西村 章

Vol.142 第10戦 チェコGP R.U.R.

 サマーブレイク開けの緒戦は、いつも第10戦チェコGPブルノサーキットである。ここのレースは、暑いときは煎られるような熱と日射しでたまらなく暑いのだが(とはいえ、うだるような湿気がない分だけ鈴鹿より遙かにマシ、ともいえる)、不安定なコンディションになることも多く、一昨年はウェットコンディションでカル・クラッチローが優勝。昨年もウェットレースでマルク・マルケスが制した。

 今年は日曜にやや微妙な予報もありながら三日間を通じて高い温度条件のドライを維持し、決勝レースはアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)が制した。2位はチームメイトのホルヘ・ロレンソ。今回のドゥカティ・ファクトリーは、両選手とも新型エアロ・フェアリングを使用。これは髭タイプと棚型タイプのハイブリッドのような形状で、両選手とも予選段階から好感触を伝え、決勝でも予定どおりにこの仕様で臨んだ。ちなみにブルノでドゥカティが優勝するのは2007年のケイシー・ストーナー以来11年ぶり。決勝後にドヴィツィオーゾが
「今年はどのコースでも去年よりも速く走れている。今回のレースウイークも、去年よりバイクがよいことをしっかり確認できた」
 と述べていたが、なによりもリザルトが彼のコメントを明確に裏付けている。


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 3位は、チャンピオン争いを大きくリードするマルク・マルケス(Repsol Honda Team)。
「バレンティーノが後方にいたので、チャンピオンシップの差を広げることに専念した」とレース直後に話したとおり、ドヴィツィオーゾやロレンソと最後まで優勝を争いながらもけっして無理な勝負を仕掛けず確実な3位を取りに行った、というレースだった。

 また、マルケスは「いつも苦戦するコースで優勝から近いところで終われてよかった」とも言っているのだが、過去のリザルトを見てみると、ここはけっしてホンダやマルケスの苦手コースというわけではない(2013-マルケス[H]、2014-ペドロサ[H]、2015-ロレンソ[Y]、2016-クラッチロー[H]、2017-マルケス[H])。要するにこのマルケスの科白は、言ってみれば勝てなかったときのお約束のようなもの、ということだろう。

 そしてマルケスが上記のコメントで言及していたロッシはといえば、土曜の予選でポールポジションと僅差のフロントロー2番手を獲得。決勝でも序盤から先頭集団で争い、中盤数周ではトップに立った。ロッシが世界選手権初優勝を飾ったのは当地ブルノで、今から22年前の1996年、125ccクラス時代のことである。参考までに比較材料として言っておけば、このとき、現在の日本人Moto3勢はまだひとりも生まれていない。それから22年を経過し、今なおフロントロースタートでトップを争っているのだから、このすさまじい〈現役感〉たるや、まるでデイヴ・ギルモア並みである(わかりにくい譬えで申し訳ない)。

 話をレースに戻すと、ロッシのリザルトは優勝したドヴィツィオーゾから2.902秒差の4位。終盤5周で大きく引き離されてしまった理由について
「ここは、ヤマハにとってシーズン中もっとも相性の悪いコースのひとつで、その影響が出てしまった」
 と説明した。これはべつに言い訳や負け惜しみ、というわけではなく、上記の過去5年の結果を見ても、今のヤマハにとってブルノは得意コースではないことがよくわかる。その理由も明解で、「低速コーナーとロングストレートのレイアウトが、我々にはいまイチなんだと思う」(ロッシ)とのことだ。


#93

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 ところで、以前から囁かれていたメキシコGPの可能性について、どうやら来年の暫定カレンダーに組み込まれそうな気配だ。会場は現在F1を開催しているエルマノス・ロドリゲスサーキットで、時期はアルゼンチンGP後に一週間をおいて、オースティンのアメリカズGPと2週連続を予定しているのだとか。MotoGP開催に向けてコースの安全性確保のために改修に取り組むという話なのだが、これについてロッシは
「ダメでしょ」と即答。
「20戦になるんだよ。人生がなくなっちゃうよ。危険だから改修しなければいけないだろうけど、簡単ではないだろうね。来年レースをするのは、あまりいい考えとは思えないなあ」

