Honda CB1000R

 
急速に形成されてきたスポーツネイキッド、もしくはハイパーネイキッド/ストリートファイターなどと呼ばれるカテゴリーだが、いずれもスーパースポーツをベースに公道向けに仕立てた、というバックボーンを持つ。しかしホンダの新型CB1000Rはもう一歩踏み込んでいると感じた連載第一回め。「公道でのスポーツ」に真剣に向き合った作り込みを見た。

■文:ノア セレン ■撮影:松川 忍
■協力:ホンダモーターサイクルジャパン http://www.honda.co.jp/motor/

 バイクにとって、意図された環境ではないところで評価されてしまうことほど不本意なことはないと思ってます。特に近年はいわゆる「バイクの趣味化」が進んでいて、かつてのバイクのように汎用性や実用性はあまり重視されなくなってきたかわりに、公道を走るバイクであっても「こういう場面で乗るのが一番気持ちが良いですよ!」と明確なメッセージをもった車種が増えている傾向にあると思います。

 ネイキッドモデルを例にとると、90年代の初めにいわゆる「ビッグネイキッド」と呼ばれるカテゴリーが生まれ、扱いやすい万能なビッグバイクとして大きな市民権を得ました。これらモデルは今ほとんど絶版となりましたが(CB1300SF/SBは現役!)、高いスポーツ性と汎用性・実用性が同居していました。ところがその後、アドベンチャーというカテゴリーが台頭し、長距離を快適に移動するのならば余裕の乗車姿勢と快適な防風カウル、容量たっぷりのガソリンタンクと純正荷台付き、と至れり尽くせり。一般的なビッグネイキッドではその汎用性・実用性に太刀打ちできなくなってきました。

 しかしこのおかげでリッタークラスのネイキッドは独自の進化をすることが許されるわけですね。実用性や汎用性を重視しなくてよくなったという事は、カウルのないネイキッドスタイルだからこそ実現できるダイナミックで爽快なスポーツ性や先鋭的なルックス、次のステップのスポーツを求める最新電子制御技術の投入など、ある意味ではタガが外れ、自由になったとも言えます。フレキシビリティよりもダイレクト感を追求することや、軽量化のためにタンク容量を思い切って小さくするなどがその例でしょう。実用性を重要視しなくて良いとなると、より走りの充実にフォーカスできるという事。事実各社のスポーティネイキッドは皆電子制御満載のスーパースポーツエンジンを由来とするパワーユニットに加え、倒立フォークやモノショックなど近代的な足周りも装備し、公道で楽しみやすい、ワンランク上の自由なスポーツ性を追求しています。

 これのホンダ版、と言っては語弊がありますが、ライバルとなるのがこの新型CB1000Rです。軽量でアップハンの親しみやすいパッケージながらスーパースポーツ由来のパワーユニットに現代的な電子制御、ハイレベルな足周りを備えるのはこのカテゴリーのスタンダードですが、一方で、フレームはホーネットなどで実績のある高張力鋼のモノバックボーンを採用することで、ホンダならではの公道スポーツへのアプローチをしています。コンセプトは「大人のためのEMOTIONAL SPORTS ROADSTER」。いわゆるハイパーネイキッドの類でもなく、かといってカフェレーサーほど懐かしさに振ったものでもない、新たなカテゴリーの追求です。

 さて、冒頭に戻りますが、ではこの新しい乗り物/新しいカテゴリーであるCB1000Rはどのようなシチュエーションで乗るのが最も楽しめるのか、と思い、プレス向け試乗会の時に開発者に伺いました。するとその答えは
「想定されるメインの走り方は、休日の朝に、例えば東京からであれば箱根や伊豆方面に高速道路で向かい、そういったツーリングスポットでワインディングを楽しみ、食事をして帰宅する、というおおよそ200~250キロのルート」でした。基本的にはライダーはタンデムではなく一人で、荷物は少なく、CB1000Rのスポーツ性を楽しみ短時間でリフレッシュするような、そんな使い方をイメージして開発したとのこと。ではまずはその通りの使い方をしてこの連載をスタートするべきだろう、とまさにツーリングスポットの王道、箱根方面へと向かってみました。

