KTMのシングルエンジンを積んだストリートバイク690 DUKEは、640から世代を重ね進化してきた。同社がオフロードモデルを得意としてきた歴史もあって、これまでオフ車側からのアプローチをしたルックスや部分が特徴だった。オフ車にオンロードサイズの小径ホイールを履いたモタードモデルの進化版な印象。

 その690 DUKEが2012モデルで今までのイメージから脱皮して大きく変わり、昨年発売された125 DUKEと共通の流れのスタイルを手に入れた。「あれ、このデザイン、125 DUKEだけでなく、どこかで見た気が……」とよぎり容量の小さい脳内メモリーを検索してみて思い出した。2007年に欧州で発表したコンセプトモデル、690 STUNTとそっくり。シュラウド風サイドパネルに「690」と書いてあるグラフィックまで似ている。伏線があったようだ。

 そんな、90%以上の部品が新設計となった新690 DUKEに乗ってきた。

125 DUKEで始まった、KTMのロードスポーツモデルの新しいデザイン・トレンドを引き継いだスタイルばかりでなく、走りのテイストもKTMのスポーツモデルが新たなステージに入ったことが分かる。 こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/AetN-EzAQYQ」で直接ご覧ください。

 試乗を前にして、ぱっと見て目についたのは、昨年モデルが採用していたオフ車のように燃料タンク上まで伸びた長く細いシートが、一般的なストリートモデルに近いカタチに変わったところ。好き嫌いはともかく、この変化の恩恵はとても大きい。跨ってみるとシートが低い。数字的には前の865mmから835mmと30mmも地面に近づいた。これだけでも身長170cmで平均より股下が短いボク的には好意が持てる大きな変化である。

 パイプハンドルの幅は広くて、左右のグリップ位置は肩幅よりコブシ1個半から2個外になる。腕は開いても、座っている位置からは遠くないので、操作するときの違和感はない。シートは低くなっただけでなく、乗車時にお尻が乗っかる部分が広くなっているので、座り心地は良い。ニーグリップした感じも良好だ。排気量が近い一般的なネイキッドモデルよりコンパクトな印象ながら、ステップ位置も含め窮屈にはならないポジション。ゆとりがあって楽ちん。機能的な要件だけでなく、欧州市場でモタードモデルのマーケットが縮小している現実も少なからず加担したと考えられるスタイルの変化は、KTMが考える究極のストリートモデルというテーマで誕生したDUKEのストリートとの相性をより高めてくれている。

今回の試乗会では、この690 DUKEだけではなく、フルモデルチェンジした690 SMC R、アップデートバージョンの990 SUPER DUKE R、990 SM R、990 SM T、990 ADVENTURE、そして2012年も継続販売される1190 RC8 R、125 DUKEなども試乗できるように用意されていた。ただ当初予定されていたニューモデル、350 FREERIDEが車両手配が間に合わなくて乗れなかったのが残念。東京、大阪両モーターサイクルショーには展示されると言うから、その後機会があったらインプレッションをお伝えしよう。
「KTM JAPANが待望のブランニューモデル690 DUKEほか、2012年STREETモデルを一斉発表」のニュースはこちら

 その親和性は走りにも現れていた。ヘッド周りを新設計してダブルイグニッションにしたエンジン。極低速から8千回転を過ぎてレブリミットが効くまで開ければ開けただけ、どこからでもお尻を蹴飛ばされるように加速するのは変わらないが、同時にあったセンシティブなところ、ラフに扱うとびゅっと飛び出して「おっとととっと」とギクシャクしていた部分が影を潜めた。

 遅くなった、ダルになったのではない。瞬発力のある尖った性格は変わらずにいい具合に角が取れ丸くなったという表現がぴったりくる。以前より気楽に積極的なスロットル操作をして乗れる。一部の上手なライダー以外の人でもきっと楽しんで走れるに違いない。高回転での振動も少なくなって長距離での快適性も期待できる仕上がりだ。燃料噴射装置とスロットルグリップがケーブルで繋がっていないフル・ライド・バイ・ワイヤーになったおかげでコンピューターがマスユーザーにとって乗りづらくなる部分を制御してくれているのだろう。

試乗者の身長は170cm。従来のKTMのロード・モデルのイメージだった“モタード色”を完全に払拭した125 DUKEから続く“ニューストリートスタイリング”を690でも採用した。スリムな車体とエルゴノミックにデザインされたシート、スポーツ性と快適性を両立させるべく吟味されたライディングポジションなど、美しさと機能が高い次元で両立したデザインとなっている。おなじみパワーパーツ群もしっかりとスタンバイ。

