ドゥカティ ジャパン

 DUCATIの旗艦であるスーパーバイクモデルが久々のフルモデルチェンジ。話題の1199パニガーレの日本仕様に袖ヶ浦フォレストレースウェイで乗ってきた。

 試乗車は標準モデルのフロント=マルゾッキフォーク、リア=ザックス製フルアジャスタブルショックユニットから、ハンドルスイッチでコンプレッションとリバウンドのダンピングが調節できる電子制御のオーリンズ製(スプリングは今まで通り手動調節)に変更されている1199S。Sモデルはホイールも標準の10本スポークから軽量なマルケジーニ製鍛造3本スポーク(1198SPより0.4kg軽い)を履いている。

 海外のサイトの写真や、発表された写真を見た時は、なんだかさっぱりしてDUCATIらしい独特の強い個性が小さくなったかなぁ、日本車みたいだなぁ、なんて思っていたけれど、実際に目の前にした実車は彫りが深くて、見る角度によって印象が違う優れたスタイリング。LEDヘッドライトは精悍な顔つきを演出。短絡的でありがちな言葉で申し訳ないけれど、素直に「カッコイイね」と思った。

 そしてコンパクト。1198に比べてリア周りがかなり小さくなった。テールカウルとその下を通るマフラーがリアタイヤの末端部分まで伸びていた1198と違い、テールカウルエンドがリアホイールセンターくらいで終わっている。さらにマフラーがテールカウル下を通っていないこともあってカウル自体が小さいから、余計にそう感じさせた。

 本国仕様と日本仕様の違いは、お腹の下くらいで終わっていたエグゾーストマフラーが、テールエンドまで伸びた大きなサイレンサーを有したものに変わったこと(テルミニョーニ製)。エンジンに樹脂製カバーが付いて、エンジンパワーは本国の195hp(143kW) / 10,750rpmから135hp (99kW)/8,000rpmになり最大トルクは2.4kgm小さくなっている。

 日本の騒音規制は車体基準ではなく、マフラーの出口から排気が出ていく方向に50cmの地点で計るから、本国仕様のエンジンに近い出口だとエンジンそのものの音も拾うことになり、規制をクリアできなかった。ネットなどで口さがない人が、この日本仕様マフラーについて否定的な意見を述べていたが、私は流麗なスタイルのマイナスポイントになっているとは感じない。というかあまり気にならなかった。何よりこうしないとパニガーレは日本の地を踏めないのだから、ああだこうだ言うのはナンセンスかも。

こちらでドゥカティ 1199パニガーレの試乗動画を見られない方は、YOUTUBEのサイト「http://youtu.be/SKmTgw08OuA」で直接ご覧ください。 国内に導入される1199パニガーレは3タイプ、パニガーレのベーシックモデル、パニガーレS、そしてパニガーレSトリコローレ。写真はパニガーレSの装備に加えてGPSオートラップタイム機能を備える新世代DDA+が標準で装備されるトリコローレ。

 乗り込んでエンジンを掛けると、小型タブレットと言ってもいいくらいのTFTカラー液晶のメーターが明るく表示(DUCATIは“メーター”と言わずに“ダッシュボード”と呼んでいた)。このパニガーレには『RACE』『SPORTS』『WET』の3つのライディングモードがあって、最初は『SPORTS』モードで。さらにここからABSの効き具合(OFFも含めて4段階)、EBC(エンジンブレーキ・コントロール)の効き具合、DTC(DUCATIトラクションコントロール)の効き具合(OFFも含めて9段階)、DQS(DUCATIクイックシフト)のON/OFFなど細かくパーソナライズできるのだが、それを今回の試乗では試さなかった。だからデフォルト3種類モードでの走行。

 クラッチレバーを握ると、乾式クラッチではなくFCC製の湿式クラッチを採用しているので静かだ。ギアを入れそろそろとコースイン。ポジションはより日本車的で、身長170cm中肉中背ライダーの私が乗って腕、背中、足に不自然なところはない。前の1198に比べアルミの燃料タンクは股とお腹が当たる部分の形状がなだらかになったため、上半身の動きに自由度が増した。乗り手の身長や体型による快適の幅が広がったと思う。ただ、ステップバーが私のブーツのソールと合わないのか、無造作に踏み込むとツルっと滑って足が抜けやすい。一度それを経験してからは注意したので同じようなことにはならなかったけれど気を使ったのは確かだ。

