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ヤマハ

YAMAHA TRICKER XG250

 YZ85みたいにコンパクトなバイクに、乗りやすいエンジンを載せたら「絶対的遊びバイクができる!」とだれもが思わず声を揃えるようなパッケージングのトリッカー。ヤマハは、ストリートカルチャーもテイストとして練り込み、このバイクを造り上げた。

 翌年、エンジン、フレームなどトリッカーを下敷きにした新型セローが登場するのだが、ひょっとして“セロー”という踏み外すことが許されないマウンテントレールを作っている最中に、このアバンギャルドなバイクがスピンオフしたのでは、と今になると思えてしまう。

 もう車体サイズからしてユニークなのだ。3サイズ(全長×全幅×全高)は1980×800×1145(mm)。セローのそれが2100×805×1160(mm)だから、ぐんと短いのが特徴だ。むしろ2015年モデルのYZ85LWの1899×758×1156(mm)の方が近い。ホイールベースはトリッカーが1330mm。現行のセローより30mm短い。さすがにYZ85LW(このLWはラージホイールの略)の1285mmには敵わないが、前後のホイールサイズはデビュー当時からこのYZ85LWと同じ、前19インチ、後16インチというもの。しかし、トリッカーのスタイルには何処にもモトクロス的なものはなく、トライアルバイクをストリートカスタムしたようなイメージにまとめている。それは今なお新鮮だ。

 搭載されるエンジンは空冷4ストロークOHC2バルブ単気筒。出力とトルクは14kW(18ps)/7500rpm、19Nm(1.9kg-f/m)/6500rpm。セローと共用するエンジンでもある。


やっぱり何かをしたくなる掌サイズ。

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 目の前にしたトリッカーは250ccのバイクというボリューム感ではない。排気量という概念でできたクラス分けの一歩も二歩も外側にいる。前後の短さ、それでいてデザインが破綻してないところはさすがヤマハだ。

 810mmというシート高だが、その数値より低く見えるシートに跨がると、すでにバイクを掌に入れたような一体感に包まれる。高めにあるハンドル位置の関係で上体はとてもアップライト。全体としてはコンパクトなのになんだかゆったりしている。ホイールベースのセンターに乗るような位置に座っても、足の裏で掴みやすい位置にあるステップもあって、何処にも“小さいからつらい”という部分がない。

 アイドリングから歯切れの良い音を出すエンジンは、低い回転からしっかりとトルクがある。回転もスムーズ。熟成された印象だ。セローと同型のはずだが、トリッカーのそれの方が軽快感ある回り方をするように思えた。

 クラッチのタッチと実際のつながりポイントが解りやすく、とにかく扱いやすい。5速ギアゆえ各ギアのステップアップ比は6速に比べると大きい印象だが、このエンジンの守備範囲の広いトルクからすると問題ではないようだ。アナログメーターの針を意のままに上げて行く加速には満足感が高い。125㎏の車重とコンパクトな車体、そしてライダーが一つになる印象だ。

TRICKER XG250。ライダーの身長は183cm。
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2004年3月に「MBX感覚の雰囲気を楽しめる」新型スポーツとして登場したトリッカー。250フルサイズとなって登場したSEROW250やXT250Tとは兄弟車の関係だ。2008年1月にFI化された以外は基本的にはそのままに発売されてきている。最近の変更では、2010年1月にカラーリングの変更が行われ、新色としてマットブラック2を採用、継続モデルのビビットレッドメタリック2と合わせて2色の設定に、2014年1月には久々のカラー変更でディープオレンジメタリックと、マットブラック2、2色のラインナップにより2014年モデルとなっている。

 走りだすと“なるほどこのサイズに250エンジンを組み合わせると面白い”と素直に思える。短いホイールベースは小回りに有利だ。19インチ、16インチのスポークホイールは、多くのトレールモデルが採用する前21インチ、後18インチホイールよりも小径で、足周り全体にカッチリとした剛性感がある。また、小径ホイールと短いホイールベースもトリッカーのハンドリングを決定付けている。

 運動性が良い分、ハンドルを握る手が無駄に力んでしまうとキョロキョロする部分もあるが、乗り慣れたライダーなら問題ないだろうし、ビギナーも馴れればむしろトリッカーから受けるベネフィットのほうが大きいはずだ。

 ブレーキは前後ともどちらかと言えば扱いやすさ重視。握り始め、踏み始めから尖った挙動は一切ない。制動力はライダーの操作力によってゆったり立ち上がっていくタイプで、制動力は十分だが鋭さとは無縁。そのほうが短い車体にとっては好都合な部分が多いのも事実。名はトリッカーだが乗り味にトリッキーな部分はない。実はこれ“質の高い”まとめだと思う。
 
 だからおっかなびっくりする必要無く走りを楽しめる。市街地だけではなく里山のワインディング、ちょっとしたダートも意気揚々と走り込める。ツーリング先でトリッカーほど“行ける所まで行ってダメならもどってこよう”という気分にさせてくれるバイクもない。小柄な車体がそう思わせてくれる。

 250クラスを俯瞰してみると、どのモデルもゆるキャラ的に思わせて実はしっかりとしたテリトリー意識と強いキャラを持っている。このトリッカーもそうだ。こうしたコンセプトで作るなら250のエンジン、小柄な車体で、という出発点から迷いなくつき進んだ結果がこのバイクだ。唯一無二。だからこそ10年経っても光っている。

 以前、紀伊半島の山道を取材に行った時、道案内してくれた人がトリッカーを大事に乗っていたが、本当に楽しそうだった。何度か「変わってくれませんか」と喉から出かかったことか。それほどトリッカーは魅力的に見えた。

 改めて乗ってその理由も再確認できた。何かしたくなる。BMX感覚とはこのことか、と改めて魅了されたからである。

(松井 勉)

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■YAMAHA TRICKER XG250(JBK-DG16J) 主要諸元

●全長×全高×全幅:1,980×800×1,145mm、ホイールベース:1,330mm、最低地上高:280mm、シート高:810mm、車両重量:125kg、燃料タンク容量:9.5リットル●エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ、排気量:249cm3、内径×行程:74.0×58.0mm、圧縮比:9.5、最高出力:14kW(18PS)/7,500rpm、最大トルク:19N・m(1.9kgf-m)/6,500rpm、燃料供給方式:フューエルインジェクション、点火方式:T.C.I.(トランジスタ)式、始動方式:セルフ式、潤滑方式:強制圧送ウェットサンプ式●トランスミッション形式:常時噛合式5段リターン、クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング●フレーム形式:セミダブルクレードル、キャスター:25°10′、トレール:92mm●サスペンション:前・テレスコピック、後・スイングアーム●ブレーキ:前・油圧式シングルグディスク、後・油圧式シングルディスク、タイヤ:前・80/100-19M/C 49P、後・120/90-16 63P。


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