ホンダの新社長・八郷隆弘さんがバイクとライダーに向け発信! ホンダにとって先兵・二輪車とは?

■構成・文責──近藤健二
■写真提供──ホンダモーターサイクルジャパン

 今年6月にホンダの社長に就任した八郷隆弘(はちごう・たかひろ)さんは、7月6日に東京・青山のホンダ本社で就任後初の記者会見を開いた。同社の社長の登竜門とされていた研究所経験を経ず、中国事業を担当する常務執行役員から社長に抜てきされた八郷さんは「販売台数よりホンダらしい商品を開発していく」など述べたが、二輪については「歩くことしかしなかった人が二輪車に乗ると新たな時間が生まれ、人生も生活も変わる。そういうことを大切にしていきたい」と二輪車を例に引いたのと、ホンダらしさを体感できる商品として二輪車ではアフリカツインを挙げただけだった。ホンダの歴代の社長からは事あるごとにホンダの創業の業種である「二輪の話題」が発信されていたことに比して、もう少し新社長から二輪の話をお聞きしたかったというのが二輪メディアの「本音」だった。こうした要望もあり、一部二輪メディアと、二輪業界と二輪専門誌を繋ぐ意図を持った有志により結成された二輪専門誌連絡会議のメンバーとの「社長懇談会」が開かれた。同会には八郷社長の他、執行役員・青山真二二輪事業本部長と販社であるホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)の加藤千明社長も同席した。なお、以下の記事は、分かりやすいように構成や口調を修正したものであることをお断りしておく。


八郷社長、ホンダにとって二輪車とは何でしょうか?

 ホンダにとって「二輪」は創業の事業であり、ホンダの原点であり、現在でも非常に重要な事業として位置づけ、発展させていきます。
 さらに販売に目を移すと、二輪は先(尖)兵(※先兵・尖兵:他に先がけて進出する人)的役割があります。二輪事業を海外で展開する場合、国柄や文化・風習、生活様式を学びながら、その国の方々と共に、現場、現物、現実と言う三現主義で実践するなど、ホンダの従業員自らが、マーケティングを進めなければなりません。特に新興国では、進出初期の物流や、人と人の交流を促進する「二輪車」が経済に貢献し、「四輪車」への移行となりますが、その時に参考になるのが二輪車事業開拓で培った経験です。 



 ホンダには「小さく産んで大きく育てる」「需要のあるところで生産する」という理念がありますが、現在ホンダでは6極+1極(※日本、北米、南米、アジア/大洋州、欧州、中近東/アフリカ、中国――各地域)でグローバル展開をしており、今後も世界経済や市場環境の変化が加速する中で、グローバルオペレーションの変革に「チームホンダ」総力でチャレンジし「お客様の喜びや夢」の実現にむけて進化させようと考えています。
 世界におけるホンダ二輪事業としては、今期第一四半期でも連結売上台数で約225万台と前年同期を若干上回る事ができました。しかしながら、国内市場を含む先進国の二輪市場は厳しい状況で危機感があります。先進国市場は少子高齢化が進行し、今やFunモデルに乗るのは50代を中心としたお客様で、二輪車は若者の購入意向商品の選択肢にも入っておりません。
 この状況に対してホンダは、お客様に視点を置いた先進技術の創造に加え、心に響くエモーショナルな機能に先進デザインを加味し、お客様の想像を超えた製品で、若者の呼び戻しを図りたいと思います。また、お客様とのコミュニケーション領域においても「チームホンダ」としてチャレンジしたいと考えています。
 去る6月に発表しましたRC213V-S、そして年末には、まず欧州で発売されるアフリカツインはその先兵です。


最優先課題である「三ない運動」撤廃を含めた二輪車の利用環境改善に対してのお考えは?

 ご存じの通りホンダは、1.魅力ある技術・製品の開発 2.品質第一の生産 3.お客様に満足のいく販売・サービスの提供――という一連の流れがあり、一気通貫でスムーズなビジネス展開が必要ですが、それ以前に、多くのお客様が、二輪車の利便性を享受できる環境が整っていなければなりません。
 しかし、残念ながら今の日本国内ではその部分が大きく欠落しています。
 国内の販売状況は、私が入社した1982年には328万台だった市場は今や1/8の40万台です。これは業界をリードするホンダの開発力、商品力、営業力が足りなかったことにも起因しますが、それ以上に市場を委縮させる様々な規制に対して、ホンダが社会に対して、ものを申さなかったことも、原因として挙げられます。



 さらに、この減少の大きな要因は、ピーク時の1982年に決議された「高校生の三ない運動」が大きく影響しています。原付一種は高校生になる16歳から免許取得が可能ですが、自転車事故の増加が社会問題となりつつある昨今、交通社会の一員として心身ともに柔軟な高校生のうちから交通法規を学び、安全やマナー、スキルの向上へとつなげて頂くことが重要と考えています。
 最近では日本自動車工業会(自工会)の会長として池(※本田技研 池史彦会長)が高校生の「三ない運動」に対して苦言(※7月の同会定例記者会見で「三ない運動」強く非難、撤廃を求めた)を呈していますが、ホンダも国からの許認可事業とはいえ行政に対し主張すべきことは主張していかなければ、市場はさらに危機に瀕していきます。


二輪車の免許制度、特に125ccクラスの免許取得の負担軽減について、八郷社長は?

