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ホンダ
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こちらの動画が見られない方、もっと大きな画面で見たい方は、YOUTUBEのサイトで直接どうぞ。「http://http://youtu.be/XmIEXzkNHYQ」 CTXシリーズ共通の力強い「水平基調デザイン」を採用。特徴的なフロントカウルは、LEDヘッドライトの採用によって、個性的でダイナミックな面構成としている。

 
「ホンダは新たなクルージングワールドを展開していきますよ」

 2013年半ば、ふと耳にしたその言葉はF6BやCTX700の事をさしていたのか、と思った。が、それにとどまらず東京モーターショーで示されたF6CやVFR1200Xなど、カスタムクルーザーという狭義な解釈ではなく、CBシリーズを含め、「もっと走ろう」「知らない景色を見に行こう」と誘い出すプロダクトを続々と送り出すバイタリティーを含めての言葉だったのだ。

 中でも目玉の一つがCTX1300。一言でCTX700の兄貴分と片付けられない多くのソースで造られた秀作だ。

 開発チームはいくつかのプランの中からこのバイクのスケッチを選択したという。Vツイン、並列4気筒、クランクシャフト横置きのV4(VFRと同型のエンジン)、そして縦置きV4エンジンなどのエンジンを搭載した数多くのアイデアが提案された。

 彼らを魅了したのは、シリンダーヘッドから出るエキゾーストパイプ。それが左右でシンメトリーになる姿を想像して「これだね、これしかないね」となったそうである。確かにかっこいい。

 そしてリアビューを描いたスケッチには極太のリアタイヤが醸し出す存在感。しかし、かっこいいデザインを具現化しなければならないスタッフは「マジかよ!」と心の中で叫んでいたそうだ。実際、エンジンと極太リアタイヤのために、数々の難題にぶち当たったという。

 まずエンジン。ST1100 に端を発し、STX1300に受け継がれるホンダの縦置きV4エンジン。BMWなどのスポーツツアラーなど、プレミアムバイクセグメント用に造られるパワーユニットだ。その性格はアウトバーンツアラー。高速で何処までも快適に、だ。

 そのエンジンを載せたCTX1300の開発試作車はスポーティーなエンジンの宿命で、ガンガン飛ばしたくなる仕様だったという。これではダメだ、と徹底的にCTXチューニングが始まったという。吸排気系を軸に行われたそれは、このバイクの大きな美点となる。

 また、シャフトドライブの駆動系を持つこのエンジンに、200という太い後輪を入れるため、エンジンを車体にセンターからオフセットする必要もあった。走行テストチームや車体設計は補正し、自然なハンドリングを得るための苦労は絶えなかった。

 しかし「俺たちの造りたいCTXはカッコ良いやつ、あのイラストでシビれたやつだよな」とチーム一丸となり目標に向かい続けたという。

 走りだけにとどまらず、Bluetoothを用いたオーディオやスイッチなどのインターフェイス、灯火器にLEDを採用した時代の先進性を含め、余すことなくパッケージングしたというCTX1300。ワクワクする一台なのがこれでお分かり頂けただろう。

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ライダーの身長は183cm。

 
トロふわ感たっぷりの低速トルク!

 パニアケースやフェアリングを備えるその姿は想像以上に大きく思えた。しかし、CTX1300の740mmと低く抑えられたシートに腰を下ろすと、ピタリと吸い付くような一体感がある。大きく、重たい。そうした魅力を打ち出すアメリカン調クルーザーとも異なる。340kg近い車重ながら、サイドスタンドから起こす時、広いハンドルバーを利してか重み感はそれほどでもなかった。軽快には当たらないが、手強い感がない。この日、CTX1300に乗ってこの第一印象がすべてにおいて通じていた。

 個人的にホンダの縦置きV4は初体験に近い。写真でみたSTXのようにカウルで覆われていないから、V4感もダイレクトだ。

 なによりエンジンを始動し、少しアクセルを煽るとV4らしいバサバサ、ブロロロを合わせたような音がこぼれ出す。V4らしいヒュンヒュンしたギアノイズも耳に届く。

 比較的ワイドなハンドルバーが造るポジションは183cmの僕には程よく、シートエンドまでの距離も充分。それでいてグリップを遠く感じない。押し引きをしてみても、ワイドかつ手前に引かれたハンドルバーはびくともしない剛性感がある。

