デザイナーがカタチにしたHondaの誇りと結束。バイクが、好きだ! レースはもっと好きだ!

ホンダ

イタリアからやってきた一人のデザイナー。

 市販のヘルメットのデザイングラフィックや、多くのレーシングライダーに向けたオリジナルデザインを提供するイタリアではお馴染みのデザインカンパニー、Drudi Performance。それを率いるのがアルド・ドゥルーディさんだ。もちろん、ヘルメットのデザインにとどまらず、インテリア、アパレルやレーシングマシンのグラフィック(レプソルHondaチームもDrudi Performanceの顧客だ)を手がけるなど、その活動の場は幅広い。
 現在56歳。若い頃からバイクに夢中だったドゥルーディさん。現在もエンデューロバイクで野山を駆け、ツーリングバイクで遠出を楽しみ、気が向けばガレージからスポーツバイクを引っ張り出し、サーキットだって攻めるエンスージアストでもある。
 そのドゥルーディさんは、80年代のグランプリで活躍したグラッチアーノ・ロッシ(そうバレンティーノ・ロッシのお父さん)のヘルメットをデザインしたことを皮切りに、この世界に足を踏み入れた。若いドゥルーディさんはヘルメットメーカーのagv、バイク用アパレルのダイネーゼなどのデザインを受け持つ一人となる。その後、バレンティーノ・ロッシのヘルメットのグラフィックを担当するほか、日本のアライヘルメットにもデザインを供給している。

 そのドゥルーディさんが久々に鈴鹿にやって来た。真夏の祭典、8時間耐久ロードレースを楽しむため、そして自らがグラフィックをデザイン担当したHonda社員チームの闘いぶりを眺め、彼らを応援するためだ。

 
 ドゥルーディさんにデザインのオーダーを出したのはHondaだった。鈴鹿8耐といえば伝統的にHondaが強い。さらにいえば、技術を磨き、人を磨き、なにより負けず嫌い。レースはHondaのお家芸だ。そんなこと、旧いファンなら誰しもが知っている。一方、新しくバイクファン、レースファンになった人のHondaに対するイメージはどうだろう? そこで、“Hondaはこんなカルチャーを持ったメーカーです”という意思表示をもっとしっかり打ち出していこう、との思いで新たな試みが昨年から始まっていた。

 
 Hondaの従業員チームを軸に“Hondaをもっと意識してもらおう。そして見る人にHondaのメッセージを届けよう”とマシンはもとより、チームウエア、ピット装飾、そしてトランスポーターにまで統一感を出すデザインを施すことにしたのである。

 
 統一デザインのプログラムに参加する熊本レーシングのスタッフによれば「最初、メインストレートでピットサインを出すとき、現れたマシンの判別が出来るか不安でした。でもすぐに馴れました。従業員チームはいわば、会社の課外活動で参戦するプライベートチームです。このようなカタチでHondaの看板をアピールすることができ、ピットの中までこうした設営物があると、気分が違います」と話す。
 そのピットボードも8チームで統一感を持たせたもの。それでもちゃんと色分けもされているので、なるほど、ライダーも見間違えることはなさそうだ。
 実際、メインスタンドから眺めると、Honda系チームで同じピットボックスをシェアし、ピットウエアにも統一感があるので、プライベーターというよりワークスチームがたくさん出場しているようにも見える。
 そんな意味で今年の8耐を見た人達なら、CBR1000RRを駆って走る多くのチームがあったことが記憶に残っただろう。

