カワサキ“W”を識るーーーーー後編 W1乗りが徹底試乗&解説!! W1は、北米市場へも進出しカワサキ・ビッグバイクの礎を築いた立役者でもあった!!

Zやマッハより長い歴史を持つカワサキの由緒正しき血統「Wシリーズ」。その初期モデルは今から半世紀以上も前、1966年に発売された。今回、その貴重なファーストモデルに乗ることもできた。71年式「W1SA」乗りの筆者とともに、その変遷も見てみよう。

■文:青木タカオ 
■撮影:真弓悟史、安井宏充
■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/、川崎重工業 https://www.khi.co.jp/

すべてはここからはじまった!
カワサキ・ビッグバイクの元祖
W1 1966年

 W1初期モデルの大きな特徴は、前後18インチの足周りであることとキャブレターを1基(ミクニVM31)しか備えていないことだ。輸出仕様では67年の「W2SS」から、国内仕様では68年の「W1スペシャル(W1S)」以降でツインキャブとなって、最高出力も47→53PSに向上する。ホイール径も後続機種ではフロント19インチ、リア18インチとなり、1974年に生産を終える「650RS(W3)」までそのサイズを貫く。つまり、W1〜W3の中でも初期型だけは相違点が多く、それはメグロK2の面影を大いに残しているからである。


W1

 まず、トランスミッションを別体式とする空冷4ストローク直列2気筒OHV2バルブは、ボア74mm×ストローク72.6mmで排気量を624ccとしているが、496ccだったK2のボアを8mm拡大して得たものであった。K2→W1化にあたっては、一体鋳造式だったクランクを3点組み立て式にし、高回転に必要なニードルローラーベアリングをコネクティングロッド大端部に使用するなど改良が見られる。

 さて、“ダブワン”を25年間も愛車としてきた筆者にしてみると、カワサキ所蔵のW1初期モデルに乗れる機会をいただくなんて天にも昇る想いだ。しかし、浮かれてはいられない。まず、自分の「W1SA」(1971年)は左チェンジなので、右足でのギアチェンジには慎重にならなければならない。


W1

 エンジン始動は無難にこなす。カワサキが用意した車両だけにコンディションは抜群。キック一発で、バーチカルツインはいとも簡単に目覚める。じつはW1〜W3のキック始動は、さほど難しくない。“ケッチン”をくらったり、なかなか始動しないというのは何かしら不調があるからで、完調に整備されていればいとも簡単にエンジンはかかるのだ。
 メインスイッチとガソリンコックがONであるのを確認し、エンジンが完全に冷えていればハンドルにあるスターターレバーを引き、暖まっていればレバーは使わない方がいい。キックアームで圧縮上死点をほんの少し過ぎたところを探って、アームを振り下ろせば力は大して要らない。


W1

 走り出せば夢心地である。初期型の排気管は“モナカマフラー”と呼ばれる。俗にいうキャブトンマフラー(みずほ自動車キャブトン号に由来する)は輸出仕様では「W1SS」から、国内では「W1S」以降で採用された。キャブトンマフラーのサウンドは破裂音にも近いダイナミックなものだが、それに比べると若干ながらジェントルでこもった音質。しかしこれもまた迫力があって、音を感じているだけで酔いしれてしまうのであった。

 英国式の右チェンジは、シーソーペダルのツマ先側を踏みしめていくとシフトアップとなり、ニュートラルから1→2→3段、そしてトップの4段へ至り、ロータリー式ではなくリターン式。つまりカカトでペダルを落とせばシフトダウンとなり、4→3→2→1→Nへと戻っていく。


W1

 前後18インチのハンドリングは、前輪19インチのS以降より若干ながらシャープな気がするものの、そんな分析をしている精神的余裕は自分にはない。カワサキ・ビッグバイクの元祖に乗っていると思うと、冷静ではいられないのだ。メッキタンクにキャンディレッドの塗装が施された車体は気品に満ちあふれていて、上半身が起きた姿勢で乗っていると堂々とした気持ち。大袈裟だと失笑されるかもしれないが、筆者にとっては生涯忘れられない感動体験になった。カワサキにはお礼の申し上げようもない。



