全日本ちょこちょこっと知っとこ


第41回「カワサキに11年ぶりの優勝をもたらした渡辺一馬選手!」

 今シーズンの全日本ロードレースの話題といえば、ヤマハファクトリーの天下に殴り込みをかけた「HRC復活!」。開幕前から周りはざわざわ~ざわざわ~っと、普段は目にしない雑誌の方々まで取材に来ていてありがたい。
 レースはというと、開幕から2戦4レース、ヤマハファクトリーの中須賀克行選手が全勝。HRCの高橋巧選手は開幕2位-リタイヤ、第2戦2位-2位という成績で、まだマシンの仕上がりが十分とは言えず、ヤマハVSホンダは圧倒的にヤマハに一日の長といったところ。



テストもデータも足りずマシンのセットアップに苦戦中、監督は宇川徹だ


ホンダのアドバイザーは伊藤真一さん
テストもデータも足りずマシンのセットアップに苦戦中、監督は宇川徹さんだ。 ホンダのアドバイザーは伊藤真一さん。

 そんな渦中の第3戦、予選日にチームグリーン2年目の渡辺一馬選手がふと「みんなHRCとヤマハのことばかりですよね……」と漏らしていたのです。開幕のもてぎ、続く鈴鹿と表彰台の一角に立ち、ランキング2位にも関わらず、「VSカワサキ」と言われない現状に、「レースは2人だけでやってるんじゃない、ちゃんとこっちも見て!」という心の叫び。悔しいだろうけど、それは自らが結果で見せるしかない。
 今シーズンは開幕戦の予選からBMWの星野友也選手が上位に顔を見せ、ヨシムラは渡辺一樹選手が加入し存在感を見せ、J-GP2チャンピオンの水野涼選手、生形秀之選手がJSBクラスにステップアップし、マレーシアのザクワン選手もフル参戦。私たちが現場で目にする選手たちはみんなそれぞれにいいところがあるし、レースはトップ争いも混戦で、いつにもまして面白くなっていると思うのですが。



兄と弟のようなチームグリーンの二人


土曜のピットウォークでは一馬の誕生日サプライズが行われました!
兄と弟のようなチームグリーンの二人。 土曜のピットウォークでは一馬選手の誕生日サプライズが行われました!


JーGP2からJSBにスイッチした生形秀之選手


マルク来場
渡辺一樹選手はヨシムラで早速存在感をだしてきた!


チームアジアのザクワン選手は毎戦マレーシアからやってきます。ほほえみの国のひとはいつも明るい
JーGP2からJSBにスイッチした生形秀之選手。 チームアジアのザクワン選手は毎戦マレーシアからやってきます。ほほえみの国のひとはいつも明るい。


先週はイギリスでBSBのレースに出場した清成龍一お兄ちゃん


裕紀選手のピットで怖い顔をみたことがない
先週はイギリスでBSBのレースに出場した清成龍一お兄ちゃん。 裕紀選手のピットで怖い顔をみたことがない。

 3戦目は大分県オートポリスでの開催。言わずと知れたカワサキのホームコース。予選までは晴天のレース日和だったのに、決勝日だけ一変し、ここ特有の雨と霧の世界になりました。
 午前中のセッションは延期、お昼になり、JSBのフリー走行前に一時的にやんだ雨。この時期の気温で、路面は徐々に水が引き乾き始めていましたが、ウェットには変わりなく雲は次々とやってきます。フリー走行は霧のために途中で赤旗中断し、ライダー達はこのあとの決勝レースをレインタイヤかスリックで勝負するか、難しい判断を強いられることに。



ホントに、天気良かったんです!


予選の渡辺一馬選手、Q2ではタイムが伸びず、5番手グリッドからのスタートになりました
ホントに、天気良かったんです! が。 予選の渡辺一馬選手、Q2ではタイムが伸びず、5番手グリッドからのスタート。


一馬のミーティングはだいたい長め。決勝への取り組みは綿密に進められました


予この日優勝したライダーは午前中こんな感じのリラックス具合でした
一馬選手のミーティングは長め。決勝への取り組みは綿密に進められました。 この日優勝したライダーは、午前中こんな感じのリラックス具合でした。

 雨のため5周減算され15周の決勝レースは、HRCの高橋巧選手がホールショット。ヤマハの中須賀選手、それにヨシムラの渡辺一樹選手、ホンダの秋吉耕祐選手がトップグループを形成。入れ替わりながら徐々に秋吉選手が後退、高橋選手が頭ひとつ抜け出し中須賀選手、一樹選手で7ラップほど消化した頃、コースはライン上がだいぶ乾き、レインタイヤは熱をもってタイムが落ちはじめます。



JSBスタート、ほとんどのライダーがレインタイヤで挑んだ15ラップであった
JSBスタート、ほとんどのライダーがレインタイヤで挑んだ15ラップの決勝。


レースも中盤になるとコースはかなり乾いてきていました


段々と辛くなってきた中須賀を高橋がパス、誰もがこのままいくのではないかと思った
レースも中盤になるとコースはかなり乾いてきていました。 段々と辛くなってきた中須賀選手を高橋選手がパス、誰もがこのままかと思ったが。


「最近ライディングフォームを変えている」といつもよりインにいれてる加賀山選手


カワサキからスズキにスイッチ、ヨシムラ一年目の渡辺一樹選手
「最近ライディングフォームを変えている」といつもよりインにいれてる加賀山選手。 カワサキからスズキにスイッチ、ヨシムラ一年目の渡辺一樹選手。

 そのとき後方からすごい勢いでやってきたのは! カワサキの渡辺一馬!