 統一デザインを纏った彼らの活躍も光った。2014年の鈴鹿8時間耐久は、レースウイークの金曜日から天候に翻弄された。予選日が行われたその日、鈴鹿は酷暑だった。日本各地で“この夏最高の気温”を記録する猛暑の中、鈴鹿での予選セッションでは想定外の問題が起こっていた。
 太陽にあぶられたサーキットの路面温度が60℃を軽く越え、タイヤのグリップダウンに起因する転倒が続出。ライダーによると「どこまでグリップするのかまるでつかめない。みんなコロコロと転ぶんです。タイムが全体的に低調だったのもそのためですね。」となる。転倒したバイクがコース上にとどまったことにより、赤旗でセッションストップになることもしばしばだった。
 過酷な予選日のコンディションの中、2分09秒277をマークしたゼッケン25 鈴鹿レーシングは、予選総合8位で土曜に行われたトップテントライアルに駒を進め、土曜日のトライアルで2分8秒976までラップを削り、決勝7位グリッドを確保する活躍を見せた。

 7月27日、朝9時半の段階で路面温度は52℃を越え、今日も暑いレースになる、と誰もが思っていた。しかし、スタート時刻が近づくと、西から黒雲が来襲。ウォームアップランが終わる直前、裏ストレートに猛烈なスコールが落ち始めスリックタイヤを履いたライダー達がようやくホームストレートに戻るような状況となる。雷鳴がなり始めたこともあり、主催者は安全を考え天候が回復するまでスタート・ディレイ。
 1時間後、ようやくスタート進行が再開され、12時35分に1時間5分遅れで決勝が始まった。その時点で6時間55分に短縮されることが決まったのだ。
 雨こそ弱まったものの、ウエットコンディション、短縮されるカタチで2014年の8耐は始まった。レース直後から上位陣は飛ばし、30分と立たずにクラッシュして消えるチームも……。荒れたレースが落ち着きを取り戻すのに1時間は必要だった。
 路面が乾き、ペースを取り戻したかに見えた矢先、14時半には大粒の雨が再び落ち始めた。トラックは僅か10分でヘビーウエットに。それでも30分後には天候は回復に向かい、16時には路面コンディションも回復。再びスプリントな展開に。
 気温も幸いにして酷暑とまではならず、レース中の路面温度は35 ℃から45℃程度。タイヤにも優しく、バイクへの負担も少ない点では救われたが、レース短縮や雨により入ったセーフティーカーランの影響で戦略を立てにくいレースとなった。
 その中、5時間経過時に4位まで上がった鈴鹿レーシングは「表彰台か!」との声も上がるほど手堅くレースを運び、19時半には6位でフィニッシュラインを越えることに。また、熊本レーシング11位、エスカルゴ15位、明和レーシング20位、狭山レーシング23位、ドリームレーシング44位、EGレーシング49位、ブルーヘルメット56 位と、統一デザインを纏った8チームすべてがそれぞれのドラマを描ききり、鈴鹿の夏を締めくくった。
 レースは十八番。Hondaの取り組みは静かにファンの心に届いたにちがいない。そう思える今年の8耐だったのだ。


鈴鹿レーシング
#25 鈴鹿レーシング。おなじみ鈴鹿製作所の従業員チーム。


熊本レーシング
#33 熊本レーシング。熊本製作所の従業員チーム。


浜松エスカルゴ
#40 浜松エスカルゴ。浜松製作所の従業員チーム。


狭山レーシング
#41 狭山レーシング。狭山製作所の従業員チーム。


ドリームレーシング
#77 ドリームレーシング。本社の従業員チーム。


ブルーヘルメットMSC
#78 ブルーヘルメットMSC。本田技術研究所の従業員チーム。


明和レーシング
#85 明和レーシング。品質管理部の従業員チーム。


EGレーシング

#112 EGレーシング。ホンダエンジニアリングの従業員チーム。



スタッフウエア


給油スタッフ


サインボード


ライダー
原則としてマシンデザイン、ピット、ストップボード、ライディングスーツ、スタッフウエア、給油スタッフウエアとヘルメット、トランスポーターのデザインを統一し、チーム名、チームカラー、ゼッケンナンバーで差別化が図られた。

ドッルディさんに鈴鹿で聞いた
 
 
●鈴鹿に来るのは初めてですか?
 