 二輪免許制度は1972年に細分化され、現在、小型限定免許と称される125ccクラスを含め、以降43年間も、その見直しが行われないまま、現在に至っています。また、安全の担保という観点から来る様々な規制や、都市部の駐輪場不足が拍車をかけ、ユーザーに不利益をもたらしています。結果として原付一種では、その特有の利便性、機動力などの魅力が低下していて、需要も年々減少傾向です。

 
 逆に原付二種の需要増は、その利便性や有用性に多くの共感を頂いていることの証であり、国内でもデファクトスタンダードと言ってもいいほど伸張するポテンシャルを秘めています。そしてこの市場は、免許取得の負担軽減によってはまだまだ伸びる市場です。ご存じのとおり、アジア諸国や南米の新興国では125ccクラスの二輪車が大衆の足として急速に普及し、生活に欠かせないスタンダードなバイクとなっています。



 日本では、この125ccクラスが、家計の負荷を軽減する省燃費性能や、機動性、省スペース性、二人乗りなど、都市部での通勤・通学や、地方での移動にも非常に使い勝手の良い利便性の高いミニマムモビリティと評価されています。この原付二種の普及こそが、二輪車はもとより四輪車をも含む上級モビリティの活性化に必ずや寄与できるものと考えています。
 このような状況の中、経産省主導による、2020年、二輪車販売100万台を目指す二輪車産業政策ロードマップの中にも、「免許制度の見直し」が盛り込まれています。これに、自工会をはじめ二輪の各関連団体から原付二種に乗れる免許取得の負担軽減を各行政に働きかけていますが、未だ実現には至っていません。
 有用性の高い原付二種に乗って頂くためにも、利用環境改善に向けた取り組みが重要です。その世論形成が非常に重要です。


もうすぐ開催の東京モーターショーのホンダに期待しているのですが…

 本年は東京モーターショーの開催年です。
 先ほど申し上げた、RC213V-Sや、アフリカツインはもとより、若年層拡大を目指した新商品やコンセプトモデルをお見せします。また同時に、利用環境改善に向けた取り組みに関しても発信していきたいと考えています。国内二輪市場活性化に向けたホンダの意気込みに、どうぞご期待いただきたいと思います。


最初の記者会見で強調なさった「チームホンダ」についての八郷社長の意気込みをお聞かせください

 ホンダは、ユーザーの要望を表面的に調査し、それに沿った製品を作るマーケットインの会社ではありません。他社に絶対にまねのできないレベルのプロダクトアウト商品を創造し、市場をリードすることが、ありたき姿だと思っています。究極のマーケットインこそが、ユーザーの心に響くプロダクトアウト商品を創造する根源だと思っています。
 今後も、国内二輪市場の活性化はもとより、モータースポーツ活動を含む日本の二輪文化の健全化に注力します。そして、二輪車の所有で味わえる「喜び」の創造、拡大、それらを「次世代に」継承する為に努力を惜しまず、全ての領域で「チームホンダ」として、果敢に課題に取り組んでいきます。


左が八郷社長、右は青山二輪事業本部長。

●以下は、現在バイクを取り巻くその他の課題に対して八郷社長と青山二輪事業本部長、加藤HMJ社長の発言にあらためて見出しを立て、まとめ、抜粋したものです。


二輪車利用環境改善について、特に最優先課題の「三ない運動」撤廃についてさらに発言をお願いします

青山二輪事業本部長:「三ない運動」は82年の決議から33年経ちましたが、無くなってきたとはいえ今でも県単位、高校単位ではまだあります。個人的にも高校生の早期から交通安全を教育していくことが必要と考えています。県の教育委員会ベースで差があるのでまだまだ改善が必要と感じています。自工会会長の池(本田技研会長)も「三ない運動」について色々なところで言及(前述)していますので、メーカーの発信との相乗効果でさらに発信を強化します。またホンダとして若者にも興味関心のある車種を充実しなければならず、東京モーターショーでは魅力ある商品を提案し利用環境改善と絡めて発信を強化します。また利用環境改善の一環でもある駐輪場は増えてきて、例えば主要駅周辺にも増えてきていますが、ユーザーへの認知が徹底されておらず、空きが目立つ状況です。現段階では駐輪場情報を積極的にすることが大切ですが、できれば欧州やアジアのように路上に無料の駐輪設備があることが望ましいと考えています。しかし行政が縦割りで、横串を通せる状況にはありません。特に事故の増加などを危惧している行政組織もあり、なかなか前に進めない状況です。いまは回り道しながら地道に課題解決に向かって推進している感じですが…。

