幻立喰・ソ

第70回「ソ〜大なソ」

 
 タイトルのおかげさまで、立ち食いそばまたは立ち食いそば屋さん=立喰・ソ、そば=ソと表現せざるをえないというドツボにはまってとっぴんしゃん。さらにソの流れでウドン=ウ、ラーメン=ラ、ヤキソバ=ヤ、スパゲッティ=ス、そしてソウメン=ソ。ん? あれ〜??
 さらに容量の少ない脳みそを毎回悩ませる(と書いて、脳と悩は似ていることに気がつきました。どうでもいいことです)現役店伏せ字問題。飽きっぽい上にこらえ性のない私ですから、この先どうなるか(どうにもなりません)予断を許しません(許してください)。ひとつ言えるのは、私のような粗忽者が原発運転員でなくてよかったということです。


 原発は恐ろしい上にやっかいですが、安全神話の頂点にいるのが新幹線。開業当初からの運転手が綴った「東海道新幹線 運転室の安全管理」(中村信雄著 成山堂書店)を読んで、よくもまあ50年間、大きな事故もなく走ってきたもんだと思いました。もちろん島技師長を始めとした設計陣による基本設計がしっかりしていたからこそですが、運がよかったという場面も山ほどあるようです。間違いなく新幹線は、かなりの強運に恵まれているのです。新幹線の父、十河元国鉄総裁が東京駅19番線ホームの先頭で見守っているご加護でしょう。だからJRT海は、十河さんのレリーフ裏のぽっかり穴の空いている部分に他の新幹線開業日を早急に入れたほうがいいですよ。リニアまで十河さんが面倒見てくれるかどうかわかりませんから。

 現在の新幹線、技術は雲泥の進化を遂げているのですが、扱う人間は果たして進化しているのか。車の自動運転に象徴されるように、これからは人間は余計な介入をしない方向に向かうのでしょう。完全自動化された立喰・ソのソをすする時代もすぐそこかもしれません。が、茹で釜の空だき対策にはECCSを設置するなどして充分な対策をしていただきたいものです。

 と、我が国の安全神話に一石を投じるフリをしたところで登場するのはソ300です。何それ? と、興味のある方はウィキ先生に聞いてください。ご覧のようにソ300の存在感は圧倒的です。だから何? と言われても、ただソつながりというだけです。
 こんなとんでもないソを見た後は、とんでもないソをすする。すすったところでお話になるのかどうかはまた別の話ですけど。ソ300を彷彿とさせる大物を食べようと思ったのですが、釜飯でもう満腹です。



ソ300


ソ300


ソ300
ソ300です。群馬県の横川鉄道文化村にいます。もちろん突放禁止です。「とっぽう」とはソの名の通り「突き放す」の略語です。YouTubeに動画ありますから、興味のある方は検索して見てください。しかし、こんな恐竜みたいな車両を突放したくなる冒険野郎、国鉄末期にもさすがにいなかったんじゃないでしょうか?(2016年5月撮影)

 さて、やっと本題です。ソ300級の大物ソがいるのは、冬は冷涼感100倍アップ、夏も冷涼感15パーセントアップでおなじみ青い内装がとっても素敵。「是れはうまい 肉そば」のキャッチコピーは味のある手書きで、こもろのどんぶり級に欲しくなる逸品です。さらに特徴的な「是れはうまい」ステッカーやTシャツなど販売すれば、きっと同好の士は飛びつくことでしょう。欲しい人手を上げて! あれ〜?。

 青い内装とあの看板が揃えば答え一発カシオミニ! 強烈なインパクトで、青い内装と看板しか記憶に残らないと言われている([要出典]とウイキ先生に怒られます。いや、このコラム自体が「この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。」)、第63回でもお伝えした、春日、飯田橋、江戸川橋に店舗を構える豊しまです。もちろん現役店ですが、あえて伏せ字にはしません(開き直りじゃないです。その訳は最後まで読んでください。めんどくさいでしょうが)。

