幻立喰・ソ

第81回「しょうがない侍」

 
 ペギー葉山さんが4月12日にお亡くなりになりました。訃報を告げるニュースで知ったのですが、誰でも知っている「ドレミの歌」の和訳、葉山さんのアイデアですと。元歌はこれも誰でも名前くらいは聞いたことがあるであろうミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の劇中歌で、これを見たペギーさんが、感銘を受けて日本語訳を作ったそうです。
 思いつくことはあっても、実行に移すのは大変なことです。最初は食べ物で揃えようとしたのですが、「ファ」に相当する食べ物がファンタしか思い浮かばなかったことで断念したとか。へ〜っ、これは知らなかったでしょ。私も先ほどウイキ先生に教えていただいたばかりですが。
 もしも食べ物版が完成していたら、ソは当然「そば」でしょう。と思いきや、後に書き下ろされた食べ物バージョンは「そぼろ」……そぼろですか!? ん〜、そぼろか……そぼろに負けたか。まったく関係ないけど、またも負けたか八連隊。
 そぼろといえば北九州地区の立喰・ソでは鶏のそぼろがほぼ問答無用で投入されます。嬉しいですね、私以外は。鶏を食べちゃいけない教の鉄の掟で鶏を食べない(=食べられない←子供か! いや子供は鶏が好き)私には、油断のならない食べ物です。ちなみに食べ物バージョンのファは、なんと「ファミチキ」です。鶏ばっかりじゃん……は、さておき、ペギー葉山さんを偲んで、ドレミの歌立喰・ソバージョンを作ってみましょう。

ドは「どんどん」のド
レは「れもん」のれ
ミは「ミミ」のミ
ファは「ファミリー」のファ
ソは「葵そば〜」
ラは「侍」のラ
シは「しなのじ」で〜
さあ、食べましょう(呑みましょ〜っ)。
いただきま〜す。

※すべて店名で揃えてみました。本来なら幻立喰・ソで揃えるのが筋ですが、ファはやっぱり難関です。ペギーさんの苦労の1億分の1くらいは解ったつもりの気分に浸りました。

 ドレミの歌に無理に突っ込んだ侍。気づいていただけましたでしょうか。 
「誰でも気づくだろ、おまえバカか?」と言われると「はい。そうです」と答えるしかないのですが、「侍とはなんぞや?」と聞かれきちんと答えられますか? 刀を差して髪を結って着物を着ている人というような漠然としたイメージはもちろんありますが、侍は職業なのか身分なのかそれとも単なる呼称なのかすらよく解りません。
 言葉のイメージとしてはゲイシャガールと並び、いかにも外国人に喜ばれそうです。我が国でも「侍ジャパン」があります。ですが、間違ってもなでしこジャパンを「芸者ジャパン」と言うとえらいことになりますから、日本語を覚えたての外国人のみなさん、充分ご注意ください。

 
 バイク好きにとっての侍といえば、カワサキ(当時の川崎航空機)の250A1です。北米では「SAMURAI」の名称が付けられたヒット作で、カワサキ北米進出の礎となりました。250A1の338cc版が350A7。北米向けは「AVENGER」(復讐者)の名が付けられました。フジヤマとかスキヤキならともかく、戦後22年経過しているとはいえ、かなり思い切ったネーミングです。アベンジャーというとほとんどの方が間違いなく米海軍の雷撃機TBFを思い浮かべてしまうので、トニーにしてほしかったですね。



250A1


三式戦飛燕
当時の川崎航空機が1966年に産み出した250A1。カワサキ初の本格的な2ストスーパースポーツで、ロータリーディスクバルブの空冷2気筒247ccエンジンは世界初です。 川崎重工業有志が2016年に復元したのが旧日本陸軍戦闘機の三式戦飛燕。その飛燕を米軍は「トニー」と呼びました。

 
 と、一通り知ったかぶりで事故満足(誤植ではありません)したところで本題に入ります。
 立喰・ソ人にとって侍といえば、東京スカイツリーのお膝元、押上の侍です。たぶん日本で唯一侍を名乗る立喰・ソでしょう(未確認)。寄らば斬るぞ的な勇ましい店名とは裏腹に、緑と黄色の鮮やかな看板テントと、下町らしくにこやかに対応してくれるおばちゃんが印象的でした。侍の前は、おじいちゃんとおばあちゃんが桜そばというお店をやっていたようで、ソの味を引き継いだ(らしいです。桜そば残念ながら未食です)地元密着型の立喰・ソでした。
 今ではそこそこ見かける真っ赤な紅しょうが天ですが、ちょっと前までは昔ながらの関東正統派立喰・ソでしかお目にかかれませんでした。侍には紅しょうが天があり、ソには黒と白の2種類がありました。白ソに赤い紅しょうが天、紅白そばとして売りだせばスカイツリー特需に乗っかれた気もしますが、そんな浮ついた商売などするはずもありません。なんたって侍ですから。



