土砂降り発、照り、雨、快晴のサンセット めいっぱい走った学園マシンの鈴鹿日和 Teamホンダ学園テクニカルカレッジ関西の2014年夏。(後編)

ホンダ ホンダ学園

2014年7月26日(土)決勝前日。

「ひとりひとりのスキルは高いものの、集団になると引っ込み思案になる」

「自分の作業は確実だが、つねにまわりの進み具合を見ながら行えるのかがカギ。これがチームワークと呼ばれるところ」

 阪田克己先生、白上貴紀先生、ふたりの顧問の抱く懸念を伺ってから2週間後、鈴鹿サーキットの2番ピットは大詰めの決勝前日を迎えていた。2番ピットは、ホームストレートと平行してハーモニカ状に続くパドックのもっともエンド付近(1コーナー寄り)。ちょうど”4時間耐久レース”が行われていて、レース終了と同時に8時間耐久のピットウォークとフリー走行が予定される。



鴨川鷹也先生


遠藤則夫先生
二輪整備同好会の顧問に加わった鴨川鷹也先生。昨年HRCより学園に赴任した。「今まで学生がやっていなかったデータを取って活用する大切さを教えたい。目に見える数値変化によって、マシンがどんな運動の状態にいるか。データの把握と分析が学生達の整備士としての成長につながって欲しいと思います」 顧問の仲間入りをした遠藤則夫先生。専門は、なんとフォーミュラカー造り。アルミ資材があればF1を造ってしまうという技術者。本人曰く「モノ造りが中心なので今回はトラブル対策要員として初めて8耐に参加しました」オフロードバイクが趣味とか。


上田誠一先生


澤田武美校長先生
上田誠一先生も新しい顧問。鈴鹿市の出身だが4輪整備が専門。2輪のレース活動は初めてとのことだ。「同好会では主にマネジメントを担います。学生達とのコミュニケーションを重んじ、彼らのスキルに応じたアドバイスができればと思っています」学生達にとっては気さくな兄貴の感覚? Teamホンダ学園・二輪車整備同好会の最大のバックアップ役は澤田武美校長先生。学園全体を見ながら同好会のレース活動を文字通りバックアップしている。「みなさん、後援会の方々のおかげもあって、少しずつですがチームのまとまりが出来てきたと思います。この活動はホンダ学園の関西校ならではのカラーでもあり、得難い体験のできる機会と思っています」

「この前(学園取材時)を50点とするなら70点ぐらいまで来ましたかね。率直に、学生達はよくやってきたと思う。これを80点、90点まで持って行くためには彼らのこれからの実戦での過程でしょうか。やるべきことは探せばいくらでもあります。これが終わって学校に戻ったら、その経験をほかのみんなに伝えて欲しいところです」

 白上先生は張りつめた面持ちは崩していないものの、今年もまたここに来た。学生達の責任者として連れて来ることができたという感慨の表情はみてとれる。学生達も、学園で見た時よりすこし精悍、そう感じるのは連日の猛暑で顔つきが引き締まってきたのか。



壮行会
レースウィークを前に、学園では恒例の壮行会が行なわれ、いざ鈴鹿へ。

 身長185センチの宮下勇作キャプテン、ガス担当。ちょっと身体を絞った? と尋ねると今日は耐火服だからそう見えるのではないですかと笑う。
「ここまで順調にきていると思います。相方とも呼吸が合うようになってきましたし、満タンの目安や感覚についても解るようになってきました。本番も落ち着いて行えば問題がないと思います」

 その宮下キャプテンと一緒にクイックチャージャーを抱える相方は1年生の間瀬景介君。間瀬君も見事な体躯で本人申告は180センチ100キロ超え。今年の鈴鹿8耐参加チーム中、最重量のガス給油コンビ?
「最初はタイミングとバランス取りが難しくてなかなかコツがつかめませんでした。ずっと練習をして昨夜になってようやく息があってきた感じです」と頼もしい。吹き出す汗を拭いながら白い歯を見せた。ガス給油の担当にはガソリンの計算や管理なども含めて、山下展明君を加えた3人体制。

 ピットには、この間瀬君と同じく1年生メンバーが、ほかに3人いた。

 上野智也君と吉永一財君はサイン担当。ともに”将来はレース関係の仕事に就きたい”と目を輝かせる。10代の情熱。モチベーションは高い。この目的意識という点で、同じく1年生の松井佑磨君はライダーの身の回りを世話するヘルパーの仕事。
「高校2年生の時に初めて鈴鹿8耐を見ました。この同好会に入れば”世界”に出られるかもしれない。目指してみたい。自分は人見知りする性格なので、積極的に動くこと。ライダーさんのために一所懸命に状態を考えて尽くしたいです」



