西村 章

Vol.129 第17戦 マレーシアGP Grace Under Pressure

 優勝しなければ後がない。まさに背水の陣の厳しい状況下でも、きっちりと勝利を取りに行けるところが、今年のアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)の粘り強さであり、2017年ドゥカティ・デスモセディチGPの戦闘力のしたたかさでもある。

「完璧なウィークになった」

 と述べた優勝後の第一声が示すとおり、緊密な精神状況を良い方向にコントロールして、最大の結果を出せているのは、今シーズンここまで積み上げてきた結果と自信がうまく噛み合っているからでもあるのだろう。

「今週は最初のプラクティスからどんなコンディションでも速く走れた。ドライではセッションごとに良くなって、勝利に向けて戦えるペースを刻んでいけた。ウェットでも、バイクがとてもよく走ってくれていた」

 そう話す一方でドヴィツィオーゾは、「今日の勝利は今までの優勝と比べるとそんなにうれしくはない」とも述べた。意地と心意気で最終戦のバレンシアへチャンピオン争いをもつれ込ませたとはいえ、21ポイントはかなりの大差である。その状況を考えると、最終戦決戦とはいっても、けっして楽観視はできる状態ではない、ということを痛感しているからだろう。しかし、こうも述べている。

「今週はここまで戦えると思っていなかった。じっさいに今年は多くのレースで、自分たちがここまで走れると予想していた人はあまりいなかったと思う。だから、前向きな姿勢を維持し、戦略は流れ次第で考えることにして、ただ勝つために全力を尽くしたい。バレンシアは自分たちが苦戦してきたコースで、逆にマルクはいつも速いけれども、今年は何があってもおかしくないシーズンだし、天気もまだどうなるかわからない。難しい状況ではあるけど、リラックスして最終戦に臨みたい」


#04

#04
今季6勝目。勝利数ではマルケスとタイ。 今回は精神戦の様相も。
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 このドヴィツィオーゾの優勝をしっかりと支えたのが、〈相方〉のホルヘ・ロレンソである。ロレンソがトップを走り、ドヴィツィオーゾが2番手につけているときに、ランキング首位のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は4番手を走行しており、その順位のままならマルケスのチャンピオンが確定する状況だった。ロレンソとしては、おそらくどこかでドヴィツィオーゾを前に出さなければならない状態になっていただろう。だが、幸か不幸か15周目の最終コーナーでフロントを切れ込ませて危うく転倒しそうになり、その隙を突いてドヴィツィオーゾが前に出る格好になった。

 この出来事の前でも、ロレンソは中盤以降に2分13秒台を連発して後続をぐいぐい引き離していたのだが、このロレンソと同じ13秒台で走れていたのはドヴィツィオーゾのみ。やや離れて3番手を走行していたヨハン・ザルコ(モンスター・ヤマハ Tech3)とマルケスは、14秒台。ドヴィツィオーゾがトップに立ってからは、「フロントが切れ込んで何度も転びそうだった」と話し、ごくごく微妙にペースを落としている。

 ロレンソがドヴィツィオーゾを後方に従えて周回しているレース中盤では、ロレンソのダッシュボードにマッピングの切り替えを指示するピットからのメッセージが表示され、これが実はチームオーダーを暗黙裡に伝える含意だったのではないか、といわれているのだが、ロレンソは、このダッシュボードメッセージを見なかった、とレース後に話している。

「正直なところ、メッセージは何も見なかった。自分のラインと次のコーナーに集中していたんだ。ミザノでは集中力を欠いていたから、(トップを走行中に)転倒してしまったんだし」

 その一方で、こうも述べている。

「人に言われなくても、どんなシチュエーションで何をしなければならないかはわかっている。今日のレースは勝ちたかったし、最後まで攻めたかったけれども、フロントが限界で、ドビについていくのはブレーキングでもかなり際どい状態だった」