八郷社長:四輪でも若者離れが進んでいます。四輪には「三ない運動」のようなものはありませんが、進学校では大学受験を優先するあまり高校生には普通四輪免許を取らせない風潮があります。今の若者は、モビリティに興味を持つよりもスマホなど他の趣味嗜好が沢山あります。今後はモビリティに関心を持ってもらうような発信を強化しなければなりません。


ホンダには安全運転普及本部がありますが、活動が見えてきません

青山二輪事業本部長:安全運転活動の日本市場は二輪ビジネスの変遷がある中で全体のバランスが日本や北米からアジアへ大きく変化していますが、国内二輪におけるルールの順守、マナーの徹底を前提とし、お客様が安心、安全を享受できるスキルの向上を目的に安全運転啓蒙活動を強化してまいりたいと考えております。


二輪車は国内生産に軸足を移すのでしょうか

八郷社長:ホンダの事業オペレーションは(前述した)6極+1極の体制で、現場を優先した地域と事業の最適な基盤で行っています。ホンダは各地域本部がオペレーションを行っていて、各地域で開発、調達、生産、販売をしています。そして各地域に事業として二輪、四輪、汎用があります。その中で日本は比較的安定的な市場でありますが伸びはありません。このままでは各地域事業のビジネスから見て伸びている地域が重要となり、事業規模の小さい国内二輪は忘れられていきます。

 ホンダ全体の事業バランスを考えると、今までは生産拠点を海外に出していったのですが、今後は日本での生産活動も強化する必要があります。ホンダは四輪事業で先行してグローバル視点で地域の適正配分の再構築を図っており、二輪も生産拠点を見直し、国内からの輸出を検討するなど国内強化の意思を示す必要があります。そうすることでホンダがグローバルに発展していくことに繋がると思っています。事業を継続していくために二輪も四輪も若い人たちに興味を持って頂くことが課題と認識していますので積極的に活動していきます。


二輪車市場、特にいささか遅れを取っているかのようなFunモデルについては、どうお考えでしょうか

青山二輪事業本部長:2006年から施行された二輪車の駐輪規制で二輪車に乗らなくなり、当時は250ccのスクーターが活況を呈していたのですが、その市場も縮小してしまいました。今更駐輪場が増えてもそれほどの効果は期待できないでしょう。現在は50cc、原付の入り口を増やさなければなりませんが、種々の規制がこれを阻害し、需要を創造できず、危機感を強く持っています。Funモデルはリターンライダーなどで安定した需要ですが、このままでは減少することは確実という認識でいます。

青山二輪事業本部長:Fun領域の、特に大型において日本でアイデンティティを作り上げ、日本だけでなくグローバルに存在感を強化し、日本発で行いたいです。課題は、ここ1~2年はヤマハさんが頑張っていらっしゃるが、ホンダとして見るとハーレーさんやBMWさん、ドゥカティさんは国としてのそのアイデンティティを含めてブランドを創り上げています。ホンダとしてビハインドになっているまま長い間来てしまっていますので、早急にアクションが必要と強く感じています。RC213V-Sやアフリカツインのようにデザインと機能を併せ持つものを作り、大きな波にしていきたいと考えています。


ホンダはデザイン現場の声、若い声、お客様の声を尊重するなど組織を活かし切れていないのではないでしょうか

加藤HMJ社長:お客様に一番近くにいるHMJが商品やお客様の声の情報を吸い上げ打ち上げることが足りなかったと反省しています。商品の思い、コンセプトをお客様に向け、媒体様を通じて発信していく努力をしたいと思っています。


八郷社長、最後にホンダのモノづくり・「八郷流」を発信してください

 モノづくりのスタートは二輪、四輪、汎用、技術もチームとしての枠で作り上げています。現在のホンダは地域からの要望に合わせたモノづくりとなっています。本来の開発は二輪、四輪、汎用、技術とも現場で作り上げていくものなので、現場の人たちが色々なことを思考することが必要ですが、「前例がない!」とかマネージメント側で指示をこじんまり固めてしまうので現場があまり考えなくても「これくらいのものでいいよ」という雰囲気があり、現場は無理しない体質になっています。事業を支えている領域はありますが、チームの強い思いを具現化した商品を作らせるようにしないといけないと感じています。そういう人たちが増えてこないと新たな発想や先進技術の発想は出てきません。手堅いビジネスの話ばかりを言っていると、無理をしない無難な体質の方向に行ってしまいます。台数や収益などビジネスの話の前にまずは「ホンダらしいモノづくりってなんだ?」を議論するようにいつも言っています。チームがあるべき姿や、夢、強い思いを持って創らないとユーザーにも伝わりません。レースも絶対に勝つ、「表彰台のてっぺん!」という気持ちが大切で、現在はできていないと感じています。今はマネージメント側も現場もやりたいことを抑えられている雰囲気を感じていますので、積極的に改善していきます。先進技術、商品も、レース活動も、私や青山から自信を持って発信できないといけないと感じています。