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■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信
■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

ハリウッド映画のティーザーなら「全米震撼」という言葉が間違い無く使われるだろうNIKENの登場。このバイクはそれに相応しいインパクトとともにやってきた。9月下旬のジャーナリスト向け試乗会では誰もがソワソワした素振りを隠していたが、ワクワクしていない人はおそらくいなかっただろう。MP3やトリシティーで体感してきた前2輪、後ろ1輪。ヤマハ流に言えばLMWとスポーツバイクの融合がどうなのか。修善寺のサイクルスポーツセンターでNIKENと対峙した模様をお届けしよう。


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YAMAHA NIKEN。 こちらの動画が見られない方、大きな画面で見たい方はYOU TUBEのWEBサイトで直接ご覧下さい。https://youtu.be/JEyEElsZDLc
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ライダーの身長は183cm。(写真の上でクリックすると、片足→両足、両足→片足着きの状態が見られます)

 
メカメカしい存在感。

 はっきりとしない、雨が何時落ちてきてもおかしくない空模様だ。会場となったサイクルスポーツセンターのコースは、あちこちにウエットパッチが点在していた。巨大な仮設テントではターゲットとなる年齢層や、遠くまで快適に走ることができるLMWの優位性、そしてスポーツバイクとLMWをどのように成立させていったのか。車体、エンジン、デザインなど主要な部分を開発者自らが解説をした。また、販売店はNIKEN用のトレーニングを受けたスタッフが在籍するプロショップであり、そのうち80店舗に試乗車が用意されるという。生産もある程度を造りストックする、というものではなく、受注生産となるそうだ。プレミアムなNIKENなのである。

 一つ一つに説得力があるのだろうが、自分の中にLMW+スポーツバイクという体験がないだけに解ったようで解らないような時間が終わると、テントの外に出た。コース脇では何台ものNIKENが試乗を待っている。さながらその姿は、SF映画的でもある。とにかく僕達はこのメカメカしい乗り物で走り出すのだ。

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特徴だらけの車体構成。

 走り出す前にLMWの動きやメカニズムを頭の中でイメージしやすいようじっくりと眺める。片側に2本あるテレスコピックフォークは、エンジンに近い側にスプリング、ダンパー機構があり、前側のそれには減衰のためというより作動時の滑らかさを保つためのオイルが入っているという。作動時、ストロークすれば内部の空気が圧縮され、エアバネとしてメインスプリングの補助となる。

 2輪ある前輪はLMWならではのジオメトリーを持つ。旋回時に辿る円周の長さがイン側、アウト側の車輪で異なるため、カーブの回転半径の仮想中心点から左右の車輪が円周に沿って綺麗に曲がるよう、舵角が外側よりも大きくなるよう設定されている。このあたりはいわゆる4輪と同様だが、LMWは普通のバイクのように車体がバンクする。NIKENはバンク角45度だ。

 LMWの要となるのがパラレログラムリンクだ。2輪の左右を結び、文字通り平行四辺形のようにリーンアングルに合わせて左右のタイヤを路面とコンタクトさせる。このリンクは通常のバイクのステアリングヘッド部にピボットを持ち、シーソーのように上下に動く。

 トリシティではホイールの内側から前輪を支持するが、NIKENでは410mmのトレッドを持ち、ホイール外側からの片持ち支持としている。これは深いバンク角時に左右の前輪が接近しないよう適度なアーム長を確保するためだったのだろう。

 また、前輪に大きな舵角がついた時、極端なトー変化や、自然な復元性を保つために、操舵系のタイロッドの支点と、操舵軸をオフセットするなどして、ナチュラルなハンドリングを生み出すよう工夫がされているのもNIKENの特徴だ。

 見た目にこうした機能を把握するのは難しいが、チタン色ともシャンパンゴールドとも取れる色に塗られたパラレログラムリンクが、ヤマハのLMWに掛ける並々ならない意気込みを伝える。左右2本ずつのテレスコピックフォークも、使い慣れた技術で最良のものを造りたい、という思いからトリシティ(正立)同様、採用を決めたという。また、フロントの15インチタイヤもNIKEN専用のVレンジを採用する。

