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 モデルチェンジしたスズキのミドルマルチパーパスモデル、V-Strom 650 ABSを数日お借りして、そこそこ長い時間を過ごすことが出来たので感じたことを報告したい。

 まずは見た目から。アルミツインスパーの基本骨格は前作譲りで、グラディウス650と基本は同じ90度Vツインエンジンを積んでいるけれど、フロントにボリュームがあった前モデルに比べ今流行りの小顔になったのが特徴的。それを含めて既存のカテゴリーに囚われない新しいスタイルを手に入れている。側面からだと前後に長く大柄に見えるけれど、跨ってみるとVツインエンジンの恩恵もあって実際はかなり細身で、押したり引いたり揺すったりしてもずっしり感はない。

こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/AH7-8wcLaU8」で直接ご覧ください。 こちらで動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/26y1_2FlndU」で直接ご覧ください。

 シートにお尻を預けそのまま地面に向けて真下に足を降ろすと、ふくらはぎの位置にステップバーがくる。だから最初は無意識のうちにステップのより外側に足を広げて「足着きはイマイチかなぁ」と思ってしまった。ステップ位置は一般的なロードスポーツモデルより前側にあるので、バーより前方向に出しても地面との距離は長くなる。だから足着きの作法は横でも前でもなく、意識してバーより後ろに足を出すようにするのが正解だ。それさえ判っていれば、今回いろんな条件の道を走ったけれど、170cmちょうどの身長で「もっと良好な足着きが欲しい」と思ったシーンは一度もなかった。足の長い人は気にならない話だろうけど……。

 ハンドルグリップに手をかけ、オフロード的なアップライト姿勢のように背筋を地面に対して垂直にしようとすると、腕はピンと伸びきってしまう。その為乗り始めの頃はハンドルが遠く思えた。慣れてくると腕に余裕を持たせるために自然に少し前傾して乗るようになった。このポジションで高速道路を走ると、特別に大きくフセせずとも、新形状のスクリーンが気流を上に押しやってくれるので直接風が体に当たらない。風の巻き込みがまったくないわけではないけれど、前モデルより格段に向上している。

試乗者の身長は170cm。アルミ製ツインスパーフレームとスイングアームは、基本的に2011年モデルを継承。フレームは、鋳造部材と押し出し部材で構成。スイングアームは、押し出し部材のアーム、ピボットと鋳造部材のジョイントの組み合わせ。リアホイールトラベル量は159mm。
フューエルタンクは、前モデルより容量を2リットルほど削ったがそれでもクラス最大の20リットルを誇る。また、エンジン側での燃費改善により、航続可能距離としては従来モデルとほぼ同一という。サイドカバー、フレームカバーは新たに開発したシボ(テクスチャー)を施した黒色樹脂製。流れるようなキャラクターラインを描き、各塗装部品を取り囲む構成とすることで、ガードイメージを強調している。写真左は走行テストを担当した品質本部の佐藤省吾さん。 V-Strom 650 ABSのデザインは「Tough×Smart」をキーワードに開発された。アドベンチャーツアラーに求められる機能を追求し、洗練された一体感のある造形を表現しているという。オーバーハングを詰めた凝縮感のあるプロポーション、表情豊かな造形の塗装部分とテクスチャーを使い分けた黒色樹脂部品のコンビネーション、機能感を強調したディテールなどによって、スポーティな軽快感とタフネスイメージをアピールしている。

 Vツインエンジンは極低速から実用的な力があり、そのままフラットに高回転域まで伸びていく。エンジンパワーの出方に扇情的な演出はない。ただただライダーのスロットルワークに忠実で柔軟性があり出しゃばらない。しかし確実に車体とライダーを前に押し出してくれて不足はなかった。メーター内のギアポジション表示は本当に便利だ。

 走りは安定していながら思うような動きが可能だ。コーナーでは常にニュートラルであり唐突なところはなく、すーっと自然に車体が倒れて、寝た分だけ旋回していく。減速、旋回、加速というコーナーでの一連の動作はたおやかに流れるよう。特別な乗り方はいらない。カチっとした車体によく動くサスペンション。プラス、ラバー付ステップなどで不快な振動はライダーに伝わらず、どのエンジン回転域でも快適だった。動力性能に対してブレーキは必要十分。

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 マルチパーパスといってもこのモデルはオンロードを主眼に開発されている。それを承知でちょっとしたフラットダートに乗り入れてみたところ、フロントに19インチホイール、リアに17インチホイールを履いた足廻りは意外なほど走破性が高く、トラクションは失いにくい。エンジン下にガードがないので(当然想定していないから)荒れたところは厳しいけれど、道の姿を保っている林道くらいなら楽にこなせる。ハンドルもよく切れて、足場の悪い狭いダート道でタンデムしたままUターンしてみても緊張せずにやれた。

 V-Strom 650 ABSに「超」とか「最」とかの単語は付かない。乗ってみたら、大きな特徴がなくとらえどころがない、という印象を持つライダーもいるかもしれない。実はそこに魅力があるのだ。乗る人に余計なストレスを与えず乗っているのが楽。操作することに全神経を使わないで景色を楽しみつつさらりと運転でき、完全に存在を隠しているわけではなく、自己主張は控えめながらVツインらしい鼓動感もあって操る面白さもある。その加減がいいあんばい。定評のあったツーリングモデルとしての資質により磨きがかかった。個人的に最近はこういう大人なバイクに好感が持て安心する。