ライン上が乾きはじめ、ペースをあげていく渡辺一馬選手
ライン上が乾きはじめ、ペースをあげていく渡辺一馬選手。

 なんと上位陣がレインタイヤを選択したのに対してチームグリーンはスリックタイヤを選択、レース前半は16番手と後方集団に埋もれ存在感を消していましたが、ラインが乾いたのを期に一気に反撃に出たのです。
 周りより5秒以上速いタイムで追い上げる一馬選手に対して、常勝の中須賀選手、チャンピオン高橋選手をしてもレインタイヤでは何もすることができず、10周目の複合コーナーで一馬選手はあっさりとトップに立ちます。
 続いて、チームメイトの松崎克哉選手が23番手から、そして高橋裕紀選手がスリックで追い上げ、一馬選手はその後独走で自身のJSBキャリア初優勝、カワサキに2007年の筑波における柳川明選手以来の優勝をもたらし、松崎選手が2位に入ったことでチームグリーンとしては初のワンツー。松崎選手も全日本初表彰台となりました。



後方から追い上げた渡辺一馬が、アウトからかぶせて中須賀をパスしていきました


23_K_高橋巧を抜いていよいよ渡辺一馬がトップに
後方から追い上げた渡辺一馬選手が、アウトからかぶせて中須賀選手をパスしていきました。 高橋巧選手を抜いていよいよ渡辺一馬選手がトップに。


ピレリのスリックで追いかける裕紀


ルーキー水野もやわらかレインで苦戦
ピレリのスリックで追いかける裕紀選手。 ルーキー水野選手もやわらかレインで苦戦。


オートポリス特有のキリ、決勝当日は雨雲レーダーから目が離せませんでした。そして待ち望んだカワサキ優勝!
オートポリス特有の霧、決勝当日は雨雲レーダーから目が離せませんでした。そして待ち望んだカワサキ優勝!

 ゆっくりとしたウイニングランで初優勝を噛みしめた渡辺一馬選手は、「チームみんなで勝ち取った勝利」と。
 そしてスリックを選んだことに対しては、「フリーを走って、これはスリックだろうと思ったけど、グリッドについたらぽつぽつと雨が降りだして不安になっていた」とも。
 最終コーナーの向こうに覆いかぶさる雲……その時チーフが「一馬、腹くくっていこうや!」と背中を押したという。実際、チーフやスタッフの心中も穏やかではなかったと思いますが、決めたら前に進むしかないし、実はチーフもこう言い聞かせながら腹をくくっていたのではないかと思う。



チームグリーン初のワンツー!
チームグリーン初のワンツー!


初表彰台の松﨑克哉はレース中ベストタイムのおまけつき


グリッドの一馬とチーフ黒川さん。後方の雨雲の様子をみつつも「腹くくっていこうや」
初表彰台の松崎克哉選手はレース中ベストタイムのおまけつき。 グリッドの一馬選手とチーフ黒川さん。後方の雨雲の様子をみつつも「腹くくっていこうや」。

 レースはたまたま雨が降ることなく、15ラップを完走できたからこその結果。もしも途中で雨が降ってきたら? 霧が降りてきたら? 10ラップより以前に赤旗中断していたら、結果はどうなっていただろうか? 
 雨が降った場合を想定してレインを選んだチーム、雨雲を読んでスリックで行こうと決めたチームとライダー。勝利を目指してその過程までの取り組みはどのチームも真剣で、どんな状況であれそのときのベストを探って、ライダーはもちろんのこと、メカニック、チーフ、監督、そのほか関わっているスタッフ皆で戦うのがレース。

 色々な歯車がかみ合って、これ以上ない演出で初優勝した渡辺一馬選手は、自分の力で扉をこじ開け、メディアが描いた「ヤマハVSホンダ」のお決まりの構図を気持ちよく壊していってくれました。
 スーパーフォーミュラの関係者の多くもこのレースを見守り、元カワサキライダーの星野一義さんまで祝福に訪れるなど2輪以外の人達にも知られる存在となりました。

 ちなみに、レースはJSBクラスのみ開催され、メインであるスーパーフォーミュラは悪天候のため延期の末に中止になりましたとさ。



BMWで参戦の星野知也選手は難しいコンディションが得意なのです。今回もスリックをチョイス、BMWで位の快挙!


「ピレリと、チームスタッフがお前ならいける!」と言ってくれた。高橋裕紀嬉しい3位になりました
BMWで参戦の星野知也選手は難しいコンディションが得意なのです。今回もスリックをチョイス、BMWで5位の快挙! 「ピレリと、チームスタッフがお前ならいける!」と言ってくれた高橋裕紀選手。嬉しい3位になりました。


加賀山選手もレインをチョイス、20位と沈んでしまいました


「金曜日の2時間ではマシンの方向性も見いだせなかった」と、高橋に笑顔が戻る日は。生みの苦しみを味わってるHRC。巧の奮闘を見守りたい
加賀山選手もレインをチョイス、20位と沈んでしまいました。 「金曜日の2時間ではマシンの方向性も見いだせなかった」と、高橋選手に笑顔が戻る日は……生みの苦しみを味わってるHRC。巧の奮闘を見守りたい。

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