西村 章

Vol.125 第13戦 サンマリノGP Another Rainy Night

 勝ち慣れた者だからこそできる勝負の決め方である。20周のあいだトップを走り続けていたダニロ・ペトルッチ(プラマック・レーシング/ドゥカティ)の背後で力を矯めて機を窺い、最終ラップの1コーナーで前に出るや続くコーナーでぐいぐい引き離して優勝を決めたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)の走りを見て、そんなふうに感じた方はきっと多かったのではないかという気がする。
 第13戦サンマリノGPのレースウィークは、木曜夜に強い雨が降って金曜早朝こそ路面が濡れていたものの、MotoGPクラスの走行は土曜午後の予選まですべてドライコンディションで行われた。日曜は雨という気象情報が的中し、当日は朝のウォームアップからウェットコンディション。MotoGPクラスの決勝がスタートする午後2時には雨が止んだものの、路面はしっぽりと濡れた状態でレースが始まった。
 レース終盤になると路面はそれなりに少しずつ乾き始めた部分もあったものの、しっかりと水の残っていた箇所もあり、フラッグトゥフラッグの展開にはならなかった。それでもマルケス陣営は入念な準備に怠りなく、6周目に入ったメインストレートではマシン上から左足を出してライダーがチームに合図を送った。
「ここはドライとウェットのセットアップがかなり違うので、ドライ用のセットを準備するのに時間がかかる。フラッグトゥフラッグになりそうだと感じたら足を出してサインを送るので、そうすればチームはじっくり準備をする、とレース前にあらかじめ打合せをしておいたんだ。最終的にフラッグトゥフラッグにはならなかったけど、いつも備えはしっかりしておいたほうがいいから」
 と、マルケスはレース後にその背景事情を説明した。選手とチームのコミュニケーションに関しては、すでにドゥカティが採用しているダッシュボードメッセージが近年の趨勢で、おそらく来年からはどのチームも使用するようになるだろう。とはいえ、今回のマルケスのような方法は、先進的な通信技術こそ使用していないものの、ダッシュボードメッセージと違って双方向の意思疎通が可能である。このような合図を使ったコミュニケーションは今後も巧みに活用されていくだろうし、シンプルだからこそ柔軟な応用の利くこんなやりとりのなかにこそ、二輪ロードレース独特の、人間くさい戦術の面白さを嗅ぎ取ることもできるのだと思う。


#93
完璧な最終ラップでランキング首位に返り咲く、の巻
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 上記のマルケスが左足でサインを送ったときには、ペトルッチはその直後につけていて
「あれを見たときは『そのままピットインしてくれないかなー』と思ったけど、そうはならなかった」と冗談めかして話し笑いを取っていたが、内心では2位という結果はさぞや悔しかったことだろう。
「2位で終わったのは少し残念だけど、ずっと攻め続けた結果だから悔いはない」という言葉もまた偽りのない正直な気持ちではあるだろうが、
「すっごいビミョー」
 とレース後に語っていたひとことは、紛れもない本音だろう。とはいえ、母国レースでは第6戦のムジェロに続いて地元ファンの前で表彰台に登壇し、今回同様に僅差で優勝を逃した第8戦アッセンに続き、今年3回目の表彰台である。
「『次回こそ最高のレースになる』といつも思っているので、次のアラゴンでもがんばる」
 とペトルッチはさりげなく話していたのだが、『次回こそ最高のレースになる』とは、じつに味わいのあるいいことばですね。

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 3位のアンドレア・ドヴィツィオーゾは、ドライセッションの金曜と土曜はスタンダードフェアリングで走行していたものの、日曜はエアロダイナミクスを考慮した例のニューフェアリングで決勝に臨んだ。ウェットレースになったこともあり、どうやらレース間際になって、このフェアリングで行こうと決断したのだとか。
 今回は3位でチェッカーを受けたことにより、獲得ポイントはマルケスと同点で並ぶことになった。残り5戦の戦いは、ますますえらいことになっていきそうである。


