YZF-R1_8tai_racer_title

ヤマハ

 先ず比較用に用意されたノーマルのR1Mに試乗後、本命の#14 teamR1 YAMALUBE SSTレーサーに試乗というメニューだ。
 
 ポジションはレーサーの方がやや座高が高いが、ステップ位置がやや前方で膝の曲がりがノーマルR1Mより少なく非常に楽なのが意外だった。しかし考えてみると8時間ぶっ通しで攻め続けるために、また体格が大きいライダーが楽な体勢で攻められるポジショニングを探って行った結果がこのポジションだったのだろう。
 本当に足着き性さえ問題無ければ、特にステップ位置はストリートでもこのポジションの方が良いと市川は感じてしまう。上体のポジションは、レーサーが24リットルのフルスケール耐久仕様なので、フューエルタンクが実際大きいのだが、不思議と違和感は感じなかった。
 
 走り出して先ず驚くのは、ややしっとりして脚も若干しなやかさを感じさせるノーマルに対して、レーサーはキッチリ前後が揃って無駄な動きをせず、パキッと小さい半径で軽快正確に寝て曲がって行く事。ハイスピードでもとにかく、コーナー入り口でスパッと寝かせて行くのがエラく楽しい!
 上質なレーシングサスをキチンとセットしたというフィーリングなのに、サスボディは規則通りノーマル。リアのバネをレートアップ(しかしイニシャルはノーマル位置)し、フロントはイニシャルを掛けただけというのが信じられない程だ。それほど元のR1Mが良く出来ているという事なのだ。
 
 一体どんなマジックを使ったのか? 今回敢えて全員試乗前に給油し24リットルフル満タンで走り出したのに、その重さというのがほとんど感じられないのが凄い。
 開発テスターの時永氏は、「とにかく長時間安定して攻め続けるためには、セッションの前半、コースイン直後から満タンでも重さを極力感じずに攻めて行けるという事が、ライダーを疲れさせず、結局セッション後半にもハイペースを維持出来ることになる」と言う。
 
 そしてブレーキ。市川の前に某現役全日本ライダーが、しこたま攻め込んだ直後に乗ったのに、レバータッチはしっかりしていて、効きが強力で非常にスムーズなのには本当に感動した。ブレーキにとって過酷な菅生の1コーナーにおいて、フルブレーキングがこんなに楽だとは! 勿論リッチなフロントフォークの支えも有っての事であるが、これで鈴鹿優勝時も、この試乗時も、マスターシリンダーとキャリパー、ブレーキパッドはR1Mのストックのままというから驚きだ。
 

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鈴鹿8耐の表彰台で。左より、ジェフリー・デ・フリース、時永 真、藤原儀彦の各選手。 鈴鹿8耐SSTクラス優勝マシンYZF-R1M「#14」の本番レース時走行シーン。

 
 ノーマルR1Mが3000回転からの表示で、低速からトルクフルに加速。10500回転の排気デバイス作動から14000回転まではパキーンとひと絞り的に加速するのに対し、レーサーの方は8000回転からの表示でそこからドーン! とパワフルに加速して行き、14000回転のレヴリミットまでのパワー感が太らせてある感覚だ。フル加速中のパワーフィーリングは、とにかく今まで幾度となく試乗した現行1000ccクラスのSS群の中にあって間違いなく最強だ。
 また常用回転域を従来より1000回転上げたこのマシン。特にレーシングエキゾーストの#14レーサーは、最終コーナーからメインストレートに掛けての、フルスロットル時の加速サウンドが、GPマシンM1のオンボード映像で聴くサウンドと似ており、思わずフル加速中に酔いしれてしまった!
 
 R1開発ライダーであり、今回の試乗準備にも当たって下さった時永氏は「とにかく楽しくて速いことは勿論だが、走行中のあらゆる局面でのリカバリー能力(例えば侵入に失敗してはらんでしまったりしても、直ぐに修正して本来の走行ラインに戻れる、戻りやすい特性)をいかに上げてやるかに重きを置いた」と言う。
 市川も鈴鹿8耐において何らかの結果を残すためには、アクシデントの落とし穴にはまらず走りきる事が重要であると身を持って体験しているだけに、時永氏のその言葉が胸に響いた。
 
 このR1M-SSTレーサーの、速さは勿論だが、懐の深さ、寛容さに感動しつつ、更なる熟成への期待も膨らむ。各地の1000ccSSマシンによるレース勢力図は、今後大きく変わって行きそうだ。
 
(試乗・文:市川 仁)
 

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タンクの上面はさすがに高くスクリーンは小さいが、キッチリ伏せるとちゃんと整流効果の恩恵を受ける。 レーサー仕様のレヴカウンターは何と8000rpm からの表示! ここから一気にスパルタンな加速力が放たれる。 8耐仕様24リットルフルサイズのフューエルタンク。フルタンク状態でスタートしての試乗だったが、切り返しや寝かし込みで全く重さを感じないのが素晴らしい
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高次元の走りを支えるスイングアーム。スリックタイヤを履かせたホイールに駆動を伝えるドライブチェーンは何とストックR1M! STD チェーンのクオリティも非常に高い。 アクラポヴィッチ製レーシングエキゾースト。まるでカスタムバイクアイテムのような、斬新で流麗なデザインが美しい。 実はこのレーサーはR1Mのノーマルブレーキをそのまま使用している! それで全く問題なくハイアベレージで走れてしまう。
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左が8耐SSTクラス優勝マシン、右がスタンダードのYZF-R1M。 開発に尽力されたヤマハマシン作り職人集団の面々。8耐でライダーを務めた時永氏(右から2人目)、藤原氏(右から3人目)も開発メンバーだ。
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■YZF-R1M(欧州モデル)主要諸元(上の写真はレーサー仕様)
全長×全幅×全高:2,055×690×1,150mm、シート高:860mm、ホイールベース:1405mm、車両重量:200kg、エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、総排気量:998cm3、ボア×ストローク:79×50.9mm、最高出力:147.1kW(200PS)/13500rpm、最大トルク:112.4N・m(11.5kgf・m)/11500rpm、始動方式:セルフ式、燃料タンク容量:17L、燃料供給:フューエルインジェクション、タイヤ(前・後):120/70ZR17・200/55ZR17


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