西村 章

Vol.139 第7戦 カタルニアGP Until We Say Goodbye

 ホルヘ・ロレンソ(Ducati Team)2連勝。しかも前回も今回も、高水準のラップタイムを刻み続けて後方の選手たちをじわりじわりと引き離していく、という王道の勝ちパターンである。

 優勝後にロレンソは、前戦での初勝利と比較して「ムジェロはどうしても勝たなければいけない一戦で、プレッシャーも大きかった。それだけに、前回の優勝のほうが意義は大きかった」と述べた。

「今回も勝利を目指した。無理そうなら、すでに優勝を経験しているので表彰台を目指そうと思った。人生で最初の達成は何だって格別な気分になる。今回もうれしいけれども、ムジェロでの初勝利ほどではない」

 優勝の感慨という意味では、もちろんそうだろう。しかし、2戦連続で自分の得意パターンに持ち込んで勝ってみせたことで、最初の勝利は偶然すべてが噛み合ったからこその結果ではなく、勝つための要素をきっちりと積み上げて結果を自分の手許に確実に引き寄せるチャンピオンライダーの勝ち方を、今の環境とパッケージで再現してみせた、という点では、今回の優勝はある意味で最初の勝利以上に意義が大きい、という見方もできるのではないだろうか。

 そしてホルヘ・ロレンソといえば、前戦終了後に世間をあっと言わせたレプソル・ホンダへの移籍劇である。まさか彼がホンダのマシンを選択するとは、世界中のレースファンや関係者にとっておよそ想定外の出来事だった、といっていいだろう。じつはロレンソはホンダのマシンに1年だけ乗っている……とはいっても、しょせんは13年ほども昔の250ccでの話ではあるし、しかもこのときの彼のホンダに対する印象はあまり良いものではなかったようだ。翌年から乗り換えたアプリリアで2年連続チャンピオンを獲得したとなれば、なおさらだろう。

 マルク・マルケスとホルヘ・ロレンソが同じピットボックスにいる、という風景はおよそ想像の域外の出来事だったとはいえ、まず気になるのは、来年のロレンソがどれだけ迅速にRC213Vを乗りこなせるようになるのか、ということだ。これはマシン側と選手側がうまく歩み寄ることで実現するものだろうが、今年のドゥカティ2連勝を見れば、双方のアプローチがうまく噛み合えば、かなり早い段階から高い戦闘力を発揮するようになるのかもしれない、という気もする。少なくとも「ロレンソが速く走れるのはヤマハのバイクだけ」「インライン4以外のエンジンは彼には扱えない」という過去の批判は、もはやあたらないといっていいだろう。

 ただ少し気になるのは、マルケスとの開発方向性の差だ。

 あくまで素人考えなのだが、ロレンソのリクエストするであろう方向性は、マルケスの好んできたマシンづくりや今年までペドロサの乗ってきたバイクとはかなり異なるものになるのではないか。そのときに、HRCの技術陣は、はたしてどんなふうに対応していくのか。エンジニア気質という面でも、ホンダはヤマハやドゥカティとバイクに対する考え方がもちろん違うだろうし、ライダーとのコミュニケーションや雰囲気作りの方法も異なるだろう。それらの目に見えない要素が、どんなふうにライダーの順応に影響してくるのか、という側面は非常に興味深い。


カタルニアGP
Photo:Ducati ※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

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 そのロレンソをチームメイトとして迎えることになるマルク・マルケス(Repsol Honda Team)は、2位でチェッカー。自身はランキング首位を維持しながら、他の選手(ロレンソ以外)が揃って自分よりも下位でゴールしたために、確実にポイント差を広げる結果になった。ランキング2番手のロッシは27ポイント差、3番手のヴィニャーレスとは38ポイントを開き、4番手につけているザルコは42点差である。シーズンは1/3を終えたところで、今後まだ12戦を残しているために、順位の逆転などいくらでもあり得るだろうが、とはいえ、着実なポイント積み上げは良い手応えではあるだろう。ちなみに、シーズン当初にマルケス最強のライバルと目されていたアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)は今回も転倒ノーポイントで終えたために49点差。同点でロレンソがつけている。

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 3位はバレンティーノ・ロッシ(Movistar Yamaha MotoGP)。フランスGPから3戦連続の3位表彰台。「去年のここは、シーズン最悪のひとつですごく苦戦したので、今回はいい結果になった」とひと安心の様子だが、勝てるところまではまだバイクが仕上がっていない様子だ。ヤマハはロッシ自身が昨年のダッチTTで優勝を遂げて以来勝ちに恵まれていないので、これでまるまる1年間、優勝から遠ざかっていることになる。それだけに昨年も勝っている次戦のアッセンでなんとしてでも優勝を掴み取りたい、というのが正直なところだろう。