#09

#46
根が温厚なのです 残り5戦で何勝できるか
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 マルケス、ドヴィツィオーゾとのチャンピオン争いに生き残っているのが、マーヴェリック・ヴィニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)。今回は4位でチェッカーフラッグを受けた。ウェットコンディションでは苦労することが多かっただけに、レース後のヴィニャーレスは今回のリザルトにはそこそこ納得、といった様子だった。
 じつはヴィニャーレスのマシンには2018年プロトタイプの車体が投入されているのだが、チームメイトのバレンティーノ・ロッシが右脚骨折で欠場したことにより、今回は結果的にロッシ用の2018プロト車体を自分のスペアマシンにも入れることになった。ヴィニャーレスの使用できる2018プロトがもしも1本だけなら、フラッグトゥフラッグのレースになったらどんな戦術で臨むのだろうと注目していたのだが、なんのことはない、フラッグトゥフラッグにもならなかったし2本とも2018プロト、という結論に落着していたのでありました。
 ヴィニャーレスは、土曜段階で「明日が雨なら新しいウェット用の制御を試したい」とも話していたのだが、車体と制御の効果が相俟って、決勝でも良い感触を掴めたようだ。
「フロントの挙動はとてもよくて、ドライのときと似たフィーリングになってきた。ただし、リアはもっとトラクションを稼げるようにしなければならない」
 とのことである。


#25

#46
アラゴンではファン・デル・マークがチームメイトに Wish you were here
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 他に今回の特記事項としては、Moto2でハフィス・シャーリン(Petronas Raceline Malaysia)が3位表彰台を獲得したことを挙げておきたい。パルクフェルメで涙ぐみながら何度も目を拭う姿は印象的だった。2012年のマレーシアGPにワイルドカード参戦していきなりトップを快走し、3位フィニッシュを果たして以来約5年ぶり、フル参戦後は初めての表彰台である。ワイルドカードで闇雲に走って結果的に表彰台に登壇したときと、フル参戦で紆余曲折を経た今回の表彰台とでは、なにより本人にとって重みが違うだろうし、文化の違う環境で苦労が多かっただろうこともまた容易に想像がつくだけに、しみじみとよかったなあと思う。
 ところで、そのMoto2クラス決勝レースと、それに先だつMoto3クラスのレースでは大量の転倒者が発生し、Moto3では計23回、Moto2は計22回の転倒があった。ウィーク全体で見ると140。手元に資料がないのでグランプリ全史でどうなのかはわからないが、近年では間違いなく最多である。転倒数が三桁に到達するのは2014年のミザノ(104)以来だが、そのときよりも格段に今回のほうが多い。だいぶ以前に、雨のエストリルで大量転倒があったような記憶もうっすらとあるのだが、じっさいのところどうだったのか、機会があれば調べておきます。
 というわけで、次のレースは第14戦アラゴンGP。セルジオ・レオーネもびっくりの荒野のど真ん中である。では、エンニオ・モリコーネによろしく。


#11
#11
雨の強さを存分に発揮

 



■2017年9月10日 
第13戦 サンマリノGP
ミザノサーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


2 #9 Danilo Petrucci OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


3 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


4 #25 Maverick Viñales Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


5 #51 Michele Pirro Ducati Team DUCATI


6 #43 Jack Miller Marc VDS Racing Team HONDA


7 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


8 #42 Alex Rins Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


9 #94 Jonas Folger Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


10 #38 Bradley Smith Red Bull KTM Factory Racing KTM


11 #51 Michele Pirro Ducati Team DUCATI


12 #19 Alvaro Bautista Pull & Bear Aspar Team DUCATI


13 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


14 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


15 #5 Johann Zarco Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


16 #76 Loris BAZ Reale Avintia Racing DUCATI


17 #17 Karel Abraham Pull & Bear Aspar Team DUCATI


RT #53 Tito RABAT EG 0,0 Marc VDS HONDA


RT #29 Andrea Iannone Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


RT #22 Sam Lowes Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


RT #41 Aleix Espargaro Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


RT #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


RT #99 Jorge Lorenzo Ducati Team DUCATI


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