いざという時の危険回避術を身につける スズキ車の聖地で思う存分走りこむ スズキ北川ライディングスクールin竜洋

全日本ロードレース選手権のTT-F1や最高峰クラスのJSBを制するのみならず、スズキ・エンデュランス・レーシングチームで日本人初の世界耐久チャンピオン獲得(2005・2006年)、現在はスズキ・レーシングアドバイザーとしても活躍中である北川圭一氏が校長を務める2009年より始まった「スズキ北川ライディングスクールin竜洋」。スズキ車が鍛えられる竜洋コース(スズキ 二輪技術センター テストコース)を舞台に、ビギナーからベテランまで幅広く、安心して存分にテクニックを学ぶことができる場で、2018年度も全5回開催。スズキ・ファンにとってはお馴染みのスクールの門を叩いてみた。

■報告:高橋二朗
■撮影:依田 麗
■取材協力:スズキ北川ライディングスクール事務局/スズキ二輪 
http://www1.suzuki.co.jp/motor/kitagawa/

装具や車両のレンタルもあり、
初心者も安心して参加できるライディングスクール

 これまでオートバイには30年以上乗ってきた。今も通勤で毎日にように(スクーターだけど)乗っている。それだけ長い期間乗ってきただけに、公道を走る際の注意すべき点といったノウハウはある程度蓄積されていると思う(思いたい)。が、悲しいことに歳が増すごとに体力や視力、反射神経が衰えてきているのも事実で、昨年、くだらない事で立ちゴケしてショックを受けたこともあった。知らず知らずのうちに悪いクセの自己流運転も身についているかもしれない……。

 もう一度プロの指導の元、ライディングテクニックを見直し、レベルアップも図りたい、と常々思っていた。そんなこともあって今回、幸いなことに「スズキ北川圭一 ライディングスクールin 竜洋」に参加させていただく機会に恵まれた。

 北川ライディングスクールは数々の名車が生み出された竜洋コース(静岡県磐田市)を舞台に開催、スズキ・レーシングアドバイザーとしてお馴染み、元・世界耐久選手権チャンピオンの北川圭一氏が校長を務める。安全でスムーズなライディングテクニックを習得するための技術と講義を交えた実践教習で、参考書やインターネットで得られる情報ではない、各個人に合わせたバイクを操るテクニックをビギナーからベテランライダーまで幅広く、楽しく学ぶことができる開催10年目を迎えたスクールだ。

 125ccモデル以上のスズキ車ミッション車両(スクーターは除く)のユーザーが対象で、レンタル車両(有料)もあり。装具は革ツナギもしくは革製の上下、ブーツ、フルフェイスのヘルメットが必須。装具も事前に申しこめば数限定ながら無料レンタルも用意されている。

 会場となる竜洋コースには愛車で自走してくる人もいれば、遠方からトランスポーターに積んで参加する人もいる。参加車両のナンバーを見ると、今回は関東エリアからの参加が多いことに気づく。参加受付を済ませ、9時より開校式。北川校長をはじめ、インストラクターの皆さんとご対面、とてもフレンドリーで緊張が和らぐ。受講者の中には常連の方も多そうだ。この日は朝から絶好の天候に恵まれたが、これまで1日中雨だったのは10年間でたった1回だけだとか。

 このスクールのテーマは、「走る」「曲がる」「止まる」の中でも特に難しいと言われる「曲がる」を重点にレクチャー。インストラクターは全員耐久レースの経験者。速さのみならず、いかに長い時間・距離を確実に走ることに関して長けた方々で、そんな経験を参加者にフィードバックしてくれる。受講者はレースをするわけではないが、スクールでレクチャーを受けながら走りこむことにより、公道での危険回避能力の向上につなげてもらいたい、ということを目的としている。バイクは楽しい乗り物だが、場合によっては危険な面も持ち合わせているのはご承知の通りだ。

 最終的に上達していることが目的なので、ゆっくり焦らず、自分のペースを守り、安全マージンをもって運転すること、そしてとにかく無理をしないことをまず最初に教えられる。初心者にはとても安心だ。



