mt09_tracer_title.jpg

YAMAHA
YAMAHA MT-09 TRACER ABS。こちらで動画が見られない、もっと大きな画面で見たいという方は、YouTUBEの動画サイトで直接どうぞ。http://youtu.be/qzxJkKbqS5I
MT-09 TRACER ABS。ライダーの身長は170cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます)

 先に出たMT-09と基本を同じくする、バリエーションモデルであるMT-09 TRACER ABSは、よりツーリングに特化したモデルになる。高いスクリーンを持ったアッパーカウルと、ガード付ハンドルなど、カテゴリーで分けるならば、最近多くのメーカーから機種が出ている、いわゆるアドベンチャークラスと呼ばれるものに入るのだろう。

 跨ってまず気がついたのは、ネイキッドモデルのMT-09よりシートが高いことだ。MT-09のシートはライダー部分とタンデムライダー部分が繋がった1ピースのものであるが、MT-09 TRACER ABSのシートは前後分割式。それもあってライダー部分だけ2段階の高さ調節を可能にしている。メーカー公表のシート高845mmが、高いほうなのか低い方なのか、試乗した時点で私は判っていないけれど、どちらの高さもMT-09より少しだけ高いと感じた。

 そうは言っても、身長170cmで足が短めな私でも、両足でもつま先が届くので、片側をステップに乗せた状態だと、もう片方の足は力を込めて支えられるほど接地でき、試乗中、足つきについて気になることはなかった。なぜ高くしたのか。実はMT-09と最低地上高は同じである。前後の足周りを伸ばした訳ではない。ということは純粋に着座位置を上げている。

 お尻の中心からやや後ろの真下にくるようなステップ位置は、MT-09とそれほど変わっておらず、ゆったり椅子に座るような下半身ではなく、踏み込んでスポーツライディングしたくなるもの。樹脂製ガードが装着され、それの取り付け部分が横に張り出したので(すり抜けは注意を)、ハンドル幅がとても広くなったような気になるけれど、高さも合わせMT-09とそれほど大きく変わっていないと私は感じた。MT-09の基本に大幅に手を付けず、これによって上半身が起きた姿勢でのヒザの曲がりが緩やかになる。ツーリングモデルとして必要な快適性を得るためのシート高上げなのだろう。実際、シートに座って走り出して、よりポジションの自由度を体感できた。

 ハンドルガードはダートバイクのそれとは違い、とても複雑な3ピース構造で、凝ったアグレッシブな造形。メーター左横にDC12Vのアクセサリー用電源があるから便利だ。リアのグラブバーが大きめで、使い勝手が良さそう、パニアケースを取り付けるステーもある。

 MT-09の時は薄い液晶メーターがハンドルクランプの真上に取り付けられていたけれど、MT-09 TRACER ABSでは、一般的なトップブリッジの前方に設置。2つの液晶画面を持つ長方形型で、デザインはGショックなどに見られる全天候タフギアのような姿を取り入れていて面白い。ただMT-09の姿をちょこちょこっと変えただけでなく、ツアラーとして細かな心配りや変更が色んな所にあって、別モデルであるという主張がちゃんと出来ている。

 エンジンを始動しようとキーをひねると向かって右側のマルチディスプレイに最初に音叉マークが現れて、通常画面になり、エンジンを停止するためキーを戻すと「See You Next Time」と表示が出て消える。こういう演出はバイクとコミュニケーションしているようで愛着が出る。

IMG_0669.jpg

 4ストロークDOHC4バルブ3気筒は、MT-09と同じ慣性トルクが少なく、燃焼そのもののトルクで走れる、ヤマハの言う「クロスプレーン・コンセプト」のエンジン。乗りだしてすぐにMT-09よりスロットルを開けた時の特性が扱いやすくなったことを理解した。サスペンションはしなやかな動きながらもダンピングがMT-09より効いた感じだ。高い速度で波状路的な路面に入ると若干ドタバタ感があるが、全体的にしっとりとしている。