 DUCATIファンならご存知だろうが、このパニガーレからシャシーは鋼管を使ったトレリスフレームではなく新しいモノコックフレーム。今までよりさらにエンジンをフレームの一部として使うことが進んだ。リア周りで、サスペンションのリンクとスイングアームを支持するのはエンジン後端に設置された小さなアルミセクション。ショックユニットの片側はL型エンジン後ろバンクの左サイドに取り付けられている。フロント周りは、エアボックスも兼ねる三角柱の箱形状のフレームがエンジンヘッドカバーの上に乗っかっているだけで、それが前足を受け持ち支える構造。

 斬新だから、卓越したスタッフが時間をかけて設計して、私よりも何倍もレベルの高いライダーが乗り込んで開発したと思っていても、今までいろんなバイクを経験してきて固定された観念もあって、ちょっと不安になってしまうシンプルさ。でも走りだすとそれが杞憂であったいうのが判った。凸凹のないサーキット路面だということが前提だけど直線でのスタビリティや、コーナーでの動きに変なクセのようなものはない。それどころかこれまでのDUCATIスーパースポーツの中で確実にフレンドリー、かつ安定して思うようにコントロールできた。

 1198より本国仕様で10kg、この日本仕様でも6kgの軽量化、さらにモノコックフレームによるマスの集中化、ワールドスーパーバイクのファクトリーレーサーと同じ重量バランスのおかげもあって、コーナー進入、切り返しで動きがとても軽い。国産スーパースポーツとはひと味違う軽快感。軽く舵が入ってクリップポイントまでスーつと素早くイン側に寄って行く。その時でも車体は安定しており、前タイヤのグリップ状態を把握しやすく難しさはない。徐々に、路面に当たっていたヒザを折りたたむくらい深くバンクして走るようになり楽しくなっていった。

 112mmのボアに対して60.8mmのストロークの超ショートストロークエンジンはビートを刻みながら低回転からトップエンドまで気持よく回る。その時のパワーの出方に唐突なところはまったくなく、パワーの制御がしやすく身構えるようなところがない。どの回転数でも開ければ瞬時に反応して車体とライダーを前に進めていく。

 進入で意地悪なシフトダウンをするとスリッパークラッチが確実に効いてリアタイヤは落ち着いたまま。車体がまだ充分に起きない時に大胆に開けていくとトラクションコントロールによってリアタイヤが横に出るのをくい止める。ある程度バンクしたところから加速していく時の良好な安定性はそのDTCだけでなく、標準で履くピレリの新しいディアブロスーパーコルサSP V2の200/55ZR17サイズのリアタイヤが、1198の190/55ZR17より外径が大きくなり横方向だけでなく縦方向にも接地面積が増えたことも大きな要因になっていると思う。

 最終コーナーを立ち上がり、ストレートでスロットルを全開のままクラッチレバーを使わずシフトアップしても自然に繋がるDQS(DUCATIクイックシフト)を使い速度を上げて、無理なく自然に前傾したらヘルメットがスクリーンに収まって空気が上を通って後ろに逃げていく。迫る1コーナーの手前でスロットルを閉じながらブレーキング。パニガーレ専用に用意されたモノブロックのブレンボキャリパーを使うフロントブレーキはレバーに軽く指の力を入れるだけで、簡単に強烈なストッピングパワーを発揮。制御性も含めて素晴らしいのひとこと。