(濱矢文夫)

多機能、コンパクトな新型メーター。左側にアナログ表示のタコメーター、右に輝度調整機能付大型LCDディスプレーを採用。おなじみギアポジションインジケーターを当然装備。またタコメーター内にはユニークな凍結警告表示灯が備わる。これは外気温が3°C以下で点灯、5°C以上に戻ると消灯するというもの。燃料計や水温計などの多機能表示部分は、ハンドル左グリップの裏側に備えられた切り替えスイッチでコントロールできる。 高い防風性を誇る可変ウインドスクリーンを採用。従来モデルに対して、スクリーン上端を30mm後退させることで、風の巻き込みを低減し、高い防風効果を発揮している。ウインドスクリーンの高さは3段階に調整可能。中段がスタンダードポジションで、上方に24mm(後方8mm)、下方に18mm(前方18mm)の3ポジション。スクリーンの固定方法はシンプルにボルト止め。
フロントフェンダーはフォークピッチングガードを融合し、ラジエターへ風を導く形状としている。リアフェンダーはマフラーのレイアウト、キーシリンダー位置の変更などにより、ライセンスプレートを上方へ移動。前後フェンダーともに複数のシボ(テクスチャー)を組み合わせた軽快なデザインに。フォークアッパーブラケットのデザインも一新し、金属調シルバーのハンドルバーと合わせて質感を高めている。フロントフォークのインナーチューブ径はφ43mm。無段階調整の伸び側ダンピングアジャスターと5段階の油圧式プリロードアジャスターを採用。ストローク量は150mmと変わらず。 シート高を前モデル比、約15mmプラスすることでライディングポジションを見直している。ハンドルとステップの3ヵ所で構成される位置関係を最適化するための手法とか。また、同時にこの標準シートに対して、20mm低いローシート、プラス20mmのハイシートをオプションで設定している。シート表皮は「V-Strom」のエンボスロゴと赤いステッチを施したレザー調と、滑りにくいスエード調を組み合わせて使用している。
2011年モデルをベースに再開発されたエンジンは、低中速域のトルクアップとパワフルな高速域を両立させている。ピストン、ピストンリング、シリンダーを刷新。アルミダイキャストシリンダーは硬質な皮膜を実現したスズキ独自のSCEMメッキシリンダーを新規採用。高い放熱性を維持しながら、フリクションを低減し、耐摩耗性、ピストンリングの密閉性をアップしている。シリンダーヘッドも低中速域のトルクアップとメカロスを低減するため、新設計のカムシャフト、バルブスプリング、ツインイリジュウムスパークプラグが採用された。

不等間隔爆発がもたらすVツイン独特の鼓動感を演出する新型クランクシャフト、プライマリードライブギア。新設計のクランクシャフトとシザーズタイプのプライマリードライブギアの採用により、トルクフルで扱いやすい出力特性の実現と、アイドリング時のエンジンノイズを低減。

高速CPUを採用するEngine Control Unit(ECU)が、エンジン回転数、吸入負圧、スロットルポジションのデータにより基本燃料噴射量を決定。さらにマフラーに装着されたO2フィードバックセンサーにより補正することで最適な燃料噴射量を決定。2011年モデル比でWMTCモード燃費約10%向上。

クラッチレリーズ機構はボール・スクリュータイプからカムタイプに変更されている。よりダイレクトな操作感を実現。シフトペダルの操作感も改良。さらにクラッチカバーが2層構造となり、メカニカルノイズの低減を図っている。

冷却性能のアップと、快適なライディングを両立させるラジエター導風板を追加。導風板には穴が設けられており、足元にこもる熱を排出する機能も持つという(特許取得)。油温を安定させるため、水冷式のオイルクーラーも採用された。
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■V-Strom 650 ABS主要諸元■
●全長×全幅×全高:2,290×835×1,405mm、ホイールベース1,560mm、最低地上高:175mm、シート高:835mm、車両重量:214kg、燃料タンク容量:20L●水冷4ストローク90度V型2気筒DOHC4バルブ、排気量:645cc、ボア×ストローク:81.0×62.6mm、圧縮比:11.2:1、燃料供給装置:F.I.、点火方式:エレクトロニック・イグニッション、始動方式:セル、潤滑方式:ウエットサンプ、最高出力:50.5kW/8,800rpm、最大トルク:-N・m(-kgf・m)/-rpm●常時噛合式6段リターン、1速:2.461、2速:1.777、3速:1.380、4速:1.125、5速:0.961、6速0.851、一次減速比:2.088、二次減速比:3.133●フレーム形式:アルミ製ツインスパー、サスペンション前:φ43mmテレスコピック、ホイールトラベル150mm、後:スイングアーム、リンク式モノショック、ホイールトラベル159mm、キャスター/トレール:26°/110mm、ブレーキ:前デュアルディスク、後シングルディスク、タイヤ:前110/80R19M/C 59H、後150/70R17M/C 69H●価格:1,008,000円(MotoMap)

 ■試乗:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗 ■取材協力:MotoMap http://www.motomap.net/



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