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エンジンも専用チューン。

 パワーユニットは、並列3気筒845㏄という諸元からも解るよう、MT-09系のものを採用している。電子制御スロットルを持ち、スロットルレスポンスを3つから選択できるモード切り換えも可能だ。NIKENへの搭載にあわせ、クランクマスをMT-09比で18%増量。燃料噴射マップもチューニングを施し、レスポンスのよさとマイルドで扱いやすいトルク特性を造ったという。また、トランスミッションには、YZF-R1同様に高強度な素材を使いNIKEN用に全体を最適化させている。アシストスリッパークラッチや4000rpm以上でアクティブになるオートシフターも装備する(アップシフトのみだが)。

 
50/50の重量配分と、重心位置から遠いパーツを軽量化。

 メインフレームはアルミとスチールを適材適所で使い分けたものを使用。リアスイングアームはアルミダイキャスト部分とパネル溶接をした製法だという。シャーシ周りでは、フロントサスペンションのアーム類の支持部分の剛性バランスをチューニングすることによって自然なハンドリング感を出すよう開発したという。
 また、その取り付け精度もサスペンションの動きやフリクション感をライダーに伝えないため、キッチリ管理したのだそうだ。

 また、アルミ製のタンクや、小型のLEDヘッドライトなど、重心位置から遠いパーツは軽量化を図り、ライダーが運転時に重み感をうけないよう注意を払ったという。ライダー一名乗車時で前後荷重バランスが50/50となるようセットアップをすすめたという。

 
据え切りレベルからハンドルが軽い。

 NIKENが持つフロント周りのメカニカル感、そして263㎏という重量から取り回しに重厚さがあるのは否めない。サイドスタンドから引き起こすときの重量や停車時に横風に吹かれると足にグッと重みがかかるのが解る。しかし、フロント周りの操作感はとても軽い。停車時に左右フルロックまで据え切りをしても、2輪あるとは思えないほど。ハンドルバーが広いということもあるが、ハンドルの転舵軸と前輪左右を繋いだタイロッドの転舵軸はオフセットされている。各部にボールジョイントを使うなどフリクションロス低減を図っていることは解るのだが、このあたりに各部の精度に拘った設計が効いているのだろう。手強さがない。

 跨ってみると、デザイン上の特徴でもあるように、シートが前後に広く、ライダーとしては特定の場所に座らされる感はない。腰を引けるし、前にも出られる。足着き感も先端が細身にシェイプされたシートだけにスッと地面に足を下ろしやすく扱いやすい。

 ステップ位置はスポーツツアラー的なもので前過ぎず、後ろ過ぎずというポジション。タンクは膝との接触面がしっかりとられているので、跨っただけでマシンとの息が合う印象だ。
 エンジンをスタートさせるのに特別な操作はない。3気筒エンジンは独特の音を奏で、これからはじまる何かを予感させてくれる。

 
びっくりするほどイージー。

 幅が広いフロントセクション、そしてワイドなハンドルバー。ロードバイクなのに何処かアドベンチャーバイク的でもあり、バイクじゃない別の乗り物のような印象もある。しかし、跨っていること、アクセルを開けていること、その2点から脳はいつものようにバイクを走らせるモードでNIKENを発進させた。

 ボトムエンドトルクはさすがに余裕とはいえないが、少し回転を上げれば押し出し感もでてくる。スタート直後にあったクランク状の切り返しは、速度が20km/h程度だとやや重みがあるが、それから少し増速するともう重みが消えている。しかも左右への寝かしこみや切り返しがとても軽い。さっきまでの重厚感が消えた。

 さらに言えば、まだ走り初めて数十メートルなのに、すでにしっかりとタイヤの接地感が伝わってくる。ライダー込みで350㎏ほど。重量配分からすれば、175㎏がフロントに、片輪に静的には87.5㎏のっている、と計算できる。シケイン状のパイロンを大きな軌道で避けてみる。スッと寝た車体、スキーのパラレルターンのような気持ち良い曲がり方をする。
 そして、サスペンションのストロークも合わせてフリクション感がほとんどない。上質な乗り心地。リアサスの印象も同様。少し走っただけでNIKENは心の中にコネクトしてきた。

