ホルヘ・ロレンソに訊く

 
2018年シーズンのMotoGPを盛り上げている重要人物のひとりは、間違いなくホルヘ・ロレンソだ。ドゥカティ2年目の今年はここまで3勝を挙げ、毎レース優勝争いの一角を占める一方で、来年にレプソル・ホンダ・チームへ移籍するという電撃的な離れ業でも話題を集めた。勝っても転んでも、はたまたコース外の出来事でも注目の的となるそんなロレンソを、イタリア人ジャーナリストのパオロ・イアニエリがアラゴンGPを前に直撃した。
シーズンも後半戦にさしかかり、強力なパッケージにさらに磨きがかかるドゥカティの戦闘力の話題から、インタビューは始まった。

■インタビュー・文:パオロ・イアニエリ ■翻訳:西村 章
■写真:DUCATI 

「僕たちは今、理想的な状況にいる。現状では、ドゥカティが最強のバイクだと思うね。ホンダもすごく近いレベルだろうけど、おそらく今は史上初めてドゥカティのバイクがほぼすべての会場で勝てる状態なんだ。これはケイシー(・ストーナー)が勝ちまくっていた時代以降、絶えてなかったことだよ。あの時代のドゥカティは馬力面でも突出していたし、ブリヂストンタイヤというアドバンテージもあった。今、僕は、ジジ(・ダッリーニャ:ドゥカティコルセ・ジェネラルマネージャー)や技術者たちと力を合わせてドゥカティを最強マシンに仕上げるのに、自分が貢献できていることをとてもうれしく思っているんだ。僕のドゥカティでのストーリーはあと6戦で終わってしまうけど、毎レースで勝利を目指して、楽しみながら戦っていくつもりだ」

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ムジェロで行われた第6戦イタリアGPでロレンソはドゥカティ移籍後、初めての優勝。レース後のパフォーマンスが見られたのも久しぶり。その前の優勝はヤマハで最後のレースとなった2016年最終戦のバレンシアGP。

―もし、そのストーリーが続いていたとしたら?

「人生は決断の連続だよね。時には間違った判断をすることもあるだろう。誰しも選択を誤ることがあるし、僕だって例外じゃない。別のマシンに乗るという決断は間違いだったかもしれないし、もしドゥカティで3年目を迎えていれば今年よりももっと勝てていたことは間違いないだろう。

 僕は毎シーズン、学習を続けてきた。125cc時代や250cc時代も、MotoGPになっても、ずっと勉強の連続だった。ドゥカティへの移籍は、自分自身にとってはカテゴリーが変わったのと同じくらいの大きな変化で、ドゥカティも僕も、ここまで違うとは予想していなかった。今のMotoGPで、特にヤマハからドゥカティへの乗り換えは、対極から対極へ移動するのに等しいビッグチェンジなんだ。三度の世界タイトルを獲得したライダーを得たことで、ドゥカティは初年度から王座を奪取できると思っていたのかもしれない。かつてケイシーだけが成し遂げた偉業の再現だね。でも、僕はそんなことはまず不可能だろうと思ってはいたけど、それにしてもここまで苦労するとは思っていなかった。とはいえ、去年のミザノでは転倒するまでトップを走っていたし、セパンでも終盤までトップをキープしていたので、後半戦は自分のスピードと実力を発揮できていたと思う。その後、セパンのウィンターテストでもニューマシンでレコードに匹敵するタイムを出せた。ただ、マシン形状やバランスで体力の消耗が激しく、本来のパフォーマンスをなかなか発揮できないレースが続いたんだ」

―ドゥカティとの”離婚”は信頼関係の喪失ですか、それとも金銭的な問題だったのでしょうか?

「ドゥカティ側はそういうかもしれないね。『我々にはロレンソより好成績を出してくれるイタリア人のドヴィツィオーゾがいるし、ペトルッチやミラーにしてもロレンソと匹敵する走りをするけれども、ギャラの支払いはずっと安くて済む』ってね。

ドゥカティは、僕がジジや(クラウディオ・)ドメニカリ(ドゥカティ・モーター・ホールディングCEO)に指摘してきたことを信じてくれなかった。(ミケーレ・)ピッロ(ドゥカティ開発ライダー)も同じことを指摘していたんだけどね。トップを走ることができてもレースに勝てないのは、何かが足りないからなんだ。僕がフィジカル面で最後まで速さを維持できなかったのは、ジグソーパズルで言えば最後のピースが足りなかったからなんだよ。だって、ヤマハ時代に僕は勝てていたんだよ。44戦で優勝し、三度の世界タイトルを獲得したライダーをもう少し信用して、僕が必要だと言っているモノを提供してくれても良かったと思う。その代わりに彼らのしたことは、何度も優勝を達成したドヴィツィオーゾの報酬を増額して、実力の割にギャラの安い選手を獲得することだったんだ」

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ドゥカティにとって2007年のケーシー・ストーナー以来11年ぶりの優勝、しかも1-2フィニッシュとなった第10戦チェコGP。

―あなたに残留してもらいたがっていた人たちもいたようですよ。ジジとあなたの関係はどうだったのですか?

