MICHELINタイヤテスト

■試乗&文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明
■協力:日本ミシュランタイヤ http://moto.michelin.co.jp/JP/ja/homepage.html

 
モトGPタイヤとして最高峰クラスで切磋琢磨や試行錯誤をしているミシュランから、公道向けハイエンド新作タイヤが登場。「パワーRS」の素性を公道及び(残念ながら雨の)サーキットにてテストした。

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ワインディングメイン+走行会も

 各メーカーともに様々なシチュエーションに向けたタイヤをリリースしているが、狙う領域がわかりにくいこともあるだろう。このミシュランの新作がどのポジションなのかを先に把握しておくためライバルを挙げると、ダンロップならばα-14、ブリヂストンならばS21、ピレリならばロッソ3といったところだろう。究極のハイグリップモデルの一つ下、公道をメインに考えているが、かなりスポーティな味付けで走行会などサーキット走行でも十分楽しめるタイヤ、という位置づけだ。
 パワーRSは現在もラインナップされているパイロットパワー3と、以前ラインナップされていたスーパースポーツEVOの中間的位置づけとのことだったが、しかしポジショニング上はそうであるもののミシュランスタッフは繰り返し「全く新しいものだ」と強調していた。モトGPと関わり様々な技術的進歩を遂げているであろうミシュランだが、このパワーRSがモトGPから直にフィードバックした何かがあるかどうかについて明言はしてもらえなかったものの、既存のタイヤの延長線上には決してなく、「全く新しい物」であると胸を張っていた。

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小径フロントながら素直さを追求

 
 パワーRSはサーキット走行会なども楽しめるスポーツ性を持たせているものの、メインステージはあくまで公道であるため、スポーティすぎてしまってもいけないという立ち位置にある。この難しいバランスを成り立たせるため、コンパウンドやケース剛性、タイヤ径などを検討している。内部構造自体は以前から使っているポリアミド樹脂でありその意味では大きな変化があるわけではないが、ケーシングの角度を見直すことで優れた直進安定性とバンク時の剛性感を両立。またタイヤ径はフロントをパワー3比で直径10mm小さくなり、リアは5mm大きくなっている。これによりリア上がりフロント下がりのスポーティな姿勢となり、またフロント径が小さくなったことでフロントの接地面も縦方向が短くなり良く曲がる軽快性を獲得している。
 しかしこれだけでは公道の場面によってはスポーティすぎたり、神経質に感じたりすることもあるかもしれない。そこでタイヤ断面形状を以前よりもラウンドさせて自然な過渡特性を追求した。スーパースポーツEVOが尖っていた形状なのに対して、パワーRSは素直な半円状に近く、これにより一定のバンクから先になると突然グイグイと曲がり始めるなどということとは無縁であり、あらゆるバンク角で素直なハンドリングを維持する。
 一部ハイグリップ系のタイヤでは強烈な旋回性を発揮させるためにリアタイヤがフロントタイヤを回り込んでくるような味付けにされているそうだが、パワーRSではあくまで後輪が前輪の軌跡をたどるような味付けを追求しており、これは素直にワインディングを楽しめるだけでなく、荒れた路面やウェット路面など難しい状況に遭遇した際も恐怖感少なくやり過ごせるという設定だ。

