幻立喰・ソ

第97回「謎の鹿角花輪の謎」

 
 さてみなさま(除く鹿角市近辺ご在住、またはご出身の方)、鹿角花輪はどこにあるかご存知ですか? 
 とその前に、読めますか!? 知らなくても読めなくても大丈夫。たぶん今後の人生に影響はないと思いますが、たぶん知っていて損をすることはありません。知識は人生を豊かにします(おそらく)。

 鹿角花輪は「かづのはなわ」と読みます。場所は青森県……いや秋田県だったかな? ひっよっとして岩手県かも?? 冷汗三斗で地図を見れば、三県の県境が交った付近でしたが、まごうことなき秋田県でした。昨今特にロシアのみなさんが欲しがる秋田犬でおなじみ大館の近くです。
 東京から約650km、バイクなら東北自動車道を経由し、鹿角八幡平ICで降りて約7時間半、鉄道ですと新幹線と花輪線を乗り継いで約5時間。それほどアクセスが悪いという訳ではありません。例えば、東京から6時32分発のはやぶさ1号に乗り、盛岡で花輪線に乗り換えれば11時09分に到着します。盛岡では約1時間の待ち合わせがあるので冷麺も食べられて日帰りも可能。ちなみに東北本線の複線電化が完成した昭和43年(1968年)10月のダイヤ改正(いわゆる「よんさんとお大改正」)の頃だと、上野7時45分発の急行みちのく号に乗れば乗り換えなしで当時の陸中花輪に18時21分着。約11時間弱の長旅です。平均時速は約140km/hと約57km/hですから、やっぱ新幹線のスピードはハンパね〜ぇって(もはや古)。



鹿角花輪


鹿角花輪
鹿角花輪駅です。普段は静かなローカル線の駅です。(2018年9月撮影)


みちのく


急行列車
上野発の急行みちのく号。1-2号車は温泉で有名な鳴子行、3-7号車は三陸の宮古行、8-11号車が花輪線経由の弘前行。すごいですね。なにがすごいってこの写真を撮影している先達が。●撮影-掘井純一(1968年6月17日撮影)●写真提供-鉄道友の会 客車気動車研究会 長距離輸送は旅客も貨物もまだまだ鉄道が主役だった昭和40年代前半。日本各地に10両以上は当たり前の急行列車がごろごろ走りまわっていました。しかもほとんどがほぼ満員、向かい合わせのボックスシートで冷房なんてほぼ皆無で。●撮影-掘井純一(1968年7月撮影)●写真提供-鉄道友の会 客車気動車研究会

 
 その鹿角花輪になにがあるのかといえば、あじさいがあったのです。首都圏であじさい(正確にはあじさい茶屋)といえば、かつて駅そば均一化の権化で、駅そば保守右派から「味の災難あじさい」とか「オレンジ色の不味いやつ」とかと言われて忌み嫌われる対象でした。

 あじさい茶屋の嫌われっぷりは、昭和40年代SLブームの頃のDD51を思い浮かべていただければご理解いただけます。現在のDD51は嫌われるどころか大人気。東日本大震災後の混乱期、東北への石油輸送に従事したお話は「走れディーゼルきかんしゃデーデ」という絵本になったほど(いい話なんです。じじいになって涙腺がゆるゆるの私は、何度読んでも泣けます)。さらに未曾有の大災害となった先日の西日本集中豪雨でも、寸断された山陽本線から日本海側の山陰本線に貨物列車を迂回運転するため、はるばる稲沢(愛知県)からDD51が派遣されました。このお話もぜひ絵本化してほしいものです。そういえば、かつて成田空港闘争が激しかった頃、過激派の火炎瓶攻撃を顧みず、ジェット燃料輸送の先頭に立っていたのもDD51です。国鉄時代、お召列車から貨物列車まであらゆる列車を日本中(四国を除く)で牽引したDD51。いい機関車なんですDD51! えーっと、なんの話でしたっけ?



SL


DD51
649両が製造され四国以外の日本各地を走っていたので、30代以上ならたぶんどこかで一回くらい目にしているであろうDD51形ディーゼル機関車。ですが、SLファンにとっては左のようなD51を待っているのに、右のようにDD51が来ると落胆を通り越して怒りすら覚えたとか。が、見る人が見たら左より右のほうがすごい写真で驚くかも知れません。●撮影-片山康毅(1971年3月撮影)●写真提供-鉄道友の会 客車気動車研究会

 
 嫌われ者のあじさい茶屋も2018年9月末現在、残っているのは9駅10店舗のみ。かつては首都圏だけではなく、新庄駅や秋田駅にもあったようですが、残念ながら私は未確認です。あじさい茶屋の勃興と衰退については第74回で考察しました(大した内容でないことは、大きな声で言うことでもないが、誰もが知っている)。そのラストで2011年に訪問した鹿角花輪のあじさいをちょこっと紹介させていただいたのです。