「ジジは天才だと思う。世界タイトルを獲得するまで、彼は絶対に挑戦を諦めないだろうね。ジジにとって来年大きな問題になるのは、強力なチームの最速ライダーふたりを相手にしなきゃいけない、ということだ。彼も僕も我の強い人間だけど、ジジはどんどんバイクを改良してきて、僕たちは優勝を達成した。僕は彼に関して、ネガティブなことは何も感じていない。お互いについカッとして強い言葉になることもあるけど、強力なチームの内部ではそんなのはあたりまえのことさ。ジジはずっと僕を支えてくれたし、僕の残留を望んでくれていたと思う」

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ジジ・ダッリーニャ。

―寂しくなりますね。

「メカたちと離れるのが、なによりも寂しいよ。じつは去年の冬、チームをカリブ海の休暇に招待したんだ。とても楽しくて、あれで皆の結束感がさらに強まった。クリスチャン(・ガッバリーニ:ロレンソ担当チーフメカニック)は、プロとして優れた技倆の持ち主だし、人格的にも素晴らしい。テレメトリー担当のトミー(・パガーノ)も、そうだね。ジジや(ダビデ・)タルドッツィ(ドゥカティ・ファクトリーチームマネージャー)、(パオロ・)チアバッティ(ドゥカティコルセ・スポーティングディレクター)をはじめ、エンジニアの皆と離れるのは寂しいよ。優勝後には、全員で勝利の喜びを分かち合ってきたからね」

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ロレンソにとって2連勝となった第7戦カタルニアGP。レース後、スタッフとの記念撮影。

―ドゥカティを離れても、心のどこかでは〈ドゥカティスタ〉であり続けますか?

「レアル・マドリードやF.C.バルセロナでプレイした選手が、いつまでもその時代を忘れないのと同じだよ。僕も、ドゥカティ時代を忘れることはないね。波瀾万丈の2年間で、苦しいことも多かったけど、成功も手にしてきた。皆がひとつになって戦ってきたこの日々のことはけっして忘れない。でも、次の時代が始まると、それもすべて過去の出来事になるんだ」

―2019年にホンダへ移籍すると、環境ががらりと変わりますね。

「そうだね。でも、コースに出て戦うという意味では、今までと何も変わらない。いい関係を築き上げることができれば、きっと楽しく過ごせると思う。でも、すべては勝利のためだけどね」

―新しいチーム監督のアルベルト・プーチ氏は厳格な人物との評判ですが。

「僕もそうだよ。だから、自分にも他人にも厳しい人は嫌いじゃない。そういう性格の人は回りくどいことやお世辞を言わずにズバリとものごとを指摘するから、明快だよね」

―プーチは、あなたの加入でマルケスはさらに強くなるだろう、と話しています。

「もちろんそうだろうね。でもそれは僕にも言えることだし、ライダー同士の関係というのはそういうものだよ。バレンティーノとのときも、お互いに負けたくなかったから切磋琢磨したし、ドゥカティに乗り慣れてきたドビとの間でも同様だった」

―あなたはロッシ選手やドヴィツィオーゾ選手と同じチームで過ごしてきました。彼らの共通点や相違点について、どんなふうに見ていますか?

「バレンティーノはとても頭がいい。ドビもそうなんだけど、ちょっと種類が違うというか。ロッシは生まれつき、社交の才に長けているんだ。ドビの場合は、言葉の選択がじつに上手い。いい関係を作り上げるのは、ちょっと難しいかな。僕はいつもドビに対して敬意を払ってきた。僕が苦戦しているときでも彼が勝てば、チームにとっていい結果だから納得していたし、表彰台の下まで行って祝意を見せていたよ。でも、僕が彼に示しているのと同じようには向こうは僕のことを考えていない、ということがわかったときに、関係は変わってきたよね」

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―マルケス選手との関係はどうなりそうですか?

「キツいパートナーになるだろうね。ホンダでは、たくさんのことを学んで吸収したいと思っている。簡単に順応できるわけではないだろうけど、カテゴリーが変わる苦労のような思いはもうしたくないね」

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―あなたはホンダに、ヤマハとドゥカティの経験を持ち込むことになるわけですね。

「ボルゴ・パニガーレ(ドゥカティの本拠地)に行ったときと同じことだよ。マルクの歩んできた方向とは違う道も開ける可能性がある、ということだろうね。戦闘力の高いバイクなら、他のライダーが乗ってもきっと強さを発揮できるはずだよ」

―同じバイクでマルケス選手に勝つ難易度をどう見ていますか?

「さあ、どうだろう。でも、ここに残留して3年目を迎えたほうが、移籍するよりもきっとラクだったことは間違いないだろうね。来年はゼロからのスタートになるわけだから」

―そして、ペドロサ選手が今季限りで引退します。

「個人的には、続けてほしかったと思う。でも、13年ものあいだ満身創痍で走り続け、タイトルを何度も逃してきた今、モチベーションの維持が難しくなったのもわかる気がするよ」

―ペドロサ選手は、ホンダにテストライダーとして残留しないのではないかとも言われていますが……。

「もしそうなら、大きな損失だよ。だって彼ほど強いライダーは、他にはいないんだから。マルケスを除けばね」

―ストーナー氏に、ホンダのテストライダーになるよう説得する意志はありますか?

「僕は状況をよく把握していないから、彼とチーム次第なんじゃないかな」

―マーヴェリック・ヴィニャーレス選手も、今季限りでチーフメカニックのラモン・フォルカーダ氏と訣別するそうですね。

「レースでは、万事うまく行っているときはすべてがバラ色に見えるものさ。でも、物事がうまく行かないときほど、ライダーとチームの相互信頼が重要になる。ラモンとなら、タイトルを獲れると思うんだけどな。じっさいに僕がそうだったんだし」

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【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】

国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。