パオロ・イアニエリのインタビューシリーズ第6弾 良いライダーとチャンピオン、スーパーチャンピオンの違いなどなど、7度の世界チャンピオン、マルク・マルケスに訊ねた!

第16戦日本GPで今季8勝目を挙げたマルク・マルケスは、7回目となる年間総合優勝(125cc:2010、Moto2:2012、MotoGP:2013/14/16/17/18)を達成した。2018年シーズンの成績は、第2戦アルゼンチンと第6戦イタリアGPを除き、ここまでの全戦で表彰台を獲得するという高水準を発揮している。王座獲得後に数日を経たばかりのフィリップアイランドで、これまでの彼の人生やレースへの考え方などについて訊ねた。

■インタビュー・文:パオロ・イアニエリ ■翻訳:西村 章
■写真:Repsol Honda Team

―今は、そろそろ日本でチャンピオンを獲得した実感が沸いてきたころですか。あるいは、毎戦優勝を目指して勝ち続けることはあなたにとってもはや慣れっこなんでしょうか?

「できればすぐにでもバケーションにでかけてこの喜びを満喫したい、というのが本音だよ。でも、2016年のときもそうだったけど、目の前の次のレースに集中をしないとね。心から祝勝会を楽しめるのは最終戦のバレンシア後かな、一ヶ月後だけどね」



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―日本からオーストラリア、マレーシアと続くこの三連戦は、粛々とレースをこなしていく転戦業務のようなものなのですか。それとも、訪れる場所ごとに今も何か新しいものを発見しようとしているのですか。

「ここ(オーストラリア)には火曜に着いたんだ。二日ほどメルボルンで過ごすこともできたと思うけど、僕としてはできるかぎり早くフィリップアイランドに来て体を休めたかった。これは僕たちにとって仕事だから、観光旅行を満喫するようなわけにはいかないよ」

―(実家のある)セルベラ以外に住んでみたい場所はありますか?

「スペイン以外なら、イタリアも大好きだね。食べ物がおいしいし、気候もいい。ライフスタイルもピッタリだし」

―そういえば、ひとり暮らしを始めたそうですね。

「うん。でも実家から歩いて5分のところだけどね」

―では、食事は実家で?

「そうだね。僕は料理があまり得意じゃないから。パスタを茹でたり何か焼いたりする程度ならできるけど、リゾットを作れといわれるとまったく何がなにやら」

―犬を飼っていますよね。彼女の代わりみたいなものですか?

「いやいや。あの犬はじつは弟のだったから、ちょっとアレックスは怒ってるんだよ。彼女に関しては、なかなかいい相手が見つからないんだよね」

―バイク以外のあなたの私生活についても、少し教えていただきたいんですが。

「じっさいのところ、ほとんど何もないよ。スポーツが好きだから、スキーとかサッカーもやるけど、スポーツ以外に趣味らしい趣味はないんだ」

―読書とか?

「あまり読まないかな。自伝は少し読むけどね。アンドレ・アガシの自伝には感銘を受けたよ。彼のような境遇は、僕もたくさん見てきた。本人は趣味として楽しみたいのに親のほうが入れ込んでしまって、8歳の子供を頭ごなしに叱りつけたりするんだ。僕自身の子供時代は、誰にもバイクに乗ることを強制されなかったし、バイクをイヤだと思ったこともない。親の勝手な願望で無理矢理バイクに乗せられているような子たちもいたけど、そんな子たちは17歳になる前に辞めていたよ」

―今度の日曜(MotoGPのオーストラリアGP決勝日と同日)に、F1ではルイス・ハミルトンが5回目のタイトルを決める可能性が高いようです。ハミルトンはF1界のマルケス、といってもいいでしょうか。あるいはあなたがMotoGP界のハミルトン、とか?

「ルイスは素晴らしい才能の持ち主だね、僕とは世界が違うけど。何度も話したことがあるし、メッセージもやりとりする。尊敬に値する人物だよ。でも、僕が最もひいきにしているのはアロンソだけどね。彼こそが傑出したドライバーだし、人格的にも素晴らしい。僕がもてぎでチャンピオンを決めたときには、彼からお祝いのメッセージが届いたよ。あなたも祝勝会をできますように、と返信を送ったんだ」



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―もしロードレースをしていなければ、どんな競技をしていたと思いますか?

「サッカー選手のことはずっと興味があって、たとえばチャンピオンとして果たして他の選手とロッカールームで共存できるものなんだろうか、っていうことを知りたいんだ。ライダーの場合は個人同士の戦いだけど、サッカー選手だって自我や自尊心は強いだろうから、そんな選手たち同士の間で果たして本当にチームスピリットのようなものが存在するのか、それとも妥協の産物として個々人が共存しているのか、ということには関心があるんだ」

―日本GPのあと、ドヴィツィオーゾ選手があなたに賛辞を贈っていましたね。彼は、ライバルとして、どういう存在ですか。

「自分自身をものすごく見つめてきた選手だと思う。これまでの彼のライダー人生の中では、他の選手たちに凌駕されたこともあったけれども、今はドゥカティという完璧な居場所を見つけ、勝てるライダーとして走り続けている。そして、今も常に成長し続けている。自分をよく知る、というアスリートに不可欠な要素を備えた人物で、僕はその大切さを彼から学んだんだ」

―今やドヴィツィオーゾ選手は、あなたの強敵ですからね。

「何度も何度も激しいバトルを続けてきた相手だね。この2年ほどは、毎戦といっていいくらい彼との一騎打ちになっている。接近戦ではなかなか勝たせてくれない、厳しいライバルだよ」



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―来年はロレンソ選手がチームメイトになります。アラゴンの一件以来、緊張感が高くなりましたか?