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とてもフレキシブルな145馬力は一般道でもその恩恵にあやかれるけども、やはり楽しみやすいのは高速道路において。レーンチェンジや追い越し加速などはちょっとした瞬間移動です。

 やっぱりこういった短距離リフレッシュツーリングというのは早朝スタートが良いですね。特にこの真夏のシーズンは、真っ昼間の走行は避けたいところ。まだ空気が澄んでいて暑さも感じない早朝に首都高に乗って、お昼には戻るような、そんなプランで出かけました。

 ルートはまず、首都高から東名高速を繋いで御殿場まで。東名の始点から御殿場までは80キロほどなので、飽きずに高性能に親しむちょうどいい距離です。
 こういったネイキッドはカウルが無い分どうしても高速道路での長距離移動は得意でなくなるわけですが、CBはそんな中でも意外に快適だったことに驚きました。去年乗っていたCB650Fと比較しても、大きな丸ライトやメーターが風をある程度押しのけてくれるのか、ネイキッドのわりにはつらさを感じないのが不思議です。ポジションの妙やライダーの体格、ヘルメットとの相性など多くの要素が絡まっているとは思いますが、CB650Fだけでなく似たカテゴリーの車種も比較対象として優秀に感じた部分でした。

 運動性ももちろん高いですね。路面の継ぎ目が多くコーナーも多い首都高で最初に印象が良かったのは全てのしなやかさでした。モダンな足周りやハイパワーエンジンを持っているがゆえに、パフォーマンスアピールが強かったりするこのカテゴリーですが、CB1000Rはその中にも常にしなやかさがあり、足周りが突っ張るだとかエンジンが過剰に反応するだとかそういったこととは無縁。連続する路面の継ぎ目も、柔らかいながらもダンピングの効いたサスペンションがとてもしなやかにいなしてくれて怖さがありません。またエンジンも駆動力がかかって、安心してアクセルを開け始められる領域から先はとんでもなく速いですが、そこに至るまでの、パーシャル域や開けているのか開けてないのか微妙な、公道ではよくあるシーンにおいてギクシャクすることがなく、非常に良く作り込まれた、「意図した曖昧さ」のようなものがあるように感じ、バイクとのシンクロが短い時間のうちに進み自信を持って走らせることができました。

 東名高速では余裕のパワーで他の交通に対する優越感はかなり高いです。料金所からの加速や追い越し車線へとスピーディにスッと出て行くような場面では思い通りのタイミングで思い通りの位置へとストレスなく車体を進めることができます。しかもスポーツモードに入っていればそれはアクセルひとひねりでシフトダウンなど不要。さすがスーパースポーツ由来のエンジンです。そういったスマートな瞬間移動を済ませてタコメーターを見ると、パワーバンドには程遠い領域でその加速を得ていることに気づき、エンジンのパワーだけでなく車体の軽さなどと合わせて、いかに高い運動性を持っているのかを痛感します。

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見通しが悪く路面も穴だらけ、落ち葉やコケも多い長尾峠は県道ツーリングなどでよく出くわす道のよう。ここを恐る恐るではなく、むしろ楽しめて走れてしまうリッタークラスがどれだけいるだろう。

 御殿場で降りて、長尾峠をめざします。ここはセンターラインのないような細かな峠道で、木が生い茂っているため落ち葉やコケなどが路面に散乱している道。いわゆる「気持ちの良いワインディング」ではありませんが、県道を繋ぐようなツーリングではまま出くわす場面ですね。1000ccクラスのバイクを持ち込んでは持て余してしまうことも考えられますが、そこはさすがCBです。身体が起きているおかげで先のコーナーが予測しやすく、また路面の状況も把握しやすいですし、パワーはあれどとにかく車体が軽量なのはもちろんのこと、フレームや足周りがしなやかで路面状況が掴みやすいですからこのような道でも「狭苦しい」と感じることがありませんでした。高速道路では確かな安定感があったのですが、ここでは質量の小ささというか、排気量からイメージするような大きさを感じることなく軽快に走ることができました。