9時よりスタート


インストラクター
スクールは9時よりスタート、注意事項伝達。これから1日、お世話になるインストラクターは北川圭一校長を中心に(左より)スクール当初からインストラクターを務めている山口直範氏と中井直道氏、スズキの車両開発テストライダーである大城光氏と犬木翼氏の5名。全員、鈴鹿8耐参戦経験者である。MotoGPマシン車両の開発に携わるスズキ契約ライダーであり、ヨシムラのエースレーシングライダーとしても活躍中の津田拓也選手が加わることもあり。※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。


準備運動


準備運動
受講者全員との記念撮影後、まずは準備運動・ストレッチで身体の各部をよく伸ばしておく。普段、身体を動かしていないことを思い知らされる。締めはスズキ“Sマーク”で。

とにかく、みっちりと走りこみ!
5人のインストラクターが
ライディングを的確にアドバイス

 まずは基本となるライディングポジションから。ニー&くるぶしグリップ。コレ、知っていて実践しているつもりだが、意識してライポジをとってみると、特にくるぶし側が徐々にグリップしていないことに気づくという、受講早々に基本をマスターしていなかったことを思い知らされる。下半身をしっかりホールドすることで上体の自由度を高め、車体を安定させるのだ。

 そしてインストラクターによるスラロームやブレーキングの模範走行を目に焼き付けた後、実際にバイクに跨りいよいよスクール本戦へ。



ライディングポジションのレクチャー


インストラクターが実演
ライディングポジションのレクチャー。加減速での上体など、身体全体でバイクを操ること。スクールでは基本、リーンウィズ。 これから徹底的に走り込む直列・オフセットスラロームなどをインストラクターが実演。GSX-R1000のようなスーパースポーツ・マシンを短い距離間隔でクイックイッと向きを変えていく。

 カリキュラムは「直列・オフセットスラローム」「コーススラローム」「加速からのブレーキング」「アウトリガー装着車による体験」「Uターン練習」を行う。スラロームに関しては午前・午後共に実施。初級者、中級者、上級者それぞれビブス(ゼッケン)によって色分けされ、初・中級者、上級者の2組に分かれて行われる。行うことは基本的に同じ。それぞれのレベルに合った受講者同士のペースで潤滑にカリキュラムが流れる、という仕組みだ。とにかく、みっちりと走りこむ。ただ、そのカリキュラムとカリキュラムの間には休憩時間が設けられ、スポーツドリンクでしっかりと水分を摂れる。

 今回、私はSV650 ABSで参加した。コンパクト&スリムで軽量な車体にアップハンドル、そして極低速から高回転域まで、とにかく扱いやすい特性だったこともあり、カリキュラム全般でバイクに助けられた面が多々あった。もしかして自分、そこそこ乗れてるんじゃないか? と。が当然、自己流で胡麻化していた部分のメッキが剥がれてくる(剥がされる)ワケで、5人のインストラクターの皆さんから欠点を見抜いた的確なアドバイスをいただいたり、後ろを走って自分の走りをすべて解析してくれる。



スラローム


スラローム


スラローム
慣熟走行後、直列・オフセットスラローム。スロットルを開けるタイミングとメリハリ、膝&くるぶしをしっかりホールド、身体全体を使いながら走る。SV650がとても扱いやすいバイクで楽しく走ることができるも、曲がるタイミングがズレてしまうとその後の全てのリズムが狂ってしまう。まだ身体が硬い……。


スラローム


スラローム
続いてコーススラローム。コースを覚えるのが大変そうだが、パイロンを倒してある場所など目印が設けられているので親切。身体もだいぶ慣れてくるが、扱いやすいSV650とは言え、テクニックが未熟なためタイトな場所では上手く曲がれない……。


北川校長自ら実演


Uターン練習
北川校長自ら実演、加速からのブレーキング。さすがに公道において思いっきりブレーキを試す機会はないが、スクールでは思いっきり試すことができる。最近、標準装備化されているABSを初めて効かせた、という受講者もいた。 Uターン練習。意識して練習する機会はないため、地味なカリキュラムではあるが改めて難しいことがわかる。


バンディットのアウトリガー車体験


バンディットのアウトリガー車体験
左右に車輪付きアームが備わるバンディットのアウトリガー車体験をカリキュラムに導入しているのも北川ライディングスクールの特徴。定常円の中でアームの先の車輪を接地させながら旋回させるという、微妙なスロットル操作を問うカリキュラム。車輪を接地させることはできるものの、接地させた状態をキープするのは中々難しい。