「そうでもないよ。皆、それぞれ性格も違えば考え方も異なるからね。彼に電話をしたのは、モヤモヤを残したくなかったからなんだ。彼には彼の見方があるし、僕には僕の見方がある。だから僕は、彼の取った挙動を知りたかった。コース上ではライバルでも、来年はチームメイトになるわけだからね」

―ロレンソ選手との関係は、コース上とコース外でうまくコントロールできそうですか?

「カギを握るのはコース上だと思う。自分が充分に強ければ、コース外でも影響力を発揮できる。でも、速くなかったら、言いたいことは言えたとしても、何でもできるわけじゃなくなるよね」

―チームマネージャーは、元ライダーのプーチ氏です。

「リビオ(・スッポ:前チーム代表)とは職務が違うから、単純な比較はできないね。アルベルト(・プーチ)の場合は、よりスポーツとしての方面に注力しているし、ライダーの気持ちや自信を持たせる方法もよくわかっている。パドックの中でバイクレースのことを最もよく理解している5本指に入るだろうね」




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―プーチ氏は、コースサイドから観察していても、あなたはさらに速いライダーになっていくだろうことが見て取れる、と話していました。

「成長し続けることは大切だと思う。今年の僕はさらに明確なビジョンを持ち、抑制し、先を読めるように努力をしてきた。でも、これはそれこそクルマの両輪のようなもので、自分が成長をしようと思ったら、バイクも成長しなければならない。そして、チームもね」

―良いライダーとチャンピオン、そしてスーパーチャンピオンの違いとは何でしょうか。

「速く走れる選手がいいライダー。MotoGPの選手は全員がそうだね。チャンピオンは、速く走っているときに頭を使うことのできるライダーのこと。スーパーチャンピオンの場合は、速く走っているときに頭を使うことができて、しかもここというときでも絶対にミスを冒さないライダー」



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―心ない言葉に傷つくこともありますか。あるいは弟のアレックスに対する批判などでも。

「弟の批判はイヤだね。僕自身に対していろいろ言われても別に何とも思わない。アレックスは僕の弟だから得をしていると考える人も多いみたいだけど、事実はその反対で、むしろ不利になることのほうが多いよ。アレックスが世界選手権に来たのはスペイン選手権でチャンピオンを獲得したからで、Moto2にステップアップしたのはMoto3でチャンピオンを獲得したからだ。その実績を見ようとしない人たちもいるみたいだね」

―リン・ジャーヴィス氏は、アレックス選手を候補として考えたこともない、と言っていました。ヤマハのバイクの秘密が最大のライバルにあっという間に筒抜けになってしまうだろうから、なのだとか。

「それはありえないよ。アレックスを取らない言い訳には使えたとしてもね。だって、たとえば僕は、自分のバイクがどんな挙動を示すかを他の選手に説明することはできるけど、ホンダのバイクの技術的な部分は僕にはわからないよ」

―自分の体で最も優れている部分はどこだと思いますか?

「(笑)。頭かな。肉体は鍛えれば引き締まっていくけど、頭がダメなら何もうまくいかないからね」

―ダニロ・ペトルッチ選手は〈ガゼッタ・デロ・スポルト〉にコラムを持っているのですが、そこで彼はあなたについて『限界をおそれることなく、たとえば火にも平然と近づいていける選手で、そこが他の選手との違いだ』と書いていました。

「そうかも。トップライダーの中では、おそらく僕が最も転倒をしていると思う。でも、それは僕が他の選手たちよりダメだからじゃないんだ。怪我をすることをいつも気にしておそれていたら、速く走ることなんてできないよ。限界に迫っていくためには、ある種、無意識になる必要がある。そのちょっとした境界を越えていくのが愉しいんだ」

―あなたは、世界選手権を走り始めて今年で11年目。でもまだ25歳という若さですね。どうやっていつも100パーセントのモチベーションを維持しているのですか?

「いつも最高の状態でいられるわけじゃない。いいレースもあれば悪いレースもある。自分が無敵だと感じるときもあれば、疑心暗鬼になってしまうときもある。だから、バランスが肝心だ。それと、勝利を目指すのか、表彰台が目標なのかという目標設定。あとは、家に帰ったらレースのことをまったく忘れるといったふうに、気持ちの切り替えも重要だね」



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―MotoGPの記録とMotoGP界の記憶では、どちらのほうが大切ですか。

「タイトル獲得ももちろん重要だけど、皆が覚えているのは、むしろライディングスタイルやキャラクターだと思う。たとえば、1~2回タイトルを獲得した選手よりもランディ・マモラ氏のほうが強烈に記憶に残っているよ。僕自身も転倒を回避したときは、映像で捉えていてほしいと思うんだ。あとでそれを見て確認することもできるしね」

―マルク・マルケスであることの、ネガティブな面はありますか?

「普通の生活を送れないこと。2014年と2015年にそれを痛感した。僕は外向的な性格だからできるかぎり皆と一緒にいたいけど、もはやそれは無理な相談なんだ」


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【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。

[第一回  ヤマハモーターレーシングマネージング ディレクターリン・ジャーヴィスインタビュー]
[第二回 アンドレア・ドヴィツィオーゾ インタビュー]
[第三回 バレンティーノ・ロッシ インタビュー]
[第四回 ホルヘ・ロレンソ インタビュー]
[第五回 レプソル・ホンダ・マネージャー アルベルト・プーチインタビュー]
[第六回 マルク・マルケスインタビュー]
[第七回 ダニ・ペドロサ インタビュー]