W1


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W1(1966年)
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒OHV2バルブ●総排気量:624cc●内径×行程:74×72.6mm●最高出力:47ps/6500rpm●最大トルク5.4kg-m/5500rpm●変速機:4速リターン(右チェンジ)●全長×全幅×全高:2135×865×1070mm●軸間距離:1430mm●燃料タンク容量:15L●乾燥重量:199kg●発売当時価格:32万8000円

バーチカルツインの生みの親
そしてW1のルーツ
KAWASAKI 500 MEGURO K2 1965年

KAWASAKI 500 MEGURO K2

 W1のルーツとなっているのが、カワサキ500メグロK2だ。ボア・ストローク66×72.6mmやミッションを別体式とする基本レイアウトはメグロ・スタミナK型と同じだが互換性はほとんどなく、川崎航空機(カワサキ)にとって記念すべき自社製4ストローク大排気量モデルとなった。
 キャブレターはアマルモノブロックの376-27型だが、後半からミクニVM28に。トランスミッションはW1と同じ4速だが、ロータリー式。タンクエンブレムはメグロマークにカワサキの社章をアレンジしたものが使われている。
 このK2の排気量を拡大した改良型が1965年の東京モーターショーに「X650」(試作車)として展示され、翌66年に「W1」として発売されるのだ。キャブをVM28→31とし、吸気バルブ径も33.5→36mmに。シリンダーヘッドのボルトが28→32mm径となったり、クラッチ容量やオイルポンプ吐出量も増えることになる。



カワサキ500メグロK2


カワサキ500メグロK2

カワサキ500メグロK2

カワサキ500メグロK2

カワサキ500メグロK2

カワサキ500メグロK2

カワサキ500メグロK2

カワサキ500メグロK2
KAWASAKI 500 MEGURO K2
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒OHV2バルブ●総排気量:496cc●内径×行程:66×72.6mm●最高出力:36ps/6500rpm●最大トルク4.2kg-m/5500rpm●変速機:4速リターン(右チェンジ)●全長×全幅×全高:2185×900×1070mm●軸間距離:1430mm●燃料タンク容量:15L●乾燥重量:194kg●発売当時価格:32万8000円

アメリカ向けにスタイルを軽快に!
COMMANDER W1SS 1967年(輸出仕様)

W1SS

 北米市場の要望に合わせ、スタイルを一新。ただ深いフェンダーはアメリカではあまり人気がなかった。シングルキャブをそのままに前後フェンダーをスポーティにショート化し、ハンドルもプルバックスタイルに変更。欧州勢が装着し、人気のあったキャブトンマフラーをこのモデルから採用した。「COMMANDER(コマンダー)」のネーミングが、広告では大きく謳われている。



※COMMANDER W1SS


COMMANDER W1SS
COMMANDER W1SS
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒OHV2バルブ●総排気量:624cc●内径×行程:74×72.6mm●最高出力:50ps/6500rpm●最大トルク5.7kg-m/5500rpm●変速機:4速リターン(右チェンジ)●全長×全幅×全高:N.A●軸間距離:N.A●燃料タンク容量:15L●乾燥重量:N.A

先行してツインキャブ化!!
COMMANDER W2SS
1967年(輸出仕様)


※COMMANDER W2SS


COMMANDER W2SS

 軽快なスタイルとした「W1SS」だったが、“よりハイパワーを”という要求に応える必要がまだあった。そこでシリンダーヘッドを改良し、キャブレターを2基装備する。採用したのはミクニVM28。67年秋の東京モーターショーに出展され、翌68年2月に国内仕様「W1SPECIAL(W1S)」として発売されることとなっていく。つまり「W2SS」の国内版が「W1S」というわけだ。

COMMANDER W2SS
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒OHV2バルブ●総排気量:624cc●内径×行程:74×72.6mm●最高出力:53ps/7000rpm●最大トルク5.7kg-m/5500rpm●変速機:4速リターン(右チェンジ)●全長×全幅×全高:2115×880×1060mm●軸間距離:1415mm●燃料タンク容量:15L●乾燥重量:181kg

ツインキャブで馬力アップ
キャブトンマフラー装着!!
W1SPECIAL(W1S) 1968年


W1SPECIAL(W1S)


W1SPECIAL(W1S)


W1SPECIAL(W1S)


W1SPECIAL(W1S)