 午前・午後を通して徹底的に行われるコーススラロームは徐々にコースが変わり、これまで積み重ねてきたテクニックを応用する、という仕組みに。教えてもらったことを反復練習→勝手に自分で動くようになる→上達している、ということだそうだ。とにかく、何度も言うようだがしっかりと走りこむ。

 普段は関係者以外立ち入り禁止となっている竜洋コース内に入ることですでに特別ではあるが、さらに貴重な体験ができるのも北川ライディングスクールの特徴。希望者による「ハイウェイコース走行」は、テストコースの外周を高速域で走行できるというもの(先導車付)。GSX-R1000やハヤブサといった最も速いクラスから3つに分けて走行を行う。カリキュラムの最後に組み込まれ、海に面するテストコースの風がとても心地良い。ちなみにハイウェイコース走行を希望しない人は引き続き、コーススラロームを走りこむことができる。



昼休み


午後の部
45分の昼休み(昼食、プレゼントが当たるくじ引き)の後、大阪国際大学 人間科学部の教授でもある山口インストラクターによる講義。ライダー心理に関する座学で、結論は自分のライディングスタイルを確立してほしい、と。 昼休み後、午後の部も直列・オフセットスラローム、コーススラロームで走りこむ。走るライン取りについてのレクチャー、そして走りこんだことにより、午前中に上手くいかなかったタイトな場所でも上手く走ることができるようになった(気がする)。


上級者


ラストのカリキュラム
赤ビブスをつけた上級者クラスの方々の走り。とにかく皆さん、参加する必要ないのでは? と思うくらいにスーパースポーツ・マシンを華麗に操る。カリキュラムの内容は初・中級者と同じだ。 ラストのカリキュラムはハイウェイコース走行とコーススラローム走行のいずれか選択。ハイウェイコース走行は速いグループ(GSX-R1000、ハヤブサなど)、中速グループ、ゆっくりグループの3グループにわかれ、竜洋の外周コースを3回に分けて体験することができる。これも北川スクール独自の貴重な経験となる。


ハイウェイコース走行

十分に上手い上級者が多く参加しているワケは?

 全てのカリキュラムを終え、16時30分頃に閉校となる。皆、ケガもなく無事に終えることができた。今回の参加者、最年少は18歳、最年長は64歳。この年齢層の幅の広さがとても参加しやすい雰囲気、内容を意味しているのではないだろうか? 

 また、スクールには赤いビブスをつけた上級者の方々も多く参加している。GSX-R1000のようなスーパースポーツマシンでタイトなスラロームコースを惚れ惚れするような走りを見せてくれる。自分には到底できそうもない。そんなテクニックを持っていながら、毎回スクールに参加してくるという。

 北川氏曰く「受講者が上手くなって帰ってもらうのは嬉しい。リピーターさんが多く、赤ゼッケンをつけている上級者は十分に上手い。でも彼らはもっと上手くなりたいという向上心がある。その向上心が重要であると思います」とのこと。

 スクール卒業の翌日。受講したことで自分的にスキルアップを果たし、充実した時を過ごすことができていたこともあってか、いつものように通勤で使っているスクーターではあるが、公道を走っている時の心に余裕が生まれたことを感じた。でも、しばらくするとまた自己流に戻ってしまうかもしれない。定期的にライディングスクールに参加することは、自分のライディングテクニックを見直す意味でも非常に効果的であると言えるだろう。

 尚「スズキ北川ライディングスクールin竜洋」、2018年度・第3回となる次回は9月2日(日)開催、7月10日より参加受付が開始となる。以降、2018年度は11月25日(日)、2019年3月3日(日)に開催される。スズキ車オーナーの方はもちろん、興味を持った方は一度、体験してみてほしい。詳細はスズキ北川ライディングスクールin竜洋のホームページ(http://www1.suzuki.co.jp/motor/kitagawa/)にて。



閉校式


北川圭一校長
トラブルやケガも無く、皆さん笑顔で閉校式。お疲れ様でした! 受講を終えると、参加回数によって色が異なるスクールのオリジナルステッカー&参加記念品がプレゼントされる。 「受講者が上手くなって帰ってもらうのは嬉しい」と語る北川圭一校長。インストラクターの皆さんの耐久レースでの「長時間をいかに安定感とペースを保ちながら走り続ける」という経験を一般ライダーにフィードバックしたスクールである。


記念撮影