タイトル

 ケーススタディ

 この事故、悪いのはどちらでしょう? 


 心情的には煽り行為をした上に左側から追い越しをかけようとしたバイク側に多大な非がありそうですが……。


 実はこのケース、判例ではよくある左折巻き込み事故と同等に扱われ、過失割合はクルマが9、バイクが1という、クルマ側が圧倒的に悪いことになっているのです。


 左折する際に、巻き込み確認をしなかったから起きた事故という扱いなのです。


 煽られた挙げ句にぶつけられたと思っているデザイナーさんは納得がいきません。しかも、人身事故で相手に重傷を負わせたということで、免停にまでなってしまいました。


 保険処理ももめそうになりましたが、自分側の保険会社にも同じ事を言われて渋々事故の過失割合を受け入れたのです。


 結果として、大学生の治療費、バイクの損害の90%に加えて慰謝料等、この事故で生じた損害のほとんどをクルマ側の対人保険と対物保険で補償することになりました。


 採寸ができずに洋服屋さんに迷惑はかけるし、会社のクルマとはいえ、保険の等級は下がるし、忙しい中始末書を書き、上司に大目玉を食らい……自分は遵法運転をしていたはずなのにと、踏んだり蹴ったりの思いをしてしまったのです。


 その一方、交差点や左折ウインカーに気付いていなかった自分の方が悪いと思い、治療費や修理代はどうなるんだろうとビクビクしていた大学生にとって、過失割合の面ではある意味ラッキーでした。


 ただ、この事故で2ヶ月以上も入院を余儀なくされ、後期試験も受けられなかったため、留年が決定。頑張ってクリアした前期試験の数々が無駄になってしまったのです。

事故に遭わないために

 今回の場合、後ろにいるバイクがクルマの左折ウインカーを見ているはず、という思いこみが無ければ事態は違ったはずです。


 クルマ側の過失割合が高い理由で前述したように、クルマ側が左折する直前に左側にバイクがどこにいるかを確認していれば、事故は起こらなかったのではないでしょうか。


 バイク側も、交差点の存在に気付いていたり、左折ウインカーを見ていたりすれば、またクルマの左側が空いたからといって自分勝手に「譲ってくれた」と勘違いしなければ、左側から追い越そうとはしなかったはずです。


 今回のように、お互いの存在に気付いているのに、事故になってしまうというケース、実は意外と多いのです。そしてその多くが、“お互い”が自分に都合の良いように相手の行動を予測したことが原因となっています。


 見方を変えれば、“どちらか”が一歩引いて、相手の行動に期待や予測をしないで注意して運転すれば、多くの事故が防げるはずなのです。


 周りは自分の予想や期待通りに動いてくれません。そのことを念頭に置いて、自衛のためにも「かもしれない運転」を心がけましょう。

この事故からの教訓

今回の教訓

※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。  

小田切 毅(おだぎり たけし)

損害保険、生命保険合わせ15社を越える保険会社の保険を取り扱う大手総合保険代理店勤務の保険のプロ。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして多忙な日々を送る。かつては筑波でバイクレースに、四輪はF3やGT選手権にも参戦していた元国際B級ライセンスの腕前。現在の愛車はイタルジェットのドラッグスター。ライトカスタムで愉しんでいるのだが、スーパースポーツを見ると、ムラムラとかつての血が……


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