 短いダートも走ってみた。フロント周りが重すぎず、そのしっとりした前後サスペンションで意外なほど走りやすい。MT-09 TRACER ABSで追加された大きな特徴のひとつ、トラクションコントロールは、スロットルを素早く開けたら、ザーっとテールが一瞬グリップを失って、制御が入ってパワーが抑制されるから、土の道を走ることに慣れていない人にはありがたい。ちょっとでも滑ったらすぐに効くようなものではないので、個人的には介入されすぎて煩わしく思うことがない、いい塩梅だと思った。このトラクションコントロールはメーターにあるスイッチでオフに出来る。

 扱いやすくなったとはいえ、そのリニアなトルク感のエンジンキャラクターは継承していて、開けると車体を軽々と前にグイグイ進ませる力がある。MT-09と同じく『D-MODE』と呼ぶ3つの走行モードがあって、いちばんレスポンスが良くトルクの出方がはっきりとした『Aモード』。出力はAモードと同じだけど、もう少し穏やかな反応になる『STDモード』。出力を下げ、もっと気軽に制御しやすい『Bモード』がある。Aモードで走ると、それはもう元気。高速道路では6速、100km/hが4千回転くらい。低い速度から気を抜いて、後ろに体重を置いたリラックスした体勢のまま、スロットルを大きく開けると、トルクでフロントタイヤは簡単に上がろうと跳ねて、運悪くギャップなどがあると実際に上がってしまう。Aモードでは気軽にフルスロットルは注意が必要かもしれない。

 積極的に開けて走っている時はハイパワーネイキッド的なエキサイティングさがあり楽しい。ただ、その反面、フル加速ではフロントの接地感が小さくなって、高速道路のギャップなどで振られやすいから、運転技量の違いで怖いと思う人も出てきそうだ。その時はもっとフロント荷重を意識するといい。さらに、パーシャルスロットルから開けた時のトルクの盛り上がりが急なので、それほど速くないクルマの流れに速度を合わせたり、道が混んでくると、ギクシャクして乗りづらい面もある。STDモードではそこの部分が幾分楽になって、同じ状況でも気を使わなくなり、パワーもしっかりあって走りやすい。高速道路から出て都内の一般道に入り、混んでくるとSTDモードでもパーシャルスロットルからの開けの唐突さがやや残るので、そうなればBモードにするとその唐突さがなくなっていい。スロットルワークにそれほど気を使うことなく乗れる。

 ツアラーだから、あまり急ぐ走りをせず、まったり巡航したい人も少なく無いと思う。そういう時は常にBモードがぴったり。私も常にBモードが楽ちんで気に入って多くの時間そうしていた。下道でゆったり走る、高速でも周りの流れにまかせて巡航、渋滞、細い路地など、Bモードの特性が合っている。STDモードはオールラウンドにしっかり加速をしたい時など。Aモードは気合を入れて頑張って走る時だろう。MT-09もそうだが、リニアなトルクは分かりやすく体感が出来て爽快に走れるが、パーシャルスロットルから開ける時のトルク特性を抑えてくれると、もっと幅広いユーザーにメリットがあると思う。もちろん、それだからダメではなく、上手な人ならどのモードでも気にならないこともあろう。ただ常にAモードはなかなか気を使うのは確かだ。そこ以外の吹け上がる時のトルクは淀みなく気持ちいい。極低回転の粘りもある。逆にそれだから、ツアラーでも速く走るのが好きな人にはAモードのMT-09 TRACER ABSはうってつけだ。きっとハマる。

 ハンドリングは、動きが軽くて、思ったように行き先をコントロールできた。コーナーでもさっとリーンして、スイスイとコーナーリング出来る。旋回中の安定感もなかなか。MT-09の切れるようなシャープさが良い意味でマイルドになって、軽快さの塩梅がいい。航続距離を伸ばすために18Lに増量した燃料タンクも、太すぎずニーグリップもしやすく、軽快なイメージをスポイルしない。ブレーキは申し分のない効き。スクリーンは3段階手動の高さ調節が出来て、一番上まで上げると、ヘルメットに当たる風がするっと上を通り抜けるので、高速移動ではありがたい。この日は都心を中心とした試乗だったので、乗りながらこのままちょっと遠くのワインディングまで乗って行きたくなった。もっと乗りたい。

 この装備とルックス、存在感、走りを考えると、同排気量同カテゴリーのライバルに比べ、消費税込み1,047,600円と低目の価格設定は素直に驚く。MT-09 TRACER ABSはツアラーとして汎用性が高く、使い勝手がいい。“Sport Multi Tool Bike”というコンセプト通り、ただのマルチツールなだけでなく、きっちりスポーツだ。それを乗って納得できた。