 ストレート、コーナーと繋がる時の一連の動きは自然で、思うようにバンクさせ走れる。反復横跳びが速いアスリートのようにフットワークは軽く自由自在。コンパクトな車体に強力なブレーキで、効きにもタッチにも不満なんてない。標準で付いたABSの、特にリアがコーナー進入に向けてフルブレーキ中早めに仕事を始め、足裏にキックバックがあるのはボクの好みではないので、メーターパネルのボタンを長押ししてABSをキャンセルして走った。雨の日など路面条件の悪い日には、またABSを効くようにすればいいだけ。好みでオンオフ出来るのは素晴らしい。

 シートに、ちょうどお尻の座りが良い微妙に凹んだところがあって、あまり前方に座らないで、そこにお尻を載せて走ると切り返しも素早く気持ちいいほどコーナーリングが決まった。連続するコーナーをクリアするのが愉快で、気がつけば集中して乗るのを楽しんでいる自分がいた。

 速さと機敏さをキープしながら扱いやすさと快適性を高めた新690 DUKE。価格はなんと82万5000円。2011年モデルより33万円も安くなった勝負価格。125 DUKEに続いて、玄人的なコアブランドというKTMのイメージをいい方向に大きく変えるきっかけとなる1台となりそうだ。究極のストリートバイクへのステップを上手くかけ登ったと感じた。

(濱矢文夫)

新世代のKTMロードスポーツに共通するイメージでデザインされたメーター回り。センターに8,000rpmからレッドのタコメーターを配し、右にデジタル表示のスピードメーター。 新型690 DUKEの特徴でもある“フル・ライド・バイ・ワイヤー”。非常にスムーズなパワーデリバリー、微妙なオン・オフ操作にも的確に反応、そしてコントロール操作が楽、という利点を持っているという。また、出力特性を変えられるマップセレクタは、1:コンフォート、2:スポーツ、3:スタンダード、の3段階に切り替えられるという。
エンジンは、2011年モデルの690 DUKE Rに搭載されたOHCシングルをベースに、そのほとんどを新設計。特にヘッド回りは完全新設計でツインプラグ化が行われた。さらにそれぞれ独立して制御することを可能としたフル・ライド・バイ・ワイヤーを導入。極めて低振動、低騒音かつスムーズな出力特性・操作特性を獲得したうえで、10%以上という大幅な燃費改善を達成しているという。ヨーロッパ圏の新・環境規制、Euro4/5に先行適合、さらに1万キロのサービスインターバル導入など、まさに新世代を体現したエンジンとなった。
コンピューター解析によって設計された高強度でしなやかな特性を持つクロームモリブデン鋼製フレームを採用。リアにはアルミ製サブフレームを組み合わせている。足回りではフロントにWP製φ43mm倒立フォークを採用。もちろんフルアジャスタブルタイプだ。注目は990 SMTと同型のボッシュ製ABSを標準装備していること。ブレンボ製φ320mm、4ピストンラジアルマウントキャリパー&マスター(リアはφ240mmフローティングキャリパーを採用)と相まってスポーティかつセーフティなストッピング性能を実現している。
シート高は従来モデル比マイナス30mmの835mm。PPロワーリングキットを導入すればさらに800mmまで調整可能。ターンシグナル/リアコンビネーションランプは高輝度LEDを採用。タンデムシート下に工具入れ。フル・ライド・バイ・ワイヤーのマップセレクタもこのシート下に用意されている。ボディカラーはホワイトとグレー×ブラックの2色を用意。
 90%以上のパーツを専用設計。
 文字通り次世代の中核モデル、
 KTM 690 DUKEデビュー

KTMは昨年開催の東京モーターショーで非常に注目度の高かった新型モデル「690 DUKE」をデビューさせることとなりました。KTMらしいエキサイティングな操縦性はそのままに、これまでのモタードイメージを一新、ストリートバイクとして洗練されたデザインを身に纏っています。エンジン、シャーシほか90%以上の部品が専用に新設計された、文字通り新世代のKTM となります。KTMは常に洗練されたデザインと高い性能、品質を持つモーターサイクルを提供し、世界中のファンの皆さまに喜んでいただけるよう努力を続けて参ります。

エクストリームなモーターサイクルを展開するKTM(KTMジャパン・代表取締役ミヒャエル・シャノー)は、2012 年モデルとして新たに690 DUKEを発表、発売を開始いたしました。

690 DUKEはその90%以上が専用に新設計されており、同名の現行モデルとは全く違う、完全なニューモデルです。これまでイメージの強かったモタードライクなデザインを廃し、125 DUKEにも通ずる新世代KTMストリートバイクのクリーンで洗練された外観に仕上がっています。

この基本デザインにより、シート高は現行690 DUKE Rと比較して30mm低い835mm となり、ナローなボディと相まって足つき性が一段と向上しました。ライディングポジションを徹底的に吟味し、ダイレクトな操作感と快適性を両立できる配置としています。