 是れは〜の肉そばですが、立喰・ソにしてはそこそこ結構なお値段(たしか480円)ですが、さらに上級のフラッグシップモデル、これこそ立喰・ソ界のソ300と言われている(誰が? 私が!)「厚切り肉そば」なのであります。お値段(680円! Y野家の豚丼2杯食べてお釣りもきます)も見た目もワイルドなこの逸品、(かよわい)婦女子やお子様は言うまでもなく、成人男性も初老以降はかなりハードルが高いのです。若者達よ、時間は無限にあると漠然と時を過ごしていないだろうか。今のうちにせっせと食べましょう。金がないって? 青春はお金じゃ買えません。でも青春でお金も買えません。あっ、バイトすればいいのか(とはいえ、間違っても春を売ってはいけません!)





赤のれん
青い内装がたまりませんねえ。(飯田橋店 2003年3月撮影) 店名と間違えそうな迫力です。(江戸川店と春日店 2016年3月撮影)

 問題の厚切り肉そばですが、諸氏の訪問記を拝謁させていただきますと「絶品!」と「絶品?」の二極化が著しいように感じます。同好の士のみなさまには人気があるのですが、評論家風の論評をされる方にはあまり芳しくないようです。まあ、とてつもない大物ですから、味の好みはあるにせよ、文章の裏に隠れた訪問者の年齢、性別、そして胃の具合も加味して読む必要があります(どうやって? さあ?)。

 人のことより、おまえはどうなんだ! という話ですが、私、こんなでっかい煮たバラ肉は苦手です。というわけでさようなら。と本気で思いましたが、また師匠に心労をおかけするのも忍びないことです。ここはひとつ経験者に書いてもらえば、時間も手間もお金もすべて不要な一石三鳥。鶏も嫌いな私ですがこの三鳥は見逃せません。最近すっかり疎遠ですが、ダメ元でお馴染みABくんにお願いしたら、こともあろうか返事が来る前にレポートが来ました。いったいなにがあったんでしょうか。
 以下ABくんレポートでお楽しみください。

飯田橋店でやりました!
うーん、確かに旨いのですが、トンカツになりそうな三枚肉。途中から、ちょっとキツくなり、いつものノーマルでよかったかな、と感じたのは事実です。ちなみに、まこ姉は三分の一ほどを残そうとしたので、私がやっつけました。女性にはノーマルがいいかな、と。
ただ、若い人、胃袋体力のある人には、ガッツリ系の逸品として、特筆すべきと思います。

 ところで肝心の写真がありません。
「まれに見る名文でありますが、これは貴兄の過去の視点からであって、再食して現代の視点と対比させることにより鮮やかに時代を切り取ることが貴兄に科せられた、文筆業としての生業ではないかと切に存じ上げ奉り仕ります。また写真があればそれはより一層光り輝くことでしょう」とダメ元でお願いしてみました。

 すると、今度は入れ違いに追伸がきました

肉に対する風味の滲み渡り具合が、厚切りは薄い、つまりは、豚肉の、らしさ、を味わうにはいいですが、そば本体との馴染み感覚という点では、ノーマルがいいのかなの印象です。
私は、若い頃から、豊しまが、結構好きだったんですね。是れは旨い!
新装前の江戸川橋店にいた女性店長にもう一度会いたい! 笑。

 
 厚切りは薄い。名言です。それはさておき、女店長で思い出しましたが、確か坂崎師匠が今は亡き秋葉原店で司法試験に挑戦しているちょっと艶っぽいおねーさん店員に、「ラー油入れてみる?」とナンパされたとかいう話をどこかで読んだような記憶が蘇りました。

 師匠に確認したところ、すぐに返信いただきました。

はい 本当です

メニューの横に六法全書おいてあり、じろじろみられました

こわすぎですね

 
 六法全書が置いてある立喰・ソって……さすがは立喰・ソ界のソ300を擁する豊しま、すごいのは内装や看板や厚切り肉そばばかりではございません。師匠、どうもありがとうございました。