侍


侍
東武スカイツリーラインじゃなくて東武伊勢崎線の、とうきょうスカイツリー駅じゃなくて業平橋駅の北側にあった初代の侍。下町の侍っぽいおっちゃんがよく似合う素敵な立喰・ソでした。(2010年6月撮影)


侍


侍
紅しょうが天です。クセになります。天ぷらもおにぎりも自家製でそそりまくりです。ちなみにかき揚げは錦という名前で呼ばれていたような記憶がありますが、記憶違いでしょうか?(2010年6月撮影)

 
 2012年スカイツリーが完成し、押上界隈がなんだかわさわさしているようでしばらくご無沙汰していましたが、2015年の初春に訪れると、侍はなんとまあ跡形もなく消え去り、マンションの建設現場になっておりました。「や、やられた〜あ!」と袈裟斬りされた気分で、道路にバタリと倒れ込もうとしたその時、目に入ったのが小さな貼り紙(写真参照)。そうです、侍は死なず、だったのです。



侍


侍
あの素敵な緑と黄色の看板テントが一面の白い壁に……(2015年5月撮影) 絶望の淵でふと顔を上げてれば一枚の貼り紙が。(2015年5月撮影)

 
 新店舗は旧店舗の昭和テイストはすっかり一新され、モダンでオシャレなお店に大変身したのですが、紅しょうが天も黒ソも白ソも引き続き健在でした。おばちゃんはいませんでしたが、侍の雰囲気さえあるカッコイイ大将にお話を伺ったところ、2014年の秋に移転オープンしたとのこと。紅しょうが天そばをいただき、変わっていない姿形味に大いに安堵し、武士じゃないから満腹で高楊枝という風情で侍を後にしたのです。



侍


侍
旧店舗から3分ほどのバス通り沿いに移転しておりました。(2015年5月撮影) いただいたのは紅しょうが天そば。嫌いな人は嫌い、好きな人にはたまりません。当たり前ですが。(2015年5月撮影)

 
 あれから早2年。ふたたび侍が消えた、と風の噂(なんじゃそれ?)で聞きました。
 またまた、侍ですよ。侍がはそう簡単になくなるわけないでしょと、いまだ信じていませんから確認しに行っていません(駅からちょっと遠いし、めんどくさいし〜ともいうような気もしますが、気のせいではありません)が、ネットという風の便りによると串カツ屋がメインのお店になったようで、名前も平民っぽい名前になったようです。幸い今でもソは食べられるようですが、紅しょうが天や白、黒はあるのかないのか。
 いずれにしても侍であの紅しょうが天を食べることは出来ません。これがホントのしょうがない侍。お後がよろしいようで(強制終了)。

●立喰・ソNEWS 2017 その1

坂崎師匠のコラムで知ったつけ天の美味!

文春オンラインで連載中の坂崎師匠のコラム(http://bunshun.jp/articles/-/2231)、今回は再開発で春日から追われ閉店、2015年12月、日本橋本町に移転開業して一同ほっと安堵の名店おか田(第65回参照)の、知っているようで実は知らない(私だけ?)つけ天のお話。、なるほど、こんな食べ方あったんですね、恥ずかしながら先日初めていただきました。いやー、目から鱗、いや、魚じゃないから鱗はないんですが、例え魚でも目に鱗はないと思いますが、そんなことより、ぜひご一読を。読んで喰えば、貴方も間違いなくおか田のファン!

●立喰・ソNEWS 2017 その2
天使の紅生姜天

初春に開店したのAKB橋のAをやっと訪れることができました。どんな出会いが待っているのか、引き戸を開けて入店すればいきなりきれーなおねーさんが愛想良く迎えてくれました。まさか立喰・ソで、きれーなおねーさんが天使のほほえみで愛想良く出迎えてくれるなんて想定外。なぜかあわてて目をそらしてしまいました。相手が天使のようなおねーさんではなく自動車警ら隊、通称自ら隊々員ならば「こんにちわ〜、防犯でお声がけさせてもらっています。危ないもんは持ってないよね?」状態。



紅生姜天

逃げるようにお品書きに目を移すと紅生姜天の文字。なんて日だ!(もちろん良い方の)幸せ二丁掛け。目を合わせず(合わせられず)紅生姜天そばをオーダーしました。しばらくして天使のおねーさんが手渡してくれたのが写真のソです。あれ〜? 紅生姜? 予想を覆す紅生姜天で驚きましたが、不意打ちをくらった天使のおねーさんの笑顔に比べればな取るに足らないこと。紅生姜というよりも新生姜でしたが、生(だと思う)のソも、おつゆも、注文を受けてから揚げてくれる天ぷらもおいしかったです。ごちそうさまでした。でもほんとは、おねーさんが気になって味をよく覚えていません。

人参天にも見えますが紅生姜天です。おやおや、左上のコップに入った液体はなんでしょうねぇ。(2017年4月撮影)

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。やっと1000店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


[第80回|第81回|]
[幻立喰・ソバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]