エンジンは、現行の690 DUKE Rに搭載のOHC シングルをベースにそのほとんどを新設計。新モデル名にはつかないものの、いわゆる”R”モデルならではの排気量(690cc)ならびに最高出力(70PS)を実現しています。この新エンジンはヘッド周りを完全に見直され、ダブルイグニッションのシステムを採用。フル・ライド・バイ・ワイヤーにより、それぞれのスパークプラグを独立してコントロールするなど、緻密な制御を実現しています。これによりエンジンのパワーデリバリーは極めてスムーズながら、低騒音、低振動化もあわせて実現。更にサービスインターバルの長期化(10,000km)や耐久性の向上、大幅な燃費改善と新・環境規制(Euro4/5)の先行適合など、新世代に求められる性能を極めて高い次元で発揮しています。

ニュー690 DUKEは私たちにとって、ハイパフォーマンスで本格的なKTMワールドの入り口にある極めて重要なモデルです。KTMらしさは失わずに、更に楽しさを広げ、よりダイナミックに。価格も600cc~750ccクラスでは極めて魅力的な82万5000円(ABSモデル・税込)を実現いたしました。

KTM は690 DUKEをはじめとして、より一層磨きのかかった2012年モデルを通して、ライダーの皆さまとそのご家族、ご友人の皆さ
まなど、より一層多くの方との接点を持ち、エキサイティングなモーターサイクルライフをご提案して参ります。

※(KTM JAPANのプレスリリースより)
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■KTM 690 DUKE 主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,152×844×1,193mm、ホイールベース1,466±15mm、最低地上高:192mm、シート高:835mm、車両重量:約149.5kg(半乾燥)、燃料タンク容量:約14L●水冷4ストローク単気筒OHC4バルブ、排気量:690cc、ボア×ストローク:102×84.5mm、圧縮比:12.6:1、燃料供給装置:ケーヒン電子制御式F.I.、点火方式:-、始動方式:セル、潤滑方式:オイル圧送式、最高出力:51.5kW(68PS)/7,500rpm、最大トルク:70N・m/5,500rpm●常時噛合式6段リターン、一次減速比:36・79、二次減速比:16・40●フレーム形式:クロームモリブデン鋼トレリスフレーム、サスペンション前:WPφ43mm倒立テレスコピック、ホイールトラベル135mm、後:スイングアーム、WPモノショック・プロレバーリンク、ホイールトラベル135mm、キャスター/トレール:-/-mm、ブレーキ:前φ320mシングルディスク、後φ240mmシングルディスク、タイヤ:前120/70R17、後160/60R17●価格:825,000円

「R」がついて
さらにパフォーマンスが向上した
690 SMC Rにも乗りました

 スパルタンだ。20mm低くなったという細いシートは、それでもお尻を落として片足を地面に届かせるのがやっと。エンジンはパワフルで速い。スロットルを適当に開くと前タイヤは簡単に地面から離れる。フロントから小さく旋回する690 DUKEとは違い、少しアンダー気味で「リアタイヤを流してちょうだい」と言わんばかり。

 優れた性能のショックユニットと豊かなストロークで、トラクションが良く軽量な車体はロケットのように立ち上がる。それでも起ききっていない時に右手の操作をぞんざいにするとリアタイヤは簡単に横に流れていくので気が抜けない。高回転ではハンドルバーが小刻みに振動して手はブルブル。切れ味抜群の刃物のようだ。乗りやすくなった690 DUKEから乗り換えたので、余計にそう感じた。ブレーキはガツンと効いて強力無比。

 ネガティブなことばかり書いたようだけど、そんなことはない。これがSMC-Rの魅力なのだ。誰でも乗れるイージーさはないけれど、ソリッドな乗り味は刺激的でワクワクさせてくれ面白い。「READY TO RACE」という従来からのKTMらしさに溢れている。「オレは乗り手を選ぶよ、でもハマったら強力だぜ」と股下から主張しているようだった。

(濱矢文夫)

■KTM 690 SMC R主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,224×830×1,230mm、ホイールベース1,480±15mm、最低地上高:270mm、シート高:890mm、車両重量:約139.5kg(半乾燥)、燃料タンク容量:約12.0L●水冷4ストローク単気筒OHC4バルブ、排気量:690cc、ボア×ストローク:102×84.5mm、圧縮比:12.5:1、燃料供給装置:ケーヒン電子制御式F.I.、点火方式:-、始動方式:セル、潤滑方式:オイル圧送式、最高出力:49kW(67PS)/7,500rpm、最大トルク:68N・m/6,000rpm●常時噛合式6段リターン、一次減速比:36・79、二次減速比:16・42●フレーム形式:クロームモリブデン鋼トレリスフレーム、サスペンション前:WPφ48mm倒立テレスコピック、ホイールトラベル250mm、後:スイングアーム、WPモノショック・プロレバーリンク、ホイールトラベル250mm、キャスター/トレール:-/-mm、ブレーキ:前φ320mシングルディスク、後φ240mmシングルディスク、タイヤ:前120/70ZR17、後160/60ZR17●価格:1,092,000円

 ■試乗:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗 ■取材協力:KTM JAPAN http://www.ktm-japan.co.jp/



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