 
 翌日、ABくんから詳細なレポートと共に、写真も送られてきました。

さっそく江戸川橋店に行ってきました。
正直、考えを改めました。今朝はスエヒロをさぼり、腹をすかしていたせいか、どでかい厚切りがスムーズに入ってきました。そばを食べる平行線として肉を食べる。どこか、竹岡ラーメン的な印象を受けた次第です。
漁港と等しく、豊しま、のルーツを神田青果市場とするなら、市場での苛烈な労働を鑑みた時に、これぐらいの肉ぐらい炭水化物と同時に食べてしまわないと身体が持たない。むしろ、ノーマルというのは、ホワイトカラー向けの入門仕様なのかな、とも思ったほどです。市場の麺といえば、長浜ですが、そこにも通じるような早さとスタミナを感じでしたよ。
先ほどの、腹をすかしていた状態ならば、厚切りは納得の食べ応えでありました。二度目の雑感といたしまして。
もうひとつ。
立ちそばで680円というのは高価ですが、飯田橋や江戸川橋の目白通りの裏手は、紙と印刷の労働者の街。厚切りは、極めてていのよい早くて旨く食いである、ランチなのかな、とも。
馴れてくれば、厚切りしか頼まなくなったりして苦笑。

 なるほど、昭和のブルーカラーのみなさんが愛した味だから内装も青! ガテンがいきました。
 調子に乗ってABくんにさらにお願いしてみました。
「ここまでやったのなら春日店がどうなったか見てこなきゃ」



厚切り肉そば
これが厚切り肉そばです。どうですこのド迫力!(2016年5月撮影)

 1時間後、メールが来ました。

春日、閉店のようです。このところ開いてなかったので、そろそろかなと思ってました。再開発でビルごと壊されて、約四年後に新規開店という、貼り紙がありました。

 と、最後は豊しまが伏せ字じゃなくても大丈夫という大義名分を成立させる閉店の貼り紙写真を送ってくれました。

 以上みなさん、私がどんだけひどい奴だとお思いでしょう。本当のことをお話しすれば、ABくんどころか、師匠まで巻き込んで、机の上だけコラムは完成するのか? という壮大な実験だったのです。
 というのはもちろん、たった今考えた言い訳です。師匠とABくんにおんぶにだっこにかたぐるまという、記念すべき70回目でした。



春日店


秋葉原店
やはり再開発によって春日店は閉店だそうです。4年後、青い内装で戻ってくることを願いつつ、おつかれさまでした!(2016年4月撮影) こちらはだいぶ前に幻立喰・ソになってしまった秋葉原店です。昭和通りを渡った総武線高架沿いにありました。六法全書でお仕置きされてみたかったです。(2016年3月撮影)

●今回も立喰・ソ(じゃないけど)NEWS 2016



お


ぎ


の


や

横川と言えば誰でも知っているのが、おぎのやの峠の釜飯。昭和天皇が所望され、唯一お召し上がりになられた駅弁としても有名です。その特製釜飯の写真はおぎのや記念館に飾ってあります。1万円くらいでも食べてみたい人たくさんいると思います。それはさておき、「あれは駅弁じゃなくてデパ弁だから。たいしたことないんだけど、雰囲気でおいしく感じるんだよ」などと、したり顔で言う人いらっしゃいます。私もちょっと高いし、わざわざ食べるほどでもないかなあと思っておりました。今回久しぶりに食べたら、あれ? こんなに美味しかったっけというくらい美味しかったので、自分で自分に驚きました。でも、もっと驚いたのがおぎのやの湯飲みです。帯広のこもろのどんぶりを思い出すネーム入りです。欲しがる人が多いそうですが残念ながら非売品です。ぜひ販売してほしいです。釜飯に負けないヒット商品になります(たぶん)。


バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在800店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


[第69回|第70回|第71回]
[幻立喰・ソバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]