 もちろん、ホンダでは「Honda セレクタブルトルクコントロール」と呼ばれているトラクションコントロールシステムや優秀なABSも備えていますので、路面のコケが思った以上にスリッピーだったときもサポートしてくれるはず!という安心感があります。大きなオートバイで細かい道を走ると、おっかなびっくり感が強くなってしまうことがありますが、車体の素直さに加えてこういった最新装備のおかげでCB1000Rは何も怖がることなく長尾峠をスイスイと抜けていきました。

 長尾峠を抜けた後は、より広くて爽快な、大排気量を楽しみやすい芦ノ湖スカイラインへと進みます。そのまま箱根の反対側まで抜けて、ターンパイクで小田原におりていくというのが定番ルートと言えるでしょう。こっち回りで行くのは、長尾峠のようなスピード域の低いところからスタートし、ターンパイクというスピード域が高い道へと進んでいく方が安全と考えるからです。速いスピード感覚のまま長尾峠にきてしまうと怖く感じたり、つまらなく感じることもあったりしますからね。もちろん好みの問題ですけれど。

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路面が良くて見通しも良いワインディングに出ればおのずとペースも上がるというもの。1000ccもある事を感じさせない軽快さで深いバンク角まで安定して楽しませてくれました。

 路面状況も良く見通しも効く芦ノ湖スカイラインは1000ccクラスのバイクを楽しむにはうってつけです。気持ちの良い速度でコーナーにアプローチし、軽いバンキング性能を満喫しながら深めのバンク角に持ち込み、そこでの安定感に嬉しくなりつつ立ち上がりでは「145馬力のどこまで踏み込めているんだろう」と想像力を膨らませながら、ここまで使わないで来た高回転パワーバンド域へとアクセルを開けていく。天気の良さや都内に比べて低い気温のおかげもあり、もはや爽快以外の何物でもありません。

 ここまで来て異なるシチュエーションでも安定した性能を発揮することに嬉しくなってきました。冒頭に書いた「趣味性の高まり」により、逆に楽しめるシチュエーションが限定されるようなこともありますが、首都高、東名、長尾峠、芦ノ湖スカイラインとそれぞれ違った特徴を持ち、違った性能をバイクに求めてくる場面を走り繋ぎ、「ココは得意だけれどコッチは我慢」といったトレードオフがなかったのです。どこでも安定して楽しめる感覚はかつてのビッグネイキッドのような汎用性が確かにあると同時に、軽量さ、パワフルさなどによってワンランク/ツーランク上の人車一体感や満足感が得られているなぁと感じたわけです。

 何気なく書きましたが、これは凄い事。このハイパワーネイキッドの類は、確かにエキサイティングではあるものの「過ぎた性能」と感じることも少なくないのが事実です。乗った瞬間は楽しいけれど、しばらく乗っていると疲れてしまって……などという事もあるのですがCBはそのように感じなかったのが嬉しいですね。このカテゴリーはサーキットパフォーマンスも追及したりしますし、ライバルとタイム対決をさせられたりして、限界性能を試されることもあるバイクですが、ホンダはそこは見ていないでしょう。いかにストレスのない、オールラウンドな公道バイクを作るか。かつてのFコンセプトじゃないですが、道を選ばない、ホンダクオリティの一体感、スポーツ性があり、開発者が求めた「高揚感を感じる」ために特別な環境に持ち込む必要がない、というのが大きな魅力だと思います。それはしなやかな鉄フレームや新設計のピボット周り、柔らかめのサスセッティング等多くの要素が絡んでいると思いますが、高次元で実現されていると感じましたし、こういったネイキッドバイクを怖がらずに楽しい領域に持ち込めるという意味ではライバルを圧倒していると感じました。

 こういった懐の深さに「ホンダの流儀」のようなものを感じます。「ホンダ車は優秀過ぎて……」などという人もいますが、CB1000Rはエキサィティングさは確かに確保したまま、どこまでも優秀でした。

