ヤマハ

 ヤマハのMTシリーズは、XV1600ベースのVツインを搭載した’05年のMT-01を皮切りに登場。トルクフルで鼓動感に富んだ味わいがあって、4気筒車とは好対照なキャラを持ったストリートスポーツである。ただ、ネーミングが09だから9番目というわけではない。実は、XT660の単気筒を搭載し、’06年に登場したMT-03に継ぐ3番目である。
 このMT-09は新設計並列3気筒エンジンを搭載する。となると、いくら4気筒より鼓動感があるとは言え、これまでのMTに敵うわけがない。また、スリムと言っても、Vツインやシングルには敵うわけはなく、MTと名乗るのはいかがなものか。そんな気持ちもあったが、やはりMT-09もMTそのものだったのだ。

 この3気筒、意外なほど鼓動感がある。既存の3気筒が軟質だとしたら、硬質と表現していい。だから、路面を蹴り出す感じが分かりやすく、それでいてゴツゴツしておらず、扱いやすいときている。
 ヤマハは、MT-09の3気筒に、クロスプレーン・フィロソフィーを掲げている。YZF-R1のクロスプレーンクランクは、90度クランクとすることで、ピストンの上下動による慣性力を各気筒で打ち消し合い、ピストンが燃焼で押し下げられる様子を把握しやすくしているのだが、実は120度クランクの3気筒にも、これと同様の効果が生じているからだ。
 言ってみれば、MT-09はそうした3気筒の特徴を、強調していることになる。低回転域に粘りがあり、トルク特性は全域でスムーズにつながり、11,000rpmの上限への伸び感も気持ちいい。2気筒と4気筒のいいとこ取りという意味でも3気筒の良さが最大限に引き出されている。

 当然、3気筒はスリムなのだが、このスリムさはまるでVツインのよう、とするのは言い過ぎだろうか。跨ると、シートから足元が大変にスリム。フレームは後部が狭く絞り込まれ、スイングアームピボットはフレームの左右両側に取り付けられるため、足元がスリムなのだ。
 しかも、走っていると、さらにスリムに感じられる。ハンドリングは常にニュートラルに保たれ、フロントにストレスを感じさせず、接地感もありありと伝わってくる。この車体構成は、しっかりした剛性感がありながら、ピボット付近でしなりやすいことになり、そのしなりによってストレスを吸収しているかのようだ。このニュートラルさが、スリム感を強めているのかもしれない。
 さらにこの剛性バランスによって、フロントを押し出さず、リアから曲がり込むようなリアステア感覚が生み出されているのだ。

 こうした持ち味によって、味わいがあるだけでなく、ストリートバイクとして楽しく使える扱いやすさがある。足着き性はいいし、スリム感やエンジンの従順さもあって取り回しやすい。アップライトなライポジで、前後サスもストローク感が豊かだから、荒れた路面でも心地いいはずだ。
 でも、MT-09は、すごくワイドレンジで多様性に富んだバイクだ。使えるだけでなく、エキサイティングに遊べるのである。パワーモードがA(スポーツ)ポジションであれば、中回転域で軽々とフロントを持ち上げてしまうトルクがあるし、今回の雨の中では試せなかったものの、晴れた路面では51度という深いバンク角とリアで曲がり込めるハンドリングによって、コーナーも熱く楽しめると思う。
 テイスティ、フレンドリー、エキサイティング、この3要素が見事なまでに高水準で実現されているのだ。(試乗:和歌山利宏)

見た目にシートが高くても、跨るとシートサイドから足元が驚くほどスリムで、足着き性は結構良い。普通のロードモデルよりも、ハンドルは幅広で、高く近くにあって、上体が起きて余裕があり、またマシンをコントロールしやすいライディングポジションだ。ライダーの身長は161cm。
3気筒はスリムな反面、背が高くなりがちだが、これはクランク軸が低く、比較的シリンダーを前傾させているため、高さが抑えられ、コンパクトである。電子制御スロットル、不等長エアファンネル、一次偶力バランサーを備える。 アルミCFダイキャスト製の左右分割式で、ボルトで締結される。フレーム後部は狭く絞り込まれ、スイングアームピボットは、フレームの左右両外側に取り付けられる。
左右非対称スイングアームもフレーム同様、アルミCFダイキャスト製。ディスク径はφ245㎜で、キャリパーは片押し式だ。 センター下出しのマフラーは3into1式で、隣同士のエキパイとの間に連結管を持つ。エンジンは、シリンダーの前後、ピボットの上下でリジッドマウントされる。 フロントフォークはφ41㎜倒立式。キャリパーはヤマハ独自のラジアルマウント一体成型式。ディスクはφ298㎜径のダブルだ。
リンク式のリアサスはユニットがエンジン後部に横置きにされ、マスの集中にも有利な位置に置かれる。リンクの支点はピボット軸に取り付けられている。 装備重量は188kgで、YZF-R6の189kgより軽く、ホイールベースは1440㎜で、4気筒のFZ8の1460㎜と比べてもややコンパクト。扱いやすく、ジャストサイズの車格である。 右側にずらして設置されるフル液晶式のメーターパネルは小型で非対称形。シンプルであっても多機能で、ギア段数や選択したパワーモードも表示される。タコメーターはバーコード式だ。 ヘッドライトはシンプルなデザインのマルチリフレクタータイプ・ヘッドライトを採用。リアはLEDテールライト。
■MT-09 主要諸元(欧州仕様)
●エンジン:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ●ボア×ストローク:78.0×59.1mm●総排気量:847cm3●圧縮比:11.5●最高出力:84.6kW(115HP)/10,000rpm●最大トルク:87.5N・m(8.9kg-m)/8,500rpm●燃料タンク容量:14リットル●燃料供給装置:フューエルインジェクション●変速機:常時噛合式6段リターン●フレーム:ダイヤモンドタイプ
●全長×全幅×全高:2,075×815×1,135mm●軸距離:1,440mm●シート高:815mm●最低地上高:135mm●重量:188kg〈191kg〉●サスペンション:前倒立テレスコピック、後スイングアーム(リンクサス)●ブレーキ:前φ298mmダブルディスク、後φ245mmシングルディスク●タイヤ:前120/70ZR17M/C 58W、後180/55ZR17M/C 73W
※〈 〉内はABS仕様。
カラー:Deep Armor with MT fuel tank logo graphic/Blazing Orange with MT fuel tank logo graphic/Race Blu/Matt Grey


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