 市街地では大柄ながら、低速からバランスがとても取りやすい。Uターンも十分な低速トルクを背景に苦もなくこなしてくれた。アイドリングのすぐ上から実用的なトルクを生みだすエンジンは、40km/hを越えたらトップ5速にいれても不満を言わず走り続ける。ふわっとした丸みのあるエンジン特性から、試作当初のエピソードはおよそ想像できない。

 低い回転でドロドロと走るのを得意としながら、回していったときの伸び上がりの素直さ、スムーズさもV4らしさがある。しかも相当に速い。この二面性がCTXの魅力でもある。

 乗り心地は基本的にマイルドだ。2本ショックとすることでシート高を低めるレイアウトにも貢献している。リアショック長は短め、それでも二人乗り、標準装備されるパニアに荷物を入れての走行時でも荷重を受け止めるようスプリングその物はソフトなものではない。一人乗りだと固い印象となるのが普通だが、ショックマウントに使われるラバーブッシュの硬度に吟味を重ね、初期のアタリをマイルドにしつらえた。荒れた路面でも乗り心地はマイルド。悪くない。

 ただし、発進後、加速中に通過するギャップや、ゴムブッシュの領域を越えた瞬間、リアタイヤの接地点が暴れることが何度かあった。シートのフォームが良好な減衰を見せてくれるので、大きな不満とはならないが、そこまでの良好な印象から跳ね出す瞬間の変位をもう少しなだらかにつなげて欲しい、と思った。

 高速道路では、低めに見えるスクリーンながら快適なウインドプロテクションを発揮してくれた。首都高速のような流れが遅くカーブの多い道もゆるゆる楽々走る。大柄で動きもゆったりして見えるが、子どもがオトナの服を着たようなブカブカ感はない。タイトではないが、思い通りに走ってくれる。

 アイコンタクトに近い乗り手とバイクの意志の疎通が読み取れると、ますます走るのが楽しくなる。この状態まで約15分。良い滑り出しだ。

 5速・1800回転で60km/h、2500回転で80km/h、3500回転で100km/hとなるギアレシオは的を得たものだ。どの回転からもあえてシフトダウンをする必要性すら感じず右手だけで増速は思い通り。こうした走りを可能としたのも、エンジンの特性をしっかりとCTXらしさに拘った恩恵だ。

 路面の良い高速道路は快適の一言。これなら何処までも行ける。ミュージックプレイヤーを持参しなかったので、自慢音質を確認は出来なかった。ただ静止状態でiPhoneからの音源を再生する音を聞いたが、素晴らしかった。Bluetoothでの通信も非常にクリア。不安定さは無かった。開発中のエピソードとして、通信の確実性を得るため、様々な検討をしたと聞いた。胸ポケット、パンツの尻ポケット、背中側にあるバッグの中、そして二人乗りの場合等々、技術者は確認を怠らなかった。また、そのアンテナの位置も他の部品とのやりとりで、一等地を取るのに苦労した、という。

 また、人間の体は電波を減衰する性質を持つため、技術者同士があり得ないほどピタリとくっつき、体で挟んだらどうなるか、など、苦労を重ねて仕様を決めたという。

 100kmほどを走り、すっかり魅了されたCTX1300。その頃には340kgの重さも大柄な車体も体の一部のようにすら感じていた。乗りやすい。

 帰路は遠回りをしてワインディングを流してみた。テストライダーの一人は「かなりいけますよ」と含み笑いをしたが、やっぱりその深みを自分も感じてみたい、と思ったからだ。

 前後連動ブレーキ+ABSは、試乗当時、路肩に残る残雪から滲みだした冷水を乗り越える時も安心感があったし、吸収性がよいフロントフォークはそうした場面に足を踏み入れてもタイヤの仕事をしっかりサポートする。

 クイックさはないものの、長いホイールベースをモノともしないしっかりとした旋回時の舵の入りがあり、曲がり始めた車体に分厚いトルクをあてがうように右手を捻ると、気持ち良いコーナリングワールドに心を解き放ってくれるのだ。

 乗ったコトはないが、これはマジックカーペットかもしれない。想像以上にバンク角があり、だらしなく車体下部を路面にこすりつけることもない。前後のブレーキを使いながら、走る瞬間は上質なスポーツバイクと対峙しているような深みもあるし、前後連動ブレーキを駆使してライン選びに没頭するのもまた楽しい。

 快適技術の体験、はこうしてどんなスピード域でもその人が楽しみたい、と思ったことにバイクが的確に応えてくれる“心地よい時間の連鎖”と解釈した。

 パニアに荷物詰めてどこ行こう──そんな誘惑にそそられる春の遠い日の午後だった。耳の奥にまだあのV4サウンドが残っているぐらいだから。

(試乗:松井 勉)