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リラックス&エキサイトメントの真骨頂。

 白いテントの中で聞いたマシン開発のキーワード。その一つがリラックス&エキサイトメントだった。それがLMWとスポーツバイクのクロスオーバーだと。1ラップ目の途中から、アクセルを開ける、ブレーキを掛けるなど加減速を入れてみる。なるほど、ウエットパッチが残る路面、μが高くなさそうな路面のサイクルスポーツセンターで普通のバイクでは試したくないようなことを堂々とトライできる。

 そう、恐くない。LMWの大きな恩恵、この点においてトリシティでも実感していたが、NIKENも全く同種。道幅を使って直線でS字を書いても全く滑りそう、とか転びそう、とか思わない。安定している。それでいてスポーティーな乗り味なのだ。

 エンジンはなるほど、トルキー。アクセルを低開度のパーシャルで、速度一定で走ろうとするとMT-09同様、軽いギクシャク感が出る。レスポンスが良い、とも言えるが、これが消えればモアベターだ。もともとこの3気筒は一定速よりも加減速を楽しむととたんにツヤツヤしたパワーとトルクで乗り手を刺激をする。ギアレシオも含め、ミッドレンジパワーとトルクでNIKENを増速させるのが楽しい。3気筒の音、これはやっぱり魅力的だ。

 ペースを上げても、左右への切り返しは素早く操作感に重さがない。最初の数分でNIKENを把握できた気分になった。クイックシフターが4000rpm以上でないと働かない、というコトを未確認で走行を開始したため、一旦1ラップ目にピットに戻ることになったが、ペースを上げて走り始めたら、これ以上信頼の置けるバイクもない。冷えた路面も濡れた路面もかまわずに安心感をもって走れるのだ。

 フロントブレーキは左右2輪に油圧を分配する経路が長いせいかタッチに僅かな重みがあるような気がした。しかしその制動感は上質。軽い減速からフル制動まで思いのまま。これにはフロントサスペンションの動きの良さや、タイヤのグリップ感、なによりLMWのフロントエンドがバランスよく作用しているのが解る。そしてノーズダイブ感がとても少なく感じる。フワッと前輪に荷重を載せる感じで、ブレーキング時、後ろから前に荷重が背負いかかるような印象がない。これも安心感に繋がる。後輪のブレーキも制動力は充分。

 滑りやすい路面では限界をこえれば滑る。でも最初にズーっと流れるのはリアだ。フロントはまだ安定感そのまま。リアが滑ったのも、かなり寝かせた状態でパワーを掛けた時などの話だ。フロントもすっぽ抜けるのかと思っていたが、軽く流れる程度。びっくりしてハンドルバーにしがみつき、それが前輪のタイヤのグリップを喪失させ転倒、という通常のバイクにありがちなコケ方の対極にあるように思える。

 その後、コーナーというコーナーでペースを上げて走ってみたが、適正な速度、適正なギアを選択すれば、NIKENは鬼に金棒のスポーツマシンだ。寝かすキッカケは、曲がるコーナーと同じ側のハンドルグリップを軽く押すだけでも、イン側のステップを踏むだけでも旋回に必要なバンク角まで一気に持っていってくれる感じだ。重い分、ライン修正の自由度はどうか、と思ったが、これがまたイージー。寝かしたNIKENを少し起こし、また寝かすことも難しくなかった。

 クローズドコースなのでイロイロ試したが、なるほど、走り甲斐ある一台だし、ビビる感が相当少ないので気持ちよく走っている。そう、気苦労ナシなのだ。

 
これからのLMWスポーツの道は?

 さすがにここまで楽しいと欲が出る。開発の人も話していたが、スポーツとLMWの融合点、最初の一歩となるNIKENは、多くのライダーが共有出来るに違いないリラックス&エキサイトメントが伝わるよう仕立てたという。サイドカーのように左右で曲がるプロセスが異なる特殊性も、ハーレーダビッドソンやカンナムスパイダーのようなトライクのようにハンドルを曲がる方向に切る、という2輪感覚と違う点もない。NIKENはそれらの2輪の所作をしっかり持ったうえで、2輪のウイークポイントを補佐してくれる3ホイラーなのだ。

 開発したテストライダー達も何処を着地点に味付けをするのか。そこには喧々ガクガクがあったに違いない。今後、LMW+スポーツの世界がどんなキャラクターを生み、育って行くのか楽しみだ

