幻立喰・ソ

第20回 急行立喰・ソといっても急いで食べろじゃありません

 鉄道と立喰・ソ。この二つは強烈に結びついています(少なくとも私の稚拙な脳内では)。立喰・ソと言えば思い浮かべるのは、このコラムでもきつねそばでもおいなりさんでもなく、駅にある立ち喰いそば屋さん。しかし困ったことに、最近では立喰・ソが撤退してしまった駅も数知れず(数えていないもので)。盤石・不倒と思われていたNRE系列(東日本在住なので、どうしても東視線ですいません)ですら消滅している時代ですから、平成キッズ視線では立喰・ソ=大手チェーン店、または新進気鋭系(=オシャレな内装。本格生そば、こだわりのつゆ。でも500円以上)が定番になっていくのかもしれません。
「ってゆーか、立喰・ソとか興味ないんですけど」とクールに言われちゃうか。

 平成キッズに対抗できる武器は「(上底+下底)×高さ」くらいしかない昭和オヤジにとって立喰・ソの想い出ナンバーワンといえば、寒い冬の夜、周遊券で旅立った夜行急行列車の固い座席で熟睡できず、しかもSG1(某海外テレビドラマのことではありません)の調子がいいのか悪いのか熱くなったり冷えたりのまんじりとしない一夜。眠れぬまま、夜中に停車したほどほどの規模の某駅。寝台特急(ちなみに特急とは特別急行の略で、英語で書くとLIMITED EXPRESS。急行はEXPRESS。快速は誰が訳したのかRAPID SERVICE。じゃあ、世界に一つだけ〜♪のオンリーワン、K-KING=京王線の準特急はというとSEMI SPECIAL EXPRESSって……もう、ムチャクチャでございますわぁ〜。)の通過待ちの気分転換にホームに出ると夜風が火照った体にあああ〜ん。するとホームの中程では夜中にも関わらず立喰・ソからSG1に負けないくらい湯気とダシのかおりが吹き上げ中。するとそれほどお腹が空いていなくてもふらふらと誘われついつい食べてしまった経験ありませんか?

EF58
蒸気機関車じゃないのに屋根からもくもくと煙(といいますか、正確には蒸気です)を出している機関車(電車ではなくて)を見たことある人は、間違いなく昭和40年代前半以前生まれでしょう。その昔の電気機関車やディーゼル機関車はバカでかいヤカン(これが蒸気発生装置のSG1。ちなみにSGはSteam Generatorの略)を積んでいて、そこで発生させた蒸気をパイプで客車に送ってスチーム暖房していました。このとてつもなく効率の悪そうな暖房方式、蒸気機関車時代は理に適っていたのですが蒸気機関車がなくなても客車は残るのでそのまま引き継がれたのですが、これじゃ国鉄も赤字がかさむはずです。ところで画面左のもやっとしたものは何? 湯気? それとも写ってはいけないもの?(1976年12月30日 名古屋駅にて)

 あるあるあるある!という発掘大辞典風な貴方は、その想い出を大切に語り継いでください。再現しようとするのはかなり困難ですから。

 2012年2月現在、毎日運転されているJRの夜行急行列車は2本……しかもそのうちの1本新潟-大阪間を走る「きたぐに」は3月で廃止です。そして夜行列車自体が特急を含めても10本もない平成の世に駅のホームで終夜営業している健気な立喰・ソなど存在しているはずもないのです。だから途中駅で立喰・ソをすするなどという贅沢は出来ません。例え駅外に24時間営業の立喰・ソがあったとしても(室蘭本線沿線にはたぶんないと思います。ひょっとして新札幌ならあるやも)、はまなすの停車時間は長くて2分。これではボルト並の俊足とホットドッグ早食いのあの人(名前忘れました)を兼ね備えた早足早食いスーパーモンスターとて困難でしょう。

はまなす
日本最後の定期運行の夜行急行列車は青森22時42分発急行はまなす。青函トンネルを抜け、内浦湾、有珠山を眺み(夜中なので有珠山はたぶん見えませんが)札幌に6時7分に到着(逆もあります)。自由席でもリクライニングシートの14系(気を抜くとがちゃ〜んと戻るなつかしの簡易リクライニングシートですが)です。

 今回は(今回も)鉄ネタまみれですいません。
 急行列車をバイク的に置き換えると2気筒のWとかXSのポジションになりましょうか。でも最近は2気筒がぐいぐい主役になっているのが鉄とは真逆です。このあたりを無闇に突っ込むと……になりますのでこのへんで。
 異線進入を繰り返しウヤ寸前。遅延しまくるのが当該コラムの定位。途中下車前途無効です(普通に言うと「与太話ばかりして進まないのが当たり前。でも途中で止めると罰が当たる的な」)なのは今に始まったことではありませんので、もっともっとお付き合いください。

 惜しまれつつも一昨年廃止された急行に首都圏と北陸を結ぶ能登号があります。
 現在でも臨時列車として時々運転されていますが、気の毒なくらい空いています。乗る方は空いているに越したことはないのですが、夜行列車で一車両に一人だけというナンバーワンよりオンリーワントレインに遭遇するとちょっと戸惑います。

 黒いコートとロシア帽の美女が「機械の体をもらいに行きましょう」というのならまだしも、方向幕がくるくる回り「急行 御代の国行(三途の川経由)」と表示されて(乗っていると見えませんがそれがまた怖いじゃないかという体で)、気がつけば満員なんだけど見回してみればエンタツアチャコ、夢路いとし喜味こいし、三波伸介、坂上二郎、ポール牧、横山やすし、東京ぼん太などなどの蒼々たる師匠が。豪華夢の競演に酔いしれ夜霧の中を何処へ……という楽しいんだか怖いんだかのお笑い恐怖列車はいいのか、悪いのか。