ライディングモードの切り替えは、停車中または走行中に、ウインカーのキャンセルボタンを短く押すことで切り替えられる。押す毎にモードが切り替わるので、好みのモードに切り替わったら、キャンセルボタンを3秒以上長く押すことで決定される。 見やすくシンプルなTFT液晶のメーター周り。選択したライディングモードにより表示する情報も変化する。
ドゥカティが“スーパークアドロ”と呼ぶLツインエンジン。伝統のデスモドロミック機構で4バルブを駆動する。エンジン上の黒いボックスは内部がエアボックスとして利用されるアルミニウム製モノコックフレーム。 キー付きのリアシートカバー。タンデムベルトが隠れている。
国内の排気騒音基準をクリアするため採用された“サードマフラー”(3本目のマフラーということではなく、あくまで3ステージ目の役割を果たすマフラー、の意味とか)。走行騒音規制対策ではノイズの拡散を低減するエンジンカバーが採用されている。 こちらは片持ち&リンク式リアサス。プログレッシブ特性を持ち、オーリンズ製TT×36電子制御フルアジャスタブル水平モノショックを採用する。ホイールは鍛造3本スポーク(さらに3本ずつに分かれる)。ブレーキはフロントにφ330mmセミフローティングダブル、リアに245mmシングルディスク。
ライダーの身長は170cm。

 私より、もっとタイヤの性能を引き出して速く走れる人とは印象が違うかもしれないけれど、バリバリのレース経験はなく、草の中のさらに草な小規模レースと、たまにサーキットで遊ぶくらいのスポーツ走行好きライダーはこう感じた。パニガーレは、多くのライダーに親しみやすくなったと言われた1198よりさらに親しみやすさが増している。

 この後、最高出力が少し低い『WET』モードも試してみたけれど、サーキットで路面温度が高くドライという条件では穏やかになりすぎて、すぐに『RACE』モードに変更。最高出力は『SPORTS』と同じ135hpながら、スロットル操作に対するエンジンの反応が鋭さを増して車体も含めて走り全体がシャキっとした。優しい『SPORTS』モードもいいけれど、このコースで走るなら『RACE』モードの方が走りのリズムが良くなる。タイムを測ってはいないけれど、前より速く走っていると感じた。

 最後にオプションパーツが装着された公道走行不可のフルパワーになった車両にも試乗した。エンジンはパワーの出方など扱いさすさはそのまま全体にトルクとパワーが増大。流して走っていても手を焼くようなやんちゃになっていないが、立ち上がりでスロットルを気安く開けシフトアップしていくと、元気にポンっとフロントホイールが簡単にリフト。さすがに今までよりストレートが短く感じた。

 日本に入ってきたパニガーレは、初心者でも大丈夫──とまでは言わないけれど、確実にそれまでより幅広い技量のライダーが怖がらずに楽しめて、かつ速くなっていると感じた。今回は一方通行で路面の綺麗なクローズドサーキットという限定された環境での感想。だから次は街中、ワインディング、高速道路公道で乗ってみてどんな走りをするのかを試してみたい。

(試乗:濱矢文夫)

■1199 PANIGALE S 主要諸元■
●スーパークアドロ水冷4ストロークL型2気筒4バルブ・デスモドロミック、ボア×ストローク:112×60.8mm、燃料供給装置:フューエルインジェクション、始動方式:セル、最高出力:99kW(135HP)/8,000rpm、最大トルク:109N・m(11.1kgf・m)/8,000rpm●湿式多板クラッチ●フレーム形式:アルミニウム製モノコックフレーム、サスペンション:前φ43mmフルアジャスタブル倒立フォーク、後プログレッシブリンク式水平モノショック、ブレーキ:前ダブルディスク、後シングルディスク、タイヤ:前120/70ZR17、後200/55ZR17
※上の写真は1199 PANIGALE S Tricolore
こちらは、1199 PANIGALEにキットパーツを装着したモデル。Ducati Corse Termignoniレーシングサイレントマフラー(公道不可)をはじめ、スモークラージウインドシールド、カーボン製リアマッドガード、スイングアームプロテクトカバー、イグニッションキーカバー、ジェネレーターカバー、クラッチカバープロテクション、ヒールガード、フロントマッドガード、リアショックアブソーバーカバー、ビレットアルミ製アジャスタブルライダーフットペグ、レーシングライダーシート、ビレットアルミ製タンクキャップASSY、DDAプラスキットなどを装着したモデル。出力も195HPとなっている。


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