「1998年に一度来ています。世界グランプリの初戦、日本グランプリでした。気温は4月で少し肌寒かったのを思い出します。その年、Hondaに乗るマックス・ビアッジが500㏄クラスで優勝、バレンティーノ・ロッシは250㏄クラスでした。今回が2度目の鈴鹿です」

 
●ドゥルーディさんがデザインという仕事を始めるキッカケとなったことを教えて下さい。 

 
「20歳ぐらいからデザインの仕事を始めました。インテリア、グラフィック、アパレルのデザインをしていました。その頃、バイクを通じてバレンティーノ・ロッシのお父さん、グラッチアーノと知り合って、彼のヘルメットをデザインしたことがキッカケですね。バレンティーノが生まれる2年ほど前のことです。そのことが自分にとって重要な仕事になるとは思ってもいませんでした。
 
 当時、アメリカのトロイ・リー・デザイン(http://www.troyleedesigns.com/)のようなデザインプロダクトの存在はイタリアにはなく、計らずも先駆け的な存在だったということです。
 その後、モータースポーツに関するデザインが多く、中でも有名なレーサーのヘルメットを担当したこともあり、知られるようになりました。また、プロテクターなど、セーフティーアイテムのデザインも手がけています」


ドゥルーディさん

 
 
●ドゥルーディさんもバイクに夢中ですか? 


「モータースポーツは大好き。いつも朝起きると『さ、仕事に行くぞ』という感じではなく『さ、楽しみに行くぞ』という気分なので、バイクと繋がった仕事が出来るのはとても良いことなんです。
 個人的にVFR1200Fをとても気にいっています。そして今、自らのプロジェクトとしてオリジナルデザインをしたもの、を造っています。カスタマイズという域を超えて作り込んでいるんです。VFRは今年のクリスマスぐらいにはカタチになる予定です。もし、Hondaからプロダクトデザインのオーダーがきたら、スポーツツーリングのバイクをデザインしてみたいですね」

 
●ドゥルーディさんにとってHondaとはどんなイメージでしょう?


ドゥルーディさん

 
「Hondaは大きなメーカーです。イタリア、ヨーロッパを始め世界中の何処でもHondaは安定していて、とても大きなメーカーです。大きすぎて手が届かない存在だと思っていました。鈴鹿8時間耐久を走るHondaのライダー、チームのデザインを担当したことはとても光栄なことです。今回、このプロジェクトは2年目です。昨年にも増して力を入れました。だから鈴鹿サーキットに到着して8チームのバイクが並んでいるのを見た時、とても感動しました」

 
●今回のデザインのキーポイントは?
 

 
「最初はバイクの真横の図柄を平面、2Dの状態からデザインしていきます。これまでの経験からレーシングバイクのどのあたりにスポンサーのロゴが入り、ダイナミックな走りをする場面でどのように見えるのか。そうしたことをイメージしながら進めていきます。ライダーやチームの色も重要で、デザイン配置には関連してきます。
 
 完成した中で、一番の見所としてオススメしたいのは、バイクが左カーブを深くバンクした状態を想像して下さい。それを斜め前から見た状態。ライダーの体はバイクのイン側に入り、レザースーツの腕の部分のロゴやデザインがしっかりと見える場面です。ダイナミックで美しい瞬間です。バイクのデザインがよく見えますしね。ヘルメットを強調したい場合はその逆のほうがいいでしょうね。いつもそうした動きをイメージしながらデザインをしています」


ドゥルーディさん


ドゥルーディさん

 
●例えばです。一台売れたら販売価格の何%のデザイン料が入る、という印税契約をむすんだとします。となると、スポーツツーリング系バイクより、スーパーカブのほうが成功するのでは、と思うのですが。

 
「それは素晴らしい発想です。しかし、私はやっぱりスポーツツーリングバイクのほうに興味がありますし、Hondaのためにデザインができるとしたら最高でしょうね」

  
ありがとうございました!!