バイクの楽しさのひとつに、文句なくツーリング、つまり旅がある。この旅仕様のバイクっていうのは、人それぞれにフィットするパッケージがあるんだろうけれど、スズキでいえばビッグバイクの中にハヤブサもあれば、バンディットも、新登場したGSX-Sだってある。バイクがどんな形であれ旅はできるし、向き不向きはライダーが決めることだからね。
けれど、バイクが走るステージをストリートやワインディング、サーキットや高速道路と分けていけば、やはり旅に特化するとなると、自然とそこにフィットするパッケージは決まってくる。さらにタンデムや荷物積載まで考えると、より条件は厳しくなるものだ。
高速道路をクルージングするに余裕あるパワーフィーリング、取り回しを苦にしないコンパクトな車体、長距離乗り続けても快適なライディングポジション、シートのつくりや、サスペンションの設定もそう。ワインディングをシャープに走るより、長距離を走ることに照準を合わせたキャラクターをもつのが、アドベンチャーカテゴリー、ということができる。
そのアドベンチャーの筆頭、というか世界的ベストセラーなのがBMW R1200GS。このカテゴリーに向けて、世界中のバイクメカーが刺客を立てるなか、スズキがラインアップしたのがVストローム1000だ。実はVストロームは2002年に登場、主にヨーロッパで好評を博したモデル。もっともこの当時は「アドベンチャー」というカテゴリーはなく、ビッグオフロードとか、アルプスローダーなんて呼び方をしていたっけ。
この頃からアドベンチャーカテゴリーが確立していくんだけれど、スズキがあらためて国内モデルとしてVストロームを発売したのは、日本でのバイクの使い方が、かつてのヨーロッパ的になってきた、ということでもあるのだろう。ストリートやワインディング、ショートツーリングだけではなく、ロングツーリングを楽しむ人も徐々に増えてきた、ってこと。これは、バイクの楽しみ方が成熟してきた、ってことでもありそうだ。
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V-Strom 1000 ABS。ライダーの身長は178cm。(※写真上でクリックすると両足時の足着き性が見られます) |
そのVストローム1000、またがってみるとかなり大柄。僕は178cm/75kgなんだけれど、ロードスポーツとしては高いし、このタイプのオフロードスタイルツアラーとしては平均的。ただ、タンク後端やシートのエッジを上手く落として、足が降ろしやすい形状としている。このあたり、スズキはとてもうまい。兄弟車の650より足つきは良く感じるほどだ。
エンジンを始動すると、Vツインの鼓動というよりは、スムーズに回ることを狙っているのがよくわかる。レスポンスよく、フリクションロスなく回っている。振動もゼロではなく、ほどよく力感が両グリップに伝わってくる感じだ。
走り出してみても、Vツインっぽい鼓動感、ズドドド、といったフィーリングはなく、むしろマルチシリンダーのように軽く回っている。グンと押し出されるというより、スッと発進。ライダー込み300kgの重量感は、そこにない。
低回転域は、トルクがたっぷりと言うより、軽いフィーリングで回っている感じ。中回転域、高回転に向けてつながりがよく、アクセル開度を小さくするとジワッと、カパッと開けるとグンと車速が伸びるような特性だ。ゆっくり乗っても、速く乗ってもいい、そんなエンジンキャラクターだといっていいだろう。
高速クルージングに入ってみると、トップギア100km/hは3600回転ほど。80km/hは2800回転ほどだが、エンジンの振動がスッと落ち着くのは4000回転弱あたりのエリアなので、本音を言えば130km/hくらいのクルージングが一番スムーズで快適。このあたりは、やはりヨーロッパ仕様だから? 日本仕様とするなら、トップギア80~100km/hあたりでいちばん振動が落ち着くようなセッティングがいいな。僕が手に入れるならば、この回転域でファイナルレシオを合わせたいかもしれない。
Vストロームの良さは、アルミツインチューブ+倒立フォークによる、ピシッとした直進安定性だろう。車体剛性はロードスポーツほどではないにしろ高めで、レーンチェンジも車体の一体感があって軽快に決まる感じで、このままワインディングに入ってからもペースを上げてネを上げないようなハンドリングとなっているのだ。ロードスポーツで培った車体の特性をロングツーリングにうまく合わせこんでいる、そんな感じなのだ。
この快適なポジション、快適な乗り心地、思い通りにコントロールできるパワー特性を味わうと、今までよりちょっと遠くに行きたくなるし、いつものツーリングルートから伸びる脇道の、ちょっとした未舗装路にも分け入りたくなる。
そうか、これが「アドベンチャー」な気持ちなんだ。ヨーロッパ育ちでも、今の日本のツーリングシーンによく似合う――だから注目のカテゴリーなんだな。
(試乗:中村浩史)
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φ43mmのKYB製倒立フォークは、プリロード、伸/圧側減衰力を調整できるフルアジャスタブルタイプ。ホイールサイズは前19/後17という、このカテゴリーの標準的なもの。
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Vストロームの最大の特徴が、このアルミツインチューブフレーム。とはいえ、スーパースポーツ用のように高い剛性のフレームではなく、軽量さや直進安定性の高さを重視。
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スイングアームは前モデルよりも36mm延長され、ホイールベースも20mmほど伸び、直進安定性を確保。センタースタンドはオプション(2万4300円)で用意されている。 |