 メキシコのファンにとって、このニュースはもちろん朗報ではある。それはまちがいない。ただ、行く側にしてみれば、このタイトなスケジュールと、しかも年間レース数の増加はかなりの負担になるのもまた、事実である。今はレース界を引退したある人が、かつて「オレたちゃなあ、猿回しのサルなんだよ」と自嘲気味に言っていたことがあるのだが、今回の一件でその言葉をふと思い出した。

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 一方、このメキシコGPに行かずにすむ選手もいる。今年限りの現役引退を明らかにしたダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)だ。ペドロサは、金曜のFP2でトップタイムを記録し、優勝経験のあるこのブルノでようやく復調するかという期待も抱かせた。が、本人は淡々としたもので、この日の走行後に
「最後にソフトタイヤでタイムを更新できたのは良かった。バイクはネガティブなところが減っているし、パッケージとしてまとまっている。ただ、マルクやドビは今日ソフトを入れていないので、彼らはきっと明日以降、大きくタイムを伸ばしてくるだろう」と話していたのだが、その読みが的中(?)して、予選は10番手。日曜の決勝レースは8位で終えた。
「バイクのフィーリングがいまひとつで、思ったように走れなかった。立ち上がりでリアのスピンが激しく、ブレーキングでがんばったけど、ブレーキで詰めても立ち上がりで離されることの繰り返しで、前を抜くことまではできなかった」
 と21周のレースを振り返った。

 なんとか残りのレースで好結果を残し、毎年最低一度は優勝という記録を維持して現役を退かせてあげたい、といちばん念じているのは、おそらく彼のチームスタッフなのではないだろうか。
 というわけで今回はここまで。今週末はオーストリアGP。チェコのブルノからレッドブルリンクまでは約350kmなので、イメージとしては、東京~名古屋くらいの距離感だろうか。ではまた。


#26
#カル・クラッチロー #ヨハン・ザルコ #アンドレア・イアンノーネ&アレックス・リンス
インディペンデントチーム最上位の5位(カル・クラッチロー)。 本来の切れ味を発揮できず7位(ヨハン・ザルコ)。 生彩を欠く10位と11位でレース終了(アンドレア・イアンノーネ&アレックス・リンス)。
#ジャック・ミラー #中上貴晶 #真崎一輝
ピリッとしない12位でゴール(ジャック・ミラー)。 5戦連続のポイント圏外。うーむ……(中上貴晶)。 FP2でトップタイム、「自分でもビックリしました」(真崎一輝)。
#鈴木竜生 #佐々木歩夢 #鳥羽海渡
最後尾からの追い上げでポイント圏内14位ゴール(鈴木竜生)。 「今季最悪のレースでした」で、22位(佐々木歩夢)。 3周目にハイサイド転倒。幸いケガはナシ(鳥羽海渡)。

チェコGP
次戦、オーストリアGP(レッドブル・リンク)は8月12日決勝です。

 



■2018年8月5日 
第10戦 チェコGP
ブルノサーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI


2 #99 Jorge LORENZO Ducati Team DUCATI


3 #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA


4 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


5 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda CASTROL HONDA


6 #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI


7 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


8 #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA


9 #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI


10 #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


11 #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


12 #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI


13 #21 Franco MORBIDELLI EG 0,0 Marc VDS HONDA


14 #55 Hafizh Syahrin Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


15 #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


16 #12 Thomas LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA


17 #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA


18 #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI


19 #50 Sylvain GUINTOLI Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


20 #10 Xavier SIMEON Reale Avintia Racing DUCATI


RT #53 Tito RABAT Reale Avintia Racing DUCATI


RT #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


RT #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM



RT #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


RT #6 Stefan BRADL HRC Honda Team HONDA


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