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公道試乗で素直さを確認

 
 様々なサイズをラインナップしているためあらゆるバイクでこのパワーRSを試すことができようが、公道でのテスト車両は筆者所有のバンディット1200となった。一般的なフロント120、リア180サイズであり、主にビッグネイキッド系のライダーの参考になるかと思う。テストは高速道路、ワインディング、街乗りなど様々なシチュエーションであり、現実的な使用状況に思う。
 高い直進安定性を謳うパワーRSだが、高速道路はまさにその通りだった。淡々と走り続ける場合も硬質感はなく路面の継ぎ目も良く吸収してくれていると感じる。また高い速度域でのレーンチェンジも良く決まり印象が良い。テスト日はかなり気温が低かったが、一部ハイグリップ系に感じられるような低温時の神経質感もなく、良い意味でタイヤの存在感が薄くてストレスを感じさせなかった。
 まだ残雪のあるワインディングに乗り込むと、ますますその素直さが光る。細かく切り返すような舗装林道のようなワインディングではとても素直にクルクルと向きを変えるだけでなく、グルーブの少なさからは想像しにくい悪路への順応性もあった。砂が浮いている場面や雪解け水が路面を伝っている場面でもヒヤリとすることはなく、ツーリングタイヤのような懐の深さを感じることができた。
 より速度レンジの高いワインディングではそのハイグリップゆえに積極的にパワーをかけていけるのも嬉しい。深いバンク角からアクセルを開けていっても横に流れるようなことはなく、そういった場面ではスポーツ性の高いタイヤなのだなと認識させられる。
 後輪が前輪の軌跡をなぞると説明されたのも、こういった公道ワインディングで良く感じられた。これだけのハイグリップなのにとにかくどこまでも素直で癖が感じられず、ライディングの基本であるハンドルに力を入れない、というのが自然にできてしまう。特にタイヤについて何も伝えていなかったツーリング仲間が乗っても「凄く素直だね! タイヤが良いのかな?」とコメントが出るほどであったのだからその素直さは本物だろう。
 ライフについてはまだわからないが、説明ではかつてのスーパースポーツEVOよりも長くなっているというからツーリングシーンで使ってもありがたいだろう。
 こういったハイエンドのタイヤを公道で使って不満が出るということはほぼないのだが、それにしてもこのパワーRSは本当に印象が良かった。スーパースポーツEVOよりもしなやかでライダーに伝わるインフォメーションが豊富でありながら、グリップも十分以上。今のところ注文は見当たらない。
 

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雨の筑波サーキット・コース1000

 
 サーキット試乗の機会が設けられたのだが、当日は残念ながら雨。ウェットコンディションでの試乗となってしまったのが悔やまれるが、しかしパワーRSは公道でのあらゆるシチュエーションに対応する商品なのだから、雨は雨で良いテストとなった。
 最初は筆者のバンディットでコースイン。かなり降っていたのだが、これが早い段階から自信をもって攻め始めることができたのには驚いた。このようなコンディションではバンディットのしなやかな運動性とのマッチングも効いていたのだろうが、それにしてもいいペースが可能であり雨にもかかわらず素直にスポーツライドを楽しむことができてしまった。これはパワーRSの形状からくる素直さももちろんだが、特にしなやかさによるところが大きいように思えた。前作スーパースポーツEVOは軽快で公道では大変良かったが、サーキットでは少し硬質さがあってもう少しインフォメーションがあれば、という場面があったのに対しパワーRSは常にグリップ感が感じられ、またここから先はやめておこうかなというわかりやすさもあった。あくまで公道メインのタイヤでサーキット走行は走行会程度を想定しているタイヤではあるものの、この好印象ならばドライ路面でまた改めてサーキットも走ってみたいと思わせた。
 このサーキット試乗会では他にミシュランが用意してくれたモデルもあったため併せて試乗した。まずはKTMのRC8だが、これはバンディットに比べれば数段高いスポーツ性能を有するもので車体やサスペンションの設定もハードな方向。数周走ったが、いかに懐の深いパワーRSでもこのヘビーウェットでは怖さがありRC8のスパルタンな性格を楽しむには至らなかった。しかしその後試乗したCBR400Rではとても楽しむことができた。パワーが少ないことや想定される速度レンジが低めということがあってか雨中でもスポーツライドが楽しめたのだ。
 あくまで雨のコンディションで、しかも1周1キロ足らずのコースでの印象でしかないが、ここに限って言えばビッグネイキッドなどのしなやかな車体を持ったモデルの方が相性はいいような印象であった。改めてドライで乗ればまた印象は違うかもしれないが。
 

選択肢に加えたいよきバランス

 
 フルウェットのサーキットでの試乗はともかくとして、公道では非常に良い印象であるこのパワーRS。ハイグリップ系であるのにもかかわらずとっつきやすさがあるのが魅力に思う。ワインディングを中心に走りたい人には、そのワインディングの種類に関わらずお薦めできるし、また、まだドライでは走っていないもののサーキットでも走行会レベルならば十分以上に楽しめそうな感触を得た。悪く言えば個性の少ないタイヤなのかもしれないが、より多くの場面で楽しみやすい、癖の少ないハイグリップ系タイヤを求めるライダーに薦めたいミシュランの新作である。なお、ドライ路面でのサーキット試乗は追ってミスターバイクBGのブログでレポートしようと思っている。(http://www.mr-bike.jp/?cat=65
 

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サーキット試乗はあいにくの雨。公道試乗では非常に良い印象だったので、次回はパワーRSをドライ路面で試してみたい。 ミシュランのアジア市場の責任者であるアダム・ストーレイさんと。

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