金沢駅
鉄ならずとも、なくなるとなると見ておきたい、写真に残したい、乗っておきたくなるのが人情。最近ではニュースになったりしますから鉄道ブームなんでしょう。(2010年1月30日 金沢駅)

「夜中に峠道を走っていたら、ものすごい勢いであおられバイクが横に並んだ。見ると首から上がないライダーがこちらを見てにやっと笑った」
という話もよくあります……あれ〜? 笑い話ですか?? という話も置いといて本題に戻りましょう。

 その急行能登とはたぶんなんの関係もない「のとや」さんは東武ホープセンターという、名前からして昭和の香りがぷんぷんの地下街の一角にありました。
 池袋駅につながる地下街という目の前の通路は老若男女(×ろうじゃくだんじょ・○ろうにゃくなんにょ。一発で正しく打てる貴方は賢い人)がまさに東口から西口方面へ東奔西走、その逆に西口から東口へ西奔東走している超一等地のはずなのに、このあたりは閑散としていた印象が強いです。
 池袋という東京砂漠にありながら、隠れ家的に落ち着いた環境のとやさんは、一般的な立喰・ソというよりも、わくわく食堂ランド的にメニューが豊富でした。しかし看板にでかでかと「そば処 のとや」とありましたし、立喰いカウンターもありましたから間違いなく立喰・ソなのです。

のとや のとや
恥ずかしながらのとやさんには一回しか行ったことはありません。お店の前の地下通路はよく通ったのですが、実はお店があることまったく気がつきませんで……(2010年9月7日) もう一度行ってみようと出かけたら……どこにあったのか途端に解らなくなります。このパン屋さんのあたりのはずです。ガードマンのおじさんに尋ねてもわんわんわわん状態。石碑でも建ててくれれば……(2011年11月5日)

 ところで。

 最近とある方から「君は立喰・ソの定義はなんたると心得るか」と詰問されました。立喰・ソなんだから立ち食いカウンターがあるお店なのですが、最近は全席席付(なんか変な日本語です。そういえばかつて国鉄には立席特急券というとんちのような切符がありました。今でもあるのかな?)は珍しくもありません。といいますか最近は椅子付きが主流であり、大手チェーン店のFやYはほぼこのスタイルになっています。FもYも自ら「立喰・ソ」とは名乗っていません(※あっ、本当にそのまんま「立喰・ソ」と名乗るお店は、世界広しといえど一軒もないです。この場合「立ち食い、または立ち喰いそば」ということです。このコラムの都合上、今更引っ込みが付かないので立ち喰いそば屋さんを立喰・ソと書き続けます)。ですが世間一般の認識としては立喰・ソと思っているはずです。

マーボー丼セット
オーダーしたのはマーボー丼セット500円。立喰・ソにしては珍しいメニューです。のとやさんは定食や丼物が充実していたようですから、むしろこちらが王道ということで。ゴボウ天は追加のトッピング110円。このゴボウ、近年まれに見るゴボウなヤツで、激しい歯ごたえをよく憶えています。そばは固め、つゆはやや甘めと立喰・ソ帖に書いてありました。マーボー丼に関してはなんの記述もないくせに「かつ丼450円は安い」と走り書き……かなりの浮気性です。

 ということで、立喰・ソの定義はお店自体が「立喰・ソ」(※もちろん上記同)と名乗るか、お客側が「立喰・ソ」(※上記同、ああ、めんどくさい。でも最近はコピペするだけですけどね)だと判断するしかありません。ということで、立喰・ソの定義は貴方次第。あのお店もこのお店も決定権は貴方の心の中にあるのです(ノークレームで)。

さてと。

急行能登号が定期列車から臨時列車へと格下げになった2010年3月のダイヤ改から約9ヶ月後の2011年1月31日、東武ホープセンターの改装工事によってまたひとつ素敵な立喰・ソが幻立喰・ソ行きの列車に乗って行きました。

 なんだかんだいってもほら、最後はうまくまとまったんじゃないですか? このコラムの行先も先行きもかなり暗雲が垂れ込めていますが……。


■立喰・ソNEWS

●労多くしてそば喰えず

北海道は石北本線の遠軽駅の立喰・ソに行って参りました。この時期は安いパックがあるんで、とはいえ品川駅のえきめんやに行く能登は、いや行くのとは訳が違います。大枚はたいて時間もかけてやってきました遠軽駅。が、肝心の立喰・ソに誰もいない……次の列車まで約40分。乗り遅れると帰れない。そばならぬ泡を食って駅員さんに尋ねたら「列車のことなら答えられるがそば屋のことまではわかりませんな」とけんもほろろ。売店のおばちゃんも「ここにいると、あっちのことはわかりませんねえ」とけんもほろろ。おろおろ状態で中を覗けば鍋から湯気は出ているから休みではないはず。お店の前で呆然と棒立ちもついに待ち人現われず。40分後きっちり現われたのは、そば屋さんではなくて、もちろん次の列車。さすが世界一正確なJR! 次の目標の網走駅立喰・ソも「本日休業」の張り紙がっ……立喰・ソ神にどんと突き放され、最後は石勝線の事故で立喰・ソならぬ立ち往生で帰りの格安航空券はただの紙切れに。それはそれは楽しい1日でした。当分立ち直れません。(2012年2月17日撮影) 

遠軽 網走

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在500店以上を制覇したものの、データ化されていないのでたいして役に立たない。そば好きから、立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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