(試乗:濱矢文夫)

IMG_0728.jpg
IMG_0390.jpg IMG_0401.jpg IMG_0403.jpg
IMG_0476.jpg IMG_0472.jpg IMG_0461.jpg
MT-09 TRACER ABSは、MT-09と基本的に同一の車体、エンジンを採用しているが、そのまま流用しているわけじゃない。活躍シーンの違いを考慮してフューエルインジェクションのセッティングが専用となっているほか、トラクション・コントロール・システム“TCS”の追加や、ABSの標準装備が行われている。フロントのφ41mmインナーチューブを持つ倒立サスは専用のセッティングに、リアのモノクロスサスも専用のセッティングが行われている。
IMG_0490.jpg IMG_0453.jpg IMG_0427.jpg
TRACERに特徴的なレイヤー構造を取り入れたオリジナルフェアリング、サイドカウルを採用。スクリーンは2ヵ所のノブを手で緩めることで、15mmずつ、3段階に上下位置の調整が可能。ヘッドライトも、ポジション、ハイ・ロー全てにLEDヘッドライトを採用。リフレクター形状の中にLED発光体を埋め込んでいる。テールライトもLED。 多機能メーターもTRACER独自のデザインに。左側メーターには、バー表示のタコメーター、デジタル表示速度計。右側には、走行データ等の各種情報を表示できる多機能マルチドットディスプレイをレイアウト。スロットルコントロール時に点灯するECOインジケーターも装備。パネル左側奥にはアクセサリー類の使用時に重宝する12V DCアウトレットも装備された。 燃料タンクは、ゆとりある航続距離を得るため18リットルの容量を確保。シートは、タンデムを考慮したセパレートシート採用。メインシートは手動で2段階に高さ調整ができ、前後に10mmアジャスト可能なハンドル位置とも相まって、体格や好みに応じたライディングポジションが可能。
IMG_0543.jpg IMG_0553.jpg
MT-09から変更された、MT-09 TRACER ABS独自の特長としては、高さ調整可能スクリーン、新デザインLEDヘッドライト、レイヤー構造フロントビュー&サイドカウル、専用セッティング倒立フォーク(41㎜径インナーチューブ)、トラクションコントロールシステム、“マルチ用途”に適したFI専用セッティング、多機能メーターパネル、12V DCアウトレット装備、ポジション調整可能アルミ製ハンドル、18リットル入り燃料タンク、調整可能シート(セパレートシート)、専用セッティングモノクロスサスペンション、そしてABSの標準装備があげられる。
IMG_0573.jpg

■YAMAHA MT-09 TRACER ABS 主要諸元

■型式:EBL-RN36J■全長×全幅×全高:2,160×950×1,345mm■ホイールベース:1,440mm■最低地上高:135mm■シート高:845mm■車両重量:210kg■燃料消費率:27.0km/L(60km/h定地走行テスト値)、19.4km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)■エンジン種類:N703E 水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ■総排気量:856cm3■ボア×ストローク:78.0×59.0mm■圧縮比:11.5■最高出力:81kW(110PS)/9,000rpm■最大トルク:88N・m(9.0kgf・m)/8,500rpm■燃料供給:F.I.■始動方式:セルフ式■点火方式:TCI(トランジスタ式)■燃料タンク容量:18L■変速機形式:常時噛合式6段リターン式■タイヤ(前×後):120/70ZR17M/C 58W×180/55ZR17M/C 73W■ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク×油圧式シングルディスク■懸架方式(前×後):テレスコピック×スイングアーム(リンク式)■フレーム形式:ダイヤモンド■車体色:マットシルバー1(マットシルバー)、ディープレッドメタリックK(レッド)、マットグレーメタリック3(マットグレー)■メーカー希望小売価格:1,047,600円(本体価格970,000円、消費税77,600円)


| 新車プロファイル「MT-09 TRACER ABS」のページへ |
| 濱矢文夫のニューモデル試乗最前線「MT-09」のページへ |
| おやびんの道・番外編 『YAMAHA MT-09で、ワインディングを疾走ってみた。』のページへ |

| ヤマハ発動機のWEBサイトへ |