「アッセンは好きなコースで、バイクもよく走ってくれる。あそこには何かマジックがある」

 と言うので、過去の優勝回数を少し調べてみた。ヤマハで走り始めた2004年以降(2年間のドゥカティがあるとはいえ)、アッセンでロッシは7勝(04、05、07、09、13、15、17)を挙げている。ロッシ以外のヤマハ勢ではロレンソ(2010年)とスピース(2011年)が各1勝。やはり、ヤマハとロッシはアッセンとの相性がいいと言ってよさそうである。

#99 #93 #46
2連勝は2016年以来。 優勝3回2位2回0点2回。 今季4回目の表彰台。

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 あと、今回のレースで目立ったことと言えば、全26台中約半分の12台が転倒もしくはリ タイア。完走は14台。土曜まではタイヤアロケーションに対する不満、特にミディアムコンパウンドがワークしないという声もちらほらと聞こえていたのだが、決勝レースではリアにミディアムを選んだダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)が5位フィニッシュ、ヨハン・ザルコ(Monster Yamaha Tech3)が7位と健闘を見せ、各コンパウンドは結局のところそれなりにしっかりと作動をしたようである。で、そのペドロサの来年以降の去就がこの週末は大きな注目を集めたが、おそらく次戦までには何かしらの方向がクリアになっているのではないか、と予測される。

 それにしても、木曜のペドロサ記者会見に集まった人数の多さには驚いた。マルケスとペドロサは、いつもホスピタリティの二階バルコニーで囲み取材を行うのだが、床が崩れて皆落ちてしまうんじゃないか、そうじゃなくとも建材が人の重みで歪んでしまうのではないかというくらい、たくさんの人々が取材(見物?)にやってきた。おそらくあそこにあれだけ人が乗ったのは初めてなのではないだろうか、という気もしないではない。会見で席に着いたペドロサが、「レースで優勝したときよりもたくさんの人数だね」と苦笑したほどである。

 結局、この会見は当初に噂されていたような引退発表ではなく、翌金曜日から走行が始まってペドロサの走行後定例囲み取材が夕刻に行われた際には、いつも集まる十数名ほどの常連取材陣のみに落ち着いていた。前日に物珍しそうに集まってきた人たちは、いったいどこで何をしてたんでしょうね。いや、いいんですけどべつに。

 というわけで、今回は全体的にいつもよりややあっさり目ですが、ひとまずはこんなところで。ではまた次回。 


記者会見
侍魂心に秘めて男ペドロサどこへゆく。
カル・クラッチロー (マーベリック・ビニャーレス) (ヨハン・ザルコ)
4位争いに勝った人。(カル・クラッチロー) ランキング3番手の人。(マーベリック・ビニャーレス) 来年はKTMの人。(ヨハン・ザルコ)
(ダニロ・ペトルッチ) (アンドレア・イアンノーネ) (ヨハン・ザルコ)
来年は本社勤務の人。(ダニロ・ペトルッチ) 来年はアプリリアな人。(アンドレア・イアンノーネ) 来年はGP19な人。(ジャック・ミラー)
(中上貴晶) (シルバン・ギュントーリ) (アンドレア・・ドヴィツィオーゾ)
夏は鈴鹿な人?(中上貴晶) テストに忙しい人。(シルバン・ギュントーリ) 捲土重来を狙う人。(アンドレア・・ドヴィツィオーゾ)

カタルニア
次戦、オランダGP(アッセン)は7月1日決勝です。

 



■2018年6月17日 
第7戦 カタルニアGP
バルセロナ・カタルニア・サーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #99 Jorge LORENZO Ducati Team DUCATI


2 #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA


3 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


4 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda CASTROL HONDA


5 #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA


6 #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


7 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


8 #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI


9 #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI


10 #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


11 #44 Pol ESPARGARO Red Bull KTM Factory Racing KTM


12 #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


13 #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI


14 #21 Franco MORBIDELLI EG 0,0 Marc VDS HONDA


RT #55 Hafizh Syahrin Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


RT #53 Tito RABAT Reale Avintia Racing DUCATI


RT #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI


RT #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM


RT #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA


RT #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


RT #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI


RT #10 Xavier SIMEON Reale Avintia Racing DUCATI


RT #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


RT #12 Thomas LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA



RT #50 Sylvain GUINTOLI Suzuki Test Team SUZUKI


RT #36 Mika KALLIO Red Bull KTM Factory Racing KTM


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