間瀬景介君
ガス担当。間瀬景介君。自動車整備科1年生。


上野智也君と吉永一財君
サイン担当の上野智也君(左)と吉永一財君(右)。自動車整備科1年生。


田崎先生


松井佑磨君
参戦初期からの顧問、田崎先生。 ヘルパー担当の松井佑磨君。自動車整備科1年生。

 同好会を14年にわたって見てきた顧問のひとり、最初の学園の8耐参戦から見守り続けている田崎勝三先生は、彼らの姿にこうコメントする。
「いまの子らは、バイクとかレースにあまり興味がないと言われます。でも若い人達の、若いチカラによるレース活動がないとやっていけないことがある。まだ、これだけ興味のある、元気な子らのいることを知ってもらいたいと思うのです」

 ピット内では、各パートを担当する学生達がめいめいフリー走行への準備を進めている。メカニック担当、長谷圭介君、三田村朋紀君、前田翼君。ここを取りまとめる副キャプテンの伊豫田将也君。鈴鹿8耐には特別な想いで準備をしてきた。
「気合いを入れてます。集中して確実に手際よく。ゼッタイ完走したいです」

 みんなよりちょっぴり歳上の本田卓也君は、タイヤの管理担当。これから交換する新しいタイヤを準備し、走りきったタイヤを収納。これは大切なレース情報のデータということになる。黙々となにかを細かく書き込んでいる。縁の下の力持ちの印象。

 そのなかでひとり、ちょっとバツの悪そうな表情の学生がいた。サイン担当の服部晃佑君だ。学園でのインタビューでは今年から手探りでLEDによるサインボードの製作に着手。鈴鹿のストレートに点灯させると張り切っていた。ところが、あれっ? 手にしているのは従来型のサインボードだ。頭を掻きながらボードの表面を清掃中。
「詰め切れなかったんです。間に合いませんでした。残念です。とても口惜しいです。でも頑張ってこれでライダーさんに伝えます!」



ピット


ピット
黙々と作業をする学生達。「各々のスキルは高い」とおっしゃった先生の言葉がうなずける。

 ヤレヤレの表情で苦笑いの先生達。でもこれも青春だろうか。成しても成らない青春はある。来年の後輩達に伝えることができれば……。スケジュールはピットウォークの時間に入った。ピットレーンにたくさんのお客さん達が入場、土曜の午後のなごやかなひとときを迎えている。

 学生達は、学園のパンフレットと「バイクが、好きだ」と書かれたウチワを持って飛び出した。「ホンダ学園です、応援よろしくお願いします!!!」
 お客さん達に配りながら、大きな声を張り上げていた。

 ピットのなかにも、いろいろなお客様、そしてOB達が激励をこめて立ち寄っていた。ホンダ学園、そして二輪整備同好会は、卒業後もずっとつながりの持てる空間のようだ。幾人かに話を伺ったが、みなそれぞれに、二輪ショップ、四輪のディーラー、「自動車整備士」という資格を活かした職業に就いている。毎年、仕事の都合さえつけば応援に訪れるという。「歳時記のようなものです」という声も聞かれた。



ピットウォーク


ピットウォーク
土曜日のピットウォーク。元気な挨拶は若者の特権のひとつ。跨っての記念撮影のサービスも。将来は学園のクルーに? 大事なPRの場でもある。

 そのなかで、2010年に同好会メンバーとして鈴鹿8耐に参戦したという三代純平さん(23)のコメントが印象的だった。
「ここで味わった緊張感、人間関係、いろんな方との交わりは本当に大きかったと思います。整備の勉強だけではとても得られないオトナと過ごす体験ばかりですし、明らかに整備の腕もワンランク上の技術がつけられる。みんなにこれからの仕事に対する自信と励みになればと念じていますね」

 
 現在、本田技術究所(二輪R&Dセンター)に勤めるという三代さん。後輩達の活躍する姿を今か今かと楽しみにしている様子。オトナと過ごす体験とはとても言い得て妙な言葉。確かにまわりはオトナばかり。レース=社会、それも特別な社会という気もする。この土曜日は、フリー走行のあと、華やぐ前夜祭を横目に学生達には夜間のピットルーティンの練習が待っている。学生達は、真っ暗になっても声を出して練習するのだ。

 



三代純平さん


ピット練習
8耐参戦を経験した三代純平さん。しっかりとしたコメントからも人柄がわかる。 前夜際を横目にピット練習は続く。明日は早朝6時からミーティングだ。