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CTXシリーズのフラッグシップとして見応えのあるゴージャスなデザインを持つフロントエンド。低いウインドシールドがもたらす開放感は格別。オプションでトールスクリーンも準備されている。LO/HIともにLEDを採用したヘッドライトなど、灯火器類はすべてLEDを採用。ナイトランの強い味方となる。 78.0×66.0mmのボア×ストロークを持つ水冷DOHC4バルブV型4気筒エンジン。クランクを縦置きするため、バイクの両側からシリンダーがのぞく。吸排気のレイアウトを最適化するため、描かれたエキパイのカーブもスタイルアイコン。吸気管長をかせぐため両手の指を組んだような形状として吸気管を伸ばし、理想のトルク特性を得たという。タンクにあたるトップシェルターの中は吸気系が多くを占める。燃料タンクはシート下に配置。長身のライダーだと膝とシリンダーヘッドが接触するが、ラバークッションが熱を遮り、柔らかな触感を実現。 10スポークとなる専用デザインのホイール。φ43mm径のインナーチューブを持つ倒立フォーク、3ピストンキャリパーとφ310mm径のディスクプレートを持つ。前後連動ABSはホンダのお家芸でもある。
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左右2本出しのマフラーからはこれぞV4という音を奏でる。ルックスとエンジン特性を両立させるため、実はクランクケース下後方でパイプはこのように延長され、それをカバーが覆うようにして外観意匠を整えている。※写真をクリックすると、車体下部の様子が分かります。 ブレーキ、テールランプ、ウインカーともLEDを採用する。テールランプは横に渡るチューブをネオン管のように発光させる印象的なもの。一目でCTX1300と分かる。 たっぷりとしたシートは、尻の荷重を受け止める部分の広さと足つき性を考慮した先端を細めたデザイン。シートバックが腰をしっかりとホールドしてくれる。タンデムシートの肉厚、広さも充分確保。サイドカバーにあるキーシリンダーでシートの取り外し、フューエルリッドの開閉を行う。※写真をクリックすると、シートを外した状態が分かります。
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テーパードバーを使う。押し引き、手につたわる剛性感に拘って取りつけのクランプ部分を決めたという。ブラックで統一されたスタイルはバイクの性格とマッチしていてかっこいい。 モノクロTFT液晶パネルを中心にしたクリーンなインストルメントパネル。Bluetoothで通信するミュージックプレイヤーの楽曲情報も表示される他、多機能表示もされる。 標準装備となるETC車載器その物は既製品。シート下のこの位置に納まる。
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オーディオ、多機能表示のセレクトスイッチはトップシェルターの左右のスイッチから。操作感に拘った造り。TFTモニターにある多機能表示の切り替えも右側のスイッチから。走行中に操作するにはちょっと不便。むしろグリップヒーターのスイッチのような一等地に欲しいところだ。 パニアケースは一見細身だがジェット、フルフェイスとも収納が可能だ。着脱式ではないが、車体側の内面形状を追い込んだ結果、幅方向で扱いにくさを出さずに見事収納性能をアップ。イグニッションキーでパニアケースを施錠解錠ができる。CTX1300が採用するウエイブキーは従来型の長いキーより格段にキーシリンダー内の滑り感がよく、ポケットに入れても違和感がない。HISS機能はそのままだから使い勝手の面で大きく進歩している。
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●CTX1300 主要諸元
■型式:EBL-SC74●全長×全幅×全高:2,380×940×1,170mm■ホイールベース:1,640mm●最低地上高:130mm■シート高:740mm■燃料消費率:27.2km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)18.5km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)■最小回転半径:3.2m■車両重量:338kg■燃料タンク容量:19L■エンジン種類:水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブ■総排気量:1,261cm3■ボア×ストローク:78.0×66.0mm■圧縮比:10.0■燃料供給装置:PGM-FI■点火方式:フルトランジスタ式バッテリー点火■始動方式:セルフ式■最高出力:62kw[84PS]/6,000rpm■最大トルク:106N・m[10.8kgf]/4,750rpm■変速機形式:常時噛合式5速リターン■ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク×油圧式シングルディスク■タイヤ(前×後):130/70R18 M/C 63V×200/50R17M/C 75V■懸架方式(前×後):倒立テレスコピック式×スイングアーム式
■車体色:ダークネスブラックメタリックとパールサンビームホワイト■メーカー希望小売価格:1,837,500円(消費税抜き本体価格 1,750,000円)
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