 前回はスルーしたのですが、「なぜ東北にあじさいが?」の謎を解くべく、ちょこっと(だけ)調べてみました。東北のあじさい誕生の経緯は複雑でした。
 仙台の老舗駅弁屋さん伯養軒が、1990年代末に秋田や山形などの駅そば経営を受け継ぎ、あじさいと名付けたのが始まりのようです(何故引き受けたのかは不明ですが、当時イケイケだった伯養軒の事業拡大の一環でしょう)。が、好事魔多し1999年に伯養軒の販売部門はNREとの合弁会社であるエヌアールイー伯養軒となり、駅そば部門も移管されたようです。2005年NREの100パーセント子会社になり、エヌアールイーみちのくに改名し、翌年エヌアールイーみちのくはNREに吸収合併されたのです。つまり東北のあじさい一家はこのとき本家あじさい一家の一員となったわけです。鹿角花輪のあじさいもしかり。時代の流れに翻弄された一店だったと思われます。
 ちょこっとだけですが、また人生が豊かになったでしょと言いつつも、一次資料がほとんど見つからず憶測と推測ばかりですが……。



鹿角花輪


鹿角花輪
鹿角花輪駅の待合室のあじさい。よくよく見れば、かつてあじさいと書かれていたであろう看板には、カタカナで「エヌアールイー」と書いた貼り紙が。いただいたのは三色そば。たまご、いなり、たぬきが入った東北のNREやJR系列駅そば定番メニューです。(2010年11月撮影)

 
 あじさい(茶屋)のようで、あじさい(茶屋)ではないけれど、結局同じ元締めの傘下に入った異母兄弟のような東北のあじさいたち。ゆえに鹿角花輪のあじさいも2014年頃まではNREのサイトに掲載されていたのです。しかしここが安住の地ではなかったのです。これまた理由はわかりませんが、2015年からは東日本リテールネット(JR東日本グループ会社でNREとは毛色の違う昭和テイストぷんぷん駅そばを展開)のサイトに移動していました。再び元締めが変わったのです。ちなみに東北の他のあじさい兄弟、東北新幹線の北上駅(JR東日本東北総合サービス)や「じぇじぇじぇ」で有名になった久慈駅(JR東日本リテールネット)で健在です。

 それはさておき、ここまでの話では鹿角花輪のあじさいが、あじさいだったのは2014年までということになります。2015年からは東日本リテールネットの他店同様、駅名+そば店(金町そば、北千住そば、本庄そばなど)である「鹿角花輪そば」に改名されたはずです。が、ほとんどのサイトでは、最期まであじさいの名のままで掲載されていました。正式名よりも通称が有名で、いつのまにか通称が正式名になってしまうことはよくある話です。もう幻立食ソになってしまったことですし、事を荒立てることなく鹿角花輪のあじさいのままでいいじゃない、と。

 先日、秋の大休で、朝からすっかり出来上がってうつらうつらしながら花輪線に乗車中、ふと目覚めれば鹿角花輪。10分ほど停車時間があったので「そばだ、あじさいだ」と、約7年ぶりにスキップしながら待合室に入ったのです。が、そこにあじさいはありませんでした。あじさいなんぞ最初から存在しなかったように、きれいさっぱり消え失せておりました。
「あのとき私が見たあじさいは幻だったのか」
 当コラムの最終回にふさわしいシメ……にしたかったのですが、たいしたシメではないので、駄コラムはまだまだ続きます(たぶん)。



鹿角花輪


鹿角花輪
現在の鹿角花輪駅と待合室。囲炉裏だけが当時の名残になってしまいました。(2018年9月撮影)

●幻立喰NEWS2018 
立石に新店舗発見!

飲み助タウンとして昨今脚光を浴びる京成立石。昭和臭あふれる商店街はインスタバエするのか、週末になると若いおねーちゃんやそれほどでもないおねーちゃんや、すでにおねーちゃんと呼ぶのは失礼なおねーちゃんも出没しているとかいないとか。一昔前は気合の入った呑みプロばかりで、一見さんが近づけるような街ではありませんでした。変われば変わるものです。そんな立石の立食ソといえば、仲見世(商店街の名前)にある仲見世(立食ソの店名)。ソ世界遺産に登録したい昭和テイストだだ漏れのすんばらしい立食ソですが有名です。先日ふらふら歩いていたら、仲見世のちょっと先に、おや? そば、うどんの文字が。なんと10日前に開店したばかりだそうです。看板は前の店のもので喫茶店ではなく純立食ソです。おやっさんはにかみながら「昨日やっと店名書いたんですよ」とのこと。改めて見直せば「うどん.そば」の下に「ラッキー」と味のある書体で店名が。仲見世とはまた違う味のある新店舗の誕生です。



ラッキー


ラッキー

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論むただの立ち喰いそば人。やっと1200店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけ。立ち喰いそば博物館設立を目論むも、先立つものも腕も知識も人脈もない。しょうがないので立ち喰いそば店そのものになることを夢見るも「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうのであっさりと断念。なので世間的には13本くらいネジもナットもたりない人。心配事はそばアレルギー。


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