 予定通り、日が高くなるころには早めのランチを済ませて帰路につきます。暑いですし、バイクが気持ち良いからと言って無理して足を伸ばすようなことをしないのも大人のライダーです。貴重な休日の午後には家族と過ごしたいなどの予定もあるでしょう。様々な道を走ってこのバイクの楽しさを十分に満喫できた午前中です。開発者の意図通りの楽しみ方ができたように思います。

 とりあえず今回はコンセプト通りの使い方をした結果、本当に素晴らしい乗り物だと感じて良い印象しかありません。時としてわざと過激な味付けにすることで個性を演出するようなこともあるこういったスポーツネイキッドですが、CB1000Rについてはそういった演出はなく、至極真っ当に「公道におけるスポーツ性」を追求しているように感じました。公道はある意味サーキットよりも難しい面があります。路面も均一ではありませんし、先のコーナーがどれほど曲がっているかもわからず柔軟な対応が常に求められます。サーキットパフォーマンスが高いバイクが必ずしも公道では楽しくも速くもなかったりするのはそういうことなのでしょうけれど、CB1000Rはあくまで公道にフォーカスし、細かいところまで怖がらずに楽しめる接しやすさやフィーリングを追求していると感じ、実は全く新しいカテゴリーではなく、ビッグネイキッドのスポーツ性だけを抽出して推し進めた正常進化にも思えました。

 しばらくお付き合いすることになったこのCB1000Rですが、次のレポートまでには僕なりの使い方をして、その印象をお伝えできると思います。またしばらくお付き合いくださいませ。
 
(文:ノア セレン)

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デザインの自由度が高いと言われるLEDヘッドライトは様々な形状で世に出ているなか、CB1000Rは敢えて丸目一灯を選択。これが効いてか、ネイキッドとしては意外な整流がなされているようです。 使いやすい145馬力には急かされることもなく、意思通りに扱えて好印象。3段階のパワーモードに加えて自分で設定できるモードもありますが、それはいずれレポートしますね。 これまでのビッグネイキッド勢に比べるとシート高も高く、そしてクッションも少ないため、スポーティな反面尻が痛くなるんじゃないかと危惧しましたが、今回のショートトリップでは問題ありませんでした。後ろの方に座ればわりに座面積も広いようで快適です。
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“エモーショナルスポーツロードスター”の雰囲気を出してくれているのはこの長めのタンクがキーポイントでしょう。上体がタンクに被さる感じが、どこかかつてのCB750Fなどを連想させてくれる乗り味にしてくれています。シンプルなリンクレス構造のリアサスはイニシャル調整と伸び側減衰力調整機能を持ち、これも車体のわかりやすい挙動に貢献しているでしょう。初期設定はスプリング柔らかめでダンピングは硬めという印象でした。なお日本仕様はシフトアップもダウンも対応するオートシフターを備えています。
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シリンダーヘッド、クランクケース、リアのハブ部などにわざと切削面をデザイン的に残しているのもワンポイントでカッコ良く感じました。変にグラフィックとかとするより、素材そのものを使ったデザインの演出はコンセプトに合っていると思います。ラジエターシュラウドのロゴもとても凝ったもので高級感を演出しています。
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「部品サイズで比較したとしたら最も開発コストと時間がかかったんじゃないか」と開発者が話していたメーターは、その甲斐あってとても見やすいだけでなく、説明書を読まなくても直感的に操作でき、お気に入りの部分です。スイッチボックスにはそのメーターを操作するためのモードボタンと上下のボタンだけでシンプルな設定。純正でETCとグリップヒーターを備えるのは素晴らしいけれど、最近のホンダ車の流行り、ホーンボタンが上でウインカースイッチが下という配置は、とっさに操作できずに使いにくく感じます。素晴らしいバイクに水を差す部分です。
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今回スタイリングには特に触れませんでしたが、新しいものを追求しているように感じます。個人的にはスイングアームについているナンバープレートホルダーはまだ見慣れないですが、それ以外はなかなかカッコ良い気がします。
ちなみに機能的な部分も含めた車両解説及び先輩ライター濱矢文夫さんによるレポートはコチラ→http://www.mr-bike.jp/?p=143706?from=mr-bike


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