 キャブレターを2基装備し、W1(国内仕様)と比較すれば6PSも向上。キャブトンマフラーが豪快なサウンドを放つW1スペシャル(W1S)は人気を呼んだ。一体式だったメーターはセパレート式となり、いかにも新型然としていた。初期型は右に速度計、左にタコメーターだったが、後期型では配置が逆に。「W2SS」の国内仕様に相当するが、ショートフェンダーではなく日本向けに深いフェンダーを選んだ。太鼓ウインカーはアメリカの保安基準に合わせ、W1およびW1S用はK2よりひとまわり大きいが、W1S後期型でボディがダイキャストになり片側レンズとなる。2キャブになってからは、燃料コックが35mm前方へ移動したことも付け加えておこう。

W1SPECIAL(W1S)
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒OHV2バルブ●総排気量:624cc●内径×行程:74×72.6mm●最高出力:53ps/7000rpm●最大トルク5.7kg-m/5500rpm●変速機:4速リターン(右チェンジ)●全長×全幅×全高:2145×865×1100mm●軸間距離:1420mm●燃料タンク容量:15L●乾燥重量:199kg●発売当時価格:33万8000円

スクランブラースタイルもあった!!
COMMANDER W2TT 1968年(輸出仕様)


COMMANDER W2TT


COMMANDER W2TT


COMMANDER W2TT


COMMANDER W2TT

 海外向けには、左2本出しのアップマフラーやブロックタイヤを備えたスクランブラー仕様も発売されている。「W2SS」もそうだが、初期モデルはメッキタンクとしていたものの後期型は全塗装に生まれ変わってイメージを刷新した。エンブレムはデカールとなり、垢抜けたイメージを模索しているのがわかる。W2SSと2本立てとし、2サイクルには350ccの「A7」、250ccの「A1」という布陣であった。

時代に合わせ左チェンジ化
若者にも支持された!!
W1SPECIAL(W1SA)1971年


W1SPECIAL(W1S)


W1SPECIAL(W1S)

68年10月には2ストローク3気筒500ccの「H1(マッハIII)」が、最高速200km/hを誇って北米市場に投入され、Wの役割は少しずつ変わっていく。71年には「Z1」もデビューし世界を席巻するから、なおさらである。それでも国内向けに、リンクを介して右→左チェンジ化した「W1SA」を発売した。シフトパターンはすでに主流となっていた1ダウン3アップ式に変更し、燃料タンクはツートーンにペイント。カタログには再び“W1SPECIAL”と記され、車名として扱われていた。コンタクトブレーカーは2ポイント式に強化され、リアサスペンションのボディは黒に。フロンブレーキのパネルは左側に移されている。W1〜W3のシリーズの中ではもっとも人気となり、9870台が生産されている。

W1SPECIAL(W1SA)
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒OHV2バルブ●総排気量:624cc●内径×行程:74×72.6mm●最高出力:53ps/7000rpm●最大トルク5.7kg-m/5500rpm●変速機:4速リターン(左チェンジ)●全長×全幅×全高:2135×850×1100mm●軸間距離:1420mm●燃料タンク容量:15L●乾燥重量:199kg●発売当時価格:34万8000円

カワサキ初のダブルディスクブレーキ
新車にプレミアム価格が!!
650RS(W3)1973年


650RS(W3)


650RS(W3)

 オーソドックスな「W1SA」(前後ドラム式ブレーキ)に、なんとカワサキ初となるダブルディスクブレーキを与え、カラーグラフィックスも変更。車体重量は増えるが、新しさを求めた。さらにハザードランプの装備もカワサキ車では初で、このときキルスイッチやパッシングランプといった近代的な装備も搭載している。メーターやウインカー、スイッチボックス、リフレクターなどに、時代の先端をいくZ1と同じデザインが用いられ、“RS”シリーズを形成。74年12月に生産打ち切りとなるが、新車が希望小売価格41万5000円を上回る50万円で売られ、当時としては非常に珍しいプレミアム価格がつくという現象が起きたのも、ファンらの間では伝説となって語り継がれている。

650RS(W3)
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒OHV2バルブ●総排気量:624cc●内径×行程:74×72.6mm●最高出力:53ps/7000rpm●最大トルク5.7kg-m/5500rpm●変速機:4速リターン(左チェンジ)●全長×全幅×全高:2150×860×1120mm●軸間距離:1420mm●燃料タンク容量:15L●乾燥重量:215kg●発売当時価格:36万3000円/74年=41万5000円