 いや、これほど安心感が高いなら、いっそ、アドベンチャーモデルでも、と妄想は留まる所をしらない。足着きを忘れられるソリューションがこれに加われば、それこそオソロシイ物欲直撃の一台が出来上がるにちがいない。帰路、クルマを運転しながらそんな堂々巡りを楽しんだのである。面白かった。NIKENの今後、ヤマハLMWの今後にも期待大なのである。
 
(試乗・文:松井 勉)
 

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リアフェンダーを兼ねたナンバーホルダー、その造形もなかなか。シート下から伸びるサブフレームも細身。リアサスにはダイヤル式のイニシャルプリロード調整が備わる。ステップ下に見える黒いパイプはフレーム剛性バランスに寄与するものだという。 ホイールを外側から支持する片持ち方式。ホイールはいわゆる5穴。フェンダーも片持ち式。フォークが2本ある理由は支持とサスペンションを同時に行えるこなれた技術であること、そして1本ではインナーチューブが回転するため支持出来ないためだ。15インチのタイヤはNIKEN専用。メーカーはブリヂストン。120/70VR15を履く。トレッドは410mmとなる。 ストッパー、そしてシートサイドにバックスキン調の表皮を使う。ライダーのシートスペースは前後方向にもタップリあり、自在に動きやすい。2輪に比べ、ライダーの体重が前後荷重に密接に繋がっているようには思えなかった。逆にコレもLMWレイアウトが見せる新しいライディングの歓びへの誘いにちがいない。
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フロントフォークはエンジン寄りのフォークにスプリング、ダンパー機能が備わっている。圧側、伸び側の調整が可能。スーパーバイクのようなクイックな制動初期の立ち上がり感はないが、安心して使えるタイプのものだ。左右各輪に1枚のディスクプレートを装備する。

エンジン下部に大きなコレクターボックスを持つ排気系。それを除けるように湾曲したスイングアームが特徴。後輪には190/55R17を履く。

テールランプ、ウインカーをはじめ、ナンバープレートの照明までNIKENはLEDランプを採用する。
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メーターパネルにはモード表示などライディングに必要な情報が表示される。トラクションコントロールシステムの設定もパネル下のスイッチから行える。何かと有用なスマホなどを使うのにこの位置に電源があるのは有り難い。 アルミ製としたタンク。ハンドルバーはワイド。フロントフォークの位置からも解るように、ハンドルバーの中心軸と操舵の中心軸はオフセットされている。タイロッドなどでハンドルの動きを伝えるのだが、その軽さに驚く。 今回はクローズのみの試乗だったが、その効果が大きかったフロントフェアリング。長距離の快適さが想像できる。二輪をカバーするため左右幅が大きなカウルは、シート位置が後ろで低めであることもあり、見た目以上にライダーは快適だった。カウルに備わる小ぶりなライトはLED光源。ミラーを通して他のNIKENを見る限り、被視認性は抜群。ミラーステーにウインカーがビルドインされている。
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NIKENでは、フル転舵時に旋回時内輪が過度にトーインがつかないジオメトリーとするため、タイロッドの連結点と操舵軸をオフセットして対応している。 ハンドルバーの転舵は操舵系軸にボールジョイントを使ったタイロッドで伝えている。左右回転する転舵軸は下側で左右の前輪に繋がるタイロッドへと動きを伝える。フレームのヘッド部にピボットを持ち、上下にシーソー状に動く事が解る。 フロントサスペンション周りの構造。上側2本のアームがパラレログラムリンク。最下段の細めのアームは左右に転舵を伝えるタイロッド。ピボットがこれだけあるにも関わらず左右へのリーンはとてもスムーズ。フリクション感がない。転舵方向も同様だ。
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■YAMAHA NIKEN(2BL-RN58J)主要諸元
●全長×全幅×全高:2,150×885×1,250mm ホイールベース:1,510mm、シート高:820mm、●エンジン(N714E):水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ、排気量:845cm3、最高出力:85kW(116PS)/10,000rpm、最大トルク:87N・m(8.9kgf-m)/8,500rpm、燃費消費率:18.1km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、18.1km/L(WMTCモード値 クラス3、サブクラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:18リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン。●メーカー希望小売価格:1,782,000円(税込)


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