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ブレーキは全仕様ABSを標準装備し、φ310mmローターにトキコ製モノブロック異形4ピストンキャリパーをラジアルマウントするという、ロードスポーツ顔負けの装備だ。
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スズキのスーパースポーツVツインモデル、TL1000系の水冷90度Vツインエンジンを搭載。中身は新設計で、特に排気レイアウトなどで出力特性を専用設定している。
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リアブレーキはφ260mmローターを採用。サイレンサーはパニアケースを装着することも考えた位置、角度としている。タイヤは前19/後17インチのブリヂストンBW502を装着。
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最小限のボタン数で多機能メーターや設定変更を可能とした左ハンドルスイッチ。オド/トリップ/電圧や燃費表示の切り替えや、2段階+オフのトラクションコントロールを設定。
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タコメーター下にはシガーソケット式の12V電源取り出しを装備。これは開発陣の旧Vストロームオーナーたっての希望で、後付けガジェットや携帯電話充電にも役立つ装備だ。
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右スイッチは通常の機能とレイアウト。キルスイッチにセルボタン、ハザードスイッチが配置される。ハンドルはセンター部、両グリップ部とも太さが変わらないフラットパイプ。
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スクリーンの角度変化はラチェット式で、開発チームが座椅子の背もたれ角の調整方法からヒントを得たという。工具を使わず、シンプルな構造で効果が高いナイスアイディア。 |
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アナログタコメーターと液晶ディスプレイの組み合わせ。デジタル部分には、オド&ツイントリップ、外気温やガソリン量、燃費、時刻やトラクションコントロールモードを表示する。
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開発時からオプションとして設定するトップケース、パニアケース装着を想定したというリアキャリアまわり。ケースは工具なしで脱着でき、開閉にはメインキーを共用する。
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ウインドスクリーンは角度を3段階に調節可能。角度を変えることで、スクリーン上面が0/+15mm/+30mmと変わり、走行風を整流。クルージング時の風の当たり方が変化する。
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ダイヤルを使用してプリロードを調整できるリアサスペンション。プリロードはひとり乗り/タンデム時/荷物の積載時でのリアサスペンションの初期沈み込みを調整する機構だ。
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テールランプはLED。アルミ鋳造のリアキャリアはタンデムシート部分との段差が少なく、荷物の積みやすさも重要視している。キャリア前部はパッセンジャー用のグラブバー。
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●V-Strom1000 ABS(EBL-VU51A) 主要諸元
■全長×全幅×全高:2,285×865×1,410mm、ホイールベース:1,555mm、最低地上高:165mm、シート高:850mm、車両重量:228kg■燃料消費率:国土交通省届出値、定地燃費値29.0km/L(60km/h)、WMTCモード値20.9km/L(クラス3、サブクラス3-2)、燃料タンク容量:20.0L■エンジン種類:U501、水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ、総排気量:1,036cm3、ボア×ストローク:100.0×66.0mm、圧縮比:11.3、燃料供給装置:フューエルインジェクション、点火方式:フルトランジスタ式、始動方式:セルフ式、最高出力:74.0kw[100PS]/8,000rpm、最大トルク:103.0N・m[10.5kgf]/4,000rpm、変速機形式:常時噛合式6速リターン、ブレーキ(前×後):油圧式ダブルディスク × 油圧式シングルディスク(ABS付)■タイヤ(前×後):110/80R19 M/C 59V × 150/70R17 M/C 69V、懸架方式(前×後):倒立テレスコピック × スイングアーム、フレーム:ダイヤモンド(アルミツインチューブ)
■車体色:キャンディダーリングレッド、パールグレッシャーホワイト、グラススパークルブラック
■メーカー希望小売価格:1,404,000円(本体価格1,300,000円) |
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