 2分13秒台を連発してレース中盤で後続を引き離しにかかったロレンソの走りにも唸らされるが、さらに毎周それを上回るベストラップを記録しながらピタリと張りつき続け、ロレンソがミスしたところを突いてオーバーテイクしたドヴィツィオーゾもたいしたものである。これだけの水準を維持して走り続けなければ前にでることはできなかったのだし、じっさいに3番手以下は彼らに着いてくることもできなかったのだから、今回のロレンソやドヴィツィオーゾの走りからは、〈チームオーダー〉という言葉が持つ、スポーツマンシップを毀損する不健全で欺瞞的な印象は感じられなかった。それにしても、男おれちんどこへゆく、ロレンソはじつにいい仕事っぷりである。


#99
ニースライダーの路面を擦る赤い軌跡がかっこよかったっす。
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 4位のマルケスは、トップのドヴィツィオーゾから17秒差という結果が示すとおり、何かが噛み合わないウィークだった。土曜の予選で転倒して3列目7番グリッドに沈んでしまったことが、今回の彼の走りを象徴していたといえるかもしれない。

「それでもひとつ好材料を与えてくれるのは、今週のような厳しいウィークでも4位で終えることができている、ということ」

 と話すとおり、彼がランキング首位を維持しているのはレース結果のアベレージの高さがあるからこそだ。セパンサーキットでのドゥカティとのパフォーマンス差に関しては、こんなふうに述べている。

「彼らは、加速がいつものように速かった。自分たちはブレーキングが長所だけど、今回はそこを充分に発揮できなかった。金曜のウェット(FP2)のときから既にフィーリングが十分ではなかった。ドゥカティは立ち上がりが良くて、僕たちは進入が武器。今日の問題は進入だった」

 その状況下での4位という結果にまずは納得すべき、という心境だろうか。

「もっとリスクを取れば、ここでチャンピオンを決めることができていたかもしれないけど、ひょっとしたら転倒して7点差とかもっと狭いポイント差になっていたかもしれない。だから、ステップバイステップでいくのが良いと思う」

 ドヴィツィオーゾが優勝してロレンソは2位という結果には、こんな感想を漏らした。

「自分に充分なレース経験がある状況で、たとえばチームメイトはチャンピオン争いをしていて自分はレースを争っているだけなら、あれはあたりまえだし、彼らのやったことは充分に納得できる。いい仕事をしたと思うよ」

 そういえば2006年の最終戦バレンシアGPでは、マルケスのチームメイト、ダニ・ペドロサがチャンピオン争いのかかっていたニッキー・ヘイデンに、いい仕事をしましたね。あのときは、最終戦を前にランキング首位だったバレンティーノ・ロッシに対してヘイデンは8点ビハインド、というロッシに有利な状況で最終戦を迎え、2コーナーでドラマが発生したのでありました。

 さて、マルケスとドヴィツィオーゾが21点差で迎える今年のバレンシアGPは、果たしてどのような結末を迎えることになるのでしょう。千客万来、乞御期待。


#93

#26
今年もコンストラクターズタイトルを獲得。
#9 #46 #43
今回はけっこう苦戦。 雨はやはりどいひー。 ごきげんさん。成績も良し。
#41 #60 #歩
今年は経験の年。 MotoGP初体験 チームのホームGPでした。

 



■2017年10月29日 
第17戦 マレーシアGP
セパン・インターナショナル・サーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI


2 #99 Jorge Lorenzo Ducati Team DUCATI


3 #5 Johann Zarco Monster Yamaha Tech3 YAMAHA


4 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA


5 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA


6 #9 Danilo Petrucci OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


7 #46 Valentino Rossi Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


8 #43 Jack Miller Marc VDS Racing Team HONDA


9 #25 Maverick Viñales Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


10 #44 Pol Espargaro Red Bull KTM Factory Racing KTM


11 #19 Alvaro Bautista Pull & Bear Aspar Team DUCATI


12 #38 Bradley Smith Red Bull KTM Factory Racing KTM


13 #45 Scott Redding OCTO Pramac Yakhnich DUCATI


14 #8 Hector Barbera Avintia Racing DUCATI


15 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda HONDA


16 #60 Michael VAN DER MARK Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


17 #29 Andrea Iannone Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


18 #53 Tito RABAT EG 0,0 Marc VDS HONDA


RT #22 Sam Lowes Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


RT #17 Karel Abraham Pull & Bear Aspar Team DUCATI


RT #76 Loris BAZ Avintia Racing DUCATI


RT #42 Alex Rins Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


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