四半世紀を経て
平成に復活!!
W650 1999年


W650


W650

W650

W650

W650

W650

W650

W650

 Wファン待望の復活には25年を要した。「美しいモーターサイクルを作りたい」というカワサキの思いが結晶した「W650」は98年9月、ドイツ・ミュンヘンでベールを脱いだ。エンジンは360度クランクの空冷バーチカルツインの伝統を受け継いだが、カムシャフト駆動をベベルギアにしたSOHC4バルブとしていた。カワサキWらしい鼓動感やサウンド、落ち着いたスタイルで人気を呼び、新しいファン層も獲得。2001年にはシートとニーグリップラバーを形状変更し、エキパイに二次エアを送り排出ガスを再燃焼させるKLEENシステムを搭載し、排出ガス規制に適合させる。06年には女性ユーザーもターゲットにした「W400」も発売するなどし、2009年までロングセラーを続けた。

W650
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒SOHC4バルブ●総排気量:675cc●内径×行程:72×83mm●最高出力:50ps/7000rpm●最大トルク5.7kg-m/5500rpm●変速機:5速リターン●全長×全幅×全高:2175×905(780)×1140(1075)mm●軸間距離:1445mm●燃料タンク容量:15L●車両重量:210kg●発売当時価格:68万6000円 ※( )はローハンドル仕様

排気量アップ&FI化
ハンドルはミリバーに
W800 2011年


W800


W800

 W650ファイナルカラーが2009年4月に発売(72万300円)されて以来の復活となった「W800」。シンプルなダブルクレードルフレームと大径ホイールが造り出す美しいプロポーションはそのままに、車名が示すとおりエンジンの排気量を800cc化し、吸気機構にはフューエルインジェクションがセットされた。フロントブレーキには径300mm、フローティングタイプのシングルディスクを採用。インチサイズだったハンドルバーは直径22.2mmとなり、握りが細いものとなっている。また、高品質な塗装を施したフューエルタンクはグラフィックに水転写デカールを採用し、繊細なグラデーションと凹凸のない美しい仕上がりを実現した。

W800
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒SOHC4バルブ●総排気量:773cc●内径×行程:77×83mm●最高出力:48ps/6500rpm●最大トルク6.3kg-m/2500rpm●変速機:5速リターン●全長×全幅×全高:2180×790×1075mm●軸間距離:1465mm●燃料タンク容量:14L●車両重量:216kg●発売当時価格:85万円

レトロ&モダンが融合した
新スタイルに
W800STREET/CAFE 2019年


650RS(W3)


W800

「W800STREET」と、ビキニカウル付きで前傾気味のライディングポジションとなる「W800CAFE」の2本立てとなり、両車とも一見して懐古主義一辺倒ではないことがわかる。ダブルクレードルフレームは頑強な50mm角断面のバックボーンと丸パイプのダウンチューブを組み合わせたもので、先代から変わっていないようにも見えるが、各部の必要剛性が改めて解析され、パイプ径をそのままにパイプの厚さを最適化。溶接とガセットを最小限に抑え、滑らかな高品質な仕上げを実現した。剛性の上がったフレームに合わせ、フロントフォークはインナーチューブ径を39→41mmに、フロント19インチだったホイールは前後18インチ化。ブレーキは前輪ディスク径が拡大し、300→320mmに。ドラム式だったリアには270mmローターが与えられ、ABSを標準装備。アシスト&スリッパークラッチも搭載し、レバー操作がとても軽い。最高出力48PSだったエンジンは52PSにアップ。スポーティさが増し、Wシリーズの可能性をさらに拡げている。まだ伝説は終わらない。

W800STREET/CAFE
●エンジン形式:空冷4ストローク並列2気筒SOHC4バルブ●総排気量:773cc●内径×行程:77×83mm●最高出力:52ps/6500rpm●最大トルク6.3kg-m/2500rpm●変速機:5速リターン●全長×全幅×全高:2135×825(925)×1135(1120)mm●軸間距離:1465mm●燃料タンク容量:14L●車両重量:216kg●価格:993,600円(111万2400円) ※( )はCAFE

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