハンドルスイッチにメーター表示切替と、トラクションコントロール、パワーモード切替スイッチ。時計の表示のあるスイッチはクルーズコントロールで、下矢印でセット、のちに上/下矢印で設定スピードを上げ下げ。右スイッチはメーター表示モードを切り替える。
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SEモデルはシフト両方向のクイックシフターを標準装備。メーターはSEにフルカラーTFT液晶モニターを装備し、ギアポジション表示付き、オド&ツイントリップ、残ガス航続距離、瞬間&平均燃費、バンク角表示、ブースト圧、ブレーキ圧などを視覚的に表示する。液晶メーターに見える車体のイラストは、加速時/減速時に重心が前後どっちにかかっているかを表すGイメージ。
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パニアケースが純正オプション設定されているが、荷かけフックはカワサキらしからぬ不親切さ。タンデムステップ部に前方向のフック受けはあるが、後方にはなく、写真ではウィンカーステーにフックした。パニアケースは、このタンデムグリップに差し込む構造。
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SEに標準装備のDC12V電源供給ソケット。今どきはUSBが多いので、カー用品ショップで購入できるUSBソケットを使用して、スマホ充電やガジェット装着ができる。Ninja H2 SXには純正アクセサリー設定で、使用しない時用にラバーキャップも用意される。
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●Ninja H2 SX SE 主要諸元
全長×全幅×全高:2135×775×1260mm、ホイールベース:1480mm、シート高:820mm、キャスター:24.7°、トレール:103mm、ボア×ストローク:76.0×55.0mm、最高出力:147kW〔200ps〕/11,000rpm、最大トルク:137N・m〔14.0kg-m〕/9,500rpm 、変速比:3.076/2.470/2.045/1.727/1.523/1.347、タイヤ:120/70 ZR17M/C 58W・190/55 ZR17MC 75W、車両重量:260㎏、燃料タンク容量:19L
メーカー希望小売価格(消費税8%込み):2,376,000円(本体価格2,200,000円、消費税176,000円)

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